第二十五話 帰郷
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雪の降り積もる、睦月の奥州
炬燵が必需品のこの頃は、兄様の執務のお手伝いとお作法教室以外の時間は、大抵炬燵に入っている
「──失礼いたします、政宗様、夕華様」
「おう、小十郎
お前も炬燵に入りに来たのか?」
「いいえ……」
ちなみに、兄様は健康の一環と称して、炬燵を一部分だけ開けて使う
「炬燵の意味がない!」と抗議したけど、「我慢しろ」と一蹴されてしまった
炬燵は囲炉裏のあるこの部屋にしかないのに……炬燵の中なのに寒いなんて……
「真田より、文が」
「またか?」
小十郎さんの差し出した文を兄様が受け取って開く
「……ほう」
「なんて書いてあったんですか?」
兄様が手紙を見せてくれて、目を通す
「……成実さんが、帰ってくる……?」
「早ければ明後日の昼頃には、帰参となるでしょう」
「良かったな、夕華」
「は……はい……」
上田まで看病しに行ったことすら懐かしい
あれから一ヶ月以上が経つけど……ようやく会えるんだ……
「それにしても……」
「Ah?」
「いえ……微笑ましいものを見せていただきました」
「微笑ましい……?」
今、炬燵の中には私と兄様しかいない
兄様が炬燵を捲っているものだから、暖も取れない腹いせに、今は兄様に引っ付いているけど……
「可愛い妹を甘やかすのは兄の特権だろ」
「……夕華様」
「もう好きなようにさせた方がいいと思って……」
兄様が手ずから剥いてくれた蜜柑を受け取る
「……そうですな
兄妹仲が良いのは、国が平和である証です」
「だろ?」
兄様がニッと笑って蜜柑を口に入れる
「この蜜柑、甘くて美味しいですね」
「炬燵に蜜柑たぁ言い得て妙だな
小十郎、お前も食うか」
「美味しいですよ、小十郎さん」
「……では、一つだけいただきます」
「OK.
そんじゃあ一人一つだな」
小十郎さんの手に、まだ剥いていない蜜柑が三つ乗せられて
「綱元と原田に渡しといてくれ」
「……承知」
口元を綻ばせて、小十郎さんがお部屋を出て行った
「……さて、俺は厨に行くか」
「厨にですか?」
「ああ、そろそろ新しいrecipeをと思ってな」
炬燵から足を抜いて、兄様が立ち上がる
「お前も来るか?」
「いいんですか!?」
「Of course!
味見役と感想がほしいからな」
「私、結構舌は肥えてる方ですよ」
「Ha!
上等だ、お前の舌を唸らせる料理を考えてやる!」
「楽しみにしてますっ!」
差し出された兄様の手を取って、私も炬燵から外に出る
……寒い、寒すぎる
これが奥州の真冬……
* * *
そして二日後
その日は朝から、炬燵の中でうずうずしていた
「夕華、落ち着け」
「落ち着きたいんですけどね……」
落ち着けるわけがない、だって久しぶりの成実さんなんだもん
「予定では、あと一刻ほどでこちらに着くかと」
同じく炬燵の中の綱元さんが苦笑いして教えてくれた
「書簡じゃ、あの真田幸村に五連勝したとか言ってたな」
「ええ、そのように書いてありましたな」
そしてこちらも同じく、炬燵の中の小十郎さん
伊達家の重臣の中の重臣が揃って炬燵の中という、伊達男の粋が微塵も感じられない光景だ
「真田に五連勝か……
にわかには信じがたいが」
「まぁまぁ小十郎さん……」
差出人が幸村さんならきっと本当のことだと思う
そういう嘘はつかないだろうし
「どうする、夕華
あいつがただの筋肉野郎になってたら」
兄様に囁かれ、浮かんだのは
……本願寺顕如
「や、やめて下さい!
変な人でてきた!!
大体、成実さんにそんなこと起きるわけ……」
起きるわけ……
ない、よね……?
「まあ、ねえだろうがな」
「じゃあ言わないでくださいよ!」
「……微笑ましい光景ですね」
「ああ、少し懐かしくもあるな」
「懐かしい……ですか?」
「はい、幼き頃の政宗様を思い出します」
「小十郎さん、その話もっと詳しく──」
「失礼いたします」
炬燵のある部屋に、別の声が響いた
しかも、天井から
……天井!?
「さ、才蔵さん!?」
音もなく降り立った才蔵さん
さすが忍びだ……
「お久しぶりです
間もなく成実殿がこちらに参られます
頭領が忍びの抜け道を使い、早く到着できるようにしたらしいので」
そんなのあるんだ……
私も使いたかったぞ……
「じゃなかった、小十郎さん!」
「おい小十郎……喋ったら承知しねぇぞ」
「No problem!
既に兄様の張るべき見栄は、ないも同然ですから!」
「そりゃどういうことだ!」
「政宗様、いまここにいる者の中で、幼少期をご存じないのは夕華様だけですよ」
「政宗様の幼少期など、この小十郎と綱元がよく知っております」
「隠したってもう遅いです
で、どんな子だったんですか?」
「明るく無邪気でした
今がそうではない、というわけではありませんが、そうですね……
年相応のお可愛らしさでした」
「小十郎様との剣術の稽古の時間が、本当に楽しそうでしたから
強く、賢く、心根は熱く、情にも篤い──とは、当時の小十郎様のお言葉ですが」
「……常々思ってましたけど、小十郎さんって兄様のこと本当に大好きですよね」
「小十郎様だけではないですよ
この綱元も、成実も、原田も……伊達軍の誰もが、政宗様を慕っています
愛すべき我らが奥州筆頭でございますので」
「だそうですよ、愛すべき私の兄様」
「お前まで乗るな!
ったく……」
耳を赤くした兄様が、照れ隠しなのか蜜柑を三粒まとめて口に放り込む
そんな兄様に、私と義兄弟二人は、顔を見合わせて
それから、兄様をニコニコと見つめていた
炬燵が必需品のこの頃は、兄様の執務のお手伝いとお作法教室以外の時間は、大抵炬燵に入っている
「──失礼いたします、政宗様、夕華様」
「おう、小十郎
お前も炬燵に入りに来たのか?」
「いいえ……」
ちなみに、兄様は健康の一環と称して、炬燵を一部分だけ開けて使う
「炬燵の意味がない!」と抗議したけど、「我慢しろ」と一蹴されてしまった
炬燵は囲炉裏のあるこの部屋にしかないのに……炬燵の中なのに寒いなんて……
「真田より、文が」
「またか?」
小十郎さんの差し出した文を兄様が受け取って開く
「……ほう」
「なんて書いてあったんですか?」
兄様が手紙を見せてくれて、目を通す
「……成実さんが、帰ってくる……?」
「早ければ明後日の昼頃には、帰参となるでしょう」
「良かったな、夕華」
「は……はい……」
上田まで看病しに行ったことすら懐かしい
あれから一ヶ月以上が経つけど……ようやく会えるんだ……
「それにしても……」
「Ah?」
「いえ……微笑ましいものを見せていただきました」
「微笑ましい……?」
今、炬燵の中には私と兄様しかいない
兄様が炬燵を捲っているものだから、暖も取れない腹いせに、今は兄様に引っ付いているけど……
「可愛い妹を甘やかすのは兄の特権だろ」
「……夕華様」
「もう好きなようにさせた方がいいと思って……」
兄様が手ずから剥いてくれた蜜柑を受け取る
「……そうですな
兄妹仲が良いのは、国が平和である証です」
「だろ?」
兄様がニッと笑って蜜柑を口に入れる
「この蜜柑、甘くて美味しいですね」
「炬燵に蜜柑たぁ言い得て妙だな
小十郎、お前も食うか」
「美味しいですよ、小十郎さん」
「……では、一つだけいただきます」
「OK.
そんじゃあ一人一つだな」
小十郎さんの手に、まだ剥いていない蜜柑が三つ乗せられて
「綱元と原田に渡しといてくれ」
「……承知」
口元を綻ばせて、小十郎さんがお部屋を出て行った
「……さて、俺は厨に行くか」
「厨にですか?」
「ああ、そろそろ新しいrecipeをと思ってな」
炬燵から足を抜いて、兄様が立ち上がる
「お前も来るか?」
「いいんですか!?」
「Of course!
味見役と感想がほしいからな」
「私、結構舌は肥えてる方ですよ」
「Ha!
上等だ、お前の舌を唸らせる料理を考えてやる!」
「楽しみにしてますっ!」
差し出された兄様の手を取って、私も炬燵から外に出る
……寒い、寒すぎる
これが奥州の真冬……
* * *
そして二日後
その日は朝から、炬燵の中でうずうずしていた
「夕華、落ち着け」
「落ち着きたいんですけどね……」
落ち着けるわけがない、だって久しぶりの成実さんなんだもん
「予定では、あと一刻ほどでこちらに着くかと」
同じく炬燵の中の綱元さんが苦笑いして教えてくれた
「書簡じゃ、あの真田幸村に五連勝したとか言ってたな」
「ええ、そのように書いてありましたな」
そしてこちらも同じく、炬燵の中の小十郎さん
伊達家の重臣の中の重臣が揃って炬燵の中という、伊達男の粋が微塵も感じられない光景だ
「真田に五連勝か……
にわかには信じがたいが」
「まぁまぁ小十郎さん……」
差出人が幸村さんならきっと本当のことだと思う
そういう嘘はつかないだろうし
「どうする、夕華
あいつがただの筋肉野郎になってたら」
兄様に囁かれ、浮かんだのは
……本願寺顕如
「や、やめて下さい!
変な人でてきた!!
大体、成実さんにそんなこと起きるわけ……」
起きるわけ……
ない、よね……?
「まあ、ねえだろうがな」
「じゃあ言わないでくださいよ!」
「……微笑ましい光景ですね」
「ああ、少し懐かしくもあるな」
「懐かしい……ですか?」
「はい、幼き頃の政宗様を思い出します」
「小十郎さん、その話もっと詳しく──」
「失礼いたします」
炬燵のある部屋に、別の声が響いた
しかも、天井から
……天井!?
「さ、才蔵さん!?」
音もなく降り立った才蔵さん
さすが忍びだ……
「お久しぶりです
間もなく成実殿がこちらに参られます
頭領が忍びの抜け道を使い、早く到着できるようにしたらしいので」
そんなのあるんだ……
私も使いたかったぞ……
「じゃなかった、小十郎さん!」
「おい小十郎……喋ったら承知しねぇぞ」
「No problem!
既に兄様の張るべき見栄は、ないも同然ですから!」
「そりゃどういうことだ!」
「政宗様、いまここにいる者の中で、幼少期をご存じないのは夕華様だけですよ」
「政宗様の幼少期など、この小十郎と綱元がよく知っております」
「隠したってもう遅いです
で、どんな子だったんですか?」
「明るく無邪気でした
今がそうではない、というわけではありませんが、そうですね……
年相応のお可愛らしさでした」
「小十郎様との剣術の稽古の時間が、本当に楽しそうでしたから
強く、賢く、心根は熱く、情にも篤い──とは、当時の小十郎様のお言葉ですが」
「……常々思ってましたけど、小十郎さんって兄様のこと本当に大好きですよね」
「小十郎様だけではないですよ
この綱元も、成実も、原田も……伊達軍の誰もが、政宗様を慕っています
愛すべき我らが奥州筆頭でございますので」
「だそうですよ、愛すべき私の兄様」
「お前まで乗るな!
ったく……」
耳を赤くした兄様が、照れ隠しなのか蜜柑を三粒まとめて口に放り込む
そんな兄様に、私と義兄弟二人は、顔を見合わせて
それから、兄様をニコニコと見つめていた
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