10 夏の夜空に咲く花・前
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チャイムが鳴って、シャーペンを机に置く
それから、ぐん、と背伸びをした
「んーっ……!
終わったぁ……」
試験監督が解答用紙を回収して、解散の合図が出る
筆記用具を鞄に入れて、受講生の波に乗って講義室を出た
前期の期末考査が終わった、ということは――
夏休みだー!!
10 夏の夜空に咲く花・前
ロビーでスマホの電源を入れると、背後から私の名前を呼ぶ声があって
「あ、幸村君!」
「夕歌殿!」
人の間をどうにかこうにか縫って、幸村君が私の元へ到着する
と思うと、幸村君は優しく私の背中に手を当てて、外へと促してくれた
「ごめんね、手を煩わせて……」
「なんの、これしきのことは当然のことにござる
それに、あの喧騒では、会話もままならぬ故」
スマホにはLEINの通知が数件入っていて、成実からの通知を開くと、カフェテラスに席を取ったから集合、とメッセージが入っていた
それは幸村君も見ていたようで、私たちは講義棟からカフェテラスへと急ぐことにしたのだった
──暑い外から、涼しい室内へ
カフェテラスは冷房が効いていて、さながら極楽だった
「あ、いたいた
おーい!」
成実を見つけて手を振ると、向かいに座っていたらしいかすががガタッと席を立って、私の元へとツカツカ歩いてきた
「夕歌、外は暑かっただろう?
私が案内してやる、こっちだ」
「いやめちゃくちゃ席見えてるよ」
案内も何もって話だよ
幸村君は慣れてしまったようで、私を置いて成実の隣に座っている
かすがに鞄を取られ、席までエスコートされ、座ったタイミングでアイスコーヒーがやって来た
「そんじゃひとまず、お疲れさん」
「お疲れー」
「お疲れ様でござる!」
「ああ、お疲れ」
それぞれのドリンクで乾杯して、ストローでコーヒーを飲む
暑さで火照った体には丁度いい冷たさだ
「初めての大学の試験にしては、まぁ上手くいった方だな」
「だといいね
……ていうか、上手くいかないと教えてくれた綱元先輩が怖い」
「まったくもって同感」
成実と二人でため息をつく
これで単位を落とそうものなら、私は最低でも一ヶ月は、綱元先輩から遠回しに嫌味を言われそうだ
「親泰君は?」
「あいつは次の時間の試験で終わりっつってたぞ
梵と綱元の方は知らん」
「知る気がなかったんでしょ、どうせ」
「そうとも言うな」
「私が言うのもなんだけど、それでいいの?」
「梵にゃ、留守がついてるからなー
俺は割と自由にさせてもらってっから
……っつーか、お前こそ梵の試験の時間割、知らねぇの?」
「知ってるよ?」
「知ってんのかよ!」
だって私は親泰君のことしか聞いてないもん
政宗さんの時間割は知ってるから、成実に聞く必要も無いし
「政宗さんも、今日の分はさっきの時間で終わり
あとは明日の三限の試験で晴れて夏休みだよ」
「ほーん」
「綱元先輩はあとは五限の試験があるから、それで終わり」
「綱元の予定も把握してたんだな……」
「一応ね」
ふーん、と頬杖をついた成実が私を見つめる
それに首を傾げると、「いんや」と成実は首を振った
「思った以上に伊達家の若奥様してて、感心しただけだ」
「どういうこと?」
「綱元の予定まで把握出来てえらいなーって」
「……ちょっと馬鹿にしたでしょ」
「気持ち一ミリくらい」
「だそうですかすがさん」
「ほう……?」
「お前!
お前それはずりーぞ!?」
綺麗に先端が尖った鉛筆を指に挟み、威嚇するかすがに、成実が即座に両手を挙げる
ずるいとはご挨拶な、友達想いの親友で私は嬉しいというのに
「夕歌」
不意に名前を呼ばれた瞬間、頬にちゅっと何かが触れた
慌てて振り向くと、クツクツと喉の奥で笑う政宗さんが立っていて
「~~~ッ!!
政宗さん!!」
「っはは!
sorry,sorry.
そんなに怒るなよ」
「怒ってませんっ!」
「じゃ、照れてんだな」
「もー!!」
「何このバカップル」
「某に聞かないで頂きとうござる」
「頼むから引かないで幸村君!!!」
断じて私が悪いんじゃないんだ!!
悪いのはこの色ボケした美形であって!!
「俺には引かれていいんだ……」
「成実はもう見慣れてるでしょ、あとは仕返し半分ね」
「なんだなんだ?
俺と登勢が羨ましいって?」
「紹介するのは耳鼻科かな、それとも脳神経外科かな?」
「すいません調子乗りました、もうしません」
「そう言い続けて早三年か……
相変わらず学習能力がねぇな、お前」
「余計なお世話だバッキャロー!!」
ムキになった成実が政宗さんに吠えて、ズゴーッとジュースを吸い込む
やれやれ、と場の雰囲気が緩んだところで、「そう言えば」と、かすがが私を見つめた
「今度の花火大会、夕歌はどうするんだ?」
「……へ?
花火……大会」
「花火大会……え?
まさかお前、知らなかったのか……?」
「え?
みんな知ってたの……?」
「どうやったら知らずに生活できるんだ!?」
「えっ!?
分かんない!!
幸村君は知ってたの!?」
「む?
某は兄上と姉上、それから佐助と共に、お館様の屋敷の屋根から見る予定でござる」
「屋根から」
「まぁ、普通の見方はしねぇと思ってたよ、俺は」
「そうだね……うん……
花火大会か……全然知らなかった……」
そもそも、花火大会に行ったことすら……いや、それは流石にあるか、あるけど
それだって、もう五年前くらいのことだし、親戚に引き取られる生活になってからは、一度だって行ったことがないし
「せっかくなら、行ってきたらいいだろう」
「誰と?」
「無論、政宗殿とでは?」
「そら相手は梵しかいねぇだろ、お前」
「あ、そっか、そうだよね……
普通そうだよね……ごめんちょっと混乱した……」
「俺じゃ不満か?」
「滅相も無いです!
ただ、花火大会って、家族としか行ったことがなかったから……
友達とか、好きな人とか、家族じゃない人と行くって感覚がいまいち……」
あー、と成実が気まずそうに目を逸らして、かすがが私の頭を撫でる
すると、お茶を飲んでいた幸村君が難しそうな顔をしていて
「……夕歌殿」
「え、なに?」
「夫婦は……家族なのでは?」
あまりにも正論すぎる問いに、私は本日初めて、白紙の解答を差し出した
そうだけど、そうじゃないじゃん?
そう言いたいのを、我慢して
それから、ぐん、と背伸びをした
「んーっ……!
終わったぁ……」
試験監督が解答用紙を回収して、解散の合図が出る
筆記用具を鞄に入れて、受講生の波に乗って講義室を出た
前期の期末考査が終わった、ということは――
夏休みだー!!
10 夏の夜空に咲く花・前
ロビーでスマホの電源を入れると、背後から私の名前を呼ぶ声があって
「あ、幸村君!」
「夕歌殿!」
人の間をどうにかこうにか縫って、幸村君が私の元へ到着する
と思うと、幸村君は優しく私の背中に手を当てて、外へと促してくれた
「ごめんね、手を煩わせて……」
「なんの、これしきのことは当然のことにござる
それに、あの喧騒では、会話もままならぬ故」
スマホにはLEINの通知が数件入っていて、成実からの通知を開くと、カフェテラスに席を取ったから集合、とメッセージが入っていた
それは幸村君も見ていたようで、私たちは講義棟からカフェテラスへと急ぐことにしたのだった
──暑い外から、涼しい室内へ
カフェテラスは冷房が効いていて、さながら極楽だった
「あ、いたいた
おーい!」
成実を見つけて手を振ると、向かいに座っていたらしいかすががガタッと席を立って、私の元へとツカツカ歩いてきた
「夕歌、外は暑かっただろう?
私が案内してやる、こっちだ」
「いやめちゃくちゃ席見えてるよ」
案内も何もって話だよ
幸村君は慣れてしまったようで、私を置いて成実の隣に座っている
かすがに鞄を取られ、席までエスコートされ、座ったタイミングでアイスコーヒーがやって来た
「そんじゃひとまず、お疲れさん」
「お疲れー」
「お疲れ様でござる!」
「ああ、お疲れ」
それぞれのドリンクで乾杯して、ストローでコーヒーを飲む
暑さで火照った体には丁度いい冷たさだ
「初めての大学の試験にしては、まぁ上手くいった方だな」
「だといいね
……ていうか、上手くいかないと教えてくれた綱元先輩が怖い」
「まったくもって同感」
成実と二人でため息をつく
これで単位を落とそうものなら、私は最低でも一ヶ月は、綱元先輩から遠回しに嫌味を言われそうだ
「親泰君は?」
「あいつは次の時間の試験で終わりっつってたぞ
梵と綱元の方は知らん」
「知る気がなかったんでしょ、どうせ」
「そうとも言うな」
「私が言うのもなんだけど、それでいいの?」
「梵にゃ、留守がついてるからなー
俺は割と自由にさせてもらってっから
……っつーか、お前こそ梵の試験の時間割、知らねぇの?」
「知ってるよ?」
「知ってんのかよ!」
だって私は親泰君のことしか聞いてないもん
政宗さんの時間割は知ってるから、成実に聞く必要も無いし
「政宗さんも、今日の分はさっきの時間で終わり
あとは明日の三限の試験で晴れて夏休みだよ」
「ほーん」
「綱元先輩はあとは五限の試験があるから、それで終わり」
「綱元の予定も把握してたんだな……」
「一応ね」
ふーん、と頬杖をついた成実が私を見つめる
それに首を傾げると、「いんや」と成実は首を振った
「思った以上に伊達家の若奥様してて、感心しただけだ」
「どういうこと?」
「綱元の予定まで把握出来てえらいなーって」
「……ちょっと馬鹿にしたでしょ」
「気持ち一ミリくらい」
「だそうですかすがさん」
「ほう……?」
「お前!
お前それはずりーぞ!?」
綺麗に先端が尖った鉛筆を指に挟み、威嚇するかすがに、成実が即座に両手を挙げる
ずるいとはご挨拶な、友達想いの親友で私は嬉しいというのに
「夕歌」
不意に名前を呼ばれた瞬間、頬にちゅっと何かが触れた
慌てて振り向くと、クツクツと喉の奥で笑う政宗さんが立っていて
「~~~ッ!!
政宗さん!!」
「っはは!
sorry,sorry.
そんなに怒るなよ」
「怒ってませんっ!」
「じゃ、照れてんだな」
「もー!!」
「何このバカップル」
「某に聞かないで頂きとうござる」
「頼むから引かないで幸村君!!!」
断じて私が悪いんじゃないんだ!!
悪いのはこの色ボケした美形であって!!
「俺には引かれていいんだ……」
「成実はもう見慣れてるでしょ、あとは仕返し半分ね」
「なんだなんだ?
俺と登勢が羨ましいって?」
「紹介するのは耳鼻科かな、それとも脳神経外科かな?」
「すいません調子乗りました、もうしません」
「そう言い続けて早三年か……
相変わらず学習能力がねぇな、お前」
「余計なお世話だバッキャロー!!」
ムキになった成実が政宗さんに吠えて、ズゴーッとジュースを吸い込む
やれやれ、と場の雰囲気が緩んだところで、「そう言えば」と、かすがが私を見つめた
「今度の花火大会、夕歌はどうするんだ?」
「……へ?
花火……大会」
「花火大会……え?
まさかお前、知らなかったのか……?」
「え?
みんな知ってたの……?」
「どうやったら知らずに生活できるんだ!?」
「えっ!?
分かんない!!
幸村君は知ってたの!?」
「む?
某は兄上と姉上、それから佐助と共に、お館様の屋敷の屋根から見る予定でござる」
「屋根から」
「まぁ、普通の見方はしねぇと思ってたよ、俺は」
「そうだね……うん……
花火大会か……全然知らなかった……」
そもそも、花火大会に行ったことすら……いや、それは流石にあるか、あるけど
それだって、もう五年前くらいのことだし、親戚に引き取られる生活になってからは、一度だって行ったことがないし
「せっかくなら、行ってきたらいいだろう」
「誰と?」
「無論、政宗殿とでは?」
「そら相手は梵しかいねぇだろ、お前」
「あ、そっか、そうだよね……
普通そうだよね……ごめんちょっと混乱した……」
「俺じゃ不満か?」
「滅相も無いです!
ただ、花火大会って、家族としか行ったことがなかったから……
友達とか、好きな人とか、家族じゃない人と行くって感覚がいまいち……」
あー、と成実が気まずそうに目を逸らして、かすがが私の頭を撫でる
すると、お茶を飲んでいた幸村君が難しそうな顔をしていて
「……夕歌殿」
「え、なに?」
「夫婦は……家族なのでは?」
あまりにも正論すぎる問いに、私は本日初めて、白紙の解答を差し出した
そうだけど、そうじゃないじゃん?
そう言いたいのを、我慢して
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