59章
夢小説設定
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私の手から剣が落ちる。
戸惑うエイトの顔をぺたぺた触って、震える手で首筋の脈をなぞった。
……あったかい、生きてる。
エイトが生きてる……よかった、よかったぁ……。
「レイラ? ど、どうしたの?」
「覚えてないか? お前、一回だけ死んだんだぞ」
「レイラがザオリクで生き返らせてくれたの。この子、戦ってる時だっていうのに、すごい取り乱し様だったんだから」
「……じゃああれは、走馬灯……?」
不思議な言葉を口にしたエイトが、考え込んでいた顔を上げる。
壁際では、気を失ったままのユッケをフォーグが抱き起こしていた。
そういえばフォーグには、ユッケは気を失ってるだけだって教えてなかった気がする。
「ああ、妹よ。この兄のために、尊い命を投げ出してくれたこと、私は一生忘れない……。だが安心してくれ。父さんの後は、私が立派に継いでみせるからな。お前も天国で父さんと一緒に見守っていておくれ……」
いや死んでない死んでない。
抱き起こしてるなら分かるだろ、死んでたら体が温かいはずないんだよ。
ブラックジョークもいい加減にしろっての。
その時、パッとユッケの目が開いたかと思うと、フォーグの顔に左ストレートが見事に決まった。
「冗談じゃないわ! 勝手に殺さないでよ!」
「いたた……。なんだ、元気じゃないか。心配して損したな……」
「なんだじゃないわよ! 眠り薬なんかであたしを出し抜いて。こんな勝負、無効よ無効! それに間に合ったから良かったものの、お兄ちゃん、もう少しで死ぬとこだったんだよ!」
「……すまなかった」
おや、珍しく素直に謝るものだ。
もう少し言い訳を並べてくるかと思ったけど、どうやら懲りたようだ。
「どうしてもお前に勝って、兄の威厳を示したかったんだ。だが、それももういい。卑怯な手を使った私を、身体を張ってまで守ってくれたお前こそ、後継ぎとして相応しい」
「え!? どういうことよ?」
「家長の座は譲るよ。子供じみた意地の張り合いは、これで最後にしようじゃないか」
うーん、なんというか、収まるべきところに収まった感じだな。
我々としては報酬がもらえるならどっちが家長でもいいんだけど。
でもフォーグも予想外だったのかな、ユッケが身体を張って助けに入るなんて。
それもまあ、護衛を置いて先に一人で突っ走ったフォーグが悪いといえば、その通りなんだけど。
「さて、ここから試練の扉まであと少しのはずだ。護衛の君たちもついてきてくれたまえ」
二人はそう言って、遺跡の中の通路を歩いていく。
私達もその後ろからついて行くと、最奥には大きな扉があった。
これが試練の扉か……。
……なんか、扉の取っ手、やたら赤くない?
「ふーん。この扉を開けば、家長の印が手に刻まれるってわけね」
ユッケがそう言って扉の取っ手に手を触れる。
瞬間、ジュッ……と焼ける音がした。
「あち! な、なんなのよ、この扉! こんなの熱くて開けられないよ。てゆーか絶対火傷するし!」
「この扉を開くことによって出来た火傷の痕こそ、家長の証さ。きっと痛みに耐えるのが試練なんだ」
「そんな……これって両開きでしょ? 片方開けるだけでも精一杯だよ。ひとりで両方開けるなんて無理だよ」
「え……なにそれ拷問……?」
「レイラ、シッ!」
「空気を読もうな、大人のレディー」
「ククールは馬鹿にしとるだろ」
本当にお前って奴はよ。
それはそれとして、これを開けるのが試練ってことは、両手を火傷しながら開けなきゃいけないってことだよね?
やっぱ西の大陸に住んでる人たち、ちょっとずつ頭おかしいよ……。
「しょうがないなぁ、もう! こうなったら、仕方ないか……」
火傷しそうな手を振りながら、ユッケはフォーグを見た。
「ねぇ、お兄ちゃん。あたしを出し抜いたこと、悪いと思ってるなら、この扉を開けるの手伝ってよ。手伝ってくれたら、家長の座を半分あげる。つまり、カジノのオーナーは二人でやるってのはどう?」
「ふむ、悪くない条件だな。だが、あとで悔やんでも知らんぞ」
にやりとお互いに笑い合って、二人は扉の前に立つ。
私とゼシカは、知らないうちに手のひらを握り締めてその光景を見つめていた。
だって絶対に熱いし痛いもん……。
なにもそんなことを継承の試練にしなくたってさぁ……。
「じゃ、開くよ。そっちは任せたからね」
「おうよ」
二人は同時に取っ手を握り、そして引っ張った。
じゅうう、と肉を焼く痛々しい音がする。
「あちちち! あちぃ! 痛い痛い! 熱い熱い!」
「なんだ、もう泣き言か? 魔物に殴られたのに比べれば、こんなのどうってことないだろ」
絶対そういうこっちゃないと思うけどな!?
それでも扉は徐々に開かれて、とうとう扉の向こう側がご開帳された。
向こう側にも何かがあるけど……それは近づいてみないと分からない。
「あーあ、しんどかった。早く帰って、手のひらの火傷の手当をしたいよ」
「帰るのはこの奥の部屋で、ご先祖様のお言葉を賜ったあとだ」
二人が部屋の中へ入っていく。
ついて行っていいものか悩んだ私たちへ、ユッケが手招きをしてくれた。
「ほらほら、護衛なんだから、あなた達もついてきなさいよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
私たちが聞いていいものなのかはさておき、雇い主がオーケーを出したんだから、いいよね!
何が聞けるんだろうな、ドキドキだ。
ギャリング家も賢者の家系だったわけだから、ひょっとすると、そういう話が聞けるのかもしれないな。
戸惑うエイトの顔をぺたぺた触って、震える手で首筋の脈をなぞった。
……あったかい、生きてる。
エイトが生きてる……よかった、よかったぁ……。
「レイラ? ど、どうしたの?」
「覚えてないか? お前、一回だけ死んだんだぞ」
「レイラがザオリクで生き返らせてくれたの。この子、戦ってる時だっていうのに、すごい取り乱し様だったんだから」
「……じゃああれは、走馬灯……?」
不思議な言葉を口にしたエイトが、考え込んでいた顔を上げる。
壁際では、気を失ったままのユッケをフォーグが抱き起こしていた。
そういえばフォーグには、ユッケは気を失ってるだけだって教えてなかった気がする。
「ああ、妹よ。この兄のために、尊い命を投げ出してくれたこと、私は一生忘れない……。だが安心してくれ。父さんの後は、私が立派に継いでみせるからな。お前も天国で父さんと一緒に見守っていておくれ……」
いや死んでない死んでない。
抱き起こしてるなら分かるだろ、死んでたら体が温かいはずないんだよ。
ブラックジョークもいい加減にしろっての。
その時、パッとユッケの目が開いたかと思うと、フォーグの顔に左ストレートが見事に決まった。
「冗談じゃないわ! 勝手に殺さないでよ!」
「いたた……。なんだ、元気じゃないか。心配して損したな……」
「なんだじゃないわよ! 眠り薬なんかであたしを出し抜いて。こんな勝負、無効よ無効! それに間に合ったから良かったものの、お兄ちゃん、もう少しで死ぬとこだったんだよ!」
「……すまなかった」
おや、珍しく素直に謝るものだ。
もう少し言い訳を並べてくるかと思ったけど、どうやら懲りたようだ。
「どうしてもお前に勝って、兄の威厳を示したかったんだ。だが、それももういい。卑怯な手を使った私を、身体を張ってまで守ってくれたお前こそ、後継ぎとして相応しい」
「え!? どういうことよ?」
「家長の座は譲るよ。子供じみた意地の張り合いは、これで最後にしようじゃないか」
うーん、なんというか、収まるべきところに収まった感じだな。
我々としては報酬がもらえるならどっちが家長でもいいんだけど。
でもフォーグも予想外だったのかな、ユッケが身体を張って助けに入るなんて。
それもまあ、護衛を置いて先に一人で突っ走ったフォーグが悪いといえば、その通りなんだけど。
「さて、ここから試練の扉まであと少しのはずだ。護衛の君たちもついてきてくれたまえ」
二人はそう言って、遺跡の中の通路を歩いていく。
私達もその後ろからついて行くと、最奥には大きな扉があった。
これが試練の扉か……。
……なんか、扉の取っ手、やたら赤くない?
「ふーん。この扉を開けば、家長の印が手に刻まれるってわけね」
ユッケがそう言って扉の取っ手に手を触れる。
瞬間、ジュッ……と焼ける音がした。
「あち! な、なんなのよ、この扉! こんなの熱くて開けられないよ。てゆーか絶対火傷するし!」
「この扉を開くことによって出来た火傷の痕こそ、家長の証さ。きっと痛みに耐えるのが試練なんだ」
「そんな……これって両開きでしょ? 片方開けるだけでも精一杯だよ。ひとりで両方開けるなんて無理だよ」
「え……なにそれ拷問……?」
「レイラ、シッ!」
「空気を読もうな、大人のレディー」
「ククールは馬鹿にしとるだろ」
本当にお前って奴はよ。
それはそれとして、これを開けるのが試練ってことは、両手を火傷しながら開けなきゃいけないってことだよね?
やっぱ西の大陸に住んでる人たち、ちょっとずつ頭おかしいよ……。
「しょうがないなぁ、もう! こうなったら、仕方ないか……」
火傷しそうな手を振りながら、ユッケはフォーグを見た。
「ねぇ、お兄ちゃん。あたしを出し抜いたこと、悪いと思ってるなら、この扉を開けるの手伝ってよ。手伝ってくれたら、家長の座を半分あげる。つまり、カジノのオーナーは二人でやるってのはどう?」
「ふむ、悪くない条件だな。だが、あとで悔やんでも知らんぞ」
にやりとお互いに笑い合って、二人は扉の前に立つ。
私とゼシカは、知らないうちに手のひらを握り締めてその光景を見つめていた。
だって絶対に熱いし痛いもん……。
なにもそんなことを継承の試練にしなくたってさぁ……。
「じゃ、開くよ。そっちは任せたからね」
「おうよ」
二人は同時に取っ手を握り、そして引っ張った。
じゅうう、と肉を焼く痛々しい音がする。
「あちちち! あちぃ! 痛い痛い! 熱い熱い!」
「なんだ、もう泣き言か? 魔物に殴られたのに比べれば、こんなのどうってことないだろ」
絶対そういうこっちゃないと思うけどな!?
それでも扉は徐々に開かれて、とうとう扉の向こう側がご開帳された。
向こう側にも何かがあるけど……それは近づいてみないと分からない。
「あーあ、しんどかった。早く帰って、手のひらの火傷の手当をしたいよ」
「帰るのはこの奥の部屋で、ご先祖様のお言葉を賜ったあとだ」
二人が部屋の中へ入っていく。
ついて行っていいものか悩んだ私たちへ、ユッケが手招きをしてくれた。
「ほらほら、護衛なんだから、あなた達もついてきなさいよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
私たちが聞いていいものなのかはさておき、雇い主がオーケーを出したんだから、いいよね!
何が聞けるんだろうな、ドキドキだ。
ギャリング家も賢者の家系だったわけだから、ひょっとすると、そういう話が聞けるのかもしれないな。
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