66章
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サザンビーク城の城下町にある教会で朝のお祈りを済ませようと向かうと、先客がいた。
祭壇に向かって一心に祈っているのはゼシカだ。
一人分を開けて隣に座ると、パッと顔を上げたゼシカが、僕を見て小さく微笑んだ。
「今朝は私が先だったわね」
「昨日あれだけのことが起きたら、さすがに疲れてさ」
「……そうよね」
手を握り合わせて目を閉じ、祈りを捧げる。
たとえ聖地ゴルドにあった女神像の中身が、暗黒神ラプソーンであったとしても、僕らの信仰はなくならない。
僕らの祈る先は、何も変わらないはずだ。
「……レイラの様子はどう?」
「やっぱり責任を感じてるみたいだった。自分が杖を封印しなかったから、聖地ゴルドの崩壊でたくさんの人が死んでしまったんだって……」
「そうよね……。レイラが自分を責める必要なんて、どこにもないのにね」
「僕はただレイラに幸せになってほしいだけなのに。城にいた頃からつらい仕事をやってきて、今だって苦しい旅を続けてくれてる……。レイラが幸せになれないなら、世界を救ったって意味無いよ」
それじゃあどうしてあんなふうに、自分が犠牲になろうとするようになったのか。
考えるまでもなく、それは賢者の末裔たちの死を間近で見てきたから。
元から死という概念に近しいところにいたんだから、レイラが何も思わないはずがなかった。
……結局、僕では変えられなかった。
「自分一人の責任だなんて思わなくていいのに」
「命令した人より、手にかけた自分のほうが悪いって思ってるのね……」
「ふざけてるよ。命令した側に責任が無いはずないだろ。それを黙認してきた僕らだって。……そのやり方を容認したトロデ王だって、責任を問われるべきなんだ。レイラ一人の問題じゃない。そうしろって言われたわけでもないのに、全部一人で背負おうとするなんて」
「……その罪の意識が、賢者の末裔たちを守れず死なせてしまったことと、今回のゴルドでのことに結びついてしまったってこと?」
「レイラが背負うことじゃないのに、どうしてもあの子は自分で責任を負いたいらしいんだ。自分が犠牲になって世界を平和にすることで、赦しにしたいんだって……。それで残された側は? 僕がここまで戦ってきたのは、復活したトロデーン城でレイラと生きていくためなのに。僕から戦う理由を奪わないでほしいよ。あの子、僕の十年抱えた片想いを何だと思ってるんだろう。本当に頭にくる」
なんだか段々と腹が立ってきて、思わずそう言ってしまうと、ゼシカが困ったような顔をした。
ゼシカに八つ当たりしたって変わらないのに、何をしているんだろう僕は。
ごめん、と呟こうとした僕の声は、けれど背後から突然降ってきた声によってかき消された。
「──まったくだ。たまにはいいこと言うじゃねぇか」
背後から足音と共にククールが現れた。
隣にはヤンガスもいる。
レイラがいないところを見ると、あの子はまだ眠っているらしい。
力を使い果たしているから、今はしっかり休んでほしいところだ。
「アッシと出会った頃の姉貴は、あんなふうじゃなかったでがす。トロデーン城でのつらいことなんか感じさせねぇくらい、元気いっぱいだったでげすよ」
「私と出会った時もそうだったわよ。海で暴れてた魔物を倒す時だって、カルパッチョにするとか何とか言ってたくらいだもの。……今にして思えば、自分に発破をかけてたのよね、あれ」
「俺が仲間になった時もそんな感じだったぞ。……まぁ、きっかけはリブルアーチだったんだろうけどよ」
元聖堂騎士団らしく祈りを捧げて、ククールはさっさと教会を出ていった。
僕とゼシカも教会を出ることにしたから、ヤンガスも慌ててついてきて……。
こちらに向かってくるレイラが見えたから、ヤンガスが「姉貴ー!」と手を振った。
「エッ私もしかしてめっちゃ寝坊した!?」
「してないわよ、私たちが早起きしすぎただけ」
「姉貴はお疲れでがしたから、寝かせておこうって話になってたんでがすよ」
「良かった〜! 私が爆睡してたせいで出発が遅れたとかだったら、申し訳なさすぎて地面に埋まるまで頭下げるとこだった」
「逆に怖いよそれは」
レイラもすぐに教会に入っていって、しばらくしてから飛び出してきた。
そんなに急いでお祈りしなくてもよかったのに。
宿屋へ向かう途中、城下町の様子をさりげなく観察してみたけれど、やっぱりみんな浮かない顔だ。
あの赤く染まった空のせいだろう。
「朝食を食べたら、出発しよう」
「今日は腹一杯食っておくでがす!」
「そうね。腹が減ってはなんとやら、だわ」
「食いすぎて動けなくならないようにな」
「なぜそこで私を見た?」
「大丈夫だよククール。近衛兵だから、レイラも塩梅はよく分かってる」
「……そうなんだよな……」
「まだ私が近衛兵だってイメージないのか……」
「申し訳ないけど私も想像つかないわ」
「なんでぇ!?」
「胸に手を当てて自分の心に聞いてみろ」
律儀に胸に手を当てたレイラが、怪訝そうに首を傾げる。
自分の心に聞いても分からなかったみたいだ。
「分かんないってさ」とククールに正直に答えたレイラは、ククールの呆れるような視線から逃れようと、僕の後ろにそっと移動した。
そんなレイラも可愛いなぁ、なんて思ってしまう僕は、かなり重症かもしれない。
祭壇に向かって一心に祈っているのはゼシカだ。
一人分を開けて隣に座ると、パッと顔を上げたゼシカが、僕を見て小さく微笑んだ。
「今朝は私が先だったわね」
「昨日あれだけのことが起きたら、さすがに疲れてさ」
「……そうよね」
手を握り合わせて目を閉じ、祈りを捧げる。
たとえ聖地ゴルドにあった女神像の中身が、暗黒神ラプソーンであったとしても、僕らの信仰はなくならない。
僕らの祈る先は、何も変わらないはずだ。
「……レイラの様子はどう?」
「やっぱり責任を感じてるみたいだった。自分が杖を封印しなかったから、聖地ゴルドの崩壊でたくさんの人が死んでしまったんだって……」
「そうよね……。レイラが自分を責める必要なんて、どこにもないのにね」
「僕はただレイラに幸せになってほしいだけなのに。城にいた頃からつらい仕事をやってきて、今だって苦しい旅を続けてくれてる……。レイラが幸せになれないなら、世界を救ったって意味無いよ」
それじゃあどうしてあんなふうに、自分が犠牲になろうとするようになったのか。
考えるまでもなく、それは賢者の末裔たちの死を間近で見てきたから。
元から死という概念に近しいところにいたんだから、レイラが何も思わないはずがなかった。
……結局、僕では変えられなかった。
「自分一人の責任だなんて思わなくていいのに」
「命令した人より、手にかけた自分のほうが悪いって思ってるのね……」
「ふざけてるよ。命令した側に責任が無いはずないだろ。それを黙認してきた僕らだって。……そのやり方を容認したトロデ王だって、責任を問われるべきなんだ。レイラ一人の問題じゃない。そうしろって言われたわけでもないのに、全部一人で背負おうとするなんて」
「……その罪の意識が、賢者の末裔たちを守れず死なせてしまったことと、今回のゴルドでのことに結びついてしまったってこと?」
「レイラが背負うことじゃないのに、どうしてもあの子は自分で責任を負いたいらしいんだ。自分が犠牲になって世界を平和にすることで、赦しにしたいんだって……。それで残された側は? 僕がここまで戦ってきたのは、復活したトロデーン城でレイラと生きていくためなのに。僕から戦う理由を奪わないでほしいよ。あの子、僕の十年抱えた片想いを何だと思ってるんだろう。本当に頭にくる」
なんだか段々と腹が立ってきて、思わずそう言ってしまうと、ゼシカが困ったような顔をした。
ゼシカに八つ当たりしたって変わらないのに、何をしているんだろう僕は。
ごめん、と呟こうとした僕の声は、けれど背後から突然降ってきた声によってかき消された。
「──まったくだ。たまにはいいこと言うじゃねぇか」
背後から足音と共にククールが現れた。
隣にはヤンガスもいる。
レイラがいないところを見ると、あの子はまだ眠っているらしい。
力を使い果たしているから、今はしっかり休んでほしいところだ。
「アッシと出会った頃の姉貴は、あんなふうじゃなかったでがす。トロデーン城でのつらいことなんか感じさせねぇくらい、元気いっぱいだったでげすよ」
「私と出会った時もそうだったわよ。海で暴れてた魔物を倒す時だって、カルパッチョにするとか何とか言ってたくらいだもの。……今にして思えば、自分に発破をかけてたのよね、あれ」
「俺が仲間になった時もそんな感じだったぞ。……まぁ、きっかけはリブルアーチだったんだろうけどよ」
元聖堂騎士団らしく祈りを捧げて、ククールはさっさと教会を出ていった。
僕とゼシカも教会を出ることにしたから、ヤンガスも慌ててついてきて……。
こちらに向かってくるレイラが見えたから、ヤンガスが「姉貴ー!」と手を振った。
「エッ私もしかしてめっちゃ寝坊した!?」
「してないわよ、私たちが早起きしすぎただけ」
「姉貴はお疲れでがしたから、寝かせておこうって話になってたんでがすよ」
「良かった〜! 私が爆睡してたせいで出発が遅れたとかだったら、申し訳なさすぎて地面に埋まるまで頭下げるとこだった」
「逆に怖いよそれは」
レイラもすぐに教会に入っていって、しばらくしてから飛び出してきた。
そんなに急いでお祈りしなくてもよかったのに。
宿屋へ向かう途中、城下町の様子をさりげなく観察してみたけれど、やっぱりみんな浮かない顔だ。
あの赤く染まった空のせいだろう。
「朝食を食べたら、出発しよう」
「今日は腹一杯食っておくでがす!」
「そうね。腹が減ってはなんとやら、だわ」
「食いすぎて動けなくならないようにな」
「なぜそこで私を見た?」
「大丈夫だよククール。近衛兵だから、レイラも塩梅はよく分かってる」
「……そうなんだよな……」
「まだ私が近衛兵だってイメージないのか……」
「申し訳ないけど私も想像つかないわ」
「なんでぇ!?」
「胸に手を当てて自分の心に聞いてみろ」
律儀に胸に手を当てたレイラが、怪訝そうに首を傾げる。
自分の心に聞いても分からなかったみたいだ。
「分かんないってさ」とククールに正直に答えたレイラは、ククールの呆れるような視線から逃れようと、僕の後ろにそっと移動した。
そんなレイラも可愛いなぁ、なんて思ってしまう僕は、かなり重症かもしれない。
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