15 訣別の刻
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息が止まるかと思った
二度と会えないと思っていた
それでもあなたは、ここにいる
ありがとう、私のことを忘れずにいてくれて
15 訣別の刻
白い光が差し込む部屋で、眠り続けるその人を見つめていた
機械が規則正しく音を立てて、容態が安定していることを示す
「……斎藤」
「あ、片倉先生……
学院は?」
「政宗様の出張稽古中だ」
「わぁ、大変そう」
政宗さんの厳しさは後輩の私がよく知っている
今年も政宗さんの新たなファンが出来るんだな……
「昼飯は?」
「……お腹が空かなくて」
「何か入れておけ
いざって時にぶっ倒れるんじゃ、伊達の名が廃るぜ」
「……和真さんが目を覚ましたら、食べます
今までどこに居たのか分からないけど……私のためにこんな傷を負ってまで戻ってきてくれたようなので
私がいられる時間は、側にいてあげたいんです」
あの日、着ていた服は、政宗さんが捨てた
和真さんの血がかなり付着していて、洗っても取れないから、と
……失いたくない
いつだって、何かを失うのは怖い
「……飲み物は」
「それじゃあ、お茶で」
片倉先生が病室を出ていって、私と和真さんだけになる
……私は、藤野を敵に回した
今更、藤野の家へは戻れないだろう
「それでも、和真さんは私をお嬢様って呼んでくれるのかな……」
どうして戻ってきてくれたんだろう
こんな傷を負ってまで仕えるに値する人間だろうか、私は
「死んだら意味ないのに……」
でも──嬉しい
今はゆっくり休んでほしい
きっと、たくさんたくさん、頑張ってきたんだろうから
* * *
ビク、と身体が震えて、目が覚めた
崖から落ちる夢を見るなんて最悪だ
上手く働かない頭を押さえて、大きくため息をつく
そういえば、飲み物を買ってくるって言ってた片倉先生は──と顔を上げた時
「お目覚めですか、お嬢様」
唐突に、優しい声がすり抜けた
え、と慌ててベッドを振り向く
そこには、横たわったまま私を見上げて微笑む──
「かず、ま……さん」
「眠っておいででしたので、起こすのは忍びないと思いまして
可愛らしい寝顔を堪能しておりました
申し訳ございません」
「いつ……」
「片倉様がお飲み物を買って戻られた時でした
慌てて起こそうとされておられましたが、私がお止めしました」
そこは起こしてほしかった
いや、そういう気の利かせ方が和真さんらしいのだけど
「………」
「………」
駄目だ、いざ和真さんが目を覚まして話ができる状態になると、何を話したらいいか分からない
どうしよう──何を言えばいいんだろう
「……まずは、謝罪を」
「えっ……」
「お嬢様がおつらい時に、私はお嬢様をお支えすることが出来ませんでした
そればかりか、何の連絡もせずに、お嬢様の前から姿を消してしまった……
どれだけ悔いても足りません、これは私の人生最大の失態です
誠に申し訳ございませんでした」
「そんな……和真さんの意思で私を置いていった訳じゃないんですよね?
だったら、和真さんが謝る必要なんて」
「いいえ
執事とは主人を常に支える者
その主人のお側を離れるなど、執事にあるまじき行為です
申し開きの余地もございません
ご処分は如何様にも、お嬢様のお好きなように」
……私の好きなように
だったら、と口を開く
「それじゃあ、私に黙って居なくなった罰として──」
「……っ」
「これからも執事として、私の側にいてもらおうと思います」
「え、あの、それは──」
「しっかり反省して、職務を全うしてくださいね?」
「……あの、お嬢様
それは私への罰……なのですよね?」
「そうですよ?」
「無礼を承知で申し上げますが、あの、どの辺が!?」
「え、だって、私は藤野を敵に回してるんですよ
そんな奴に仕えるのって、和真さんの立場的に見たら本当はすっごくまずくないですか?」
「……はぁ、まぁ、それは……はい」
「でも和真さんには私の側にいてもらいます
ね、これ以上ないくらいの罰じゃないですか?」
つまり、私と一緒に藤野の敵になれと言っているのだ
それも元は藤野家に仕える、新倉家の人間に
「……お嬢様」
「でも、本当は罰とかそんなのどうでも良くて……
私はただ、和真さんに側にいてほしいなって、そう思ってるだけなんです
もちろん和真さんが嫌なら、無理強いは──」
「嫌などと思っておりません!
私は、私はお嬢様の行かれる所なら、例え地獄のそこであろうとお供いたします!」
「あはは……やっぱり大袈裟だ」
罰なんて、和真さんには必要ない
彼に私から与えるべきは、労いの言葉だけ
「……よく、戻ってきてくれました」
「はい、長らくお待たせ致しました
新倉和真──ただ今、戻りました」
和真さんの瞳から涙が零れていく
良かった……本当に良かった
戻ってきてくれて……ありがとう
二度と会えないと思っていた
それでもあなたは、ここにいる
ありがとう、私のことを忘れずにいてくれて
15 訣別の刻
白い光が差し込む部屋で、眠り続けるその人を見つめていた
機械が規則正しく音を立てて、容態が安定していることを示す
「……斎藤」
「あ、片倉先生……
学院は?」
「政宗様の出張稽古中だ」
「わぁ、大変そう」
政宗さんの厳しさは後輩の私がよく知っている
今年も政宗さんの新たなファンが出来るんだな……
「昼飯は?」
「……お腹が空かなくて」
「何か入れておけ
いざって時にぶっ倒れるんじゃ、伊達の名が廃るぜ」
「……和真さんが目を覚ましたら、食べます
今までどこに居たのか分からないけど……私のためにこんな傷を負ってまで戻ってきてくれたようなので
私がいられる時間は、側にいてあげたいんです」
あの日、着ていた服は、政宗さんが捨てた
和真さんの血がかなり付着していて、洗っても取れないから、と
……失いたくない
いつだって、何かを失うのは怖い
「……飲み物は」
「それじゃあ、お茶で」
片倉先生が病室を出ていって、私と和真さんだけになる
……私は、藤野を敵に回した
今更、藤野の家へは戻れないだろう
「それでも、和真さんは私をお嬢様って呼んでくれるのかな……」
どうして戻ってきてくれたんだろう
こんな傷を負ってまで仕えるに値する人間だろうか、私は
「死んだら意味ないのに……」
でも──嬉しい
今はゆっくり休んでほしい
きっと、たくさんたくさん、頑張ってきたんだろうから
* * *
ビク、と身体が震えて、目が覚めた
崖から落ちる夢を見るなんて最悪だ
上手く働かない頭を押さえて、大きくため息をつく
そういえば、飲み物を買ってくるって言ってた片倉先生は──と顔を上げた時
「お目覚めですか、お嬢様」
唐突に、優しい声がすり抜けた
え、と慌ててベッドを振り向く
そこには、横たわったまま私を見上げて微笑む──
「かず、ま……さん」
「眠っておいででしたので、起こすのは忍びないと思いまして
可愛らしい寝顔を堪能しておりました
申し訳ございません」
「いつ……」
「片倉様がお飲み物を買って戻られた時でした
慌てて起こそうとされておられましたが、私がお止めしました」
そこは起こしてほしかった
いや、そういう気の利かせ方が和真さんらしいのだけど
「………」
「………」
駄目だ、いざ和真さんが目を覚まして話ができる状態になると、何を話したらいいか分からない
どうしよう──何を言えばいいんだろう
「……まずは、謝罪を」
「えっ……」
「お嬢様がおつらい時に、私はお嬢様をお支えすることが出来ませんでした
そればかりか、何の連絡もせずに、お嬢様の前から姿を消してしまった……
どれだけ悔いても足りません、これは私の人生最大の失態です
誠に申し訳ございませんでした」
「そんな……和真さんの意思で私を置いていった訳じゃないんですよね?
だったら、和真さんが謝る必要なんて」
「いいえ
執事とは主人を常に支える者
その主人のお側を離れるなど、執事にあるまじき行為です
申し開きの余地もございません
ご処分は如何様にも、お嬢様のお好きなように」
……私の好きなように
だったら、と口を開く
「それじゃあ、私に黙って居なくなった罰として──」
「……っ」
「これからも執事として、私の側にいてもらおうと思います」
「え、あの、それは──」
「しっかり反省して、職務を全うしてくださいね?」
「……あの、お嬢様
それは私への罰……なのですよね?」
「そうですよ?」
「無礼を承知で申し上げますが、あの、どの辺が!?」
「え、だって、私は藤野を敵に回してるんですよ
そんな奴に仕えるのって、和真さんの立場的に見たら本当はすっごくまずくないですか?」
「……はぁ、まぁ、それは……はい」
「でも和真さんには私の側にいてもらいます
ね、これ以上ないくらいの罰じゃないですか?」
つまり、私と一緒に藤野の敵になれと言っているのだ
それも元は藤野家に仕える、新倉家の人間に
「……お嬢様」
「でも、本当は罰とかそんなのどうでも良くて……
私はただ、和真さんに側にいてほしいなって、そう思ってるだけなんです
もちろん和真さんが嫌なら、無理強いは──」
「嫌などと思っておりません!
私は、私はお嬢様の行かれる所なら、例え地獄のそこであろうとお供いたします!」
「あはは……やっぱり大袈裟だ」
罰なんて、和真さんには必要ない
彼に私から与えるべきは、労いの言葉だけ
「……よく、戻ってきてくれました」
「はい、長らくお待たせ致しました
新倉和真──ただ今、戻りました」
和真さんの瞳から涙が零れていく
良かった……本当に良かった
戻ってきてくれて……ありがとう
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