第十四話 再戦
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襲撃から一月が経った
季節はすっかり秋の気配を見せている
そんな折、今日も午前中に私を診てくれた侍医の手により、包帯が取られた
「失礼いたします」
侍医の皺が目立ってきた手が、私の傷跡をゆっくりと押していく
「痛みはございますか」
「いいえ、ほとんどないです」
「ようございました、おそらく中の臓まで完治しておりましょう」
「本当ですか?」
「はい、明日からであれば、鍛練も再開して良いでしょう
しかしながら、本格的な鍛錬までは少し日数を置いていただきますよう」
「ありがとうございます」
肌蹴させていた襦袢の襟を元通り戻して、侍医の方が退室していく
良かった……一時はどうなることかと思ったけど
……予め言われていたことだけど、傷跡は残った
まぁ、元から背中に酷い火傷の跡があるから、今更傷跡の一つや二つ……という気持ちではあるんだけど
襦袢の上衣を脱いでほしいと言われても、それだけは出来なかった
背中の傷を見られるのが嫌で……唯一見たことがあるのは、喜多さんだけだ
兄様はおろか、三傑も原田さんも見たことはない……はずだ
大森で手当てを受けた時に、大森の侍医は見たかもしれないけど
……私の意識がはっきりしている時は、誰にも見せたくない
* * *
午前中はあんなに晴れていたのに……と、曇っていく空を見上げてため息をついた
「雨が降らなきゃいいけど……」
そう願ったもののそれもむなしく、ぽつぽつと降り出した雨は、すぐにシトシトと降り出して、奥州は秋雨に包まれた
「……ん」
執務を片付けていた成実さんが浮かない表情を見せ、そっと右の二の腕に手をやった
痛みを和らげるようにそこを揉んで、わずかばかりのため息
「……痛みますか」
「少しな……
もう何年も経ってるけど、雨の日は湿気でちょっと
お前もだろ」
お見通しだったようで成実さんが私に微笑むけど、その笑みもいつもよりは覇気がない
「……背中が、少し」
「相当酷い火傷だったって聞いてる、大丈夫か?」
「大丈夫、です
もう慣れているので……」
子供のころから痛みには慣れている
どうすることもできないので、耐えることしか出来ないのだ
「成実さん、執務の続きをしないと」
「……そうだな」
と、こちらへ歩いてくる足音が聞こえて、二人で部屋の入り口を見つめると
「成実、すまないがこれも頼む」
「分かった」
綱元さんがそう言って新しい書簡を渡してきた
こちらもこちらで、表情は陰りが見える
「皆さん古傷が痛むようで……」
「夕華様も……」
苦笑と共に、綱元さんが私の隣に腰を下ろした
その手が無意識のように太腿を庇っていて、なるほど綱元さんは膝のあたりを怪我したのか、と合点がいく
「それは……いつの?」
「ああ、これは……人取橋での傷です
歩けなくなるかもしれぬと言われましたが、この通り歩行に差支えはありません」
「そいつ、そのとき太腿に種子島一発食らってな
俺が本陣まで背負って戻ったんだ」
「世話になったな」
「ほんとだよ、俺だって右腕抉られてたってのに」
「……成実さんの怪我も、人取橋で?」
「俺は摺上原と人取橋の二回だな、同じとこやられて」
できたぞ、としたためた書状を綱元さんに渡した成実さん
その書簡を手に、綱元さんが部屋を出て行った
「……ま、本音を言えば、あっちこっち痛むんだけど」
「そうですよね……」
誰よりも先陣を切る成実さんは、それだけ攻撃を集中して受けやすい
けれど、成実さんが囮同然になることで、他が攻めやすくなるのは確かだ
「お前には、なるべくこういうことにはなってほしくは無いけどな」
「………」
「心配すんなよ、今更怪我の一つや二つってもんだろ」
「……そういうことを言われると、心配します」
「ごめん」
気まずそうに視線をそらした成実さんが、恨めしそうに部屋の外を睨む
当分、この雨はやみそうにない
「夕華、この束を梵に渡してくれ」
「あ、はい」
「悪いな、小姓の真似事させちまって」
「お役に立てて嬉しいので、気にしてません」
成実さんのお部屋から、兄様のお部屋へと急ぐ
丁度出てきた原田さんとすれ違いざまに挨拶をして、兄様の部屋へ入った
「兄様、成実さんからです」
「Thanks,そこに置いといてくれ」
「はい」
うん、こっちもこっちでいつもの覇気がない
背後に控える小十郎さんは……変わりなさそうだけど
「お身体は如何ですか」
「お腹の方はもちろんなんですけど、背中が……」
「……義姉からそれとなく伺ってはおります
お背中の肌色がうっ血したようであると……」
小十郎さんの手が、私の背中をそっと撫でる
それだけでちょっとは痛みが引いたような気になった
「小十郎、俺の目があるところで夕華に手ぇ出したらただじゃおかねぇぞ」
「兄様……小十郎さんはそういうつもりだったんじゃないです」
「政宗様はまず、目の前のご政務を片付けてしまわれよ」
「チッ……」
舌打ちをした兄様に二人で困ったような笑みを浮かべる
出来上がった書簡は、小十郎さんが受け取って
「夕華、こいつを成実に渡してくれ
そしたらあいつのworkは終わりだ」
「はい」
暗に「あとは自由にやっていい」という意味を受け取って、兄様から書簡を受け取った私は、来た道を戻って成実さんの部屋へ戻る
……背中の傷が、また痛みを取り戻した
季節はすっかり秋の気配を見せている
そんな折、今日も午前中に私を診てくれた侍医の手により、包帯が取られた
「失礼いたします」
侍医の皺が目立ってきた手が、私の傷跡をゆっくりと押していく
「痛みはございますか」
「いいえ、ほとんどないです」
「ようございました、おそらく中の臓まで完治しておりましょう」
「本当ですか?」
「はい、明日からであれば、鍛練も再開して良いでしょう
しかしながら、本格的な鍛錬までは少し日数を置いていただきますよう」
「ありがとうございます」
肌蹴させていた襦袢の襟を元通り戻して、侍医の方が退室していく
良かった……一時はどうなることかと思ったけど
……予め言われていたことだけど、傷跡は残った
まぁ、元から背中に酷い火傷の跡があるから、今更傷跡の一つや二つ……という気持ちではあるんだけど
襦袢の上衣を脱いでほしいと言われても、それだけは出来なかった
背中の傷を見られるのが嫌で……唯一見たことがあるのは、喜多さんだけだ
兄様はおろか、三傑も原田さんも見たことはない……はずだ
大森で手当てを受けた時に、大森の侍医は見たかもしれないけど
……私の意識がはっきりしている時は、誰にも見せたくない
* * *
午前中はあんなに晴れていたのに……と、曇っていく空を見上げてため息をついた
「雨が降らなきゃいいけど……」
そう願ったもののそれもむなしく、ぽつぽつと降り出した雨は、すぐにシトシトと降り出して、奥州は秋雨に包まれた
「……ん」
執務を片付けていた成実さんが浮かない表情を見せ、そっと右の二の腕に手をやった
痛みを和らげるようにそこを揉んで、わずかばかりのため息
「……痛みますか」
「少しな……
もう何年も経ってるけど、雨の日は湿気でちょっと
お前もだろ」
お見通しだったようで成実さんが私に微笑むけど、その笑みもいつもよりは覇気がない
「……背中が、少し」
「相当酷い火傷だったって聞いてる、大丈夫か?」
「大丈夫、です
もう慣れているので……」
子供のころから痛みには慣れている
どうすることもできないので、耐えることしか出来ないのだ
「成実さん、執務の続きをしないと」
「……そうだな」
と、こちらへ歩いてくる足音が聞こえて、二人で部屋の入り口を見つめると
「成実、すまないがこれも頼む」
「分かった」
綱元さんがそう言って新しい書簡を渡してきた
こちらもこちらで、表情は陰りが見える
「皆さん古傷が痛むようで……」
「夕華様も……」
苦笑と共に、綱元さんが私の隣に腰を下ろした
その手が無意識のように太腿を庇っていて、なるほど綱元さんは膝のあたりを怪我したのか、と合点がいく
「それは……いつの?」
「ああ、これは……人取橋での傷です
歩けなくなるかもしれぬと言われましたが、この通り歩行に差支えはありません」
「そいつ、そのとき太腿に種子島一発食らってな
俺が本陣まで背負って戻ったんだ」
「世話になったな」
「ほんとだよ、俺だって右腕抉られてたってのに」
「……成実さんの怪我も、人取橋で?」
「俺は摺上原と人取橋の二回だな、同じとこやられて」
できたぞ、としたためた書状を綱元さんに渡した成実さん
その書簡を手に、綱元さんが部屋を出て行った
「……ま、本音を言えば、あっちこっち痛むんだけど」
「そうですよね……」
誰よりも先陣を切る成実さんは、それだけ攻撃を集中して受けやすい
けれど、成実さんが囮同然になることで、他が攻めやすくなるのは確かだ
「お前には、なるべくこういうことにはなってほしくは無いけどな」
「………」
「心配すんなよ、今更怪我の一つや二つってもんだろ」
「……そういうことを言われると、心配します」
「ごめん」
気まずそうに視線をそらした成実さんが、恨めしそうに部屋の外を睨む
当分、この雨はやみそうにない
「夕華、この束を梵に渡してくれ」
「あ、はい」
「悪いな、小姓の真似事させちまって」
「お役に立てて嬉しいので、気にしてません」
成実さんのお部屋から、兄様のお部屋へと急ぐ
丁度出てきた原田さんとすれ違いざまに挨拶をして、兄様の部屋へ入った
「兄様、成実さんからです」
「Thanks,そこに置いといてくれ」
「はい」
うん、こっちもこっちでいつもの覇気がない
背後に控える小十郎さんは……変わりなさそうだけど
「お身体は如何ですか」
「お腹の方はもちろんなんですけど、背中が……」
「……義姉からそれとなく伺ってはおります
お背中の肌色がうっ血したようであると……」
小十郎さんの手が、私の背中をそっと撫でる
それだけでちょっとは痛みが引いたような気になった
「小十郎、俺の目があるところで夕華に手ぇ出したらただじゃおかねぇぞ」
「兄様……小十郎さんはそういうつもりだったんじゃないです」
「政宗様はまず、目の前のご政務を片付けてしまわれよ」
「チッ……」
舌打ちをした兄様に二人で困ったような笑みを浮かべる
出来上がった書簡は、小十郎さんが受け取って
「夕華、こいつを成実に渡してくれ
そしたらあいつのworkは終わりだ」
「はい」
暗に「あとは自由にやっていい」という意味を受け取って、兄様から書簡を受け取った私は、来た道を戻って成実さんの部屋へ戻る
……背中の傷が、また痛みを取り戻した
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