61章
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どうやら三角谷は、崖をくり抜いて建物にしているらしい。
吊り橋を渡って正面にあるカーテンを開けて、崖の中に入ると──そこは酒場であるらしかった。
酒場にはリップスがいて、陛下を見るなり「ンまぁ!!」と甲高い声を上げた。
「いい男ねぇ! あんまりカッコいいからアタシ、チューしちゃおうかしら!」
「や、やめんか! 何故お主のチューなぞ受けねばならん!」
「ンまぁ!! それじゃあアタシのぱふぱふがお望みなのネ!? イヤン、男はみんなオオカミねぇ!」
「オウェ……」
「ククールしっかり!!」
ククールが嘔吐いて外へ走り去っていった。
付き添いはエイトだ、可哀想に。
ところでぱふぱふって……胸どこにあんのよ。
やれやれと肩を竦めつつ、壁際に並んでいる樽を覗き込む。
……エルフの飲み薬とか小さなメダルとか見つけちゃったけど、管理が雑すぎん?
宝箱に入ってるようなシロモノだぞ、これ。
外の空気を吸って落ち着いたらしいククールとエイトが戻ってきたので、散策再開。
陛下は早速バーカウンターに居座ることにしたようだ。
なんとまぁマスターのど真ん前を陣取るのだから、飲む気満々である。
「おや? 見かけない顔ですね。この谷に来たからには、三角谷名物のカクテルを飲まない手はありませんよ。ピュア・ギガンテスというカクテルですが、一杯九ゴールドです。飲まれますか?」
「ほほう? それほど言うなら、一ついただこうではないか」
「ありがとうございます。ではすぐにお作りしますので、少々お待ちください」
マスターはそう言って慣れた手つきでカクテルを作り、銀製のゴブレットに注いで陛下の前に差し出した。
兵士上がりで安酒しか飲んだことない私からすると、もう見た目から既に美味しそう。
「こちらがピュア・ギガンテスでございます」
「うははは。わしが酒好きと一発で見抜くとは、お前さん、流石にプロじゃのう。いただくぞ」
陛下がご機嫌な様子でゴブレットを傾ける。
パルミドでは泣きながら安酒を飲んでいたから、三角谷で美味しいお酒を味わえることが嬉しいみたいだ。
九ゴールドなら、あとで私達も飲んでみてもいいかも?
「……む?」
一口飲んだ陛下は、驚いたように目を丸くした。
そんなに意外な味だったのかな。
カクテルなんて洒落たお酒は飲まないから、私じゃ味の善し悪しは分かんないけど。
「驚いたわい! 主人! こいつは美味い酒じゃのう!」
「お喜びいただけて幸いです。それではお酒のお供に、ここ三角谷の発祥の話でも致しましょうか」
「おお、わしはこいつをチビチビと楽しんでおるから、適当にやっててくれ」
陛下はそう言ってカクテルをグビグビ飲んだ。
チビチビの勢いじゃなかったけど、悪酔いしたって私は知らない。
……主君だから、酔い潰れた時の介抱はエイトがやるでしょ!
「ではさっそく……。事の始まりは、今から数百年も前に遡ります。八賢者の一人であるクーパス様は、旅の途中、傷ついたエルフとギガンテスをお助けになったのです。恩を感じたエルフとギガンテスは、それ以来、クーパス様のお供として、その旅に同行しました。しかし、人間とエルフと魔物は、寿命が違うもの。時が経ち、クーパス様は天寿を全うされました。残されたエルフとギガンテスは、クーパス様のご遺志を後世に残そうと、この谷に集落を作ったのです。そんな経緯もあって、この谷では人間と魔物とエルフが仲良く暮らしているのですよ」
かつての大呪術師クーパスは、力をハワード一族に譲り渡した後、どこへともなく去ってしまった、と初代ハワードは手記に残していた。
エルフとギガンテスは、力を失った後のクーパスに助けられたんだろう。
人徳のなせる技だ、さすが賢者と呼ばれるだけはある。
「クーパス様のご遺志とは、世界を襲った暗黒神ラプソーンの恐怖を、人々の記憶から消さないこと。なのでこの谷の者たちは、訪れ来る旅人に必ず、暗黒神の恐怖を語るのです」
「ほうほう。そうかそうか。なるほどのう。そんなことがのう。それにしてもこの酒は美味いのう」
「大事な話だったのに聞いてなかったな?」
「暗黒神の力と一番関わってるはずなのにね?」
「陛下にとって、美味しいお酒の前ではその辺はちょっと霞むんだよ……」
なんとも悲しいフォローだ。
こんなに自分で言って虚しくなる発言もないぞ。
エイトもなんとも言えない顔をしている。
まぁ私たちはちゃんと聞いてたから、いいってことにしておこう。
「……ふむ。いや美味かった! こんな森の奥深くまで来た甲斐があったわい」
「あとで俺たちもいただいてみるか?」
「そうでがすな。アッシもなんだか気になってきちまいやした」
「トロデ王はこのまま酒場に残られますか? 僕かレイラがお供しますが……」
「む? このような場所でわしが危険な目に遭うはずなかろう。お主らはこの集落で、引き続き情報を集めてくるとよい」
「それじゃあ、いくらか酒代をお渡ししておきます。しばらくのあいだ、御前を失礼しますね。マスター、この方をよろしくお願いします」
「承知致しました」
丁寧に一礼したマスターに見送られながら、私たちは酒場を後にした。
酒場から階段を降りると、そこはゴールド銀行。
行員はなんとスライムベスだ。
へーすごい、と思いつつ更に階段を降りると、そこにはオークと鬼面道士と大目玉が店を構えていた。
その向かい側には人間の女性が宿屋を営んでいる。
……すごいところだな、三角谷って。
オークの店は武器屋。
というわけで、品物を見せてもらうことにした。
見たところ買い換えてもいいかなと思えるのは、吹雪の剣とビッグボウガンだ。
ビッグボウガンって確か、ケイロンの弓と錬金したらよかったんじゃなかったっけ?
「て、手持ちのお金が足りない」
「エイト! ゴールド銀行あるよ! 下ろしてくる!」
階段を上がってスライムベスのところへ。
お金を十万ゴールドほど下ろして、エイトのところへと戻った。
ひとまずビッグボウガンをお買い上げして、次は大目玉の防具屋へ。
防具を新調できる人は買い換えたり、錬金したりして、なんやかんやありつつ、無事にお金が飛んでいった。
「どうやらここは、チェルスが暮らしていた場所らしいな」
ククールが宿屋にいたアークデーモンを見やりつつ言った。
三角谷の魔物たちの話を聞く限り、チェルスさんは少し前までここに住んでいたようだ。
谷の住人たちは、チェルスさんが一人前になった時に、血筋のことを教えるつもりだったらしいけど……。
彼はそれを待たずに、三角谷を去ってしまい、そしてリブルアーチで──。
ハワード邸で話した時、半年間ほど放浪していたと言っていたから、ここを発ったのはおよそ一年くらい前か。
……なんやかんや、私たちって一年近く旅をしてるんだな。
吊り橋を渡って正面にあるカーテンを開けて、崖の中に入ると──そこは酒場であるらしかった。
酒場にはリップスがいて、陛下を見るなり「ンまぁ!!」と甲高い声を上げた。
「いい男ねぇ! あんまりカッコいいからアタシ、チューしちゃおうかしら!」
「や、やめんか! 何故お主のチューなぞ受けねばならん!」
「ンまぁ!! それじゃあアタシのぱふぱふがお望みなのネ!? イヤン、男はみんなオオカミねぇ!」
「オウェ……」
「ククールしっかり!!」
ククールが嘔吐いて外へ走り去っていった。
付き添いはエイトだ、可哀想に。
ところでぱふぱふって……胸どこにあんのよ。
やれやれと肩を竦めつつ、壁際に並んでいる樽を覗き込む。
……エルフの飲み薬とか小さなメダルとか見つけちゃったけど、管理が雑すぎん?
宝箱に入ってるようなシロモノだぞ、これ。
外の空気を吸って落ち着いたらしいククールとエイトが戻ってきたので、散策再開。
陛下は早速バーカウンターに居座ることにしたようだ。
なんとまぁマスターのど真ん前を陣取るのだから、飲む気満々である。
「おや? 見かけない顔ですね。この谷に来たからには、三角谷名物のカクテルを飲まない手はありませんよ。ピュア・ギガンテスというカクテルですが、一杯九ゴールドです。飲まれますか?」
「ほほう? それほど言うなら、一ついただこうではないか」
「ありがとうございます。ではすぐにお作りしますので、少々お待ちください」
マスターはそう言って慣れた手つきでカクテルを作り、銀製のゴブレットに注いで陛下の前に差し出した。
兵士上がりで安酒しか飲んだことない私からすると、もう見た目から既に美味しそう。
「こちらがピュア・ギガンテスでございます」
「うははは。わしが酒好きと一発で見抜くとは、お前さん、流石にプロじゃのう。いただくぞ」
陛下がご機嫌な様子でゴブレットを傾ける。
パルミドでは泣きながら安酒を飲んでいたから、三角谷で美味しいお酒を味わえることが嬉しいみたいだ。
九ゴールドなら、あとで私達も飲んでみてもいいかも?
「……む?」
一口飲んだ陛下は、驚いたように目を丸くした。
そんなに意外な味だったのかな。
カクテルなんて洒落たお酒は飲まないから、私じゃ味の善し悪しは分かんないけど。
「驚いたわい! 主人! こいつは美味い酒じゃのう!」
「お喜びいただけて幸いです。それではお酒のお供に、ここ三角谷の発祥の話でも致しましょうか」
「おお、わしはこいつをチビチビと楽しんでおるから、適当にやっててくれ」
陛下はそう言ってカクテルをグビグビ飲んだ。
チビチビの勢いじゃなかったけど、悪酔いしたって私は知らない。
……主君だから、酔い潰れた時の介抱はエイトがやるでしょ!
「ではさっそく……。事の始まりは、今から数百年も前に遡ります。八賢者の一人であるクーパス様は、旅の途中、傷ついたエルフとギガンテスをお助けになったのです。恩を感じたエルフとギガンテスは、それ以来、クーパス様のお供として、その旅に同行しました。しかし、人間とエルフと魔物は、寿命が違うもの。時が経ち、クーパス様は天寿を全うされました。残されたエルフとギガンテスは、クーパス様のご遺志を後世に残そうと、この谷に集落を作ったのです。そんな経緯もあって、この谷では人間と魔物とエルフが仲良く暮らしているのですよ」
かつての大呪術師クーパスは、力をハワード一族に譲り渡した後、どこへともなく去ってしまった、と初代ハワードは手記に残していた。
エルフとギガンテスは、力を失った後のクーパスに助けられたんだろう。
人徳のなせる技だ、さすが賢者と呼ばれるだけはある。
「クーパス様のご遺志とは、世界を襲った暗黒神ラプソーンの恐怖を、人々の記憶から消さないこと。なのでこの谷の者たちは、訪れ来る旅人に必ず、暗黒神の恐怖を語るのです」
「ほうほう。そうかそうか。なるほどのう。そんなことがのう。それにしてもこの酒は美味いのう」
「大事な話だったのに聞いてなかったな?」
「暗黒神の力と一番関わってるはずなのにね?」
「陛下にとって、美味しいお酒の前ではその辺はちょっと霞むんだよ……」
なんとも悲しいフォローだ。
こんなに自分で言って虚しくなる発言もないぞ。
エイトもなんとも言えない顔をしている。
まぁ私たちはちゃんと聞いてたから、いいってことにしておこう。
「……ふむ。いや美味かった! こんな森の奥深くまで来た甲斐があったわい」
「あとで俺たちもいただいてみるか?」
「そうでがすな。アッシもなんだか気になってきちまいやした」
「トロデ王はこのまま酒場に残られますか? 僕かレイラがお供しますが……」
「む? このような場所でわしが危険な目に遭うはずなかろう。お主らはこの集落で、引き続き情報を集めてくるとよい」
「それじゃあ、いくらか酒代をお渡ししておきます。しばらくのあいだ、御前を失礼しますね。マスター、この方をよろしくお願いします」
「承知致しました」
丁寧に一礼したマスターに見送られながら、私たちは酒場を後にした。
酒場から階段を降りると、そこはゴールド銀行。
行員はなんとスライムベスだ。
へーすごい、と思いつつ更に階段を降りると、そこにはオークと鬼面道士と大目玉が店を構えていた。
その向かい側には人間の女性が宿屋を営んでいる。
……すごいところだな、三角谷って。
オークの店は武器屋。
というわけで、品物を見せてもらうことにした。
見たところ買い換えてもいいかなと思えるのは、吹雪の剣とビッグボウガンだ。
ビッグボウガンって確か、ケイロンの弓と錬金したらよかったんじゃなかったっけ?
「て、手持ちのお金が足りない」
「エイト! ゴールド銀行あるよ! 下ろしてくる!」
階段を上がってスライムベスのところへ。
お金を十万ゴールドほど下ろして、エイトのところへと戻った。
ひとまずビッグボウガンをお買い上げして、次は大目玉の防具屋へ。
防具を新調できる人は買い換えたり、錬金したりして、なんやかんやありつつ、無事にお金が飛んでいった。
「どうやらここは、チェルスが暮らしていた場所らしいな」
ククールが宿屋にいたアークデーモンを見やりつつ言った。
三角谷の魔物たちの話を聞く限り、チェルスさんは少し前までここに住んでいたようだ。
谷の住人たちは、チェルスさんが一人前になった時に、血筋のことを教えるつもりだったらしいけど……。
彼はそれを待たずに、三角谷を去ってしまい、そしてリブルアーチで──。
ハワード邸で話した時、半年間ほど放浪していたと言っていたから、ここを発ったのはおよそ一年くらい前か。
……なんやかんや、私たちって一年近く旅をしてるんだな。
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