閑話1
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それはリーザス村へ行く途中の事だった。
「むむむ……」
分かれ道を曲がって関所の方向に向かうのはいいものの。
……気になるんだよなあ、滝の上に建ってる小屋が。
なんであんなところに小屋を建てたんだ?
トラペッタからも絶妙に遠いし、周りに何もないしさぁ。
「姉貴、どうしたんでげすかい?」
「いやぁ……どうしてもあの滝の上の小屋が気になっちゃってさぁ」
「ああ……たしかに、あれは僕も気になってたんだ。なんであんなところに小屋なんか建ってるんだろうって」
「エイトも気になる? 気になるよね? よっしゃ、ちょっと寄り道しちゃおうぜい!」
「姉貴!? 先を急ぐんじゃなかったんでげすかい!?」
「ここで行かなかったら忘れちゃうでしょ、小屋のこと! 気になった時に行っといたほうがいいって!」
「こ……こら、レイラ! わしらはようやくドルマゲスの尻尾を掴みかけておるのじゃぞ!」
「で、でもたしかに、あの小屋に人が住んでいるんだとしたら、どんな人なのか気になる……」
エイトの心が揺らいでいる!
もう素直に寄り道するって決めちゃえばいいのさ!
二の足を踏むエイトの手を掴んで、私は道を逸れて滝の方向へと走った。
背後で陛下が「こら〜!!」とお怒りだけど、気にしたら負けだ!
「ちょ、ちょっとレイラ……!」
「まぁまぁ! ちょっと覗いていくだけだって!」
「もう……仕方ない! 僕も気になってたし、行ってみよう!」
「おっ、それでこそマイペースなエイトくんだ!」
「マイペースなのはレイラもいい勝負してると思うよ」
「そんな馬鹿な」
私はマイペースって言われたことないもん。
アホの子って言われたことはあるけど。
あと、存在が喧しいとか、能天気とか……いやこれ悪口だな。
さてふもとからグルグル登って滝の上である。
めっちゃ眺めがいい!
足元からは滝がザバザバ落ちている。
……この下にボチャンがいるのか、そんで私達はこの下に潜ったのか。
なんか変な感じだな。
さて気を取り直しつつ、小屋のドアをノックして、屋内へとお邪魔してみた。
「こんにちは〜」
「お邪魔します」
小屋の中には、大柄なおじさんが一人。
おじさんは私達を見て、珍しそうに目を丸くした。
「ん? こんなところに客人とは珍しいな」
「でしょうね!」
「こ、こら! 面と向かって言わない!」
「はっはっは! 気にしちゃいねぇよ。まぁいい。せっかくここまで来たことだし、お前さん達、ひとつ頼まれてくれねぇか?」
「突然ですね! なんでしょう!」
「意外と乗り気でがすな」
「レイラはね、他人に頼られると嬉しいタイプなんだ」
おいそこの幼馴染み、恥ずかしいことを子分に教えるな!
別に私はみんなの雑用係ってわけじゃないんだからな!
ちょっと人から頼られると、やる気出しちゃうタイプなだけで!
「じゃあ、一回しか言わねえから、耳の穴をかっぽじって、よおく聞くんだぜ。小屋を出て、この丘の上から周りを見渡すと、一本だけ、葉っぱの赤い木が見えるはずだ。実はな、先日出掛けた時、その赤い木の下の根元で一休みしたんだが、道具袋を忘れてきたみてえなんだよ」
「マジですか! それは大変ですね! つまりそれを取ってきたらいいんですね?」
「もちろんただとは言わねぇ。たいしたもんじゃねぇが、礼はする。オレはまだしばらくはこの小屋にいるつもりだから、待ってるぜ」
なるほど、ならば善は急げだ!
その赤い木の下とやらに向かうぞ!!
「了解です!!」と言い残して、エイトとヤンガスの手を引っ張って小屋を出ていく。
小屋の前で周囲を見渡すと、たしかに向こうに葉っぱの色が赤い木が見えた。
滝のある丘を降りて、木の方向へと走る。
途中で一角うさぎやら串刺しツインズやらに幾度となく襲われたけど、ポチャンとの戦いで多少は強くなったので、それほど苦戦はしなかった。
「赤い木の根元……あった!」
おじさんに言われた通りに木のところまで来ると、たしかに根元に道具袋が落ちている。
それを拾って、今度は滝の上までダッシュ。
距離がなかなかに遠いから、めちゃくちゃいい運動だ。
「こ、こんなに走るの、いつぶり……?」
「近衛の、鍛錬の……時以来、じゃないかな……」
「兄貴も姉貴も、体力があるんでがすな……。ぜぇはぁ……あ、アッシはもう、ついて行くのに精一杯でがすよ……」
ヤンガスはヒィヒィ言いながら、私たちの後ろを着いてきている。
なんだかんだで私達についてこられているし、ヤンガスも体力はあると思う。
滝の上まで駆け上って、小屋のドアを開ける。
おじさんはゼェハァと息を整える私達を見て、驚いたように肩を跳ねさせた。
「おお! 取ってきてくれたのか!? どれ、見せてくれ」
「は、はい……どうぞ……!」
おじさんに拾ってきた道具袋を差し出す。
私の手から道具袋を受け取ったおじさんは、袋の中身を確認して一つ頷いた。
「ふむ、間違いねぇ。これはたしかに、オレの道具袋だ。ありがとうよ! 約束だから、何か礼をしねぇとな……」
おじさんはそう言って考えるような素振りを見せ、かと思うとエイトのポケットにいるトーポを凝視した。
分かる、普通の人はネズミをポケットに入れて連れ歩いたりしないもんね!
「うん!? おめぇ! おめぇだよ! そのちっこいネズミ、オレが見るに、ただのネズミではないな!」
「まあ、普通ではないよね」
「十年くらい生きてるから、まぁ……」
飼い主がそれ言っちゃうんだ、いいけど。
でもエイトまで疑い始めたら、さすがにトーポが可哀想だ。
長生きすぎるただのネズミだと思っていてほしい。
「お前さんのペットかい? そうかい、そうかい。よし、じゃあこのチーズがお礼だ」
おじさんはどこか微笑ましそうな目をして、チーズが沢山入った袋をくれた。
中には普通のチーズが八個。
ネズミってチーズが好きなんだっけ、でもトーポは昔から好きみたいで、よくチーズを食べてたな。
「なに、ただのチーズだが、お前さんのペットの大好物のはずだ。で、ここからはオレの想像だが、もし外で魔物に襲われた時、そのネズ公にチーズをやれば……。もしかすると、もしかするかも知れねぇぜ」
もしかすると……もしかするって、何?
思わずトーポを凝視してしまったけど、トーポは不思議そうにポケットから顔を覗かせるだけだった。
「さて、オレの話は終わりだ。とにかくご苦労だったな」
「あ、はい。こちらこそありがとうございました」
「おじさんおじさん、このネズミ、ネズ公じゃなくてトーポって言うんです。良かったら覚えててください。また近くに来たら寄りますね!」
「そうかい、そうかい。気をつけていけよ」
「おじさんもお元気で!」
おじさんに手を振って小屋を出る。
しかし不思議なことを言うおじさんだったな。
トーポがチーズを食べて、一体どうなるって言うんだろう。
「うーん、ちょうどよく魔物の群れがどわーっと現れないもんかな」
「滅多なこと言わないでよ……」
「戦ってる時にチーズを食べたトーポがどうなるのか気になって」
「まあたしかに、妙なことを言うおっさんだったでがすな」
三人でそんなふうに言いながら丘を下りると、陛下はじとっとした目で私を見つめて言った。
「満足したか?」
「はい! めっちゃ良い人でした!」
「まったく、お前には危機感というものが欠けておるのかのう……」
「マイペースなだけですよ」
「マイペース仲間だね、エイト」
「……」
エイトが押し黙った。
僕は違うと言いたげだが、城内でのエイトの評判は「マイペースだが頼りになる奴」だ、諦めろ。
ちなみに私は「能天気だが役に立つ」だった。
絶対ちょっとバカにされてただろ、これ。
街道に戻って、リーザス村へと急ぐ。
その時、なんと計らったようにスライムの群れが押し寄せてきた。
「えええ!? なんで!?」
「スライムだから、すぐ倒せるとは思うよ」
「そうでがすな。まあ、多少の面倒さは否めやせんが……あ」
「お?」
ヤンガスが何かに気付いて、エイトを見上げる。
エイトは不思議そうに首を傾げ、それからハッとなって頷いた。
袋からエイトが取り出したのは、あの普通のチーズ。
早速使ってみようというわけか! こりゃ楽しみだ!
「どうなるんだろうね!?」
「いよいよトーポの秘められた力がお披露目でがすな!」
「え、えっと……?」
半信半疑ながら、エイトがトーポにチーズを食べさせる。
そのチーズをネズミらしからぬ大口で食べたトーポは、スライムの群れに向かい合って、ぐっと息を吸った。
「えッ?」
予想外の仕草で固まる私達の目の前で、トーポが──スライムの群れに向かって、火を吹いた。
ボォ、と吐き出された火の息がスライムたちを一発でぶっ飛ばしていく。
やりきった顔のトーポは、そのままエイトの上着のポケットへと戻っていった。
「……な」
「い、今、このネズミ、火を吹きやせんでしたか?」
「吹いた……よね?」
いやいやいや、そりゃまあ、あのおじさんもちょっと意味深なこと言ってたけど。
言うてただのネズミだしさぁ──とか舐めてかかっていたんだけど。
「なにそれ!?」
「エイト、トーポって本当にネズミ? もしかしてちょっとヤバめな感じの……」
「魔物の仲間だったりするんでがすか!?」
「え、いや、魔物ではないと思うけど、普通のチーズを食べただけで火を吹くってどういうこと!?」
「分かんない!! でもあのおじさんの言う通りだったって事だよね!?」
「え!? そ、そうなる……かな?」
「えっあのさエイト、これさぁ……世界には色んなチーズがあるじゃないですか……。それを集めてさ、食べさせたらさぁ……。なんか、変わるのかな、息の効果的な……」
「か、変わるのかな……」
突然発覚した、トーポの無限の可能性。
我々の旅の目的に、またひとつミッションが増えた。
世界中のチーズを集めて、トーポに食べさせる!
何が変わるか、そもそも変わらないかもしれないが、すべては……トーポ次第だ!!
「もうええから早くリーザス村へ行くぞ!!」
「そうだった!!」
「兄貴、兄貴! 次はアッシがチーズを食わせてもいいでがすか!?」
「それが不思議なことに、僕以外の手からはチーズを受け付けてくれないんだよね。レイラがあげてもそっぽを向くくらいで」
「エイトにしか懐いてないもんね。賢いネズミだよ本当に。本当にネズミなのかどうかってところに、疑惑が浮上したけど」
「リーザス村へ!! 急がぬか!!!」
「はい!! すみません!!」
陛下の怒声が落ちて、三人で慌てて街道を走る。
でもやっぱり……トーポって、ただのネズミじゃないよな……。
世の中には、チーズを食べたら息を吐くタイプのネズミもいるって事なのか……?
──トーポの謎は解けないまま、私達の旅は続く。
「むむむ……」
分かれ道を曲がって関所の方向に向かうのはいいものの。
……気になるんだよなあ、滝の上に建ってる小屋が。
なんであんなところに小屋を建てたんだ?
トラペッタからも絶妙に遠いし、周りに何もないしさぁ。
「姉貴、どうしたんでげすかい?」
「いやぁ……どうしてもあの滝の上の小屋が気になっちゃってさぁ」
「ああ……たしかに、あれは僕も気になってたんだ。なんであんなところに小屋なんか建ってるんだろうって」
「エイトも気になる? 気になるよね? よっしゃ、ちょっと寄り道しちゃおうぜい!」
「姉貴!? 先を急ぐんじゃなかったんでげすかい!?」
「ここで行かなかったら忘れちゃうでしょ、小屋のこと! 気になった時に行っといたほうがいいって!」
「こ……こら、レイラ! わしらはようやくドルマゲスの尻尾を掴みかけておるのじゃぞ!」
「で、でもたしかに、あの小屋に人が住んでいるんだとしたら、どんな人なのか気になる……」
エイトの心が揺らいでいる!
もう素直に寄り道するって決めちゃえばいいのさ!
二の足を踏むエイトの手を掴んで、私は道を逸れて滝の方向へと走った。
背後で陛下が「こら〜!!」とお怒りだけど、気にしたら負けだ!
「ちょ、ちょっとレイラ……!」
「まぁまぁ! ちょっと覗いていくだけだって!」
「もう……仕方ない! 僕も気になってたし、行ってみよう!」
「おっ、それでこそマイペースなエイトくんだ!」
「マイペースなのはレイラもいい勝負してると思うよ」
「そんな馬鹿な」
私はマイペースって言われたことないもん。
アホの子って言われたことはあるけど。
あと、存在が喧しいとか、能天気とか……いやこれ悪口だな。
さてふもとからグルグル登って滝の上である。
めっちゃ眺めがいい!
足元からは滝がザバザバ落ちている。
……この下にボチャンがいるのか、そんで私達はこの下に潜ったのか。
なんか変な感じだな。
さて気を取り直しつつ、小屋のドアをノックして、屋内へとお邪魔してみた。
「こんにちは〜」
「お邪魔します」
小屋の中には、大柄なおじさんが一人。
おじさんは私達を見て、珍しそうに目を丸くした。
「ん? こんなところに客人とは珍しいな」
「でしょうね!」
「こ、こら! 面と向かって言わない!」
「はっはっは! 気にしちゃいねぇよ。まぁいい。せっかくここまで来たことだし、お前さん達、ひとつ頼まれてくれねぇか?」
「突然ですね! なんでしょう!」
「意外と乗り気でがすな」
「レイラはね、他人に頼られると嬉しいタイプなんだ」
おいそこの幼馴染み、恥ずかしいことを子分に教えるな!
別に私はみんなの雑用係ってわけじゃないんだからな!
ちょっと人から頼られると、やる気出しちゃうタイプなだけで!
「じゃあ、一回しか言わねえから、耳の穴をかっぽじって、よおく聞くんだぜ。小屋を出て、この丘の上から周りを見渡すと、一本だけ、葉っぱの赤い木が見えるはずだ。実はな、先日出掛けた時、その赤い木の下の根元で一休みしたんだが、道具袋を忘れてきたみてえなんだよ」
「マジですか! それは大変ですね! つまりそれを取ってきたらいいんですね?」
「もちろんただとは言わねぇ。たいしたもんじゃねぇが、礼はする。オレはまだしばらくはこの小屋にいるつもりだから、待ってるぜ」
なるほど、ならば善は急げだ!
その赤い木の下とやらに向かうぞ!!
「了解です!!」と言い残して、エイトとヤンガスの手を引っ張って小屋を出ていく。
小屋の前で周囲を見渡すと、たしかに向こうに葉っぱの色が赤い木が見えた。
滝のある丘を降りて、木の方向へと走る。
途中で一角うさぎやら串刺しツインズやらに幾度となく襲われたけど、ポチャンとの戦いで多少は強くなったので、それほど苦戦はしなかった。
「赤い木の根元……あった!」
おじさんに言われた通りに木のところまで来ると、たしかに根元に道具袋が落ちている。
それを拾って、今度は滝の上までダッシュ。
距離がなかなかに遠いから、めちゃくちゃいい運動だ。
「こ、こんなに走るの、いつぶり……?」
「近衛の、鍛錬の……時以来、じゃないかな……」
「兄貴も姉貴も、体力があるんでがすな……。ぜぇはぁ……あ、アッシはもう、ついて行くのに精一杯でがすよ……」
ヤンガスはヒィヒィ言いながら、私たちの後ろを着いてきている。
なんだかんだで私達についてこられているし、ヤンガスも体力はあると思う。
滝の上まで駆け上って、小屋のドアを開ける。
おじさんはゼェハァと息を整える私達を見て、驚いたように肩を跳ねさせた。
「おお! 取ってきてくれたのか!? どれ、見せてくれ」
「は、はい……どうぞ……!」
おじさんに拾ってきた道具袋を差し出す。
私の手から道具袋を受け取ったおじさんは、袋の中身を確認して一つ頷いた。
「ふむ、間違いねぇ。これはたしかに、オレの道具袋だ。ありがとうよ! 約束だから、何か礼をしねぇとな……」
おじさんはそう言って考えるような素振りを見せ、かと思うとエイトのポケットにいるトーポを凝視した。
分かる、普通の人はネズミをポケットに入れて連れ歩いたりしないもんね!
「うん!? おめぇ! おめぇだよ! そのちっこいネズミ、オレが見るに、ただのネズミではないな!」
「まあ、普通ではないよね」
「十年くらい生きてるから、まぁ……」
飼い主がそれ言っちゃうんだ、いいけど。
でもエイトまで疑い始めたら、さすがにトーポが可哀想だ。
長生きすぎるただのネズミだと思っていてほしい。
「お前さんのペットかい? そうかい、そうかい。よし、じゃあこのチーズがお礼だ」
おじさんはどこか微笑ましそうな目をして、チーズが沢山入った袋をくれた。
中には普通のチーズが八個。
ネズミってチーズが好きなんだっけ、でもトーポは昔から好きみたいで、よくチーズを食べてたな。
「なに、ただのチーズだが、お前さんのペットの大好物のはずだ。で、ここからはオレの想像だが、もし外で魔物に襲われた時、そのネズ公にチーズをやれば……。もしかすると、もしかするかも知れねぇぜ」
もしかすると……もしかするって、何?
思わずトーポを凝視してしまったけど、トーポは不思議そうにポケットから顔を覗かせるだけだった。
「さて、オレの話は終わりだ。とにかくご苦労だったな」
「あ、はい。こちらこそありがとうございました」
「おじさんおじさん、このネズミ、ネズ公じゃなくてトーポって言うんです。良かったら覚えててください。また近くに来たら寄りますね!」
「そうかい、そうかい。気をつけていけよ」
「おじさんもお元気で!」
おじさんに手を振って小屋を出る。
しかし不思議なことを言うおじさんだったな。
トーポがチーズを食べて、一体どうなるって言うんだろう。
「うーん、ちょうどよく魔物の群れがどわーっと現れないもんかな」
「滅多なこと言わないでよ……」
「戦ってる時にチーズを食べたトーポがどうなるのか気になって」
「まあたしかに、妙なことを言うおっさんだったでがすな」
三人でそんなふうに言いながら丘を下りると、陛下はじとっとした目で私を見つめて言った。
「満足したか?」
「はい! めっちゃ良い人でした!」
「まったく、お前には危機感というものが欠けておるのかのう……」
「マイペースなだけですよ」
「マイペース仲間だね、エイト」
「……」
エイトが押し黙った。
僕は違うと言いたげだが、城内でのエイトの評判は「マイペースだが頼りになる奴」だ、諦めろ。
ちなみに私は「能天気だが役に立つ」だった。
絶対ちょっとバカにされてただろ、これ。
街道に戻って、リーザス村へと急ぐ。
その時、なんと計らったようにスライムの群れが押し寄せてきた。
「えええ!? なんで!?」
「スライムだから、すぐ倒せるとは思うよ」
「そうでがすな。まあ、多少の面倒さは否めやせんが……あ」
「お?」
ヤンガスが何かに気付いて、エイトを見上げる。
エイトは不思議そうに首を傾げ、それからハッとなって頷いた。
袋からエイトが取り出したのは、あの普通のチーズ。
早速使ってみようというわけか! こりゃ楽しみだ!
「どうなるんだろうね!?」
「いよいよトーポの秘められた力がお披露目でがすな!」
「え、えっと……?」
半信半疑ながら、エイトがトーポにチーズを食べさせる。
そのチーズをネズミらしからぬ大口で食べたトーポは、スライムの群れに向かい合って、ぐっと息を吸った。
「えッ?」
予想外の仕草で固まる私達の目の前で、トーポが──スライムの群れに向かって、火を吹いた。
ボォ、と吐き出された火の息がスライムたちを一発でぶっ飛ばしていく。
やりきった顔のトーポは、そのままエイトの上着のポケットへと戻っていった。
「……な」
「い、今、このネズミ、火を吹きやせんでしたか?」
「吹いた……よね?」
いやいやいや、そりゃまあ、あのおじさんもちょっと意味深なこと言ってたけど。
言うてただのネズミだしさぁ──とか舐めてかかっていたんだけど。
「なにそれ!?」
「エイト、トーポって本当にネズミ? もしかしてちょっとヤバめな感じの……」
「魔物の仲間だったりするんでがすか!?」
「え、いや、魔物ではないと思うけど、普通のチーズを食べただけで火を吹くってどういうこと!?」
「分かんない!! でもあのおじさんの言う通りだったって事だよね!?」
「え!? そ、そうなる……かな?」
「えっあのさエイト、これさぁ……世界には色んなチーズがあるじゃないですか……。それを集めてさ、食べさせたらさぁ……。なんか、変わるのかな、息の効果的な……」
「か、変わるのかな……」
突然発覚した、トーポの無限の可能性。
我々の旅の目的に、またひとつミッションが増えた。
世界中のチーズを集めて、トーポに食べさせる!
何が変わるか、そもそも変わらないかもしれないが、すべては……トーポ次第だ!!
「もうええから早くリーザス村へ行くぞ!!」
「そうだった!!」
「兄貴、兄貴! 次はアッシがチーズを食わせてもいいでがすか!?」
「それが不思議なことに、僕以外の手からはチーズを受け付けてくれないんだよね。レイラがあげてもそっぽを向くくらいで」
「エイトにしか懐いてないもんね。賢いネズミだよ本当に。本当にネズミなのかどうかってところに、疑惑が浮上したけど」
「リーザス村へ!! 急がぬか!!!」
「はい!! すみません!!」
陛下の怒声が落ちて、三人で慌てて街道を走る。
でもやっぱり……トーポって、ただのネズミじゃないよな……。
世の中には、チーズを食べたら息を吐くタイプのネズミもいるって事なのか……?
──トーポの謎は解けないまま、私達の旅は続く。
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