41章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
目が覚めた。
外はもう夜が明けようとしている。
部屋の中も、宿屋の外も、まだ静かな夜の中だ。
明かりを付けることはせず、音を立てずにそっとベッドから出た。
「……」
身支度を整えて、ジャンパースカートの胸元をしっかりとリボンで結ぶ。
道具の入った袋には、裏側にベルトを通す穴があって、そこにベルトを通して腰に巻く作りになっている。
ベルトを着けてバックルを留め、タイツを履いてブーツに足を通した。
緩めていた紐を縛って、解けないようにしっかりと結ぶ。
武器は朝ご飯を食べてからでいいか、と伸ばしかけた手を引っ込め、ベッドに座ってゼシカを見やった。
こちらはまだ眠っていて、起きる気配はない。
今日はドルマゲスとの戦いだ。
負けられない、絶対に。
「……よし」
袋の中の持ち物も確認して、息をゆっくりと吐く。
柄にもなく緊張している。
勝てないとは思いたくないけど……簡単に勝たせてくれる相手でもないだろう。
目を閉じて精神を落ち着かせていたその時、そっとドアが開いた。
「……エイト」
「おはよう、レイラ」
ゼシカを起こさないようにと、エイトは囁くように言って、足音を立てずに部屋に入ってきた。
そうして私の隣に腰掛けて、エイトの手が私の頬を包んだ。
触れるだけのキスをして、手が離れていく。
「おはようのキス?」
「ごちそうさま」
「もう……」
恋人同士になった途端、遠慮がないんだな。
そんなエイトも好きなんだけど。
……昨日のこと、夢じゃなかったんだ。
私、エイトと付き合ってるんだ……。
なんだか現実味がなくて、エイトの顔を見てぼーっとしていると、エイトがいたずらっぽく微笑んだ。
「足りなかった?」
「な、な……!」
「冗談だよ。大きい声出すと、ゼシカが起きちゃうだろ」
「う……。男性陣はもう起きてるの?」
「いや、まだ僕だけ。目が覚めちゃっただけなんだけど……ね」
「そっか。こっちもゼシカがまだ寝てる」
「やっぱり最初に起きるのは僕たちだね」
「身に沁み込んだ習慣はなかなか抜けるもんじゃないよ」
「損してると思う?」
「ううん、思わない。特に今は。エイトと同じ時間がたくさん過ごせるから」
言葉に詰まって、エイトは私を抱きしめてきた。
「そうやって可愛いこと言って……」と呟くエイトの声は、呆れているような色だった。
呆れられるようなことを言ったつもりはなかったんだけどな。
「呆れてる?」
「違う。……可愛すぎて困ってる」
「ええ……?」
いよいよ謎だよ。
私が可愛すぎて困るとか、本当にエイトには私がどう見えているんだ。
もちろんエイトがお世辞を言うとは思っていないから、本心なんだろうけど。
……本心だからこそ戸惑ってしまうというか。
私を抱き締めるエイトの背中をぽんぽんと撫でる。
顔をゆっくりと持ち上げたエイトの瞳が私を捉えたとき、エイトの指が私の唇をなぞった。
「……いい?」
「ダメ」
エイトの唇を人差し指で制する。
戸惑うように眉尻を下げたエイトが、どうして、と囁く。
その囁き声は今の私にめちゃくちゃ効くからやめてほしい。
「お楽しみがあったほうが、生きて帰ろうと思えるでしょ?」
「一回だけ……」
「……仕方ないなあ」
まだまだだな、私も。
なんて心の中で思いながら、そっと目を閉じた
唇が重なって、しばらくそのままで……。
不意に、名残惜しげにその唇が離れた。
「続きは城に帰ってからにするよ」
「……エイトのバカ」
私はそう呟いて、エイトの胸に顔を埋めた。
なーにが「続きは城に帰ってから」だ。
どうせ城に戻ったら、トロデーン復活の宴が始まるに決まってる。
「ちょっと散歩しない? 落ち着かなくて」
「それくらいなら付き合ってあげる」
「ふふ、ありがとう。行こうか」
エイトに手を取られて、そっと部屋を抜け出した。
宿屋を出ると、先程よりは空が明るい。
早朝という雰囲気が出始めていて、向こうに見えるサザンビーク城の中は、既に灯りがついていた。
「……ここまで長かったな」
「そうだね。トラペッタでユリマさんとルイネロさん親子の仲を取り持って、リーザス村では盗賊扱いされかけて」
「ゼシカを追いかけた先のポルトリンクで、オセアーノンと戦わされたりね。結局、オセアーノンをカルパッチョに出来なかったみたいだけど」
「喋るイカをカルパッチョにするのは嫌だったから、まぁ……」
気合いでどうにか乗り越えたけど、流石にあんなデカいイカを相手にするのはあれが最後にしてほしい。
こちとら大王イカのサイズで悲鳴を上げている弱者なので。
「その後まさか、廃墟に潜る羽目になるとはな……」
「本当に怖かっただろ? よく頑張ったよ」
「エイトがついててくれたから、どうにか。私一人だったら絶対に無理だった」
「実はあの時、役得だなって思ってたんだ。レイラが僕を頼ってくれて、ずっと手を繋いで歩けたから。レイラの幼馴染みで良かったって」
「ひ、人が本気で恐怖と戦ってるって時に……」
「ごめんね、もう言わない。……不思議な丘の景色は綺麗だったな」
「めっちゃ良かったよね、頑張って山登りした甲斐があったなって思ったもん」
「うん。あの景色をレイラと見られて良かった。あの時、レイラもそう言ってくれたから、今なら伝えられるんじゃないかって思って、告白しようとしたんだけど……。月影の窓に邪魔されて」
「あ、そうだったの!? 何を言おうとしたのかなって気になったけど、月影の窓のインパクトが大きすぎて、吹っ飛んじゃった。ごめん」
エイトは苦笑いをして首を振った。
本人もあれは勢いを削がれてしまって、タイミングを逃した形になってしまったんだろうな。
ともかく私たちは、二年間も失意に染まったアスカンタ国王のパヴァン王を立ち直らせ、パルミドヘ向かったわけだけど。
「まさか私がぶっ倒れるとは思いもしなかった」
「急に霊導の力が目覚めたんだっけ」
「いや本当にびっくり。そんなすごい人の末裔だとは……」
「パルミドはいい思い出がないな。ミーティア姫は攫われるし、阻止しようとしたレイラは怪我させられるし、姫はそのまま買われて連れ去られるし」
「ゲルダさんも悪い人じゃなかったんだけどね。あそこで姫様を救出しないと、呪いが解けたらゲルダさん、人身売買に手を染めたことになっちゃうから……」
「そのために剣士像の洞窟に行って、ビーナスの涙を取ってきて……。ヤンガスが格好よかった」
「ね! 漢を感じたよ……」
ところがどっこい、ドルマゲスは西の大陸に向かったと聞いたものの、定期船が出ておらず西の大陸へ向かえないという大ピンチ。
足止めかと思われたものの、ポルトリンク近くの荒野に、打ち捨てられた古代船があるとの話。
その船を手に入れるために──。
「次に帰るときは、ドルマゲスを倒した時だって思ってたけど。意外と早い帰郷になっちゃったね」
「……うん」
少し前まで一緒に働いていた仲間が、物言わぬまま茨に呪われ、静かに佇む城内。
生きているのかと確かめようとすると、トゲが指に刺さって血が滲んで……。
結局のところ、生死は分からないままだ。
「……ドン・モグーラもまぁ、強烈なキャラだったな」
「二度と聴きたくないよ、芸術スペシャル。なにあれほんとに」
「なん……だったんだろうな……」
エイトは遠い目をしてそう言った。
考えたくないというのが本音だろう、気持ちはとてもよく分かる。
そうして船を手に入れて、私たちはここ西の大陸にやってきた。
既に犠牲になってしまっていたギャリングさん、その仇を討つために北の孤島へやってきたという手下の三人……。
彼らの言う魔法の鏡の手がかりを元に、私たちはサザンビークまでやってきて、鏡をやる代わりにチャゴス王子の儀式を手伝えと言われて……。
「長かったよ、本当に」
「うん、長かったね」
「……この旅が終わったら、レイラはどうする? やっぱり一人で旅に出てしまうの」
「そうしようかなとも考えたけど……やめた! エイトが寂しがりそうだからね。しょうがないから、一緒にトロデーン城で働いてやんよ!」
「うん。嬉しい。置いていかれたらどうしようかと思った。意地でも追いかけてやろうかなって」
「二人旅かぁ、それもいいな」
「ミーティア姫が寂しがりそうだな」
「それはそうかも」
じゃあどこにも行けないな。
私がそう呟くと、エイトは小さく吹き出した。
くすくすと肩を揺らして、エイトが私の肩を抱き寄せる。
「どこにも行かないで」
「どっか行く時は一緒に連れてけって言うんでしょ。エイトは本当に私のこと好きだなぁ」
「そりゃあ、十年近い片想いだから」
なんというか、未だにそれを言われるとむず痒く感じるのだけれど。
でも悪い気はしないから、私は「ふうん」と頷くだけだ。
空はすっかり朝になっていて、太陽も顔を見せていた。
家々の灯りがつき始めると、町の目覚めが訪れる。
その中を、私とエイトはのんびり歩いて、宿屋へと戻っていった。
外はもう夜が明けようとしている。
部屋の中も、宿屋の外も、まだ静かな夜の中だ。
明かりを付けることはせず、音を立てずにそっとベッドから出た。
「……」
身支度を整えて、ジャンパースカートの胸元をしっかりとリボンで結ぶ。
道具の入った袋には、裏側にベルトを通す穴があって、そこにベルトを通して腰に巻く作りになっている。
ベルトを着けてバックルを留め、タイツを履いてブーツに足を通した。
緩めていた紐を縛って、解けないようにしっかりと結ぶ。
武器は朝ご飯を食べてからでいいか、と伸ばしかけた手を引っ込め、ベッドに座ってゼシカを見やった。
こちらはまだ眠っていて、起きる気配はない。
今日はドルマゲスとの戦いだ。
負けられない、絶対に。
「……よし」
袋の中の持ち物も確認して、息をゆっくりと吐く。
柄にもなく緊張している。
勝てないとは思いたくないけど……簡単に勝たせてくれる相手でもないだろう。
目を閉じて精神を落ち着かせていたその時、そっとドアが開いた。
「……エイト」
「おはよう、レイラ」
ゼシカを起こさないようにと、エイトは囁くように言って、足音を立てずに部屋に入ってきた。
そうして私の隣に腰掛けて、エイトの手が私の頬を包んだ。
触れるだけのキスをして、手が離れていく。
「おはようのキス?」
「ごちそうさま」
「もう……」
恋人同士になった途端、遠慮がないんだな。
そんなエイトも好きなんだけど。
……昨日のこと、夢じゃなかったんだ。
私、エイトと付き合ってるんだ……。
なんだか現実味がなくて、エイトの顔を見てぼーっとしていると、エイトがいたずらっぽく微笑んだ。
「足りなかった?」
「な、な……!」
「冗談だよ。大きい声出すと、ゼシカが起きちゃうだろ」
「う……。男性陣はもう起きてるの?」
「いや、まだ僕だけ。目が覚めちゃっただけなんだけど……ね」
「そっか。こっちもゼシカがまだ寝てる」
「やっぱり最初に起きるのは僕たちだね」
「身に沁み込んだ習慣はなかなか抜けるもんじゃないよ」
「損してると思う?」
「ううん、思わない。特に今は。エイトと同じ時間がたくさん過ごせるから」
言葉に詰まって、エイトは私を抱きしめてきた。
「そうやって可愛いこと言って……」と呟くエイトの声は、呆れているような色だった。
呆れられるようなことを言ったつもりはなかったんだけどな。
「呆れてる?」
「違う。……可愛すぎて困ってる」
「ええ……?」
いよいよ謎だよ。
私が可愛すぎて困るとか、本当にエイトには私がどう見えているんだ。
もちろんエイトがお世辞を言うとは思っていないから、本心なんだろうけど。
……本心だからこそ戸惑ってしまうというか。
私を抱き締めるエイトの背中をぽんぽんと撫でる。
顔をゆっくりと持ち上げたエイトの瞳が私を捉えたとき、エイトの指が私の唇をなぞった。
「……いい?」
「ダメ」
エイトの唇を人差し指で制する。
戸惑うように眉尻を下げたエイトが、どうして、と囁く。
その囁き声は今の私にめちゃくちゃ効くからやめてほしい。
「お楽しみがあったほうが、生きて帰ろうと思えるでしょ?」
「一回だけ……」
「……仕方ないなあ」
まだまだだな、私も。
なんて心の中で思いながら、そっと目を閉じた
唇が重なって、しばらくそのままで……。
不意に、名残惜しげにその唇が離れた。
「続きは城に帰ってからにするよ」
「……エイトのバカ」
私はそう呟いて、エイトの胸に顔を埋めた。
なーにが「続きは城に帰ってから」だ。
どうせ城に戻ったら、トロデーン復活の宴が始まるに決まってる。
「ちょっと散歩しない? 落ち着かなくて」
「それくらいなら付き合ってあげる」
「ふふ、ありがとう。行こうか」
エイトに手を取られて、そっと部屋を抜け出した。
宿屋を出ると、先程よりは空が明るい。
早朝という雰囲気が出始めていて、向こうに見えるサザンビーク城の中は、既に灯りがついていた。
「……ここまで長かったな」
「そうだね。トラペッタでユリマさんとルイネロさん親子の仲を取り持って、リーザス村では盗賊扱いされかけて」
「ゼシカを追いかけた先のポルトリンクで、オセアーノンと戦わされたりね。結局、オセアーノンをカルパッチョに出来なかったみたいだけど」
「喋るイカをカルパッチョにするのは嫌だったから、まぁ……」
気合いでどうにか乗り越えたけど、流石にあんなデカいイカを相手にするのはあれが最後にしてほしい。
こちとら大王イカのサイズで悲鳴を上げている弱者なので。
「その後まさか、廃墟に潜る羽目になるとはな……」
「本当に怖かっただろ? よく頑張ったよ」
「エイトがついててくれたから、どうにか。私一人だったら絶対に無理だった」
「実はあの時、役得だなって思ってたんだ。レイラが僕を頼ってくれて、ずっと手を繋いで歩けたから。レイラの幼馴染みで良かったって」
「ひ、人が本気で恐怖と戦ってるって時に……」
「ごめんね、もう言わない。……不思議な丘の景色は綺麗だったな」
「めっちゃ良かったよね、頑張って山登りした甲斐があったなって思ったもん」
「うん。あの景色をレイラと見られて良かった。あの時、レイラもそう言ってくれたから、今なら伝えられるんじゃないかって思って、告白しようとしたんだけど……。月影の窓に邪魔されて」
「あ、そうだったの!? 何を言おうとしたのかなって気になったけど、月影の窓のインパクトが大きすぎて、吹っ飛んじゃった。ごめん」
エイトは苦笑いをして首を振った。
本人もあれは勢いを削がれてしまって、タイミングを逃した形になってしまったんだろうな。
ともかく私たちは、二年間も失意に染まったアスカンタ国王のパヴァン王を立ち直らせ、パルミドヘ向かったわけだけど。
「まさか私がぶっ倒れるとは思いもしなかった」
「急に霊導の力が目覚めたんだっけ」
「いや本当にびっくり。そんなすごい人の末裔だとは……」
「パルミドはいい思い出がないな。ミーティア姫は攫われるし、阻止しようとしたレイラは怪我させられるし、姫はそのまま買われて連れ去られるし」
「ゲルダさんも悪い人じゃなかったんだけどね。あそこで姫様を救出しないと、呪いが解けたらゲルダさん、人身売買に手を染めたことになっちゃうから……」
「そのために剣士像の洞窟に行って、ビーナスの涙を取ってきて……。ヤンガスが格好よかった」
「ね! 漢を感じたよ……」
ところがどっこい、ドルマゲスは西の大陸に向かったと聞いたものの、定期船が出ておらず西の大陸へ向かえないという大ピンチ。
足止めかと思われたものの、ポルトリンク近くの荒野に、打ち捨てられた古代船があるとの話。
その船を手に入れるために──。
「次に帰るときは、ドルマゲスを倒した時だって思ってたけど。意外と早い帰郷になっちゃったね」
「……うん」
少し前まで一緒に働いていた仲間が、物言わぬまま茨に呪われ、静かに佇む城内。
生きているのかと確かめようとすると、トゲが指に刺さって血が滲んで……。
結局のところ、生死は分からないままだ。
「……ドン・モグーラもまぁ、強烈なキャラだったな」
「二度と聴きたくないよ、芸術スペシャル。なにあれほんとに」
「なん……だったんだろうな……」
エイトは遠い目をしてそう言った。
考えたくないというのが本音だろう、気持ちはとてもよく分かる。
そうして船を手に入れて、私たちはここ西の大陸にやってきた。
既に犠牲になってしまっていたギャリングさん、その仇を討つために北の孤島へやってきたという手下の三人……。
彼らの言う魔法の鏡の手がかりを元に、私たちはサザンビークまでやってきて、鏡をやる代わりにチャゴス王子の儀式を手伝えと言われて……。
「長かったよ、本当に」
「うん、長かったね」
「……この旅が終わったら、レイラはどうする? やっぱり一人で旅に出てしまうの」
「そうしようかなとも考えたけど……やめた! エイトが寂しがりそうだからね。しょうがないから、一緒にトロデーン城で働いてやんよ!」
「うん。嬉しい。置いていかれたらどうしようかと思った。意地でも追いかけてやろうかなって」
「二人旅かぁ、それもいいな」
「ミーティア姫が寂しがりそうだな」
「それはそうかも」
じゃあどこにも行けないな。
私がそう呟くと、エイトは小さく吹き出した。
くすくすと肩を揺らして、エイトが私の肩を抱き寄せる。
「どこにも行かないで」
「どっか行く時は一緒に連れてけって言うんでしょ。エイトは本当に私のこと好きだなぁ」
「そりゃあ、十年近い片想いだから」
なんというか、未だにそれを言われるとむず痒く感じるのだけれど。
でも悪い気はしないから、私は「ふうん」と頷くだけだ。
空はすっかり朝になっていて、太陽も顔を見せていた。
家々の灯りがつき始めると、町の目覚めが訪れる。
その中を、私とエイトはのんびり歩いて、宿屋へと戻っていった。
1/5ページ
