12 彼岸花と向日葵・前
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夏の暑さは留まるところを知らないようで、今日も今日とて酷暑の一日
そんな中、今日まで部活はお休み
私と政宗さんは、二人でとある場所へと出掛けることにした
12 彼岸花と向日葵・前
お盆休みの、十五日
お寺に顔を出すと、お馴染みの和尚さんが、私と政宗さんを見て微笑んだ
「今年もこの季節ですなぁ」
「そうだな、早いもんだ」
「喧嘩などしておらんでしょうな?」
「してねぇよ」
桶と柄杓を持ちながら、政宗さんがそう答える
まぁ、する理由もない……というのが本音だったりする
「どっちから行きます?」
「んじゃ、お前から行くか」
「はーい」
政宗さんと一緒に、私の家族のお墓へと向かう
……暑い、焼け死にそうだ
日差しが痛いくらい降り注いで、アスファルトからの照り返しが容赦なく熱気をばらまいていく
「ここだったな」
「そうです」
政宗さんと二人で墓石を掃除して、それからお花をお供えして、線香をあげる
今、私は、あの頃には想像も出来なかったくらい幸せで
きっと終わることはないだろうけれど、それでも心の中でずっと恐れている
いつか、私は政宗さんに手を離されてしまうんじゃないかって──
「………」
隣を見ると、真剣な顔付きが目を閉じて手を合わせていた
それからゆっくりと目を開けて、政宗さんは、何かを決意したかのように、鋭い眼差しをした
「政宗さん」
「終わったか?」
「あ、はい
政宗さんこそ」
「待たせたか、sorry.
次、行くぞ」
「はい」
次のお墓は、政宗さんの弟さんのお墓
具体的には伊達家のお墓なのだけれど、政宗さんがここに来る理由は、弟さんのお墓参りだ
「……たまに、考えることがある」
「え?」
「あいつは俺を憎んでるんだろうな、ってな」
「………」
「俺の余計な気遣いのせいで、死んだからな……
俺が車を代わろうなんざ思わなけりゃ──そう責められそうだ」
そんなことはない、と言い切れなかった
私は政道くんのことを何も知らない
知っているのは、昔は仲が良かったということだけだ
「怒ってるかもしれねぇな……
もしかすると、俺を恨んで死んでいったかもしれねぇ
俺だけが幸せになって……なんで俺だけが死ななきゃならねぇんだって、天に唾吐いたかもしれねぇな」
五歳だったもんな、と政宗さんが呟いたのを最後に、会話は途絶えた
──きっと、これは政宗さんの胸に一生刺さり続ける棘だ
そして政宗さんは頭の片隅に置き続けるのだろう
家族と言葉を交わす度に、団欒の時間を過ごす度に
ここにいるはずだった幼い弟の影を、脳裏に描き続ける
「私に出来ることは何もないですけど……」
「……?」
「でも、あの時、政宗さんが政道くんと車を代わらなかったら、今こうやってお墓の前にいるのは政宗さんじゃなくて……
目の前でお兄ちゃんが死んでしまうのを見てしまって、それを一生の負い目にしてしまった政道くんだったんでしょうね」
「あ──」
「そして私は、政宗さんの存在にも気付かないままで……もしかしたら、あのまま死んでたかも」
色んな偶然が重なり合って、私は生きている
けれど、分岐点になったであろう場面には、必ず政宗さんがいてくれた
私の命は、政宗さんのおかげで生き永らえている
「そういう意味では、政宗さんは私の命の恩人ですね
これが政道くんだったら、間違いなく私はいずれどこかのタイミングで死んでいたと思います」
「……夕歌」
「それでもいいやって、思ってたんだけどなぁ」
そう呟いた瞬間、政宗さんが急に私を腕の中に閉じ込めた
突然の事態に顔が急速に熱を帯びるけれど、耳に微かに届いた鼓動は、急いたように早鐘を打っていた
「……政宗さ──」
「二度と口にするな」
「え?」
「死んでもいいなんざ、二度と口にするな──!」
切羽詰まった声音は、怒りを孕んでいた
言葉を間違えてしまったと気付いたのは、それからだ
いつ死んでもいいと思っていた、それは嘘じゃない
私の命に意味が無いのなら、生きていく理由も無いに等しい
……みんなに会うまではそう思っていた
だけど、私はあまりにも大切にされすぎた
「何者でもなかった頃の私」を、たくさんの人が慕ってくれた
愛されることを諦めた私に、政宗さんは両手では抱えきれない程の愛情を与えてくれた
「……違うんです、ごめんなさい
昔はそう思っていたんです
私は、命に意味を持たなかったから
でも今は、みんなが私に生きる意味を与えてくれた
政宗さんもいつだって隣に居てくれる……
だから私は、政宗さんと出会えたことが嬉しいし、政宗さんに感謝だってしています
空っぽで空虚だった私に、政宗さんがたくさんの想いをくれたんです」
きっと他の誰でも駄目だった
あの時、妥協して佐助先輩を選んでいたら、私はここまで幸せにはしてもらえなかった
政宗さんだったからだ
伊達政宗という男性に愛されたから、私は満たされた
そんな中、今日まで部活はお休み
私と政宗さんは、二人でとある場所へと出掛けることにした
12 彼岸花と向日葵・前
お盆休みの、十五日
お寺に顔を出すと、お馴染みの和尚さんが、私と政宗さんを見て微笑んだ
「今年もこの季節ですなぁ」
「そうだな、早いもんだ」
「喧嘩などしておらんでしょうな?」
「してねぇよ」
桶と柄杓を持ちながら、政宗さんがそう答える
まぁ、する理由もない……というのが本音だったりする
「どっちから行きます?」
「んじゃ、お前から行くか」
「はーい」
政宗さんと一緒に、私の家族のお墓へと向かう
……暑い、焼け死にそうだ
日差しが痛いくらい降り注いで、アスファルトからの照り返しが容赦なく熱気をばらまいていく
「ここだったな」
「そうです」
政宗さんと二人で墓石を掃除して、それからお花をお供えして、線香をあげる
今、私は、あの頃には想像も出来なかったくらい幸せで
きっと終わることはないだろうけれど、それでも心の中でずっと恐れている
いつか、私は政宗さんに手を離されてしまうんじゃないかって──
「………」
隣を見ると、真剣な顔付きが目を閉じて手を合わせていた
それからゆっくりと目を開けて、政宗さんは、何かを決意したかのように、鋭い眼差しをした
「政宗さん」
「終わったか?」
「あ、はい
政宗さんこそ」
「待たせたか、sorry.
次、行くぞ」
「はい」
次のお墓は、政宗さんの弟さんのお墓
具体的には伊達家のお墓なのだけれど、政宗さんがここに来る理由は、弟さんのお墓参りだ
「……たまに、考えることがある」
「え?」
「あいつは俺を憎んでるんだろうな、ってな」
「………」
「俺の余計な気遣いのせいで、死んだからな……
俺が車を代わろうなんざ思わなけりゃ──そう責められそうだ」
そんなことはない、と言い切れなかった
私は政道くんのことを何も知らない
知っているのは、昔は仲が良かったということだけだ
「怒ってるかもしれねぇな……
もしかすると、俺を恨んで死んでいったかもしれねぇ
俺だけが幸せになって……なんで俺だけが死ななきゃならねぇんだって、天に唾吐いたかもしれねぇな」
五歳だったもんな、と政宗さんが呟いたのを最後に、会話は途絶えた
──きっと、これは政宗さんの胸に一生刺さり続ける棘だ
そして政宗さんは頭の片隅に置き続けるのだろう
家族と言葉を交わす度に、団欒の時間を過ごす度に
ここにいるはずだった幼い弟の影を、脳裏に描き続ける
「私に出来ることは何もないですけど……」
「……?」
「でも、あの時、政宗さんが政道くんと車を代わらなかったら、今こうやってお墓の前にいるのは政宗さんじゃなくて……
目の前でお兄ちゃんが死んでしまうのを見てしまって、それを一生の負い目にしてしまった政道くんだったんでしょうね」
「あ──」
「そして私は、政宗さんの存在にも気付かないままで……もしかしたら、あのまま死んでたかも」
色んな偶然が重なり合って、私は生きている
けれど、分岐点になったであろう場面には、必ず政宗さんがいてくれた
私の命は、政宗さんのおかげで生き永らえている
「そういう意味では、政宗さんは私の命の恩人ですね
これが政道くんだったら、間違いなく私はいずれどこかのタイミングで死んでいたと思います」
「……夕歌」
「それでもいいやって、思ってたんだけどなぁ」
そう呟いた瞬間、政宗さんが急に私を腕の中に閉じ込めた
突然の事態に顔が急速に熱を帯びるけれど、耳に微かに届いた鼓動は、急いたように早鐘を打っていた
「……政宗さ──」
「二度と口にするな」
「え?」
「死んでもいいなんざ、二度と口にするな──!」
切羽詰まった声音は、怒りを孕んでいた
言葉を間違えてしまったと気付いたのは、それからだ
いつ死んでもいいと思っていた、それは嘘じゃない
私の命に意味が無いのなら、生きていく理由も無いに等しい
……みんなに会うまではそう思っていた
だけど、私はあまりにも大切にされすぎた
「何者でもなかった頃の私」を、たくさんの人が慕ってくれた
愛されることを諦めた私に、政宗さんは両手では抱えきれない程の愛情を与えてくれた
「……違うんです、ごめんなさい
昔はそう思っていたんです
私は、命に意味を持たなかったから
でも今は、みんなが私に生きる意味を与えてくれた
政宗さんもいつだって隣に居てくれる……
だから私は、政宗さんと出会えたことが嬉しいし、政宗さんに感謝だってしています
空っぽで空虚だった私に、政宗さんがたくさんの想いをくれたんです」
きっと他の誰でも駄目だった
あの時、妥協して佐助先輩を選んでいたら、私はここまで幸せにはしてもらえなかった
政宗さんだったからだ
伊達政宗という男性に愛されたから、私は満たされた
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