23章
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翌朝──。
いよいよ私達は、トロデーン城へと入ることになった。
真っ黒な雲に覆われた城は、朝なのに、夜のように暗い。
どことなく禍々しい雰囲気も感じられて、私の知る城ではなくなってしまっている。
「レイラ、大丈夫?」
「え?」
「こんだけ不気味だと、お前も怖がるもんだと思ってたが、案外そうでもなさそうだな」
「ああ……うん。なんていうか、今は怖さよりも、胸が痛いっていうかさ……」
長い塀の中を通って、固く閉ざされた城門へと辿り着く。
私達が城を出る前は開け閉めもできたんだけど、やっぱり時間が経っているからか、城門には茨が這っていた。
「開くかなぁ、これ……」
「ううん……」
エイトが自信なさげにしつつ、扉に手を当てる。
それから力いっぱい押したけど、城門はビクともしなかった。
「……駄目だ、開かない」
力を入れすぎた手を擦りながらエイトが首を振る。
困ったなぁ、城への入口はここだけなのに。
「このままでは入れんのう。ゼシカ、この茨を魔法で何とかしてくれんか?」
「仕方ないわね。ちょっと待ってて」
陛下に問われて、ゼシカがエイトと選手交代。
メラミを唱えたゼシカが城門へ向かって放つと、それは城門に伸びていた茨を綺麗さっぱり焼き落とした。
さすがゼシカ、器用だなぁー!
「さあ、これで入れるわよ。でもお願いだから、このお城の茨を全部焼き払えなんて言わないでよ。私の魔力じゃ、とてもじゃないけどそんなこと不可能なんだから」
「誰も言わないから!!」
それやれるの、伝説の大魔道士的な存在の人くらいだと思う!
そりゃあまぁ……城中の茨がなくなったら、少しは不気味さも薄らいでくれるとは思うんだけど……。
城門を開いて、城へと入る。
茨に覆われた城は城壁も一部壊され、建物も酷い損壊を受けている。
三国一の美しさを誇った庭園は、もはや見る影もない。
「……っ」
「美しかった我が城の、なんと荒れ果ててしまったことか。これもすべて、あのドルマゲスによる呪いのせいじゃ。わしらの旅は、あの日、我が城の秘宝が奪われたことから始まったのじゃったな……」
「……そうですね」
陛下やエイトと一緒に、城を見上げる。
あの日は美しい満月の夜で……。
取り留めのない一日が、まもなく終わろうかという頃だった。
* * *
あの夜、わしはいつもの時間になっても部屋へ戻らぬ姫を案じて、バルコニーに佇む姫に声を掛けたのじゃったな。
その日は日中に、不思議な術を見せる道化師を招き、城に滞在を許しておった。
エイトやレイラも、近衛兵の勤務中に玉座の間で見たであろう、あの道化師じゃよ。
「姫や、星を見るのもいいが、外は冷える。そろそろ部屋に戻って休んではどうじゃ?」
「ええ、お父様。今、参りますわ」
わしらの部屋は、家宝である杖の封印の間の両隣。
姫と共にバルコニーから部屋へと戻る時、わしらはその封印の間の前に差し掛かり……入口近くで倒れておる兵を見つけたのじゃ。
「な、何事じゃ? おぬし、いったいどうしたのじゃっ?」
「誰か、誰かいませんか? 人が倒れています。医者を呼んでください!」
「しっかりしろ! いったい何が起こったのじゃ?」
姫の救助を求める声は誰にも届かなかった。
ただ幸いにも、わしの声は兵にかろうじて届いたのじゃ。
最後の気力を振り絞って、兵がわしへと言葉を繋いでいく。
「お……王様、な……何者かが……この上の封印の間に……くっ」
それだけを言い残して、兵が気を失った。
その身体を横たえ、わしは耳を疑ったのじゃ。
「封印の間じゃと!? ……ま、まさかアレを狙う者がっ?」
急いで封印の間の扉を開けたが、賊の姿は見えない。
既に階段の先まで辿り着いておるのやもしれぬ。
覚悟を決めて階段を上ろうとしたわしの背へ、姫の声が待ったをかけた。
「お父様。賊がまだ潜んでいるかもしれません。おひとりでは危険ですわ」
「いや、もしアレが……。あの秘宝が狙われているのだとしたら、こうしてはおれんのじゃ」
「ええ。ですから、私もご一緒します」
「……う、うむ。そうじゃな。それがいいかも知れん」
姫と共に封印の間の階段を上っていく。
不気味なほど静まり返った空間に、わしらの足音だけが反響していた。
やがて階段を上りきり──その先に封印されている杖の前に、人影を認めた。
「貴様っ、ここで何をしておる!? その杖に触れてはならぬっ!」
ビクリと手を止め、人影がこちらを振り向く。
「こ……これはトロデ王にミーティア姫。よもやあなた方に見つかってしまうとは……。……しかしその慌てよう。やはりこの杖は、噂通りの力を持っているのですね?」
そこに居たのは、昼間に玉座の間で奇術をやって見せた、あの道化師。
わしの中で、すべてが繋がった瞬間じゃった。
「お前は、道化師の……。貴様っ、我が城に近付いたのは、その杖が目的だったのか?」
「さすがは王様。話が早くて助かりますよ。このトロデーン城の奥深く、封印されし伝説の魔法の杖は、持ち主に絶大なる魔力を与えるとか……。私はこれを手に入れて、究極の魔術師となる。そして私のことを馬鹿にしてきた愚民どもを見返してやるのだ!!」
なんと愚かなことじゃ。
劣等感を払拭せんがために、我が城に伝わる秘宝に手を出そうなどと。
そも、今しがた道化師が語った言葉──この杖が持ち主に絶大なる魔力を与えるという話すら、嘘か真か分からぬものでしかないというのに。
「やめろ! その杖は世に解き放ってはならぬと伝えられるものなのじゃ!」
「くっくっくっ……。止めても無駄です!」
道化師の手が、杖を封印から解き放つ。
瞬間、凄まじい突風が吹き荒び、わしは吹っ飛ばされてしまった。
なんと恐ろしいことじゃ、よもや封印の杖が解き放たれてしまうとは。
「さて、それでは早速、この杖の力を試させていただきましょうか……。トロデ王。まずはあなたに、実験台になってもらいましょう」
道化師の声が聞こえるや否や、杖の先からおぞましい光がわし目掛けて放たれた。
あっと思う間もなく、光はわしへと伸びる。
「お父様、危ない!!」
ミーティアの悲鳴が聞こえて、わしの前に姫が庇い出る。
その姫をも貫いて、光はわしへと伸びた。
その衝撃で意識がガクンと遠ざかっていく。
「おや? もっとすごい力を発揮するかと思ったのに……?」
遠のいた意識の向こうで、道化師が何かを呟いている。
「姿を魔物や馬に変えただけか。この程度の呪いしか使えないとは、期待はずれだな。……なるほど。この結界が杖の魔力を抑えているのですね。なら、ここを出てら結界の外で杖の力を試してみるまでです」
道化師が倒れ伏すわしらの傍を通り、封印の間から遠ざかっていく。
(いったい、何が起きておるのじゃ……)
姫の安否も確かめられぬまま、わしは長いことそこに横たわっておった。
「さあ、杖よ。お前の真の力、我が前に示して見せろっ!」
バルコニーに出た道化師が、杖を空に振り翳す。
瞬間、杖はその力を目覚めさせた。
道化師の身体に、杖に秘められていた魔力が流れ込んでいく。
「……おおっ! この溢れんばかりの魔力。なんと素晴らしい!」
だがその力は道化師本人の持てる力を超えていた。
過ぎたる力は、身を滅ぼす。
奴も杖に取り憑かれてしもうたと言うわけじゃろうな。
「こ、これは……? この力は……お、抑えきれない……」
左胸を押さえ、道化師が呻く。
そうして一際苦しげな叫び声を上げ──その力に呑まれた瞬間、奴の足元から茨が勢いよく噴き出した。
太い茨は城を駆け巡り、ありとあらゆるものを破壊した。
どうにか封印の結界の中に逃げ込んでいたわしらは、結界に何度も弾かれる茨に恐怖したものじゃ。
「な……何じゃこれは!?」
そうして茨の衝撃が止んだ時……城は、全ての時が止まってしまった。
呆然と座り込むわしの耳に、気色の悪い声が……甲高い笑い声が届いた。
「……。……くっくっく。きひゃっ! くははっ!! あはははははははははははははっ!! ひゃーはっはっはっはぁ!!」
その高笑いと共に、気配は消えた。
わしと姫と城と、城の者たちに、解けぬ呪いをかけて──。
いよいよ私達は、トロデーン城へと入ることになった。
真っ黒な雲に覆われた城は、朝なのに、夜のように暗い。
どことなく禍々しい雰囲気も感じられて、私の知る城ではなくなってしまっている。
「レイラ、大丈夫?」
「え?」
「こんだけ不気味だと、お前も怖がるもんだと思ってたが、案外そうでもなさそうだな」
「ああ……うん。なんていうか、今は怖さよりも、胸が痛いっていうかさ……」
長い塀の中を通って、固く閉ざされた城門へと辿り着く。
私達が城を出る前は開け閉めもできたんだけど、やっぱり時間が経っているからか、城門には茨が這っていた。
「開くかなぁ、これ……」
「ううん……」
エイトが自信なさげにしつつ、扉に手を当てる。
それから力いっぱい押したけど、城門はビクともしなかった。
「……駄目だ、開かない」
力を入れすぎた手を擦りながらエイトが首を振る。
困ったなぁ、城への入口はここだけなのに。
「このままでは入れんのう。ゼシカ、この茨を魔法で何とかしてくれんか?」
「仕方ないわね。ちょっと待ってて」
陛下に問われて、ゼシカがエイトと選手交代。
メラミを唱えたゼシカが城門へ向かって放つと、それは城門に伸びていた茨を綺麗さっぱり焼き落とした。
さすがゼシカ、器用だなぁー!
「さあ、これで入れるわよ。でもお願いだから、このお城の茨を全部焼き払えなんて言わないでよ。私の魔力じゃ、とてもじゃないけどそんなこと不可能なんだから」
「誰も言わないから!!」
それやれるの、伝説の大魔道士的な存在の人くらいだと思う!
そりゃあまぁ……城中の茨がなくなったら、少しは不気味さも薄らいでくれるとは思うんだけど……。
城門を開いて、城へと入る。
茨に覆われた城は城壁も一部壊され、建物も酷い損壊を受けている。
三国一の美しさを誇った庭園は、もはや見る影もない。
「……っ」
「美しかった我が城の、なんと荒れ果ててしまったことか。これもすべて、あのドルマゲスによる呪いのせいじゃ。わしらの旅は、あの日、我が城の秘宝が奪われたことから始まったのじゃったな……」
「……そうですね」
陛下やエイトと一緒に、城を見上げる。
あの日は美しい満月の夜で……。
取り留めのない一日が、まもなく終わろうかという頃だった。
* * *
あの夜、わしはいつもの時間になっても部屋へ戻らぬ姫を案じて、バルコニーに佇む姫に声を掛けたのじゃったな。
その日は日中に、不思議な術を見せる道化師を招き、城に滞在を許しておった。
エイトやレイラも、近衛兵の勤務中に玉座の間で見たであろう、あの道化師じゃよ。
「姫や、星を見るのもいいが、外は冷える。そろそろ部屋に戻って休んではどうじゃ?」
「ええ、お父様。今、参りますわ」
わしらの部屋は、家宝である杖の封印の間の両隣。
姫と共にバルコニーから部屋へと戻る時、わしらはその封印の間の前に差し掛かり……入口近くで倒れておる兵を見つけたのじゃ。
「な、何事じゃ? おぬし、いったいどうしたのじゃっ?」
「誰か、誰かいませんか? 人が倒れています。医者を呼んでください!」
「しっかりしろ! いったい何が起こったのじゃ?」
姫の救助を求める声は誰にも届かなかった。
ただ幸いにも、わしの声は兵にかろうじて届いたのじゃ。
最後の気力を振り絞って、兵がわしへと言葉を繋いでいく。
「お……王様、な……何者かが……この上の封印の間に……くっ」
それだけを言い残して、兵が気を失った。
その身体を横たえ、わしは耳を疑ったのじゃ。
「封印の間じゃと!? ……ま、まさかアレを狙う者がっ?」
急いで封印の間の扉を開けたが、賊の姿は見えない。
既に階段の先まで辿り着いておるのやもしれぬ。
覚悟を決めて階段を上ろうとしたわしの背へ、姫の声が待ったをかけた。
「お父様。賊がまだ潜んでいるかもしれません。おひとりでは危険ですわ」
「いや、もしアレが……。あの秘宝が狙われているのだとしたら、こうしてはおれんのじゃ」
「ええ。ですから、私もご一緒します」
「……う、うむ。そうじゃな。それがいいかも知れん」
姫と共に封印の間の階段を上っていく。
不気味なほど静まり返った空間に、わしらの足音だけが反響していた。
やがて階段を上りきり──その先に封印されている杖の前に、人影を認めた。
「貴様っ、ここで何をしておる!? その杖に触れてはならぬっ!」
ビクリと手を止め、人影がこちらを振り向く。
「こ……これはトロデ王にミーティア姫。よもやあなた方に見つかってしまうとは……。……しかしその慌てよう。やはりこの杖は、噂通りの力を持っているのですね?」
そこに居たのは、昼間に玉座の間で奇術をやって見せた、あの道化師。
わしの中で、すべてが繋がった瞬間じゃった。
「お前は、道化師の……。貴様っ、我が城に近付いたのは、その杖が目的だったのか?」
「さすがは王様。話が早くて助かりますよ。このトロデーン城の奥深く、封印されし伝説の魔法の杖は、持ち主に絶大なる魔力を与えるとか……。私はこれを手に入れて、究極の魔術師となる。そして私のことを馬鹿にしてきた愚民どもを見返してやるのだ!!」
なんと愚かなことじゃ。
劣等感を払拭せんがために、我が城に伝わる秘宝に手を出そうなどと。
そも、今しがた道化師が語った言葉──この杖が持ち主に絶大なる魔力を与えるという話すら、嘘か真か分からぬものでしかないというのに。
「やめろ! その杖は世に解き放ってはならぬと伝えられるものなのじゃ!」
「くっくっくっ……。止めても無駄です!」
道化師の手が、杖を封印から解き放つ。
瞬間、凄まじい突風が吹き荒び、わしは吹っ飛ばされてしまった。
なんと恐ろしいことじゃ、よもや封印の杖が解き放たれてしまうとは。
「さて、それでは早速、この杖の力を試させていただきましょうか……。トロデ王。まずはあなたに、実験台になってもらいましょう」
道化師の声が聞こえるや否や、杖の先からおぞましい光がわし目掛けて放たれた。
あっと思う間もなく、光はわしへと伸びる。
「お父様、危ない!!」
ミーティアの悲鳴が聞こえて、わしの前に姫が庇い出る。
その姫をも貫いて、光はわしへと伸びた。
その衝撃で意識がガクンと遠ざかっていく。
「おや? もっとすごい力を発揮するかと思ったのに……?」
遠のいた意識の向こうで、道化師が何かを呟いている。
「姿を魔物や馬に変えただけか。この程度の呪いしか使えないとは、期待はずれだな。……なるほど。この結界が杖の魔力を抑えているのですね。なら、ここを出てら結界の外で杖の力を試してみるまでです」
道化師が倒れ伏すわしらの傍を通り、封印の間から遠ざかっていく。
(いったい、何が起きておるのじゃ……)
姫の安否も確かめられぬまま、わしは長いことそこに横たわっておった。
「さあ、杖よ。お前の真の力、我が前に示して見せろっ!」
バルコニーに出た道化師が、杖を空に振り翳す。
瞬間、杖はその力を目覚めさせた。
道化師の身体に、杖に秘められていた魔力が流れ込んでいく。
「……おおっ! この溢れんばかりの魔力。なんと素晴らしい!」
だがその力は道化師本人の持てる力を超えていた。
過ぎたる力は、身を滅ぼす。
奴も杖に取り憑かれてしもうたと言うわけじゃろうな。
「こ、これは……? この力は……お、抑えきれない……」
左胸を押さえ、道化師が呻く。
そうして一際苦しげな叫び声を上げ──その力に呑まれた瞬間、奴の足元から茨が勢いよく噴き出した。
太い茨は城を駆け巡り、ありとあらゆるものを破壊した。
どうにか封印の結界の中に逃げ込んでいたわしらは、結界に何度も弾かれる茨に恐怖したものじゃ。
「な……何じゃこれは!?」
そうして茨の衝撃が止んだ時……城は、全ての時が止まってしまった。
呆然と座り込むわしの耳に、気色の悪い声が……甲高い笑い声が届いた。
「……。……くっくっく。きひゃっ! くははっ!! あはははははははははははははっ!! ひゃーはっはっはっはぁ!!」
その高笑いと共に、気配は消えた。
わしと姫と城と、城の者たちに、解けぬ呪いをかけて──。
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