終章
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ポカポカとした陽気。
それにつられて、いつの間にか詰所でウトウトとしていたとき、ドアが開く音で目が覚めた。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「ふぁ……ううん。エイト、お疲れ様」
定例会議から戻ったエイトが、疲れを滲ませながら頷く。
我らが近衛隊長様は、今日もご多忙のようだ。
無理もない、エイトが隊長になってから日も浅いし。
城で働く人たちはみんな小さい頃からの顔見知りだけど、顔見知りであるが故に「あれも頼む」「これも宜しく」ってな具合になりがちなのだ。
最近は断れるようになってきたけど、就任当初はなかなか断りきれずに、それで余計に忙しさに自分で拍車をかけちゃったこともあったっけ。
「で、今日は大臣たちから、どんな無茶ぶりを要求されたの?」
「それが珍しく何もなかったんだ」
「えっほんとに? うわー、裏がありそうでなんか怖いな」
「でもほら、近衛隊っていうのは、王族の身を守るのが役目だろ?」
「そりゃそうだよ! 土木工事なんてする隊じゃないもん」
ミーティア姫とチャゴスの結婚式……だったはずが、私とエイトの結婚式にすり替わったあの日から一ヶ月。
呪いのせいであちこち壊れていたお城の、細かい修繕作業も無事に終わり、トロデーン城は見違えたように美しくなった。
滅びる前よりも美しく、が合言葉だったそうだけど、それにしたって綺麗になりすぎだ。
床の大理石なんか新品になっちゃったもんね。
もちろん、修繕作業は復活した翌日から始まったし、大工を呼ばなきゃできないことの方がほとんどだったんだけど。
でもそれも姫様の結婚式の前には全部終わって、あとは室内の壁の補修とか、家具の修理とか、そんな感じだったから、ちょっとずつ後回しにされてしまったのだ。
そこで一念発起した陛下からの、「修理を終わらせるぞ!」の大号令。
そしてその手伝いに駆り出されたのが、一般兵と我ら近衛兵だった。
私とエイトは最初、共同で現場の指揮に当たっていたんだけど……。
結局、最後は一緒になって働いていた。
というか、そうしないと予定通りに終わらなかった。
「まあ、本来の職を放り出してまで、お城の修繕を手伝ったわけだしね。陛下もぶつぶつ言ってたじゃん。さすがにそんなことがあった手前、無茶ぶり言うと自分の首が飛ぶって分かってたんじゃない?」
「かもね。僕としては、レイラにまで土木工事させたあのハゲを、どうにかしてやりたいけど」
「穏便にいこうね、エイト。気持ちはありがたく受け取るから」
どれほど経とうと、私が絡むと穏便の「お」の字もなくなる旦那様である。
穏便に行こうねと言ったものの、エイトは頷かなかったので、これから先も穏便に済ませるつもりがないようだ。
はぁ、と大きなため息をついて、エイトが机に寄りかかる。
そのエイトの左手には、結婚指輪のスーパーリング。
器用にも内側に刻印まで入れてるんだから、大したものだ。
ついつい指輪を触ってしまうと、左手が動いてどこかへ行ってしまった。
あ、と視線で追いかけた先には、不思議そうな顔のエイト。
「どうしたの?」
「えっ? あ、ううん」
慌ててエイトから視線を逸らすと、ふっと小さく笑ったエイトの手が、私の左手を捕まえた。
「ここにも同じものがある」
「……うん」
私の手にもスーパーリングが嵌められていて、同じように内側に刻印が施してある。
この用意をしていたのは、旅を終えてすぐの一ヶ月間の休暇の間であったらしい。
姫様の結婚式が終わったら自分たちの結婚式をやる予定だった、とネタバラシをされた時は、私の顔が青くなったものだ。
でもサヴェッラ大聖堂で結婚式ができたし、結果オーライじゃんね。
そういう話じゃない? そんなぁ。
「ねえ、今日の晩ご飯、何食べたい?」
「レイラが作るものなら、何でもいいかな」
「もー、それが一番困るって言ったのにー」
「レイラが作る料理はどれも美味しいから、決められないんだよね」
結婚して何か変わるかなと思ったけど、世間は何も変わらずにいた。
私たちも、旅に出る前の仕事に戻っただけだ。
……というか昇進したせいで、逆に忙しくなった。
そのおかげで、結婚したってのにハネムーンにも行けてない。
どこかに行きたいなぁとも思わないせいかなぁ……。
「隊長、副隊長、トロデ王がお呼びです」
部下の近衛兵が詰所に入ってきて、入口で私たちに声をかけてくる。
陛下から呼び出しとは珍しい。
ひょっとして先月の結婚式乱入事件のことかな。
それとも他に何かやらかしたっけ……。
「トロデ王が? ありがとう、すぐ行く」
なんだろう、新しい任務とか?
でも直近では外遊の予定なんて入ってないはずだけど。
疑問符を並べながら、二人でトロデ王のいらっしゃる玉座の間へと急ぐ。
行く途中にある食堂で、ついでに水をもらって喉を潤してから、玉座の間へと入った。
玉座の間には陛下と姫様がいらっしゃって、ちょうど謁見の合間の休憩中だったようだ。
「エイト、レイラ! 休憩中だったのにごめんなさいね」
「おお、お前たち。やっと来たか」
「遅くなりました! すみません!」
「お呼びですか、トロデ王?」
「うむ。時にお前たち、結婚式を挙げてから一度も休んどらんじゃろう」
そうだっけ。
いきなり言われてちょっと驚いたけど、言われてみればそうかもしれない。
週に一日くらいは休んでた気がするけどな。
でもそれは最低限必要な休みであって、まとまったお休みというのは確かに取っていないかもな。
「一週間丸々休みを取るがよい」
「いいんですか?」
「わしからの慰安の気持ちじゃ。新婚旅行もしとらんじゃろうが」
「うっ……」
エイトが言葉に詰まる。
私は別に、しなくてもいいとは思ったけど……。
どうやらエイトは新婚旅行のことを気にしていたらしい。
「今日はもう帰ってよい。以上じゃ」
「え? あ、はい……。それじゃあお言葉に甘えて」
「ほ……本当に私たちが揃って帰って大丈夫ですか……?」
「良いと言ったら良いのじゃ! さっさと帰って、新婚旅行の一つや二つ、してまいれ!」
追い立てられるように城を追い出され、私たちは仕方なく自宅へと向かうことにした。
とりあえず……本当は嬉しいです!
実質午後休みたいなもんだし、一週間も休みがある!
心の中でガッツポーズをしたものの、はたと気付いた。
エイトにも新婚旅行で行きたいところがなかったら詰むぞ、と。
それにつられて、いつの間にか詰所でウトウトとしていたとき、ドアが開く音で目が覚めた。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「ふぁ……ううん。エイト、お疲れ様」
定例会議から戻ったエイトが、疲れを滲ませながら頷く。
我らが近衛隊長様は、今日もご多忙のようだ。
無理もない、エイトが隊長になってから日も浅いし。
城で働く人たちはみんな小さい頃からの顔見知りだけど、顔見知りであるが故に「あれも頼む」「これも宜しく」ってな具合になりがちなのだ。
最近は断れるようになってきたけど、就任当初はなかなか断りきれずに、それで余計に忙しさに自分で拍車をかけちゃったこともあったっけ。
「で、今日は大臣たちから、どんな無茶ぶりを要求されたの?」
「それが珍しく何もなかったんだ」
「えっほんとに? うわー、裏がありそうでなんか怖いな」
「でもほら、近衛隊っていうのは、王族の身を守るのが役目だろ?」
「そりゃそうだよ! 土木工事なんてする隊じゃないもん」
ミーティア姫とチャゴスの結婚式……だったはずが、私とエイトの結婚式にすり替わったあの日から一ヶ月。
呪いのせいであちこち壊れていたお城の、細かい修繕作業も無事に終わり、トロデーン城は見違えたように美しくなった。
滅びる前よりも美しく、が合言葉だったそうだけど、それにしたって綺麗になりすぎだ。
床の大理石なんか新品になっちゃったもんね。
もちろん、修繕作業は復活した翌日から始まったし、大工を呼ばなきゃできないことの方がほとんどだったんだけど。
でもそれも姫様の結婚式の前には全部終わって、あとは室内の壁の補修とか、家具の修理とか、そんな感じだったから、ちょっとずつ後回しにされてしまったのだ。
そこで一念発起した陛下からの、「修理を終わらせるぞ!」の大号令。
そしてその手伝いに駆り出されたのが、一般兵と我ら近衛兵だった。
私とエイトは最初、共同で現場の指揮に当たっていたんだけど……。
結局、最後は一緒になって働いていた。
というか、そうしないと予定通りに終わらなかった。
「まあ、本来の職を放り出してまで、お城の修繕を手伝ったわけだしね。陛下もぶつぶつ言ってたじゃん。さすがにそんなことがあった手前、無茶ぶり言うと自分の首が飛ぶって分かってたんじゃない?」
「かもね。僕としては、レイラにまで土木工事させたあのハゲを、どうにかしてやりたいけど」
「穏便にいこうね、エイト。気持ちはありがたく受け取るから」
どれほど経とうと、私が絡むと穏便の「お」の字もなくなる旦那様である。
穏便に行こうねと言ったものの、エイトは頷かなかったので、これから先も穏便に済ませるつもりがないようだ。
はぁ、と大きなため息をついて、エイトが机に寄りかかる。
そのエイトの左手には、結婚指輪のスーパーリング。
器用にも内側に刻印まで入れてるんだから、大したものだ。
ついつい指輪を触ってしまうと、左手が動いてどこかへ行ってしまった。
あ、と視線で追いかけた先には、不思議そうな顔のエイト。
「どうしたの?」
「えっ? あ、ううん」
慌ててエイトから視線を逸らすと、ふっと小さく笑ったエイトの手が、私の左手を捕まえた。
「ここにも同じものがある」
「……うん」
私の手にもスーパーリングが嵌められていて、同じように内側に刻印が施してある。
この用意をしていたのは、旅を終えてすぐの一ヶ月間の休暇の間であったらしい。
姫様の結婚式が終わったら自分たちの結婚式をやる予定だった、とネタバラシをされた時は、私の顔が青くなったものだ。
でもサヴェッラ大聖堂で結婚式ができたし、結果オーライじゃんね。
そういう話じゃない? そんなぁ。
「ねえ、今日の晩ご飯、何食べたい?」
「レイラが作るものなら、何でもいいかな」
「もー、それが一番困るって言ったのにー」
「レイラが作る料理はどれも美味しいから、決められないんだよね」
結婚して何か変わるかなと思ったけど、世間は何も変わらずにいた。
私たちも、旅に出る前の仕事に戻っただけだ。
……というか昇進したせいで、逆に忙しくなった。
そのおかげで、結婚したってのにハネムーンにも行けてない。
どこかに行きたいなぁとも思わないせいかなぁ……。
「隊長、副隊長、トロデ王がお呼びです」
部下の近衛兵が詰所に入ってきて、入口で私たちに声をかけてくる。
陛下から呼び出しとは珍しい。
ひょっとして先月の結婚式乱入事件のことかな。
それとも他に何かやらかしたっけ……。
「トロデ王が? ありがとう、すぐ行く」
なんだろう、新しい任務とか?
でも直近では外遊の予定なんて入ってないはずだけど。
疑問符を並べながら、二人でトロデ王のいらっしゃる玉座の間へと急ぐ。
行く途中にある食堂で、ついでに水をもらって喉を潤してから、玉座の間へと入った。
玉座の間には陛下と姫様がいらっしゃって、ちょうど謁見の合間の休憩中だったようだ。
「エイト、レイラ! 休憩中だったのにごめんなさいね」
「おお、お前たち。やっと来たか」
「遅くなりました! すみません!」
「お呼びですか、トロデ王?」
「うむ。時にお前たち、結婚式を挙げてから一度も休んどらんじゃろう」
そうだっけ。
いきなり言われてちょっと驚いたけど、言われてみればそうかもしれない。
週に一日くらいは休んでた気がするけどな。
でもそれは最低限必要な休みであって、まとまったお休みというのは確かに取っていないかもな。
「一週間丸々休みを取るがよい」
「いいんですか?」
「わしからの慰安の気持ちじゃ。新婚旅行もしとらんじゃろうが」
「うっ……」
エイトが言葉に詰まる。
私は別に、しなくてもいいとは思ったけど……。
どうやらエイトは新婚旅行のことを気にしていたらしい。
「今日はもう帰ってよい。以上じゃ」
「え? あ、はい……。それじゃあお言葉に甘えて」
「ほ……本当に私たちが揃って帰って大丈夫ですか……?」
「良いと言ったら良いのじゃ! さっさと帰って、新婚旅行の一つや二つ、してまいれ!」
追い立てられるように城を追い出され、私たちは仕方なく自宅へと向かうことにした。
とりあえず……本当は嬉しいです!
実質午後休みたいなもんだし、一週間も休みがある!
心の中でガッツポーズをしたものの、はたと気付いた。
エイトにも新婚旅行で行きたいところがなかったら詰むぞ、と。
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