閑話5
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天気は快晴、絶好の旅日和。
目的地へと向かう道中は、いつもの如く賑やかだ。
エイトが会話に笑って頷いたとき、エイトの袋から何かが落ちた。
「エイト、なんか落ちたよ」
「えっ。……あ、月の雫。ありがとう」
「袋に穴でも空いてるんじゃねぇですかい?」
ヤンガスに指摘されて、エイトが袋の底を触る。
持ち上げたエイトの袋の底には、そこそこな大きさの穴が空いていた。
そりゃあ道具が落ちるわけだ。
「気付かなかった、いつの間に」
「気付いたのが今でよかったわね。端切れなら馬車の袋にたくさん入ってるし、後で繕っておいたら?」
「うん」
そんな会話を聞きながら、私は馬車の荷台に積んである袋から、エイトの袋と同じ色の端切れを探した。
お目当ての端切れを探し当てて、陛下に道脇に馬車を停めてもらうように声を掛ける。
荷台に座った私は、不思議そうにこちらを見るエイトを手招きした。
「ここで直したげる。袋貸して」
「え……お前、出来るのか、裁縫……?」
「失礼な奴だなククールは〜!? もちろんできるよ、元小間使いだもん」
ククールが何か言いたげな目をした。
本当に君たちは私をなんだと思ってるんだ?
こちとら小間使い歴七年の近衛兵だぞ!?
料理洗濯裁縫、部屋の掃除から魔物のお掃除まで出来るんだからな!!
ちょっと上手いこと言えたな。
エイトの袋の中にある道具を一旦全部出して、袋を裏返す。
そうして穴が空いたところに端切れを当てて、似たような色の糸でサクサクと縫い付けた。
「意外だな。てっきり手先が不器用なんだと思ってたぜ」
「不器用はどっちかって言うとエイトのほうだよ。しょっちゅう針で指を刺すから、怖くて見てらんないもん」
「あ、あはは……」
エイトが目を逸らして乾いた笑いを浮かべる。
スイスイと針を進める私の手元を覗き込んでいたゼシカが、ふとなにかに気付いて「あら?」と声を上げた。
「このエイトの名前の刺繍は?」
「あーそれね、私が癖で付けちゃったんだよね。ほら私たちって城勤めの近衛兵じゃん? だから隊服とか普段使いする衣服とかは、誰のだよって意味で刺繍を入れることが多くてさ。で、エイトは手先が不器用だから、刺繍なんて無理じゃん。だから小間使い時代から、エイトの分も一緒に刺繍してあげてたんだけど」
「幼馴染みっつーより母親だな、もう」
「誰がお母さんだよ、誰が! そんなキャラじゃないだろ私!」
「それはまぁそうなのよね。どっちかって言うと末っ子だもの」
「えっ私ゼシカより年上なのに?」
「……」
「なんで目ェ逸らすの!?」
ひどくない?
皆して私のことお子様みたいに言ってさぁ!?
これでもれっきとした成人済みの十八歳なのに!!
「はは……。この袋の刺繍は旅に出る前、トロデーン城を発つ準備をしていた時に、レイラがしてくれたんだ。普通は名前と苗字のイニシャルを刺繍するんだろうけど、僕らは苗字が分からないから、イニシャルだけで」
「イニシャルだけなの私とエイトしかいないから、逆に分かりやすいもんね。……ほい、できた」
「ありがとう、いつも助かるよ」
エイトが嬉しそうに微笑んで、袋を肩から提げる。
そうして中身を袋に戻して、エイトは先頭へと戻っていった。
私も馬車の荷台から飛び降りて、エイトの隣へ。
そうして目的地までの道をのんびりと歩いていった。
* * *
竜神王にこてんぱんにされた日の夜。
台所の隣の部屋で自分の服を繕っていると、就寝の準備を終えたゼシカが現れた。
顔を上げると、僕の手元を見て「あっ」と小さく悲鳴が。
「針で指を刺さないでね?」
「……しないよ、そんなこと」
小さく微笑んで視線を手元に戻す。
小さく破れた縫い目を繕う手つきが手慣れていることに気付いたのか、ゼシカは不思議そうに覗き込んできた。
「……不器用だってレイラが言ってたけど、すごく上手じゃない」
「そんなことも言ってたっけ、レイラ。懐かしいな……。あれは不器用なふりをしているだけだったんだけど」
「えっ?」
「本当は名前の刺繍だって自分でできる。でもあの子にお願いしていただけ」
「どうして?」
「レイラが僕のために何かしてくれるのが、嬉しくて」
糸を切って、縫い目を確認する。
うん、うまく出来ている。
これくらいなら、僕にとっても朝飯前だ。
それならどうしてレイラにお願いしていたのか?
それは──。
「その時間だけは、レイラと一緒にいられたから」
「……? でも二人は、トロデーン城で一緒に働いていたのよね?」
「それはそうなんだけど……。うーん、なんて言ったらいいかな。小間使い時代は同じ場所で働けたけど、近衛兵になると、一日の中で顔を合わせる時間も少なくて」
エイトは女性ということもあって、姫様の部屋の近くで警備につくことが多かった。
僕は玉座の間だったり、外のバルコニーだったり、様々だ。
必然的に顔を合わせる機会は減るし、非番だって重ならないことの方がほとんど。
だけどレイラに裁縫を頼む時だけは……その短い時間だけは、一緒にいられるから。
だから僕は裁縫が下手だと嘘をつき続けた。
そうすればレイラが「仕方ないなぁ」と満更でもなさそうに笑ってくれるから。
「必死だったんだよ、僕も。レイラの隣を死守するのに」
「なんて言うか、あなたって……。本当にレイラのこと好きなのね」
「……ははっ。そりゃあ、出会った時からずっと片想いしてきたんだ。それも相手は、あの鈍感なレイラだろ? 本当に変な虫が付かないように頑張ってきたんだから」
針をピンクッションに刺して立ち上がる。
それから、ゼシカに向かってウインクをしてお願いしておくことにした。
「今の話、レイラには内緒にしておいて。レイラが戻ってきたら、またあの子にお願いするつもりだから」
「……エイトって意外と強かなのね」
「どうかな。でも刺繍を口実にしないと、レイラとの時間が取れなくなるから」
「今、エイトは女性陣に人気があったんだろうなって思ったわ、私」
「え?」
呆れたようにため息をついて、ゼシカは二階へと去っていった。
僕が女性から人気?
……まさか、そんなはずない。
出自不明の孤児で下級兵──そんな僕が、誰の人気を得るっていうんだろう。
ゼシカも不思議なことを言うものだ。
目的地へと向かう道中は、いつもの如く賑やかだ。
エイトが会話に笑って頷いたとき、エイトの袋から何かが落ちた。
「エイト、なんか落ちたよ」
「えっ。……あ、月の雫。ありがとう」
「袋に穴でも空いてるんじゃねぇですかい?」
ヤンガスに指摘されて、エイトが袋の底を触る。
持ち上げたエイトの袋の底には、そこそこな大きさの穴が空いていた。
そりゃあ道具が落ちるわけだ。
「気付かなかった、いつの間に」
「気付いたのが今でよかったわね。端切れなら馬車の袋にたくさん入ってるし、後で繕っておいたら?」
「うん」
そんな会話を聞きながら、私は馬車の荷台に積んである袋から、エイトの袋と同じ色の端切れを探した。
お目当ての端切れを探し当てて、陛下に道脇に馬車を停めてもらうように声を掛ける。
荷台に座った私は、不思議そうにこちらを見るエイトを手招きした。
「ここで直したげる。袋貸して」
「え……お前、出来るのか、裁縫……?」
「失礼な奴だなククールは〜!? もちろんできるよ、元小間使いだもん」
ククールが何か言いたげな目をした。
本当に君たちは私をなんだと思ってるんだ?
こちとら小間使い歴七年の近衛兵だぞ!?
料理洗濯裁縫、部屋の掃除から魔物のお掃除まで出来るんだからな!!
ちょっと上手いこと言えたな。
エイトの袋の中にある道具を一旦全部出して、袋を裏返す。
そうして穴が空いたところに端切れを当てて、似たような色の糸でサクサクと縫い付けた。
「意外だな。てっきり手先が不器用なんだと思ってたぜ」
「不器用はどっちかって言うとエイトのほうだよ。しょっちゅう針で指を刺すから、怖くて見てらんないもん」
「あ、あはは……」
エイトが目を逸らして乾いた笑いを浮かべる。
スイスイと針を進める私の手元を覗き込んでいたゼシカが、ふとなにかに気付いて「あら?」と声を上げた。
「このエイトの名前の刺繍は?」
「あーそれね、私が癖で付けちゃったんだよね。ほら私たちって城勤めの近衛兵じゃん? だから隊服とか普段使いする衣服とかは、誰のだよって意味で刺繍を入れることが多くてさ。で、エイトは手先が不器用だから、刺繍なんて無理じゃん。だから小間使い時代から、エイトの分も一緒に刺繍してあげてたんだけど」
「幼馴染みっつーより母親だな、もう」
「誰がお母さんだよ、誰が! そんなキャラじゃないだろ私!」
「それはまぁそうなのよね。どっちかって言うと末っ子だもの」
「えっ私ゼシカより年上なのに?」
「……」
「なんで目ェ逸らすの!?」
ひどくない?
皆して私のことお子様みたいに言ってさぁ!?
これでもれっきとした成人済みの十八歳なのに!!
「はは……。この袋の刺繍は旅に出る前、トロデーン城を発つ準備をしていた時に、レイラがしてくれたんだ。普通は名前と苗字のイニシャルを刺繍するんだろうけど、僕らは苗字が分からないから、イニシャルだけで」
「イニシャルだけなの私とエイトしかいないから、逆に分かりやすいもんね。……ほい、できた」
「ありがとう、いつも助かるよ」
エイトが嬉しそうに微笑んで、袋を肩から提げる。
そうして中身を袋に戻して、エイトは先頭へと戻っていった。
私も馬車の荷台から飛び降りて、エイトの隣へ。
そうして目的地までの道をのんびりと歩いていった。
* * *
竜神王にこてんぱんにされた日の夜。
台所の隣の部屋で自分の服を繕っていると、就寝の準備を終えたゼシカが現れた。
顔を上げると、僕の手元を見て「あっ」と小さく悲鳴が。
「針で指を刺さないでね?」
「……しないよ、そんなこと」
小さく微笑んで視線を手元に戻す。
小さく破れた縫い目を繕う手つきが手慣れていることに気付いたのか、ゼシカは不思議そうに覗き込んできた。
「……不器用だってレイラが言ってたけど、すごく上手じゃない」
「そんなことも言ってたっけ、レイラ。懐かしいな……。あれは不器用なふりをしているだけだったんだけど」
「えっ?」
「本当は名前の刺繍だって自分でできる。でもあの子にお願いしていただけ」
「どうして?」
「レイラが僕のために何かしてくれるのが、嬉しくて」
糸を切って、縫い目を確認する。
うん、うまく出来ている。
これくらいなら、僕にとっても朝飯前だ。
それならどうしてレイラにお願いしていたのか?
それは──。
「その時間だけは、レイラと一緒にいられたから」
「……? でも二人は、トロデーン城で一緒に働いていたのよね?」
「それはそうなんだけど……。うーん、なんて言ったらいいかな。小間使い時代は同じ場所で働けたけど、近衛兵になると、一日の中で顔を合わせる時間も少なくて」
エイトは女性ということもあって、姫様の部屋の近くで警備につくことが多かった。
僕は玉座の間だったり、外のバルコニーだったり、様々だ。
必然的に顔を合わせる機会は減るし、非番だって重ならないことの方がほとんど。
だけどレイラに裁縫を頼む時だけは……その短い時間だけは、一緒にいられるから。
だから僕は裁縫が下手だと嘘をつき続けた。
そうすればレイラが「仕方ないなぁ」と満更でもなさそうに笑ってくれるから。
「必死だったんだよ、僕も。レイラの隣を死守するのに」
「なんて言うか、あなたって……。本当にレイラのこと好きなのね」
「……ははっ。そりゃあ、出会った時からずっと片想いしてきたんだ。それも相手は、あの鈍感なレイラだろ? 本当に変な虫が付かないように頑張ってきたんだから」
針をピンクッションに刺して立ち上がる。
それから、ゼシカに向かってウインクをしてお願いしておくことにした。
「今の話、レイラには内緒にしておいて。レイラが戻ってきたら、またあの子にお願いするつもりだから」
「……エイトって意外と強かなのね」
「どうかな。でも刺繍を口実にしないと、レイラとの時間が取れなくなるから」
「今、エイトは女性陣に人気があったんだろうなって思ったわ、私」
「え?」
呆れたようにため息をついて、ゼシカは二階へと去っていった。
僕が女性から人気?
……まさか、そんなはずない。
出自不明の孤児で下級兵──そんな僕が、誰の人気を得るっていうんだろう。
ゼシカも不思議なことを言うものだ。
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