16 磨かれる原石
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私には分からない
生きている価値も、私自身の価値も
私には何一つなかった
ならばもう、終わりにしてしまおうか
16 磨かれる原石
和真さんの声が鋭く響き渡る
それよりも先に私を止めたのは──政宗さんだった
「何の真似だ」
「……政宗さん、手が」
刃物を素手で握ったことで、政宗さんの右手からは血が垂れ流れている
それには構うこともなく、政宗さんは更に強く握り締めた
「夕歌、質問に答えろ
これは何の真似だ?」
「……望まれなかった命は、生きるに値しないと思います」
「だから死のうとした、か」
私の手から強引にそれを抜き取った政宗さんが、床に投げ捨てる
それから私を見下ろして──
「っ!!」
「おやめください、政宗様」
振り上げられた手に身体が硬直する
政宗さんの腕を掴んだのは、和真さんだった
「離せ」
「離しません」
「離せ!」
「いいえ、離しません
あなたには、お嬢様の味方であってもらわなければなりません」
「Ah?」
「この手を振り下ろした、その瞬間──あなたはお嬢様の敵です」
和真さんと政宗さんが睨み合う
息の詰まる思いでそれを見上げていると、不意に人の気配を感じてそちらを振り向いた
「あ……おばあ、ちゃ──」
──瞬間
何かの破裂音のような音がして、左の頬がカッと熱くなった
え、と混乱して、一拍遅れて痛みが広がる
……いま、私、殴られた
「会長……何を……」
「テメェ──」
「喧しいわ、目障りよ」
ひゅ、と喉が音を鳴らす
痛い──この痛み、覚えている
それはたまの出来事だった
それは毎日の出来事だった
それは、顔を合わせる度に
──ごめんなさい、ごめんなさい
「ごめん……なさい……」
「夕歌、やめろ、夕歌」
「いや……嫌、いや──」
目の前が赤く燃えている
轟々と音を立てて、夜空に明々と炎が立つ
ああ、そうだ……
どうして私だけが、生きているんだろう
みんな死んだのに……どうして私だけがここにいるんだろう
生きている価値も無いくせに
「新倉!」
「承知致しました」
ぐん、と身体が持ち上げられて、視界が半回転する
訳の分からないままに抱え上げられて、和真さんは応接室を飛び出した
「なに、して」
「帰ります」
「政宗様、何事で──」
「綱元ッ!
潰せ!!」
そう怒鳴った政宗さんに、綱元先輩は全てを悟ったらしい
「委細承知」
そう告げた声は、誰よりも厳しく、怒りに満ちていた
バタバタと屋敷を出て、車へと押し込められる
結局、訳の分からないうちに、藤野邸を出ていた
「えっ?
な、なに?」
「ハァ……混乱で一周回って冷静になったか」
政宗さんの手が私の左頬に触れる
そうだ、私、おばあちゃんに叩かれて
「……腫れてやがるな
家に着いたら直ぐに冷やせ」
「は、はい」
政宗さんが目を閉じて、何かを考えるように目を閉じた
……バックミラーに、情けないような顔をする私が映っている
今、私の中にあるものは何だろうと考えた
──悲しい、苦しい、後悔
政宗さんの手は、いつの間に止血したのか、白い布がきつく巻かれていた
車内の窓にあるカーテンが引きちぎられているのを見ると、そのカーテンで止血を試みたらしい
「……和真さん、家に着いたら、政宗さんの手の手当をお願いします」
「かしこまりました」
「それと……ごめんなさい
死のうとするなんて、馬鹿な真似をしました」
「……お分かり頂けたのなら、何よりです
もうおやめくださいませ
あなた様がお亡くなりになった時、悲しむ方は大勢いるということを、お忘れのないように」
「……はい」
「会長は、お嬢様のことを望んではおられなかったかもしれませんが……
少なくとも私と政宗様は、お嬢様と出会えたことを幸せな事だと思っております
それは、お嬢様が望まれていることには、ならないでしょうか?」
口を閉ざしてしまうと、車内は静かになった
私が、誰かに望まれている
私がここに居ることを、望んでいる人がいる
それは政宗さんで、和真さんで──
私の為なら、行動を起こすことを躊躇わない人達で
「……ごめんなさい」
本当に──馬鹿なことをした
もう一度、もう一度だけ
誰かを信じてみよう
──また裏切られたら、もう立ち上がれないよ
傷だらけの“私”がそう呟く
継ぎ接ぎだらけの歪な心を抱えて、“私”は立ち竦んでいた
(まだ、それに大丈夫だと言うことは出来ないけれど)
「和真さん」
「はい」
「綱元先輩たちがやっていることは、私には理解が追いつかないんですが、和真さんなら分かりますよね」
「そうですね、大体のことは」
「藤野を大切に思う気持ちはありますか」
「ありません
お嬢様を亡き者にしようとした罪は重いですから」
その答えを聞いて安心した
「藤野を潰します
徹底的に──叩き潰します」
誰に喧嘩を売ったのか、思い知らせてやる
私は伊達政宗の妻だ
伊達に敵対したことを、後悔させてやるんだ──
生きている価値も、私自身の価値も
私には何一つなかった
ならばもう、終わりにしてしまおうか
16 磨かれる原石
和真さんの声が鋭く響き渡る
それよりも先に私を止めたのは──政宗さんだった
「何の真似だ」
「……政宗さん、手が」
刃物を素手で握ったことで、政宗さんの右手からは血が垂れ流れている
それには構うこともなく、政宗さんは更に強く握り締めた
「夕歌、質問に答えろ
これは何の真似だ?」
「……望まれなかった命は、生きるに値しないと思います」
「だから死のうとした、か」
私の手から強引にそれを抜き取った政宗さんが、床に投げ捨てる
それから私を見下ろして──
「っ!!」
「おやめください、政宗様」
振り上げられた手に身体が硬直する
政宗さんの腕を掴んだのは、和真さんだった
「離せ」
「離しません」
「離せ!」
「いいえ、離しません
あなたには、お嬢様の味方であってもらわなければなりません」
「Ah?」
「この手を振り下ろした、その瞬間──あなたはお嬢様の敵です」
和真さんと政宗さんが睨み合う
息の詰まる思いでそれを見上げていると、不意に人の気配を感じてそちらを振り向いた
「あ……おばあ、ちゃ──」
──瞬間
何かの破裂音のような音がして、左の頬がカッと熱くなった
え、と混乱して、一拍遅れて痛みが広がる
……いま、私、殴られた
「会長……何を……」
「テメェ──」
「喧しいわ、目障りよ」
ひゅ、と喉が音を鳴らす
痛い──この痛み、覚えている
それはたまの出来事だった
それは毎日の出来事だった
それは、顔を合わせる度に
──ごめんなさい、ごめんなさい
「ごめん……なさい……」
「夕歌、やめろ、夕歌」
「いや……嫌、いや──」
目の前が赤く燃えている
轟々と音を立てて、夜空に明々と炎が立つ
ああ、そうだ……
どうして私だけが、生きているんだろう
みんな死んだのに……どうして私だけがここにいるんだろう
生きている価値も無いくせに
「新倉!」
「承知致しました」
ぐん、と身体が持ち上げられて、視界が半回転する
訳の分からないままに抱え上げられて、和真さんは応接室を飛び出した
「なに、して」
「帰ります」
「政宗様、何事で──」
「綱元ッ!
潰せ!!」
そう怒鳴った政宗さんに、綱元先輩は全てを悟ったらしい
「委細承知」
そう告げた声は、誰よりも厳しく、怒りに満ちていた
バタバタと屋敷を出て、車へと押し込められる
結局、訳の分からないうちに、藤野邸を出ていた
「えっ?
な、なに?」
「ハァ……混乱で一周回って冷静になったか」
政宗さんの手が私の左頬に触れる
そうだ、私、おばあちゃんに叩かれて
「……腫れてやがるな
家に着いたら直ぐに冷やせ」
「は、はい」
政宗さんが目を閉じて、何かを考えるように目を閉じた
……バックミラーに、情けないような顔をする私が映っている
今、私の中にあるものは何だろうと考えた
──悲しい、苦しい、後悔
政宗さんの手は、いつの間に止血したのか、白い布がきつく巻かれていた
車内の窓にあるカーテンが引きちぎられているのを見ると、そのカーテンで止血を試みたらしい
「……和真さん、家に着いたら、政宗さんの手の手当をお願いします」
「かしこまりました」
「それと……ごめんなさい
死のうとするなんて、馬鹿な真似をしました」
「……お分かり頂けたのなら、何よりです
もうおやめくださいませ
あなた様がお亡くなりになった時、悲しむ方は大勢いるということを、お忘れのないように」
「……はい」
「会長は、お嬢様のことを望んではおられなかったかもしれませんが……
少なくとも私と政宗様は、お嬢様と出会えたことを幸せな事だと思っております
それは、お嬢様が望まれていることには、ならないでしょうか?」
口を閉ざしてしまうと、車内は静かになった
私が、誰かに望まれている
私がここに居ることを、望んでいる人がいる
それは政宗さんで、和真さんで──
私の為なら、行動を起こすことを躊躇わない人達で
「……ごめんなさい」
本当に──馬鹿なことをした
もう一度、もう一度だけ
誰かを信じてみよう
──また裏切られたら、もう立ち上がれないよ
傷だらけの“私”がそう呟く
継ぎ接ぎだらけの歪な心を抱えて、“私”は立ち竦んでいた
(まだ、それに大丈夫だと言うことは出来ないけれど)
「和真さん」
「はい」
「綱元先輩たちがやっていることは、私には理解が追いつかないんですが、和真さんなら分かりますよね」
「そうですね、大体のことは」
「藤野を大切に思う気持ちはありますか」
「ありません
お嬢様を亡き者にしようとした罪は重いですから」
その答えを聞いて安心した
「藤野を潰します
徹底的に──叩き潰します」
誰に喧嘩を売ったのか、思い知らせてやる
私は伊達政宗の妻だ
伊達に敵対したことを、後悔させてやるんだ──
1/3ページ