80章
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穏やかな海を、私たちを乗せた船は進んでいく。
私につつかれてようやく、エイトは姫様の隣に寄り添った。
「同じ女の子同士なんだしレイラの方が」と言い出した時には、ククールが「いいから行けって」と蹴飛ばしたのは、姫様には内緒だ。
大聖堂へ向かう長い階段と、その向こうに見える法皇の館。
聖地のひとつ、サヴェッラ大聖堂。
前回ここに来た時は、レオパルドを追いかけていた時だった。
あれ以来ここには来ていなかったけど……とうとう着いてしまったな。
大聖堂への長い階段を昇り、建物を見上げる。
複雑な面持ちでいる姫様に視線を移したとき、大臣がようやく階段を昇ってこられた。
「おお! ここがサヴェッラ大聖堂か。王族の結婚式を行うのに相応しい場所ではないか!」
「場所だけならね」
背後でゼシカが皮肉を込めて呟く。
残念ながら、姫様と結婚する相手はというと、王族に相応しい言動を取れないゴミカスだけど。
満足そうに大聖堂を眺めていた大臣は、私とエイトへと視線を向けた。
「ご苦労であったな、エイト、レイラ。お主らの任務はここで終わりだ。あとはこの辺りで宿でも取って、明日、トロデーンに戻るがよかろう」
「あ……」
「えっ!? エイトとレイラは、このミーティアの式に参列するのではなかったのですか?」
「残念ながら、姫様……。この者たちの席までは……」
そんな、と姫様が私たちを見つめる。
私はただ黙って首を振った。
私の生まれがどうあれ、所詮、今は一介の兵士。
各国の王侯貴族が揃う結婚式に、近衛兵風情が招かれるはずもない。
……たとえ世界を救った英雄であろうと、身分の前にはそんなもの、なんの意味も成さないのだ。
私たちのすぐ近くで足音が止まる。
そちらを振り向くと、そこにはチャゴス王子が立っていた。
「これはこれは。初めまして。サザンビークの王子、チャゴスでございます」
王族らしい優雅な礼をして見せて、大臣が慌てて頭を下げる。
ハリボテのマナーなんて何にもならないのにね。
「おお! あなたがミーティア姫ですね。なんとも美しい……。この一瞬で、僕の中にある数々の美女との思い出が全て色褪せてしまった。あなたのような方を我が妻に迎えられて、このチャゴス、世界一の幸せ者です」
背後でククールが吐きそうな顔をしている。
ごめん私も吐きそう。
やっぱり許せねぇな!?
こんな……こんなゴミカスにうちの姫様をやれって!?
サザンビークを滅ぼしてでも取り返しに行くぞ、いいのか!?
「久しぶりでがすな、王子。そんなキザったらしい台詞が言えるなんて驚きでがすよ」
この場で誰よりも大人な反応を見せたのがヤンガスであるという事実、ちょっと私たちの胸にグサッと刺さってしまった。
こんなナリだけど、ヤンガスも私たちと旅をする間に、すっかり真人間になってくれた。
私のほうが思考回路ちょっと野蛮になってた気がする……。
「お前たちは! 王者の儀式のときの旅人ではないか! ふん。おおかた噂を聞きつけ、見物にでも来たのだろう。残念だったな。お前たちが来れるのはここまでだ。かわいい姫が僕の妻になる、その神聖な儀式にお前たち平民風情を招待するわけにはいかないからな。せめてお前たちが金持ちか貴族だったら、招待してやれたんだがな。ぶわぁーはっはっはっは!!」
その瞬間、私は背後からゼシカとククールによって羽交い締めにされた。
まだ何もしとらんだろ!!
いやまぁ「夜に忍び込んで殺るか」みたいなのは、ちょっと過ぎったけど!!
姫様とチャゴス王子が大聖堂へと去っていく。
大臣は憤る私たちに不思議そうな顔をして、やはり去っていった。
三人の姿が階段の向こうに消えたところで、ようやく二人が私を解放した。
「隊長。私、あいつを殺せって言われたら喜んで『夜勤』やるよ」
「言わないよ……。ともかく、僕らの仕事は終わったんだ。宿屋を取って休んで、明日の結婚式が終わった後に帰ろう」
「アッシは納得がいかねぇでがすよ! おっさんもおっさんだ。チャゴス王子の性格はおっさんも知ってるはずだってのに、まるで問題にもしやがらねぇ!」
「……王者の儀式にいたのは、僕たち五人と、『馬車を走らせる馬と魔物』だ。トロデ王とミーティア姫じゃない。……そういう建前でいる必要があるんだよ」
苦々しい口調で言って、エイトは宿屋へと歩いていった。
宿屋は明日の結婚式を一目見ようと、たくさんの宿泊客で溢れている。
それでも四人部屋を取れたので、久々に私とゼシカが一緒に寝ることにした。
──日が傾いてきた夕方頃。
宿屋でふて寝をしていた私の元へ、サザンビークの兵士がやってきた。
なんでも姫様が私と会いたいと仰せであるらしい。
ついてこようとするエイトを三人に引き留めてもらって、私は一人で法皇の館へと向かった。
どうしてここで私を呼んだのか、その真意は分からないにしても……これがチャンスであるのはたしかだ。
もしここでトロデ王やクラビウス王を説得できれば……。
そうすれば、姫様をチャゴス王子との結婚から逃がせるかもしれない。
「──レイラ!」
追いかけてきたのはククールだ。
私と一緒に法皇の館へ向かっていたサザンビークの兵に、少し離れておくよう合図をして、私はククールと向き合った。
「……いいんだな、お前はそれで」
「最善ではないってことは、私も分かってるよ。エイトにとっては最悪なんだろうなってことも」
「……」
「でも同じ女として、姫様のことは見過ごせない。私が姫様の力になれるなら……私は、姫様に仕える者として、そうしたいと思う」
「それでレイラは満足なのか?」
「命があれば充分。……そだ、ククール。これ、エイトに返しといて」
袋の底から女神の指輪を取り出して、ククールの手に握らせる。
私の左手に指輪がないことを見て取って、ククールは息を呑んだ。
それが私の出した答えだ。
これでいい、こうすることが一番丸く収まる。
「……あいつに伝えることはあるか」
「姫様とお幸せに。……それだけ伝えて」
「とんだ呪いの言葉だよ。それを伝えられても、あいつは幸せになんかならないんだぞ」
肩を竦めて、ククールに背を向ける。
じゃあね、と手を振って、私は連絡通路へと入った。
通路の床が浮いて、私を法皇の館へと運んでいく。
ばいばい、エイト。
ちゃんと姫様と幸せになるんだぞ。
私につつかれてようやく、エイトは姫様の隣に寄り添った。
「同じ女の子同士なんだしレイラの方が」と言い出した時には、ククールが「いいから行けって」と蹴飛ばしたのは、姫様には内緒だ。
大聖堂へ向かう長い階段と、その向こうに見える法皇の館。
聖地のひとつ、サヴェッラ大聖堂。
前回ここに来た時は、レオパルドを追いかけていた時だった。
あれ以来ここには来ていなかったけど……とうとう着いてしまったな。
大聖堂への長い階段を昇り、建物を見上げる。
複雑な面持ちでいる姫様に視線を移したとき、大臣がようやく階段を昇ってこられた。
「おお! ここがサヴェッラ大聖堂か。王族の結婚式を行うのに相応しい場所ではないか!」
「場所だけならね」
背後でゼシカが皮肉を込めて呟く。
残念ながら、姫様と結婚する相手はというと、王族に相応しい言動を取れないゴミカスだけど。
満足そうに大聖堂を眺めていた大臣は、私とエイトへと視線を向けた。
「ご苦労であったな、エイト、レイラ。お主らの任務はここで終わりだ。あとはこの辺りで宿でも取って、明日、トロデーンに戻るがよかろう」
「あ……」
「えっ!? エイトとレイラは、このミーティアの式に参列するのではなかったのですか?」
「残念ながら、姫様……。この者たちの席までは……」
そんな、と姫様が私たちを見つめる。
私はただ黙って首を振った。
私の生まれがどうあれ、所詮、今は一介の兵士。
各国の王侯貴族が揃う結婚式に、近衛兵風情が招かれるはずもない。
……たとえ世界を救った英雄であろうと、身分の前にはそんなもの、なんの意味も成さないのだ。
私たちのすぐ近くで足音が止まる。
そちらを振り向くと、そこにはチャゴス王子が立っていた。
「これはこれは。初めまして。サザンビークの王子、チャゴスでございます」
王族らしい優雅な礼をして見せて、大臣が慌てて頭を下げる。
ハリボテのマナーなんて何にもならないのにね。
「おお! あなたがミーティア姫ですね。なんとも美しい……。この一瞬で、僕の中にある数々の美女との思い出が全て色褪せてしまった。あなたのような方を我が妻に迎えられて、このチャゴス、世界一の幸せ者です」
背後でククールが吐きそうな顔をしている。
ごめん私も吐きそう。
やっぱり許せねぇな!?
こんな……こんなゴミカスにうちの姫様をやれって!?
サザンビークを滅ぼしてでも取り返しに行くぞ、いいのか!?
「久しぶりでがすな、王子。そんなキザったらしい台詞が言えるなんて驚きでがすよ」
この場で誰よりも大人な反応を見せたのがヤンガスであるという事実、ちょっと私たちの胸にグサッと刺さってしまった。
こんなナリだけど、ヤンガスも私たちと旅をする間に、すっかり真人間になってくれた。
私のほうが思考回路ちょっと野蛮になってた気がする……。
「お前たちは! 王者の儀式のときの旅人ではないか! ふん。おおかた噂を聞きつけ、見物にでも来たのだろう。残念だったな。お前たちが来れるのはここまでだ。かわいい姫が僕の妻になる、その神聖な儀式にお前たち平民風情を招待するわけにはいかないからな。せめてお前たちが金持ちか貴族だったら、招待してやれたんだがな。ぶわぁーはっはっはっは!!」
その瞬間、私は背後からゼシカとククールによって羽交い締めにされた。
まだ何もしとらんだろ!!
いやまぁ「夜に忍び込んで殺るか」みたいなのは、ちょっと過ぎったけど!!
姫様とチャゴス王子が大聖堂へと去っていく。
大臣は憤る私たちに不思議そうな顔をして、やはり去っていった。
三人の姿が階段の向こうに消えたところで、ようやく二人が私を解放した。
「隊長。私、あいつを殺せって言われたら喜んで『夜勤』やるよ」
「言わないよ……。ともかく、僕らの仕事は終わったんだ。宿屋を取って休んで、明日の結婚式が終わった後に帰ろう」
「アッシは納得がいかねぇでがすよ! おっさんもおっさんだ。チャゴス王子の性格はおっさんも知ってるはずだってのに、まるで問題にもしやがらねぇ!」
「……王者の儀式にいたのは、僕たち五人と、『馬車を走らせる馬と魔物』だ。トロデ王とミーティア姫じゃない。……そういう建前でいる必要があるんだよ」
苦々しい口調で言って、エイトは宿屋へと歩いていった。
宿屋は明日の結婚式を一目見ようと、たくさんの宿泊客で溢れている。
それでも四人部屋を取れたので、久々に私とゼシカが一緒に寝ることにした。
──日が傾いてきた夕方頃。
宿屋でふて寝をしていた私の元へ、サザンビークの兵士がやってきた。
なんでも姫様が私と会いたいと仰せであるらしい。
ついてこようとするエイトを三人に引き留めてもらって、私は一人で法皇の館へと向かった。
どうしてここで私を呼んだのか、その真意は分からないにしても……これがチャンスであるのはたしかだ。
もしここでトロデ王やクラビウス王を説得できれば……。
そうすれば、姫様をチャゴス王子との結婚から逃がせるかもしれない。
「──レイラ!」
追いかけてきたのはククールだ。
私と一緒に法皇の館へ向かっていたサザンビークの兵に、少し離れておくよう合図をして、私はククールと向き合った。
「……いいんだな、お前はそれで」
「最善ではないってことは、私も分かってるよ。エイトにとっては最悪なんだろうなってことも」
「……」
「でも同じ女として、姫様のことは見過ごせない。私が姫様の力になれるなら……私は、姫様に仕える者として、そうしたいと思う」
「それでレイラは満足なのか?」
「命があれば充分。……そだ、ククール。これ、エイトに返しといて」
袋の底から女神の指輪を取り出して、ククールの手に握らせる。
私の左手に指輪がないことを見て取って、ククールは息を呑んだ。
それが私の出した答えだ。
これでいい、こうすることが一番丸く収まる。
「……あいつに伝えることはあるか」
「姫様とお幸せに。……それだけ伝えて」
「とんだ呪いの言葉だよ。それを伝えられても、あいつは幸せになんかならないんだぞ」
肩を竦めて、ククールに背を向ける。
じゃあね、と手を振って、私は連絡通路へと入った。
通路の床が浮いて、私を法皇の館へと運んでいく。
ばいばい、エイト。
ちゃんと姫様と幸せになるんだぞ。
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