14 彼岸花と向日葵・後
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他人の背中は押しておきながら、自分は誰にも背中を預けない
何もかもを一人で背負い込もうとする親友がようやく吐き出した、小さなサイン
忘れてくれるな、俺達の思いを
お前のためなら――俺達は何だってやる
何だってやってやる……それでお前を助けられるなら
14 彼岸花と向日葵・後
こと、と何かが音を立てた
そちらに目を向けて、手元にやってきたのが氷が入ったアイスコーヒーだと理解する
「調子はどうだ?」
からかうような声音に、俺はため息をついて首を振った
グラスに口をつけて、冷たいそれで喉を潤す
「そんなにすぐには結果にならないさ」
「だよなぁ
ま、多少は効いたみてぇじゃねぇか?」
「……少しは、な」
水面下での揺らぎは俺も感じていた
彼らも予想だにしなかっただろう
伊達が、藤野に食ってかかるなど──
「……舐められたものだな」
「ん?」
「いや、いつから伊達は、牙を抜かれた蛇に成り下がっていたのやら、とな」
「腑抜けてた?」
「藤野に付け上がる隙を持たせたのはこちらのミスだろうな
輝宗様はそれでいいと仰るかもしれないが、そもそもこの日の本で豊臣を絶対的な存在にしてしまったのは藤野の落ち度だ」
「あー知ってる、あそこにうまーいこと利用されて捨てられたのが藤野傘下の鈴ヶ嶺だったんだっけ」
話が繋がっていく
鈴ヶ嶺は元々、特に秀でた何かがあるわけではなかったが、経営状態は堅調で、うなぎ登りとは行かずとも緩やかに右肩上がりで成長を続けていた
それが一気に転落したのは、豊臣と一部の事業を提携してから
今から五年と少し前──夕歌の家族が亡くなる前だ
「あの婆さんも何考えてたんだかなぁ」
「……恐らく、藤野芳江の指示ではないだろう
あの会長、食えない人物だからな
豊臣との提携など、彼女が指示するはずがない」
「ってことは──現社長?」
「だろうな
見越していた可能性もあるぞ」
「なにを」
「もし提携した後のことも、現社長の目論見に含まれているとしたら……
倒産間近まで業績が落ち込んでは、鈴ヶ嶺の社長はともかくとして、夫人の方は気が気ではなかったはずだ
そこへ、斎藤家には膨大な資産がある、と唆せば、どうなるか」
は、と成実が言葉を失う
目論見通り、鈴ヶ嶺可菜子は斎藤家を殺すよう指示した
上手く行くはずだった──が、それは夕歌の生存という形で破綻した
だから夕歌が自殺するよう追い込んだ
それも夕歌の父方の親族を言いくるめ、口車に乗せてまで
「──結果的に、それを邪魔したのが俺たち伊達、ということにはなるだろうか」
「夕歌、それ知ってんのか」
「……分からん
俺としては、知っている方が恐ろしいよ」
何もかもを抱え込んだ上で、誰にも肩代わりさせることなく立ち続けるのは、常人では限界がある
夕歌は、自分で自分を守ることに慣れすぎた
だから他人を頼らない、頼り方が分からない
差し伸べられた手をとったものの、どうしたらいいかが分からない
……なんと憐れな子だろうか
「あの強さは、どこから来るんだろうな、あいつ」
「あれは強さなんかではないさ
ただの虚勢だ
それが剥がされて、今のような状態になっている 」
「なんつーか……もうどうしたらいいか分かんねぇよ、俺
分かんねぇけど……ま、親友の俺に出来ることもあるんだろうしな」
ぬるくなる前に飲めよ、と言い残して成実が部屋を出ていこうとする
その背中を呼び止めた
「夕歌にとっては、お前の存在だって充分、支えになっているさ」
「……そりゃ、お前もだ」
パタン、と閉じたドア
思わずため息が零れた
この俺が、夕歌の支えになっている、か……
「全く……信頼する相手は、選んだ方がいいぞ、後輩」
本人に言わないのでは意味が無い
仕方ないな、と思う反面、俺の広角が上がっていく
ならば期待に応えよう
後輩思いのいい先輩として、な
* * *
「──ってことらしい」
梵に事のあらましを教えると、整った顔立ちが怒りを顕にする
そりゃそうだ、俺だって心底腹が立ってる
ここは梵と夕歌の家──の、梵と夕歌の寝室
すうすうと安心しきったように眠る夕歌の目の下には、僅かながら隈が残っていた
「眠れてねぇのか、夕歌」
「……まぁ、な」
「そっか……」
確かに、前よりちょっとだけ痩せたような気もする
色々と大変だもんな……本当に、色々と
「はぁ……俺も大概、人のことは言えねぇけど、要らんもんまで背負いすぎてんだよな、夕歌は」
「Ha,お前が言うか」
「俺だから言えるんだよ」
似たような傷を抱えた俺たちだから気付けたものの、普通の奴らには分からない
それくらい、こいつは隠すのが上手い
普段は顔に出やすいくせに、肝心なことは笑顔の下に隠すんだ
そんなお前だから、俺たちは不安になる
人は、一度壊れたら二度と元には戻らない
「……助けてやりてぇな、ちゃんと」
「Of course.
そのために藤野に啖呵切ったんだ
落とし前はつけねぇとな」
夕歌を見つめる梵を盗み見る
誰もが夕歌のことに掛かりっきりだしな
……俺くらいは、お前のことを注意して見ていても、文句は言われねぇだろう
何もかもを一人で背負い込もうとする親友がようやく吐き出した、小さなサイン
忘れてくれるな、俺達の思いを
お前のためなら――俺達は何だってやる
何だってやってやる……それでお前を助けられるなら
14 彼岸花と向日葵・後
こと、と何かが音を立てた
そちらに目を向けて、手元にやってきたのが氷が入ったアイスコーヒーだと理解する
「調子はどうだ?」
からかうような声音に、俺はため息をついて首を振った
グラスに口をつけて、冷たいそれで喉を潤す
「そんなにすぐには結果にならないさ」
「だよなぁ
ま、多少は効いたみてぇじゃねぇか?」
「……少しは、な」
水面下での揺らぎは俺も感じていた
彼らも予想だにしなかっただろう
伊達が、藤野に食ってかかるなど──
「……舐められたものだな」
「ん?」
「いや、いつから伊達は、牙を抜かれた蛇に成り下がっていたのやら、とな」
「腑抜けてた?」
「藤野に付け上がる隙を持たせたのはこちらのミスだろうな
輝宗様はそれでいいと仰るかもしれないが、そもそもこの日の本で豊臣を絶対的な存在にしてしまったのは藤野の落ち度だ」
「あー知ってる、あそこにうまーいこと利用されて捨てられたのが藤野傘下の鈴ヶ嶺だったんだっけ」
話が繋がっていく
鈴ヶ嶺は元々、特に秀でた何かがあるわけではなかったが、経営状態は堅調で、うなぎ登りとは行かずとも緩やかに右肩上がりで成長を続けていた
それが一気に転落したのは、豊臣と一部の事業を提携してから
今から五年と少し前──夕歌の家族が亡くなる前だ
「あの婆さんも何考えてたんだかなぁ」
「……恐らく、藤野芳江の指示ではないだろう
あの会長、食えない人物だからな
豊臣との提携など、彼女が指示するはずがない」
「ってことは──現社長?」
「だろうな
見越していた可能性もあるぞ」
「なにを」
「もし提携した後のことも、現社長の目論見に含まれているとしたら……
倒産間近まで業績が落ち込んでは、鈴ヶ嶺の社長はともかくとして、夫人の方は気が気ではなかったはずだ
そこへ、斎藤家には膨大な資産がある、と唆せば、どうなるか」
は、と成実が言葉を失う
目論見通り、鈴ヶ嶺可菜子は斎藤家を殺すよう指示した
上手く行くはずだった──が、それは夕歌の生存という形で破綻した
だから夕歌が自殺するよう追い込んだ
それも夕歌の父方の親族を言いくるめ、口車に乗せてまで
「──結果的に、それを邪魔したのが俺たち伊達、ということにはなるだろうか」
「夕歌、それ知ってんのか」
「……分からん
俺としては、知っている方が恐ろしいよ」
何もかもを抱え込んだ上で、誰にも肩代わりさせることなく立ち続けるのは、常人では限界がある
夕歌は、自分で自分を守ることに慣れすぎた
だから他人を頼らない、頼り方が分からない
差し伸べられた手をとったものの、どうしたらいいかが分からない
……なんと憐れな子だろうか
「あの強さは、どこから来るんだろうな、あいつ」
「あれは強さなんかではないさ
ただの虚勢だ
それが剥がされて、今のような状態になっている 」
「なんつーか……もうどうしたらいいか分かんねぇよ、俺
分かんねぇけど……ま、親友の俺に出来ることもあるんだろうしな」
ぬるくなる前に飲めよ、と言い残して成実が部屋を出ていこうとする
その背中を呼び止めた
「夕歌にとっては、お前の存在だって充分、支えになっているさ」
「……そりゃ、お前もだ」
パタン、と閉じたドア
思わずため息が零れた
この俺が、夕歌の支えになっている、か……
「全く……信頼する相手は、選んだ方がいいぞ、後輩」
本人に言わないのでは意味が無い
仕方ないな、と思う反面、俺の広角が上がっていく
ならば期待に応えよう
後輩思いのいい先輩として、な
* * *
「──ってことらしい」
梵に事のあらましを教えると、整った顔立ちが怒りを顕にする
そりゃそうだ、俺だって心底腹が立ってる
ここは梵と夕歌の家──の、梵と夕歌の寝室
すうすうと安心しきったように眠る夕歌の目の下には、僅かながら隈が残っていた
「眠れてねぇのか、夕歌」
「……まぁ、な」
「そっか……」
確かに、前よりちょっとだけ痩せたような気もする
色々と大変だもんな……本当に、色々と
「はぁ……俺も大概、人のことは言えねぇけど、要らんもんまで背負いすぎてんだよな、夕歌は」
「Ha,お前が言うか」
「俺だから言えるんだよ」
似たような傷を抱えた俺たちだから気付けたものの、普通の奴らには分からない
それくらい、こいつは隠すのが上手い
普段は顔に出やすいくせに、肝心なことは笑顔の下に隠すんだ
そんなお前だから、俺たちは不安になる
人は、一度壊れたら二度と元には戻らない
「……助けてやりてぇな、ちゃんと」
「Of course.
そのために藤野に啖呵切ったんだ
落とし前はつけねぇとな」
夕歌を見つめる梵を盗み見る
誰もが夕歌のことに掛かりっきりだしな
……俺くらいは、お前のことを注意して見ていても、文句は言われねぇだろう
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