第十九話 急襲
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──上田に修行に来て、半月が経とうとしていた
季節は師走の手前、奥州はもう雪に包まれているころだ
幸村とは毎日のように手合わせをして、隙だらけな場所には佐助が横から小石を投げてくるという鬼の修行へと様変わり
お陰でかなり鍛えられたので、文句の一つや二つ言ってやりたいが、ぐっと我慢している
以前のような伸びはないにしろ、毎日の上達は肌で感じられるし、幸村との手合わせも、五回やれば一回は勝てるようになってきた
武田戦で負った傷もすっかり消え、いわゆる完全復活状態
……でも、まだ奥州には帰れない
幸村にせめて二回に一回は勝つようでなければ、水城とまた戦うことになっても前回の二の舞で終わるだろう
とはいえ……まあそんなに上手くは行かないというか……
一ヶ月でそこまで成長しないのが現実なわけだが……
「成ちゃん、先に湯浴み済ませていいよー」
「そか?
悪いないつも、城主よりも先に入っちまって」
「ああ、いいって
旦那はそのあたり気にしないって成ちゃんも分かってるっしょ?」
お言葉に甘えて一番風呂に入らせてもらおう
部屋に槍を置いて、疲労の溜まった重い身体を引きずるように湯殿へ向かう
湯着を着てお湯に身を滑らせると、自然と吐息が漏れた
いい湯だなー、なんて思ったり
「熱くないー?」
遠くから佐助の声がした
「ちょうどいいぞー」
そう返事をしてから浴槽に身を預ける
……どんなに熱かろうが温かろうが、「ちょうどいい」以外の言葉を言えない立場
熱いだの温いだの文句をつければ、それは湯殿役の面子を潰してしまうことになるわけで
……まぁ、今の湯は本当にちょうどいい湯なので、文句もないんだけど
「夕華、元気にしてっかな……」
奥州に帰りたいなぁ……
あ、ヤバい、「ほーむしっく」とか言うやつか、これ?
「……テメェから言い出したんだから、最後までやり遂げやがれ、馬鹿野郎」
自分に向けた独り言
頭を一つ振って、肩までつかる
「剣術もした方がいいのかな……
っつっても、ここ忍びしかいねえから変な癖付きそうだけど……」
剣術は追々考えるか……
今は槍術を強化することだけ考えよう
人が入ってくる気配がして、身を固くする
誰だろう、と確認する前に分かってしまった
「お、おおっ、女子がなぜ男湯におるのだぁぁ!!!」
「ちっげーよ馬鹿幸村ぁぁ!!!
俺っ!!
伊達成実!!!」
うん、やっぱ幸村は馬鹿の子だった
馬鹿だとは思ってたけど、とうとう俺を女と見間違えるとは……
「しっ、成実殿でござったか!
申し訳ござらぬ!
その、髪を下ろされておったので女子に見えてしまい……」
「あー、まあその気持ちはすげえ分かるから
んなしょげんなって
別に俺気にしてねーからさ」
「さ、左様でござるか……」
多分、幸村に犬の耳があればしょぼんと垂れ下がってんだろうなー……
梵が揶揄いたくなる気持ちも分かる、とひとりで納得した
「成実殿、佐助より伝言が
夕餉ができた故、早く参られよと申しておりました!」
「おっ、そっか!
そんじゃあ、もうちょいしたらあがるって言っといて」
「承知いたし申した!」
幸村が出て行ったのを確認して、浴槽から出る
わざわざ伝えに来てくれたのか
申し訳ないことしたな
髪の水気を絞って、手ぬぐいで身体を拭く
「……お、もう傷跡も見えなくなってる」
僥倖、僥倖──と幾分浮足立った気持ちで湯殿を出た
* * *
「……あ、やっちゃったーぁ…」
着替えようとして、部屋に湯上り着を忘れてきたことに気付く
「しゃーねえ、これ着るっきゃねーな」
汗まみれな戦装束の裃を着込んで、ちょっとだけ落ち込んだ気分で湯浴み所を出ようとした時
「──ッ!」
心臓が嫌な脈を打つ
背筋に戦慄が走って──
何かが風を切るような音が聞こえてきた
ほぼ反射的に刀を取って、鞘から抜かずに迫ってくるものを受け止めた
ひときわ高い音でぶつかり、よく見ると
長槍
さらにその槍の先をたどると……
「久しぶりね、お兄様?」
「……!!」
それは、まぎれもなく水城海夜だった
季節は師走の手前、奥州はもう雪に包まれているころだ
幸村とは毎日のように手合わせをして、隙だらけな場所には佐助が横から小石を投げてくるという鬼の修行へと様変わり
お陰でかなり鍛えられたので、文句の一つや二つ言ってやりたいが、ぐっと我慢している
以前のような伸びはないにしろ、毎日の上達は肌で感じられるし、幸村との手合わせも、五回やれば一回は勝てるようになってきた
武田戦で負った傷もすっかり消え、いわゆる完全復活状態
……でも、まだ奥州には帰れない
幸村にせめて二回に一回は勝つようでなければ、水城とまた戦うことになっても前回の二の舞で終わるだろう
とはいえ……まあそんなに上手くは行かないというか……
一ヶ月でそこまで成長しないのが現実なわけだが……
「成ちゃん、先に湯浴み済ませていいよー」
「そか?
悪いないつも、城主よりも先に入っちまって」
「ああ、いいって
旦那はそのあたり気にしないって成ちゃんも分かってるっしょ?」
お言葉に甘えて一番風呂に入らせてもらおう
部屋に槍を置いて、疲労の溜まった重い身体を引きずるように湯殿へ向かう
湯着を着てお湯に身を滑らせると、自然と吐息が漏れた
いい湯だなー、なんて思ったり
「熱くないー?」
遠くから佐助の声がした
「ちょうどいいぞー」
そう返事をしてから浴槽に身を預ける
……どんなに熱かろうが温かろうが、「ちょうどいい」以外の言葉を言えない立場
熱いだの温いだの文句をつければ、それは湯殿役の面子を潰してしまうことになるわけで
……まぁ、今の湯は本当にちょうどいい湯なので、文句もないんだけど
「夕華、元気にしてっかな……」
奥州に帰りたいなぁ……
あ、ヤバい、「ほーむしっく」とか言うやつか、これ?
「……テメェから言い出したんだから、最後までやり遂げやがれ、馬鹿野郎」
自分に向けた独り言
頭を一つ振って、肩までつかる
「剣術もした方がいいのかな……
っつっても、ここ忍びしかいねえから変な癖付きそうだけど……」
剣術は追々考えるか……
今は槍術を強化することだけ考えよう
人が入ってくる気配がして、身を固くする
誰だろう、と確認する前に分かってしまった
「お、おおっ、女子がなぜ男湯におるのだぁぁ!!!」
「ちっげーよ馬鹿幸村ぁぁ!!!
俺っ!!
伊達成実!!!」
うん、やっぱ幸村は馬鹿の子だった
馬鹿だとは思ってたけど、とうとう俺を女と見間違えるとは……
「しっ、成実殿でござったか!
申し訳ござらぬ!
その、髪を下ろされておったので女子に見えてしまい……」
「あー、まあその気持ちはすげえ分かるから
んなしょげんなって
別に俺気にしてねーからさ」
「さ、左様でござるか……」
多分、幸村に犬の耳があればしょぼんと垂れ下がってんだろうなー……
梵が揶揄いたくなる気持ちも分かる、とひとりで納得した
「成実殿、佐助より伝言が
夕餉ができた故、早く参られよと申しておりました!」
「おっ、そっか!
そんじゃあ、もうちょいしたらあがるって言っといて」
「承知いたし申した!」
幸村が出て行ったのを確認して、浴槽から出る
わざわざ伝えに来てくれたのか
申し訳ないことしたな
髪の水気を絞って、手ぬぐいで身体を拭く
「……お、もう傷跡も見えなくなってる」
僥倖、僥倖──と幾分浮足立った気持ちで湯殿を出た
* * *
「……あ、やっちゃったーぁ…」
着替えようとして、部屋に湯上り着を忘れてきたことに気付く
「しゃーねえ、これ着るっきゃねーな」
汗まみれな戦装束の裃を着込んで、ちょっとだけ落ち込んだ気分で湯浴み所を出ようとした時
「──ッ!」
心臓が嫌な脈を打つ
背筋に戦慄が走って──
何かが風を切るような音が聞こえてきた
ほぼ反射的に刀を取って、鞘から抜かずに迫ってくるものを受け止めた
ひときわ高い音でぶつかり、よく見ると
長槍
さらにその槍の先をたどると……
「久しぶりね、お兄様?」
「……!!」
それは、まぎれもなく水城海夜だった
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