76章
夢小説設定
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身体の重みを感じて、ゆっくりと目を開く。
ぼんやりとしていた頭が、少しずつはっきりしてきた。
ここはどこだろう──そうだ、この天井は、トロデーン城の、封印の間だ。
じゃあ、ここは……トロデーン城?
戻ってきた聴覚が、ぜぇはぁと荒い息を数人分、聞き取った。
ゆっくりとそちらに顔を向けると、そこには手を床について苦しそうに息を整える四人。
その一番前に蹲っている、見慣れない甲冑の人へ、私は無意識に呟いた。
「……エイト……」
掠れて聞き取れたかも怪しいほどの小さな声。
だけど深紅の甲冑の人が、弾かれたように顔を上げた。
あ、やっぱりエイトだった。
なにその装備、見たことないやつだな。
どこでもらったんだろう、でもよく似合ってる。
ああだめだ、言いたいことがいっぱいあって、どれから伝えたらいいか分かんない。
だから……とりあえず、一番伝えやすい言葉を、伝えることにした。
「ただいま……」
呆然としたエイトの顔が、私を無言で見つめている。
見つめ合った時間は、ほんの数秒だったかもしれないけど、なんだか永遠のように長く感じてしまった。
不意にエイトの顔がくしゃりと歪む。
エイトの両目から大粒の涙が溢れた瞬間、私の身体が硬い甲冑に抱き締められた。
「レイラ……レイラ……ッ!!」
「エイト……ごめんね……ごめん……」
「いい、もういいんだ……。おかえり、レイラ」
力が上手く入らない腕をどうにか持ち上げて、エイトの背中に手を回す。
寄せられた頬が温かい。
私の背中を抱き締める手も温かくて、私とエイトの頬を濡らす涙が熱く感じる。
ああ、帰ってきたんだ。
みんなが……エイトが待つ、この世界に。
私……生きてるんだ。
抱き起こされた腕の中で、エイトと唇を重ねる。
生き返って初めてのキスは、涙の味がした。
嬉しくて胸が苦しい。
だけど……とてつもなく幸せだと思った。
「エイト、私……」
エイトと一緒に生きていきたい。
そう伝えようとした私を遮るかのように、「オホン!」とわざとらしい咳払いが聞こえてきた。
ハッとしてそちらを見やると、こちらを視界に入れまいと後ろを向いたククールと、顔を赤らめて口元を手で押さえたゼシカ、そして顔を手で覆い隠したヤンガスがいる。
なんなら、その後ろに私の同僚やら先輩やら後輩やら、小間使い時代の仲間やら何やらが勢揃いして、全員もれなく顔を赤くしたり、ニヤついた顔をしたりしている。
「え、えっと……私たちのこと、ひょっとして眼中になかった、とか……」
ゼシカが恐る恐ると尋ねてくれて、私とエイトはようやく状況を理解した。
こんな公衆の面前で、わ、私ってば、なんてことを!!
「いや」とか「えっと」とか、言い訳にもならない言い訳の言葉が出てくる。
「あー、まあ……なんじゃな。レイラの復活と、若い男女の未来への祝福も兼ねて、盛大に宴を開こうぞ」
陛下の余計な一言で、トロデーン城の人たちが一気にざわついた。
あ、いや、ざわついたって言うか、お祝いの言葉がほとんどだったっていうか……。
どっちにしろ恥ずかしいなこれ!!
穴を掘って潜らせてくれないだろうか!!
「あれまぁあんた達……そういう仲になったんだねぇ……」
「エイト……よかったな!」
「ずっとレイラのこと好きだったもんな! よかったな!!」
「え!? な、なんで知って……!?」
「そりゃあ分かりやすいからよ」
「お前、俺たちですら初めて見た時からすぐ気付いたんだぞ。身内になんかバレバレに決まってるだろ」
ゼシカとククールの辛辣な一言に、背後の人たちが一斉にうんうんと頷いた。
嘘でしょ、どんだけ分かりやすかったのよエイト。
それに気付くことなく「エイトは姫様のこと大好きだもんな〜」とか頓珍漢な勘違いをしていた私は何なんだ!!
はいもう私がアホの子です!!
能天気を通り越してアホでした!!
「皆の者、この場は解散じゃ! 宴の準備をせい!」
「エイト! レイラとお幸せに!!」
「や、やめてください! もう……!!」
別の意味で涙目になりながら、エイトが手で顔を覆う。
世界を救った勇者も形無しだな。
思わず笑ってしまうと、不貞腐れたようにムッと口を曲げたエイトが、私を優しく抱き上げた。
「エイト、面白い」
「面白がるなよ……」
「世界を救うなんて大それたことを成し遂げたくせに、初心なのは変わんないんだなーって」
「レイラだって顔を赤くしてたくせに」
「だ、だってあんなに人がいるとか、知らなかったもん……!」
「見えてなかっただけだろ?」
「四人が壁になってたからね」
エイトは言い返すのも疲れたようで、ため息をつくと私を抱き締めた。
長い階段を降りて、封印の間から出ていくみんなをエイトが追いかけていく。
それはいいけど、どうして私を下ろしてくれないんだ?
「ねぇエイト、私もう歩ける」
「嫌だ」
「嫌だ!?」
私を案じる言葉とか、「また無理しようとしてるだろ」みたいな咎める言葉が出てくるかと思いきや。
飛び出てきたのは、まさかの拒否だ。
なんで私が歩くのを拒否してきたんだ?
よく分からないけど、こうなった時のエイトは何を言っても聞き入れてはくれないと知っているので、私は諦めて、されるがままになることにした。
なんかエイトの過保護っぷり、輪をかけて酷くなってない?
城から庭園へ出ると、そこにはせっせとテーブルが並べられ、そこに真っ白なクロスがかけられていくところだった。
そういや呪われてる間に、食料とか全部駄目になってる気がするけど、どうやって宴の料理を作るつもりなんだろう。
そんな疑問を吹き飛ばすかの如く、キッチンから美味しそうな料理が山ほど運ばれてきた。
呪いが解けた時、食料も新鮮な状態に戻ったってことなのかな。
そんな都合のいいことあるか? と思ったけど、現に目の前でそれが起こっているので、もう何も言うまい。
そうして復活したトロデーン城の美しい庭園で、トロデーン王国復活の宴が盛大に始まった。
ぼんやりとしていた頭が、少しずつはっきりしてきた。
ここはどこだろう──そうだ、この天井は、トロデーン城の、封印の間だ。
じゃあ、ここは……トロデーン城?
戻ってきた聴覚が、ぜぇはぁと荒い息を数人分、聞き取った。
ゆっくりとそちらに顔を向けると、そこには手を床について苦しそうに息を整える四人。
その一番前に蹲っている、見慣れない甲冑の人へ、私は無意識に呟いた。
「……エイト……」
掠れて聞き取れたかも怪しいほどの小さな声。
だけど深紅の甲冑の人が、弾かれたように顔を上げた。
あ、やっぱりエイトだった。
なにその装備、見たことないやつだな。
どこでもらったんだろう、でもよく似合ってる。
ああだめだ、言いたいことがいっぱいあって、どれから伝えたらいいか分かんない。
だから……とりあえず、一番伝えやすい言葉を、伝えることにした。
「ただいま……」
呆然としたエイトの顔が、私を無言で見つめている。
見つめ合った時間は、ほんの数秒だったかもしれないけど、なんだか永遠のように長く感じてしまった。
不意にエイトの顔がくしゃりと歪む。
エイトの両目から大粒の涙が溢れた瞬間、私の身体が硬い甲冑に抱き締められた。
「レイラ……レイラ……ッ!!」
「エイト……ごめんね……ごめん……」
「いい、もういいんだ……。おかえり、レイラ」
力が上手く入らない腕をどうにか持ち上げて、エイトの背中に手を回す。
寄せられた頬が温かい。
私の背中を抱き締める手も温かくて、私とエイトの頬を濡らす涙が熱く感じる。
ああ、帰ってきたんだ。
みんなが……エイトが待つ、この世界に。
私……生きてるんだ。
抱き起こされた腕の中で、エイトと唇を重ねる。
生き返って初めてのキスは、涙の味がした。
嬉しくて胸が苦しい。
だけど……とてつもなく幸せだと思った。
「エイト、私……」
エイトと一緒に生きていきたい。
そう伝えようとした私を遮るかのように、「オホン!」とわざとらしい咳払いが聞こえてきた。
ハッとしてそちらを見やると、こちらを視界に入れまいと後ろを向いたククールと、顔を赤らめて口元を手で押さえたゼシカ、そして顔を手で覆い隠したヤンガスがいる。
なんなら、その後ろに私の同僚やら先輩やら後輩やら、小間使い時代の仲間やら何やらが勢揃いして、全員もれなく顔を赤くしたり、ニヤついた顔をしたりしている。
「え、えっと……私たちのこと、ひょっとして眼中になかった、とか……」
ゼシカが恐る恐ると尋ねてくれて、私とエイトはようやく状況を理解した。
こんな公衆の面前で、わ、私ってば、なんてことを!!
「いや」とか「えっと」とか、言い訳にもならない言い訳の言葉が出てくる。
「あー、まあ……なんじゃな。レイラの復活と、若い男女の未来への祝福も兼ねて、盛大に宴を開こうぞ」
陛下の余計な一言で、トロデーン城の人たちが一気にざわついた。
あ、いや、ざわついたって言うか、お祝いの言葉がほとんどだったっていうか……。
どっちにしろ恥ずかしいなこれ!!
穴を掘って潜らせてくれないだろうか!!
「あれまぁあんた達……そういう仲になったんだねぇ……」
「エイト……よかったな!」
「ずっとレイラのこと好きだったもんな! よかったな!!」
「え!? な、なんで知って……!?」
「そりゃあ分かりやすいからよ」
「お前、俺たちですら初めて見た時からすぐ気付いたんだぞ。身内になんかバレバレに決まってるだろ」
ゼシカとククールの辛辣な一言に、背後の人たちが一斉にうんうんと頷いた。
嘘でしょ、どんだけ分かりやすかったのよエイト。
それに気付くことなく「エイトは姫様のこと大好きだもんな〜」とか頓珍漢な勘違いをしていた私は何なんだ!!
はいもう私がアホの子です!!
能天気を通り越してアホでした!!
「皆の者、この場は解散じゃ! 宴の準備をせい!」
「エイト! レイラとお幸せに!!」
「や、やめてください! もう……!!」
別の意味で涙目になりながら、エイトが手で顔を覆う。
世界を救った勇者も形無しだな。
思わず笑ってしまうと、不貞腐れたようにムッと口を曲げたエイトが、私を優しく抱き上げた。
「エイト、面白い」
「面白がるなよ……」
「世界を救うなんて大それたことを成し遂げたくせに、初心なのは変わんないんだなーって」
「レイラだって顔を赤くしてたくせに」
「だ、だってあんなに人がいるとか、知らなかったもん……!」
「見えてなかっただけだろ?」
「四人が壁になってたからね」
エイトは言い返すのも疲れたようで、ため息をつくと私を抱き締めた。
長い階段を降りて、封印の間から出ていくみんなをエイトが追いかけていく。
それはいいけど、どうして私を下ろしてくれないんだ?
「ねぇエイト、私もう歩ける」
「嫌だ」
「嫌だ!?」
私を案じる言葉とか、「また無理しようとしてるだろ」みたいな咎める言葉が出てくるかと思いきや。
飛び出てきたのは、まさかの拒否だ。
なんで私が歩くのを拒否してきたんだ?
よく分からないけど、こうなった時のエイトは何を言っても聞き入れてはくれないと知っているので、私は諦めて、されるがままになることにした。
なんかエイトの過保護っぷり、輪をかけて酷くなってない?
城から庭園へ出ると、そこにはせっせとテーブルが並べられ、そこに真っ白なクロスがかけられていくところだった。
そういや呪われてる間に、食料とか全部駄目になってる気がするけど、どうやって宴の料理を作るつもりなんだろう。
そんな疑問を吹き飛ばすかの如く、キッチンから美味しそうな料理が山ほど運ばれてきた。
呪いが解けた時、食料も新鮮な状態に戻ったってことなのかな。
そんな都合のいいことあるか? と思ったけど、現に目の前でそれが起こっているので、もう何も言うまい。
そうして復活したトロデーン城の美しい庭園で、トロデーン王国復活の宴が盛大に始まった。
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