後日譚1
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それは私とエイトの、なんちゃって新婚旅行から二ヶ月が経った頃のこと──。
この日、我らがトロデ王陛下は、外遊のためにお出かけになった。
護衛はもちろん、我らが近衛隊長エイトと、副隊長の私──だったはずなんだけど。
遡ること一か月前、事件は起きた。
「──え!? 花の祭典に姫様が!?」
「……そう、今年は自分が主催になるんだって、張り切っちゃって」
近衛隊の詰所で、定例会議から戻ってきた近衛隊長様は、そう言ってため息をついた。
花の祭典とは、トロデーン王国の重要な行事のひとつ。
うら若き未婚の乙女が、育てた花を教会へ納めるのがメインなんだけど、この日は王宮も一般開放される。
トロデーンお抱えの庭師たちが心血注いで作り上げた綺麗な庭園を、各国から色んな人が見にやってくる日でもあるのだ。
「うーん……。となると、編成を見直すしかないよね。陛下の護衛に私とエイトが行くのは、まずいかも……」
「うん、僕もそれは考えてた。近衛隊が頼りないってわけじゃないけど……」
隊長も副隊長も城を離れるのは、さすがにまずい。
何か起きた時に対処が遅れたら元も子もないのだ。
「……よし、じゃあ私が残るよ」
「えっ、いいの? 今回の行先、アスカンタなのに……」
「そりゃもちろん、パヴァン王にお会いしたかったよ! でもそのせいで姫様の警護に手が回らなくなるのは、本末転倒だもん。まあ任せなって! 伊達にエイトの補佐してないんだからさ」
「……そうだね。それじゃあ、レイラはミーティア姫の警護に回って。編成も僕が組み直していいかな? 残してほしい人はいる?」
「ううん、大丈夫。こっちには近衛兵だけじゃなくて、一般の兵もいるからね。陛下の警護に抜かりがないようにして」
「うん、分かった」
名簿を見ながら班分けしていくエイトを見つめる。
……思ったけど、エイトと離れて任務にあたるの、初めてじゃない?
基本的に、私とエイトは一緒に組むことが多い。
陛下の留守中は姫様も表には出てこられないから、私とエイトは安心して陛下の警護に回っていたのだ。
「僕の目がないからって、無茶はしないでね」
「あはは、まあ……何も起きなかったら、無茶することもないと思うけど」
「約束して。絶対に無茶はしないって」
エイトの真剣な瞳が私を見つめる。
けれど私はそれに微笑んで、やんわりと首を振った。
「エイト、私達は近衛兵だよ」
そう答える私の声音は厳しい。
分かっている、エイトは本気で私を心配してくれているって。
私もエイトのお嫁さんとして、エイトに心配はかけたくない。
……でも、私達の仕事は、王族の警護。
「陛下や姫様をお守りするためなら、自分の体だって盾にしなきゃいけない。……分かってるよね?」
ぐっと言葉に詰まって、エイトが俯く。
分かっているから、怖いんだろう。
私を喪うことを一度でも経験したのだから、尚更に。
「エイト」
「……分かってるよ。僕らの仕事は、命懸けだ。だけど……だけど、心配くらいはさせてほしい。僕の大事なお嫁さんなんだ」
エイトが私の左手をとって、薬指に唇をつける。
結婚指輪も兼ねたスーパーリングは、内側に私とエイトの名前が彫られている。
「なるべく危険なことはしないって約束する。絶対じゃなくて申し訳ないけど」
「……うん、約束だよ」
優しい眼差しで微笑んで、エイトは私の手を離した。
あーあ、なんて素晴らしい旦那様を持ってしまったことやら。
世界中探しても、エイトよりいい人は現れないよなぁ。
そりゃあちょっと背は低いかもしれないけど、でも腕っぷしは旅に出る前に比べたらかなり強くなったし、体格も良くなったし。
近衛隊長っていう肩書きがもう格好いい。
……私の旦那様、世界一格好いいのでは?
「なに、そんなに見つめてどうしたの」
「エイトは世界一格好いい男の人だなって噛み締めてたとこ」
「レイラも負けてないよ。世界一可愛い女の子だ」
編成案にサラサラと近衛兵の名前を書き連ねながら、エイトが微笑む。
この……この!
こういうところだよ、ほんとにさぁ!!
サラッと言えちゃうところが……もうさあ!!
「レイラ、確認してもらえる?」
「あひゃい……」
「変な声」
「キュンキュンしすぎて胸が痛いです……」
エイトから編成案を受け取って、名前を確認していく。
うん、問題はなさそうだ。
「オッケーだと思う」
「よかった。じゃあ、これはあとでトロデ王に提出しておくよ」
「はーい」
立ち上がったエイトが詰所を出ようとして、それからくるりと私を振り返った。
小首を傾げると、エイトが私のほうへと歩み寄ってきて。
それからぎゅうっと私を抱き締めた。
「エイト?」
「レイラが足りてないから補充中」
ぎゅううう、と抱き締め続けるエイトが満足そうに頷いて、ようやく私を離す。
そうして今度こそ、エイトは詰所を出ていった。
残された私は顔が熱くて、両手で頬を押さえたまま、へなへなと力なくしゃがみ込むことしかできなかった。
本当にもう……エイトのバカ!
この日、我らがトロデ王陛下は、外遊のためにお出かけになった。
護衛はもちろん、我らが近衛隊長エイトと、副隊長の私──だったはずなんだけど。
遡ること一か月前、事件は起きた。
「──え!? 花の祭典に姫様が!?」
「……そう、今年は自分が主催になるんだって、張り切っちゃって」
近衛隊の詰所で、定例会議から戻ってきた近衛隊長様は、そう言ってため息をついた。
花の祭典とは、トロデーン王国の重要な行事のひとつ。
うら若き未婚の乙女が、育てた花を教会へ納めるのがメインなんだけど、この日は王宮も一般開放される。
トロデーンお抱えの庭師たちが心血注いで作り上げた綺麗な庭園を、各国から色んな人が見にやってくる日でもあるのだ。
「うーん……。となると、編成を見直すしかないよね。陛下の護衛に私とエイトが行くのは、まずいかも……」
「うん、僕もそれは考えてた。近衛隊が頼りないってわけじゃないけど……」
隊長も副隊長も城を離れるのは、さすがにまずい。
何か起きた時に対処が遅れたら元も子もないのだ。
「……よし、じゃあ私が残るよ」
「えっ、いいの? 今回の行先、アスカンタなのに……」
「そりゃもちろん、パヴァン王にお会いしたかったよ! でもそのせいで姫様の警護に手が回らなくなるのは、本末転倒だもん。まあ任せなって! 伊達にエイトの補佐してないんだからさ」
「……そうだね。それじゃあ、レイラはミーティア姫の警護に回って。編成も僕が組み直していいかな? 残してほしい人はいる?」
「ううん、大丈夫。こっちには近衛兵だけじゃなくて、一般の兵もいるからね。陛下の警護に抜かりがないようにして」
「うん、分かった」
名簿を見ながら班分けしていくエイトを見つめる。
……思ったけど、エイトと離れて任務にあたるの、初めてじゃない?
基本的に、私とエイトは一緒に組むことが多い。
陛下の留守中は姫様も表には出てこられないから、私とエイトは安心して陛下の警護に回っていたのだ。
「僕の目がないからって、無茶はしないでね」
「あはは、まあ……何も起きなかったら、無茶することもないと思うけど」
「約束して。絶対に無茶はしないって」
エイトの真剣な瞳が私を見つめる。
けれど私はそれに微笑んで、やんわりと首を振った。
「エイト、私達は近衛兵だよ」
そう答える私の声音は厳しい。
分かっている、エイトは本気で私を心配してくれているって。
私もエイトのお嫁さんとして、エイトに心配はかけたくない。
……でも、私達の仕事は、王族の警護。
「陛下や姫様をお守りするためなら、自分の体だって盾にしなきゃいけない。……分かってるよね?」
ぐっと言葉に詰まって、エイトが俯く。
分かっているから、怖いんだろう。
私を喪うことを一度でも経験したのだから、尚更に。
「エイト」
「……分かってるよ。僕らの仕事は、命懸けだ。だけど……だけど、心配くらいはさせてほしい。僕の大事なお嫁さんなんだ」
エイトが私の左手をとって、薬指に唇をつける。
結婚指輪も兼ねたスーパーリングは、内側に私とエイトの名前が彫られている。
「なるべく危険なことはしないって約束する。絶対じゃなくて申し訳ないけど」
「……うん、約束だよ」
優しい眼差しで微笑んで、エイトは私の手を離した。
あーあ、なんて素晴らしい旦那様を持ってしまったことやら。
世界中探しても、エイトよりいい人は現れないよなぁ。
そりゃあちょっと背は低いかもしれないけど、でも腕っぷしは旅に出る前に比べたらかなり強くなったし、体格も良くなったし。
近衛隊長っていう肩書きがもう格好いい。
……私の旦那様、世界一格好いいのでは?
「なに、そんなに見つめてどうしたの」
「エイトは世界一格好いい男の人だなって噛み締めてたとこ」
「レイラも負けてないよ。世界一可愛い女の子だ」
編成案にサラサラと近衛兵の名前を書き連ねながら、エイトが微笑む。
この……この!
こういうところだよ、ほんとにさぁ!!
サラッと言えちゃうところが……もうさあ!!
「レイラ、確認してもらえる?」
「あひゃい……」
「変な声」
「キュンキュンしすぎて胸が痛いです……」
エイトから編成案を受け取って、名前を確認していく。
うん、問題はなさそうだ。
「オッケーだと思う」
「よかった。じゃあ、これはあとでトロデ王に提出しておくよ」
「はーい」
立ち上がったエイトが詰所を出ようとして、それからくるりと私を振り返った。
小首を傾げると、エイトが私のほうへと歩み寄ってきて。
それからぎゅうっと私を抱き締めた。
「エイト?」
「レイラが足りてないから補充中」
ぎゅううう、と抱き締め続けるエイトが満足そうに頷いて、ようやく私を離す。
そうして今度こそ、エイトは詰所を出ていった。
残された私は顔が熱くて、両手で頬を押さえたまま、へなへなと力なくしゃがみ込むことしかできなかった。
本当にもう……エイトのバカ!
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