二十章
夢小説設定
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真弘が休んでいるであろう客間へと向かいながら、私はそっと左肩に触れた
私も相当な恨みを買ってしまったものだな
村の人たちとは、鬼斬丸を封印して以降、少しずつ距離が縮まりつつあった
私たちだけでは縮められなかったその距離を、率先して縮めてくれたのは、他でもない珠紀ちゃんだ
少なからず感謝はしているし、私たちのことを誤解したままの状態が嫌だったという彼女の気持ちも嬉しい
……だけど、それでもやっぱり、十五年前の悲劇を知っている人たちは、私と関わろうとはしなかった
大人たちの間では知らない人のほうが少ない事件だから、まあ言うなれば……大半の大人たちは、私を忌み嫌ったまま
確認できなかったけど、沼田さんたちは無事かな
沼田さん、たしかお母さんを神隠しで失ったって言っていた
それがいつのことかは分からないけど、それも極論を言ってしまえば、私が贄になる決心を先延ばしにし続けていたせいなんだろう
ふるふると頭を振って、客間の襖を開ける
「おぉ、優佳」
居間に戻ると、真弘がいつもの笑顔で迎えてくれた
……いや、なんでここに、客間で休んでたんじゃなかったの?
「ちょ、ちょっとちょっと!
おぉじゃないわよ!
横になってなきゃ駄目だって、あれほど言ったでしょう!?
重傷なのよ!?
分かってるの!?
本っ当に油断も隙もあったもんじゃないんだから!」
「心配性な姫様だな
あんな傷、どうってこたぁねえよ」
「えええ……」
強がりもここまで来るとただのやせ我慢だよ……
本当にもう、真弘って人は
「ニールの野郎、逃げやがって……
次に会ったら、ギッタギタに伸してやる
お前は安心してろよ
俺があんな奴に負けるわけねえんだから」
「……真弘……」
結局、真弘の強がりはいつだって、私たちを不安にさせないためのものだ
自分に言い聞かせるようなその言葉を聞くたびに、私は胸が締め付けられていくような気になる
「さて、見回りも兼ねて……ちょっと散歩にでも行ってくるか」
「え……」
真弘が、行っちゃう
私を置いて……どこかに行ってしまう
「……何だよ
どうした」
いつの間にか、行こうとする真弘の服の裾を掴んでいた
「あ……いや……その……」
なんて言っていいのか分からなくて
でも、手を離す気にもなれなかった
「まったくお前はどうしようもねえな
俺がそばにいないと不安でしょうがねえんだろ」
「……不安だよ
そばにいないと……いつだって不安で仕方なくなるもん」
離れてしまえば、もう会えない気がした
そうなったら私はどうやって生きていけばいいんだろう
真弘が隣にいないのに、生き方なんて分からないよ
「……見回り、一緒に来るか?」
「……うん」
真弘が少し笑って見せる
その表情が、優しくて、大人っぽくて……
多分、これが本当の真弘の、素の部分なんだろうと改めて思う
服の裾を掴む私の手を、真弘がそっと握る
「傷、お前こそ平気か?」
「……こんな傷、大したことないよ」
「さっきの俺への返しか?」
「……バカ」
本当は、もっと素直にありがとうって言いたいけれど
天邪鬼な私には、そう呟くので精一杯だった
それでも、言いたいことは伝わっているのか……
真弘は優しく笑って、私を抱き寄せてくれた
「……真弘」
「ん?」
「……ううん、なんでもない」
「……そうか」
身体を離したときに、私の服の隙間から見える白い包帯を見て、真弘が一瞬だけ顔を歪める
一年前に負けず劣らず、私たちは大怪我ばかりだ
「大丈夫よ
見た目ほど大げさな怪我じゃないから」
「……分かってる」
真弘に手を引かれて、私は宇賀谷家を出た
きっと真弘は分かっている
私の大丈夫が、本当は大丈夫ではないことも
そうだとしても、大丈夫だと言わなければいけないことも
ニールにつけられた傷よりも、村の人に撃たれた傷が何より痛むのだということも
全部……真弘は分かっている
「ねぇ、真弘」
「ん?」
「いつから気付いてたの?
誰かと話すとき、私が怯えた目をするって」
「……祐一のやつ
優佳に言うなって口止めしてたってのによ」
「ごめんなさい、私が無理に聞いちゃったの
真弘が鬼斬丸封印の影響を考えていないとは思ってなかったけど、理由はそれだけじゃなかったような気がしていたから……」
真弘は誤魔化すように口を開いて
……けれど出てきたのは、ため息だった
「ガキの頃からだよ」
「え……」
「お前が村に戻ってきてすぐ、小学校に通うことになったろ?
その時は五月だったから、学校自体はとっくに始まっててよ……
お前は今まで病欠で休んでたから、友達なんているはずもなくて、教室の隅でずっと俯いてたんだ」
「……そうだったかな
小学校の頃の記憶は、あんまり残ってなくて」
「忘れていいさ、あんなもの
……お前がクラスの奴から話し掛けられると、絶対に一度だけ、目が怯えるんだ
それで、お前はクラスの奴らが苦手なのかって最初は思った
けどそれは違ってて……決定的だったのは、商店街に行った時だったよ」
「商店街……」
私が悲劇を起こした場所
たった二年で帰ってきた元凶を前に、商店街の人たちは何を思っただろう
「遠足のおやつを買いに行ったら、お前、商店街の入口で動けなくなってな
その時、ずっとお前は震えてた
小遣いの入った小さい財布を握り締めて……
恐怖に染まった顔して、ガタガタ震えてたんだ」
「……」
「怖いんだな、ってようやく気付いた
大人が怖いんじゃなくて、自分以外の人間がみんな怖いんだろうってさ
お前の病気は身体じゃなくて心だってババ様が言ってたけど、こういうことかってやっと分かった
……それでもお前は、俺のことは怖がらなかったんだ
祐一や拓磨、大蛇さんに美鶴、慎司……お前が怯えなくて済む相手は増えたけど、そこまでだった
それが……その怯えたような目が、今でも続いてる
そんな状態で大学なんて、もっと人が多いところに行ったら……優佳はどうなっちまうんだって思ってさ」
「……真弘」
「だから大学に行くのはやめたんだ
俺が辞めるって言えば、お前も俺と一緒に合格を辞退するだろうって思ってよ」
結果その通りになったしな──そう言って真弘が少しだけ笑った
……真弘は、どうしてそこまでしてくれるんだろう
そう尋ねても、きっと「好きだから」なんて理由で終わってしまうんだろうけど
「……ありがとう、真弘」
どうにかそれだけを絞り出した私は、真弘と手を繋いだまま、外へと出た
私も相当な恨みを買ってしまったものだな
村の人たちとは、鬼斬丸を封印して以降、少しずつ距離が縮まりつつあった
私たちだけでは縮められなかったその距離を、率先して縮めてくれたのは、他でもない珠紀ちゃんだ
少なからず感謝はしているし、私たちのことを誤解したままの状態が嫌だったという彼女の気持ちも嬉しい
……だけど、それでもやっぱり、十五年前の悲劇を知っている人たちは、私と関わろうとはしなかった
大人たちの間では知らない人のほうが少ない事件だから、まあ言うなれば……大半の大人たちは、私を忌み嫌ったまま
確認できなかったけど、沼田さんたちは無事かな
沼田さん、たしかお母さんを神隠しで失ったって言っていた
それがいつのことかは分からないけど、それも極論を言ってしまえば、私が贄になる決心を先延ばしにし続けていたせいなんだろう
ふるふると頭を振って、客間の襖を開ける
「おぉ、優佳」
居間に戻ると、真弘がいつもの笑顔で迎えてくれた
……いや、なんでここに、客間で休んでたんじゃなかったの?
「ちょ、ちょっとちょっと!
おぉじゃないわよ!
横になってなきゃ駄目だって、あれほど言ったでしょう!?
重傷なのよ!?
分かってるの!?
本っ当に油断も隙もあったもんじゃないんだから!」
「心配性な姫様だな
あんな傷、どうってこたぁねえよ」
「えええ……」
強がりもここまで来るとただのやせ我慢だよ……
本当にもう、真弘って人は
「ニールの野郎、逃げやがって……
次に会ったら、ギッタギタに伸してやる
お前は安心してろよ
俺があんな奴に負けるわけねえんだから」
「……真弘……」
結局、真弘の強がりはいつだって、私たちを不安にさせないためのものだ
自分に言い聞かせるようなその言葉を聞くたびに、私は胸が締め付けられていくような気になる
「さて、見回りも兼ねて……ちょっと散歩にでも行ってくるか」
「え……」
真弘が、行っちゃう
私を置いて……どこかに行ってしまう
「……何だよ
どうした」
いつの間にか、行こうとする真弘の服の裾を掴んでいた
「あ……いや……その……」
なんて言っていいのか分からなくて
でも、手を離す気にもなれなかった
「まったくお前はどうしようもねえな
俺がそばにいないと不安でしょうがねえんだろ」
「……不安だよ
そばにいないと……いつだって不安で仕方なくなるもん」
離れてしまえば、もう会えない気がした
そうなったら私はどうやって生きていけばいいんだろう
真弘が隣にいないのに、生き方なんて分からないよ
「……見回り、一緒に来るか?」
「……うん」
真弘が少し笑って見せる
その表情が、優しくて、大人っぽくて……
多分、これが本当の真弘の、素の部分なんだろうと改めて思う
服の裾を掴む私の手を、真弘がそっと握る
「傷、お前こそ平気か?」
「……こんな傷、大したことないよ」
「さっきの俺への返しか?」
「……バカ」
本当は、もっと素直にありがとうって言いたいけれど
天邪鬼な私には、そう呟くので精一杯だった
それでも、言いたいことは伝わっているのか……
真弘は優しく笑って、私を抱き寄せてくれた
「……真弘」
「ん?」
「……ううん、なんでもない」
「……そうか」
身体を離したときに、私の服の隙間から見える白い包帯を見て、真弘が一瞬だけ顔を歪める
一年前に負けず劣らず、私たちは大怪我ばかりだ
「大丈夫よ
見た目ほど大げさな怪我じゃないから」
「……分かってる」
真弘に手を引かれて、私は宇賀谷家を出た
きっと真弘は分かっている
私の大丈夫が、本当は大丈夫ではないことも
そうだとしても、大丈夫だと言わなければいけないことも
ニールにつけられた傷よりも、村の人に撃たれた傷が何より痛むのだということも
全部……真弘は分かっている
「ねぇ、真弘」
「ん?」
「いつから気付いてたの?
誰かと話すとき、私が怯えた目をするって」
「……祐一のやつ
優佳に言うなって口止めしてたってのによ」
「ごめんなさい、私が無理に聞いちゃったの
真弘が鬼斬丸封印の影響を考えていないとは思ってなかったけど、理由はそれだけじゃなかったような気がしていたから……」
真弘は誤魔化すように口を開いて
……けれど出てきたのは、ため息だった
「ガキの頃からだよ」
「え……」
「お前が村に戻ってきてすぐ、小学校に通うことになったろ?
その時は五月だったから、学校自体はとっくに始まっててよ……
お前は今まで病欠で休んでたから、友達なんているはずもなくて、教室の隅でずっと俯いてたんだ」
「……そうだったかな
小学校の頃の記憶は、あんまり残ってなくて」
「忘れていいさ、あんなもの
……お前がクラスの奴から話し掛けられると、絶対に一度だけ、目が怯えるんだ
それで、お前はクラスの奴らが苦手なのかって最初は思った
けどそれは違ってて……決定的だったのは、商店街に行った時だったよ」
「商店街……」
私が悲劇を起こした場所
たった二年で帰ってきた元凶を前に、商店街の人たちは何を思っただろう
「遠足のおやつを買いに行ったら、お前、商店街の入口で動けなくなってな
その時、ずっとお前は震えてた
小遣いの入った小さい財布を握り締めて……
恐怖に染まった顔して、ガタガタ震えてたんだ」
「……」
「怖いんだな、ってようやく気付いた
大人が怖いんじゃなくて、自分以外の人間がみんな怖いんだろうってさ
お前の病気は身体じゃなくて心だってババ様が言ってたけど、こういうことかってやっと分かった
……それでもお前は、俺のことは怖がらなかったんだ
祐一や拓磨、大蛇さんに美鶴、慎司……お前が怯えなくて済む相手は増えたけど、そこまでだった
それが……その怯えたような目が、今でも続いてる
そんな状態で大学なんて、もっと人が多いところに行ったら……優佳はどうなっちまうんだって思ってさ」
「……真弘」
「だから大学に行くのはやめたんだ
俺が辞めるって言えば、お前も俺と一緒に合格を辞退するだろうって思ってよ」
結果その通りになったしな──そう言って真弘が少しだけ笑った
……真弘は、どうしてそこまでしてくれるんだろう
そう尋ねても、きっと「好きだから」なんて理由で終わってしまうんだろうけど
「……ありがとう、真弘」
どうにかそれだけを絞り出した私は、真弘と手を繋いだまま、外へと出た
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