13 彼岸花と向日葵・中
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私の中身は『空っぽ』
私の存在には価値がない
刷り込まれてきたその感覚を、今更捨てられるだろうか
……私にはまだ、誰かに助けを求める方法が分からない
11 彼岸花と向日葵・中
お互いに和尚様から助言めいたものを頂いて、家へ帰った
時間はお昼をちょっと過ぎた頃
政宗さんが手早くパスタを作ってくれて、それを食べた
「……ただのお墓参りのつもりだったんですけどね」
テーブルに向かい合って座って、食後のコーヒーを飲みながら苦笑いを浮かべる
和尚様は周りを頼れとおっしゃったけど、どこまで頼ったらいいのか、その塩梅が難しい
頼りきってしまうのはいけないし、かと言って全てを自分でどうにかしようとするのは違うし……
「私、結構みんなに頼りきりな感じだと思ってました」
「……俺は目が覚めた気分だった」
「えっ」
「お前は何だって出来るからな
今回のことだって、俺が支えてやんねぇと、なんて思っちゃいたが、その実、お前ならどうにか出来るだろ、なんて高を括ってもいた」
無表情でそう呟いて、政宗さんの形のいい眉が眉間に皺を作る
まるで自分を責めているかのよう──いや実際、責めているのだろう
「政宗さんが居なかったら、私はとっくに死んでましたよ
さっきもそう言ったじゃないですか」
「そうじゃねぇ……そうじゃねぇんだ
お前、自分で気付いてるか?
悪夢でうなされる回数が増えたって」
「──え」
確かに、あの日からずっと、ぐっすり眠れた日は少ない気がしていた
それでも睡眠時間が足りない訳では無いし、特に体の不調はなくて……だから余計に知らなかった
「そう、なんですか?」
「前はふとした時に魘される程度だったが、今はほぼ毎晩だ
直ぐにまた眠っちまうから、気付いちゃいねぇかもとは思っちゃいたが──案の定か」
「毎晩……政宗さんを起こしてしまっていたとは……」
どうしよう、申し訳ない
ただでさえ睡眠時間が少なくなっている人なのに
「わ、私、なるべくうなされないように頑張りますね」
「……そういうところだろ、和尚が言ってたのは」
「へっ」
「お前が無理して頑張るこたぁねぇ
魘される原因を解決するのが道理だ」
私が魘される原因
やっぱり、叔父なんだろうか
確かに、叔父に拒絶された時から、一連の出来事は起こり始めた気がする
「……言え、夕歌」
「えっ」
「お前は俺にどうして欲しい
俺たちはお前のために何が出来る」
「それは──」
「その場しのぎの答えなんざ求めちゃいねぇ
これから先をどうしたいか、それを踏まえて答えろ」
これから先──どうしたいか
真っ先に浮かんだのは、和真さんだった
今頃どうしているだろうか
彼の消息が全く知れない
「………」
助けてほしい、その一言だけで良いと政宗さんは言った
私がそう言うだけで、何もかもに対処する用意は整うのだと
──それは、私が政宗さんの妻だから
「……結局のところ、私自身には大した価値もない、か」
「何言って──」
「ありがとうございます、政宗さんが必死なのも納得しました
ていうか、そうですよね!
政宗さんの妻ってことは、次期当主の妻ってことですし!
みんなが本気になるのも当然ですよね!」
「──That’s bullshit!」
テーブルを拳で叩かれて肩が跳ねる
ビリビリと怒気が伝わって、完全に怒らせてしまったことを悟った
「……っ、頭冷やしてくる」
飲みかけのコーヒーはそのままに、政宗さんが家を出ていく
ガチャン、とドアが閉まる音が聞こえて──何かが頬を伝った
「え……あ」
ポタポタと止まるどころか次々に落ちてくるそれに混乱していく
胸が苦しくて、上手く息が吸えない
政宗さんを怒らせたのは初めてだ
怖かった──というよりは、悲しかった
私は好きな人の真意さえ、ちゃんと汲み取ることが出来ないのだと、現実を突き付けられてしまったようで
この感情にどう向き合えばいいかも分からなくて、ただただ、涙が枯れるのを待つしかなかった
──順調に回っていたかのように思えた歯車は、やはりどこかで噛み合っていなかったのだ
幸せになりすぎたことへの罰だ
人は幸せを知ると、際限なく求めてしまう
求めてはいけないものにまで手を伸ばしてしまったのだろう
乾ききった私を満たしてくれた人
私の世界を広げてくれた人
……私なんかに縛ってはいけない人
彼は竜だ、天高く昇る竜だ
私は彼の背中を見上げているだけでなければならなかった
手を伸ばして、掴んではいけなかったんだ──
私の存在には価値がない
刷り込まれてきたその感覚を、今更捨てられるだろうか
……私にはまだ、誰かに助けを求める方法が分からない
11 彼岸花と向日葵・中
お互いに和尚様から助言めいたものを頂いて、家へ帰った
時間はお昼をちょっと過ぎた頃
政宗さんが手早くパスタを作ってくれて、それを食べた
「……ただのお墓参りのつもりだったんですけどね」
テーブルに向かい合って座って、食後のコーヒーを飲みながら苦笑いを浮かべる
和尚様は周りを頼れとおっしゃったけど、どこまで頼ったらいいのか、その塩梅が難しい
頼りきってしまうのはいけないし、かと言って全てを自分でどうにかしようとするのは違うし……
「私、結構みんなに頼りきりな感じだと思ってました」
「……俺は目が覚めた気分だった」
「えっ」
「お前は何だって出来るからな
今回のことだって、俺が支えてやんねぇと、なんて思っちゃいたが、その実、お前ならどうにか出来るだろ、なんて高を括ってもいた」
無表情でそう呟いて、政宗さんの形のいい眉が眉間に皺を作る
まるで自分を責めているかのよう──いや実際、責めているのだろう
「政宗さんが居なかったら、私はとっくに死んでましたよ
さっきもそう言ったじゃないですか」
「そうじゃねぇ……そうじゃねぇんだ
お前、自分で気付いてるか?
悪夢でうなされる回数が増えたって」
「──え」
確かに、あの日からずっと、ぐっすり眠れた日は少ない気がしていた
それでも睡眠時間が足りない訳では無いし、特に体の不調はなくて……だから余計に知らなかった
「そう、なんですか?」
「前はふとした時に魘される程度だったが、今はほぼ毎晩だ
直ぐにまた眠っちまうから、気付いちゃいねぇかもとは思っちゃいたが──案の定か」
「毎晩……政宗さんを起こしてしまっていたとは……」
どうしよう、申し訳ない
ただでさえ睡眠時間が少なくなっている人なのに
「わ、私、なるべくうなされないように頑張りますね」
「……そういうところだろ、和尚が言ってたのは」
「へっ」
「お前が無理して頑張るこたぁねぇ
魘される原因を解決するのが道理だ」
私が魘される原因
やっぱり、叔父なんだろうか
確かに、叔父に拒絶された時から、一連の出来事は起こり始めた気がする
「……言え、夕歌」
「えっ」
「お前は俺にどうして欲しい
俺たちはお前のために何が出来る」
「それは──」
「その場しのぎの答えなんざ求めちゃいねぇ
これから先をどうしたいか、それを踏まえて答えろ」
これから先──どうしたいか
真っ先に浮かんだのは、和真さんだった
今頃どうしているだろうか
彼の消息が全く知れない
「………」
助けてほしい、その一言だけで良いと政宗さんは言った
私がそう言うだけで、何もかもに対処する用意は整うのだと
──それは、私が政宗さんの妻だから
「……結局のところ、私自身には大した価値もない、か」
「何言って──」
「ありがとうございます、政宗さんが必死なのも納得しました
ていうか、そうですよね!
政宗さんの妻ってことは、次期当主の妻ってことですし!
みんなが本気になるのも当然ですよね!」
「──That’s bullshit!」
テーブルを拳で叩かれて肩が跳ねる
ビリビリと怒気が伝わって、完全に怒らせてしまったことを悟った
「……っ、頭冷やしてくる」
飲みかけのコーヒーはそのままに、政宗さんが家を出ていく
ガチャン、とドアが閉まる音が聞こえて──何かが頬を伝った
「え……あ」
ポタポタと止まるどころか次々に落ちてくるそれに混乱していく
胸が苦しくて、上手く息が吸えない
政宗さんを怒らせたのは初めてだ
怖かった──というよりは、悲しかった
私は好きな人の真意さえ、ちゃんと汲み取ることが出来ないのだと、現実を突き付けられてしまったようで
この感情にどう向き合えばいいかも分からなくて、ただただ、涙が枯れるのを待つしかなかった
──順調に回っていたかのように思えた歯車は、やはりどこかで噛み合っていなかったのだ
幸せになりすぎたことへの罰だ
人は幸せを知ると、際限なく求めてしまう
求めてはいけないものにまで手を伸ばしてしまったのだろう
乾ききった私を満たしてくれた人
私の世界を広げてくれた人
……私なんかに縛ってはいけない人
彼は竜だ、天高く昇る竜だ
私は彼の背中を見上げているだけでなければならなかった
手を伸ばして、掴んではいけなかったんだ──
1/3ページ