27章
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モグラたちのアジトから外へ出たところで、エイトがルーラを唱えた。
アスカンタ城に戻ってきた私たちは、そのまま急いで王宮の中へ。
玉座の間へと向かうと、なんと今の今まで会議中だった!
そんなことある!?
「皆さん! お待たせしました! これより討伐隊を……」
「それが、斯々然々 でハープがここに」
「ええっ!? 宝物庫を荒らした盗賊を退治し、月影のハープを取り戻したのですか!? どうしてそんな危ない真似を!?」
「全部説明してくれるじゃん」
「盗賊というかなんというか、盗賊といえば盗賊なんですが……」
「迷うところはそこじゃないだろ」
ククールの冷静な一言にゼシカと私は無言で頷いた。
たしかに優しく賢い方ではあるんだろうけど、優柔不断というか、なんと言うか……。
「いや、しかし……。さすが、と言うべきですね。まさか我々より先に月影のハープを取り戻すとは。重ね重ね、皆さんにはご迷惑ばかりおかけして、まことに申し訳なく思います。ですがとにかく、皆さんがご無事で、そしてハープが戻ってきてよかった。約束通り、そのハープは皆さんに差し上げます。どうかこの先の旅もお気を付けて。皆さんのご無事を祈っています」
パヴァン王に見送られて、私たちは頭を下げつつ玉座の間を、そしてアスカンタ城を後にした。
さあ、あとはこれを、トロデーンの月影の窓からイシュマウリに渡すだけだ。
「それじゃあトロデーンに向かって、レッツ──」
「宿屋で夜まで休憩するわよ」
「なんでぇ!?」
「月影の窓は夜にしか現れないからだよ」
……そうでした。
今めちゃくちゃ夕方でした。
恥ずかしいやら何やらで皆の後ろを歩いていると、こちらを振り向いたククールが「フッ……」と鼻で笑った。
こ、こいつ〜!!
腹立つ顔しやがってー!!
* * *
とっぷりと日も暮れた夜、私たちは再びトロデーン城へ戻ってきた。
図書館への入口は、前回ここに来た時に開けておいたから、外から直行できる。
「窓の影も壁まで伸びてるね」
「うん。ハープを渡しに行こう」
エイトが月影の窓を開く。
トロデーン城の図書館から、月の世界へ。
イシュマウリのいる家のドアを開けると、イシュマウリはガラス張りの壁越しに外を見ていた。
「数多の月夜を数えたが、これほど時の流れを遠く感じたことはなかった」
私たちが声をかける前に、イシュマウリは外を見つめながらそう呟いた。
そうしてイシュマウリがこちらへと向き直り、静かに微笑む。
「その輝く顔で分かる。見事、月影のハープを見つけてきた。……そうだろう? さあ、見せておくれ。海の記憶を呼び覚ますに相応しい、大いなる楽器を」
エイトが抱えていた月影のハープをイシュマウリへと差し出す。
するとハープはキラキラと輝きながら、ひとりでにイシュマウリの手元へと引き寄せられていった。
イシュマウリの手がハープを受け取り、優しく撫でる。
「……この月影のハープも、随分長い旅をしてきたようだ。そう、君たちのように。よもや再び私の手に戻る時が来るとは。……いや、これ以上はやめておこう。さぁ、荒れ野の船のもとへ。微睡む船を起こし、旅立たせるため、歌を奏でよう」
イシュマウリの手がハープの弦を爪弾く。
瞬きをした次の瞬間、何故か私たちは月の世界ではなく、荒野の船の前にいた。
「え、いつの間に!?」
「アッシたち、いつ月の世界を出たんでがすか?」
「全然分からなかったわ……」
きょろきょろ辺りを見渡す私たちの前で、イシュマウリが静かに微笑んでいる。
そうしてイシュマウリは何も説明しないまま、船の側へと歩いていった。
「これはどういう事じゃ!? わしらはさっきまで……むー!!」
イシュマウリへ詰め寄った陛下を、ヤンガスが口を塞いで連れ戻してきた。
グッジョブ、ヤンガス!!
イシュマウリは船の側へと歩み寄り、そしてそっと船体に手を触れた。
「この船も月影のハープも、そしてこの私も、みな旧き世界に属するもの。礼を言おう。懐かしいものたちに、
こうして巡り合わせてくれたことに」
イシュマウリは船の前で私たちに向かってそう言うと、徐にハープを爪弾いて曲を奏で始めた。
音は魔力となって、荒野に月の光で出来た魚の幻が泳いでいく。
満月の浮かんだ荒野の中で、イシュマウリは目を閉じてハープを弾いていた。
「……さあ、おいで。過ぎ去りし時よ、海よ。今ひとたび、戻ってきておくれ……」
月光がイシュマウリへと降り注ぎ、ハープの音色に合わせて力が集まっていく気配がする。
イシュマウリの足元から、海水が湧き出した。
いやぁ……ドン・モグーラとは大違いだな……。
「あのモグラも、もう少し上手けりゃ、倒す時に良心が痛んだんだけどな」
「痛まなかったのかバカリスマ」
さすがククール、モグラ相手に情けのひとつもないと来た。
さすがの私でもちょっとくらいは可哀想かなと思ったぞ。
不思議現象が続く最中、ハープを弾き続けていたイシュマウリは、しかし唐突に演奏を辞めてしまった。
あ、あれ、終わりじゃないよね?
全然動く気配ないけど、船……。
「ありゃ? こりゃどうしたんでげすか?」
「……なんと! 月影のハープでも駄目なのか。これでは……」
「つ、月影のハープでもできないって、それじゃあどうしたら……」
エイトと顔を見合わせて、船を見上げる。
船が動かせないんじゃ、西の大陸に行くこともできない。
ドルマゲスを追いかけなきゃいけないのに……。
その瞬間、背後で姫様の声が聞こえた。
私たちのすぐ後ろにいた姫様が前脚で地面を蹴り、それから大きく前脚を上げて嘶く。
どうやらご自分に考えがあるらしい。
「ひ、姫様?」
「ミーティア姫、どうなさいましたか?」
二人で姫様の首を撫でて落ち着かせていると、イシュマウリがハープを抱えてこちらへと歩いてきた。
そうして姫の顔へと触れ、やはり静かに微笑み。
「気付けなかったよ。馬の姿は見かけだけ。そなたは高貴なる姫君だったのだね? ……そうか。言の葉は魔法のはじまり。歌声は楽器のはじまり。呪いに封じられし、この姫君の声。まさしく大いなる楽器に相応しい。……姫よ。どうか力を貸しておくれ。私と一緒に歌っておくれ」
姫様は大きく頷くように、前脚を高く上げられた。
姫様が歌を歌うなんて……いつぶりのことだろう。
昔はよく歌を聞かせてくれていたのに、このお姿になってからは歌うことだってできなくて。
「姫様。お力添えを賜り、感謝致します」
「宜しくお願いいたします、姫」
姫様だって私たちの大事な仲間。
私たちだけで戦っているんじゃない。
姫様だってドルマゲスと戦う仲間なんだ。
姫様が優しい瞳で私たちを見つめる。
馬の瞳になってもなお、その眼差しは人の姿であった頃の姫様のままだった。
アスカンタ城に戻ってきた私たちは、そのまま急いで王宮の中へ。
玉座の間へと向かうと、なんと今の今まで会議中だった!
そんなことある!?
「皆さん! お待たせしました! これより討伐隊を……」
「それが、
「ええっ!? 宝物庫を荒らした盗賊を退治し、月影のハープを取り戻したのですか!? どうしてそんな危ない真似を!?」
「全部説明してくれるじゃん」
「盗賊というかなんというか、盗賊といえば盗賊なんですが……」
「迷うところはそこじゃないだろ」
ククールの冷静な一言にゼシカと私は無言で頷いた。
たしかに優しく賢い方ではあるんだろうけど、優柔不断というか、なんと言うか……。
「いや、しかし……。さすが、と言うべきですね。まさか我々より先に月影のハープを取り戻すとは。重ね重ね、皆さんにはご迷惑ばかりおかけして、まことに申し訳なく思います。ですがとにかく、皆さんがご無事で、そしてハープが戻ってきてよかった。約束通り、そのハープは皆さんに差し上げます。どうかこの先の旅もお気を付けて。皆さんのご無事を祈っています」
パヴァン王に見送られて、私たちは頭を下げつつ玉座の間を、そしてアスカンタ城を後にした。
さあ、あとはこれを、トロデーンの月影の窓からイシュマウリに渡すだけだ。
「それじゃあトロデーンに向かって、レッツ──」
「宿屋で夜まで休憩するわよ」
「なんでぇ!?」
「月影の窓は夜にしか現れないからだよ」
……そうでした。
今めちゃくちゃ夕方でした。
恥ずかしいやら何やらで皆の後ろを歩いていると、こちらを振り向いたククールが「フッ……」と鼻で笑った。
こ、こいつ〜!!
腹立つ顔しやがってー!!
* * *
とっぷりと日も暮れた夜、私たちは再びトロデーン城へ戻ってきた。
図書館への入口は、前回ここに来た時に開けておいたから、外から直行できる。
「窓の影も壁まで伸びてるね」
「うん。ハープを渡しに行こう」
エイトが月影の窓を開く。
トロデーン城の図書館から、月の世界へ。
イシュマウリのいる家のドアを開けると、イシュマウリはガラス張りの壁越しに外を見ていた。
「数多の月夜を数えたが、これほど時の流れを遠く感じたことはなかった」
私たちが声をかける前に、イシュマウリは外を見つめながらそう呟いた。
そうしてイシュマウリがこちらへと向き直り、静かに微笑む。
「その輝く顔で分かる。見事、月影のハープを見つけてきた。……そうだろう? さあ、見せておくれ。海の記憶を呼び覚ますに相応しい、大いなる楽器を」
エイトが抱えていた月影のハープをイシュマウリへと差し出す。
するとハープはキラキラと輝きながら、ひとりでにイシュマウリの手元へと引き寄せられていった。
イシュマウリの手がハープを受け取り、優しく撫でる。
「……この月影のハープも、随分長い旅をしてきたようだ。そう、君たちのように。よもや再び私の手に戻る時が来るとは。……いや、これ以上はやめておこう。さぁ、荒れ野の船のもとへ。微睡む船を起こし、旅立たせるため、歌を奏でよう」
イシュマウリの手がハープの弦を爪弾く。
瞬きをした次の瞬間、何故か私たちは月の世界ではなく、荒野の船の前にいた。
「え、いつの間に!?」
「アッシたち、いつ月の世界を出たんでがすか?」
「全然分からなかったわ……」
きょろきょろ辺りを見渡す私たちの前で、イシュマウリが静かに微笑んでいる。
そうしてイシュマウリは何も説明しないまま、船の側へと歩いていった。
「これはどういう事じゃ!? わしらはさっきまで……むー!!」
イシュマウリへ詰め寄った陛下を、ヤンガスが口を塞いで連れ戻してきた。
グッジョブ、ヤンガス!!
イシュマウリは船の側へと歩み寄り、そしてそっと船体に手を触れた。
「この船も月影のハープも、そしてこの私も、みな旧き世界に属するもの。礼を言おう。懐かしいものたちに、
こうして巡り合わせてくれたことに」
イシュマウリは船の前で私たちに向かってそう言うと、徐にハープを爪弾いて曲を奏で始めた。
音は魔力となって、荒野に月の光で出来た魚の幻が泳いでいく。
満月の浮かんだ荒野の中で、イシュマウリは目を閉じてハープを弾いていた。
「……さあ、おいで。過ぎ去りし時よ、海よ。今ひとたび、戻ってきておくれ……」
月光がイシュマウリへと降り注ぎ、ハープの音色に合わせて力が集まっていく気配がする。
イシュマウリの足元から、海水が湧き出した。
いやぁ……ドン・モグーラとは大違いだな……。
「あのモグラも、もう少し上手けりゃ、倒す時に良心が痛んだんだけどな」
「痛まなかったのかバカリスマ」
さすがククール、モグラ相手に情けのひとつもないと来た。
さすがの私でもちょっとくらいは可哀想かなと思ったぞ。
不思議現象が続く最中、ハープを弾き続けていたイシュマウリは、しかし唐突に演奏を辞めてしまった。
あ、あれ、終わりじゃないよね?
全然動く気配ないけど、船……。
「ありゃ? こりゃどうしたんでげすか?」
「……なんと! 月影のハープでも駄目なのか。これでは……」
「つ、月影のハープでもできないって、それじゃあどうしたら……」
エイトと顔を見合わせて、船を見上げる。
船が動かせないんじゃ、西の大陸に行くこともできない。
ドルマゲスを追いかけなきゃいけないのに……。
その瞬間、背後で姫様の声が聞こえた。
私たちのすぐ後ろにいた姫様が前脚で地面を蹴り、それから大きく前脚を上げて嘶く。
どうやらご自分に考えがあるらしい。
「ひ、姫様?」
「ミーティア姫、どうなさいましたか?」
二人で姫様の首を撫でて落ち着かせていると、イシュマウリがハープを抱えてこちらへと歩いてきた。
そうして姫の顔へと触れ、やはり静かに微笑み。
「気付けなかったよ。馬の姿は見かけだけ。そなたは高貴なる姫君だったのだね? ……そうか。言の葉は魔法のはじまり。歌声は楽器のはじまり。呪いに封じられし、この姫君の声。まさしく大いなる楽器に相応しい。……姫よ。どうか力を貸しておくれ。私と一緒に歌っておくれ」
姫様は大きく頷くように、前脚を高く上げられた。
姫様が歌を歌うなんて……いつぶりのことだろう。
昔はよく歌を聞かせてくれていたのに、このお姿になってからは歌うことだってできなくて。
「姫様。お力添えを賜り、感謝致します」
「宜しくお願いいたします、姫」
姫様だって私たちの大事な仲間。
私たちだけで戦っているんじゃない。
姫様だってドルマゲスと戦う仲間なんだ。
姫様が優しい瞳で私たちを見つめる。
馬の瞳になってもなお、その眼差しは人の姿であった頃の姫様のままだった。
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