九章
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宝具が奪われた次の日
昼休みになって、私たちは屋上に集まった
でもやっぱり、口数は少なめ
おにぎりを食べながら、私はぼうっと景色を眺める
「……なんだ
みんな、やっぱりここにいたんじゃない」
珠紀ちゃんの明るい声が聞こえた
わざとそんな声を出したんだと、私には分かった
「ここにいちゃ、悪いかよ
俺がどうしようと俺の勝手だろ」
「……別に、悪いだなんて言ってないよ」
「女の心配を無下にするようじゃあ、男は終わりじゃねえの?
なあ、拓磨」
真弘が焼きそばパンをかじりながら面白そうに言った
でも、それでみんな黙ってしまう
「……珠紀ちゃん、お弁当は?」
「あ、今日は、その……」
食欲がなかったから、持ってこなかった
そんなところだろうか
祐一がひょいと、お稲荷さんを差し出した
「食べるといい
腹に何か入れておいた方が、前向きになれる」
「あ、ありがとう、ございます」
「お弁当、忘れちゃったんですか?」
慎司がそう言って、お手製のおにぎりを差し出した
おにぎりって……慎司め!
「あーちょっと慎司!
私と被ってるじゃない!」
「ええ!?
あ、あの、すみません!」
「い、いいよ
それ慎司君のでしょ?」
「この間は分けてもらいましたから
今度は僕が」
「じゃあ珠紀ちゃん、私のおにぎりもあげちゃう!」
「……ん
じゃあ、俺のもやるよ」
真弘が差し出すのは、食べかけの焼きそばパン
いや、なんでそれを受け取ると思ったのよ
「……それはいりません」
「食べかけは、ね」
「お前な、せっかく人が親切にしてやってんのになんだその態度」
「……いやー、嬉しいけど
食べかけはちょっと……」
「何だよ
じゃあ優佳、食うか?」
「真弘が食べてください」
真弘の食べかけなんて、いくら私でも心底お断りだ
そんなやり取りをしていると、拓磨が珠紀ちゃんの傍に立っていた
「やる」
拓磨が差し出したのはタイヤキ
まだ少し湯気が立っている
「ちょっと言い過ぎた
悪かった、謝る
授業サボってる時に買ったやつだから、まだ温かいと思う」
「わ、私の、ために?」
「ついでに二個買っただけだ」
「ふーん?
本当についでなのかなー?」
拓磨をそう揶揄ってみる
拓磨はちょっと頬を赤くして、珠紀ちゃんにタイヤキを突き出した
珠紀ちゃんがタイヤキを受け取って、一口かじる
「……温かいね」
そうして私たちはようやく、いつもの調子でしゃべりだした
何となく雰囲気が解れたところで、珠紀ちゃんが思い出したように口を開く
「ああ、そういえばね
おばあちゃんが、帰りに寄ってけって」
それは、つまるところ
「……小言、か」
気持ちがまた暗くなった
……小言、だけで終わるといいけど
そろそろ覚悟を決めろと、言われてしまうかもしれない
まだ宝具は四つある、祐一はそう言った
真弘もそれを否定しなかった
ババ様がその判断を下すのは、もっと先だと言いたいのだろう
……でも、私は忘れていない
『狂おうとも構わない
この子はいずれ封印の為に死ぬのだから』
そう、ババ様が私に向かって言ったことを
私の命なんて、軽いものだ
全てババ様の一声で、決まってしまうものなのだから
「……あ、昼休み、終わっちゃった」
チャイムが鳴って、みんなで屋上を後にする
また放課後にと手を振って別れ、私達は三年生の教室へ
クラスは週末にある模試に向けて、みんな勉強に励んでいた
みんなからは、どう見えているんだろう
私達のこと、疎ましく思っているのかな
自分達は死ぬ気で勉強してるのに、呑気な奴らだって、思ってるのかな
(受験勉強、したかったよ)
都会の大学に進学して、四年間を思いっきり楽しんで、そうしてまたこの村に帰ってくる
それだけの事が、私には用意されていない
宝具がひとつ持ち去られてしまった今となっては、そんな未来が来ることなど絶望的だ
私に出来るのは、ただ一つ
いずれ来るその時を、ただ待つことだけ――
昼休みになって、私たちは屋上に集まった
でもやっぱり、口数は少なめ
おにぎりを食べながら、私はぼうっと景色を眺める
「……なんだ
みんな、やっぱりここにいたんじゃない」
珠紀ちゃんの明るい声が聞こえた
わざとそんな声を出したんだと、私には分かった
「ここにいちゃ、悪いかよ
俺がどうしようと俺の勝手だろ」
「……別に、悪いだなんて言ってないよ」
「女の心配を無下にするようじゃあ、男は終わりじゃねえの?
なあ、拓磨」
真弘が焼きそばパンをかじりながら面白そうに言った
でも、それでみんな黙ってしまう
「……珠紀ちゃん、お弁当は?」
「あ、今日は、その……」
食欲がなかったから、持ってこなかった
そんなところだろうか
祐一がひょいと、お稲荷さんを差し出した
「食べるといい
腹に何か入れておいた方が、前向きになれる」
「あ、ありがとう、ございます」
「お弁当、忘れちゃったんですか?」
慎司がそう言って、お手製のおにぎりを差し出した
おにぎりって……慎司め!
「あーちょっと慎司!
私と被ってるじゃない!」
「ええ!?
あ、あの、すみません!」
「い、いいよ
それ慎司君のでしょ?」
「この間は分けてもらいましたから
今度は僕が」
「じゃあ珠紀ちゃん、私のおにぎりもあげちゃう!」
「……ん
じゃあ、俺のもやるよ」
真弘が差し出すのは、食べかけの焼きそばパン
いや、なんでそれを受け取ると思ったのよ
「……それはいりません」
「食べかけは、ね」
「お前な、せっかく人が親切にしてやってんのになんだその態度」
「……いやー、嬉しいけど
食べかけはちょっと……」
「何だよ
じゃあ優佳、食うか?」
「真弘が食べてください」
真弘の食べかけなんて、いくら私でも心底お断りだ
そんなやり取りをしていると、拓磨が珠紀ちゃんの傍に立っていた
「やる」
拓磨が差し出したのはタイヤキ
まだ少し湯気が立っている
「ちょっと言い過ぎた
悪かった、謝る
授業サボってる時に買ったやつだから、まだ温かいと思う」
「わ、私の、ために?」
「ついでに二個買っただけだ」
「ふーん?
本当についでなのかなー?」
拓磨をそう揶揄ってみる
拓磨はちょっと頬を赤くして、珠紀ちゃんにタイヤキを突き出した
珠紀ちゃんがタイヤキを受け取って、一口かじる
「……温かいね」
そうして私たちはようやく、いつもの調子でしゃべりだした
何となく雰囲気が解れたところで、珠紀ちゃんが思い出したように口を開く
「ああ、そういえばね
おばあちゃんが、帰りに寄ってけって」
それは、つまるところ
「……小言、か」
気持ちがまた暗くなった
……小言、だけで終わるといいけど
そろそろ覚悟を決めろと、言われてしまうかもしれない
まだ宝具は四つある、祐一はそう言った
真弘もそれを否定しなかった
ババ様がその判断を下すのは、もっと先だと言いたいのだろう
……でも、私は忘れていない
『狂おうとも構わない
この子はいずれ封印の為に死ぬのだから』
そう、ババ様が私に向かって言ったことを
私の命なんて、軽いものだ
全てババ様の一声で、決まってしまうものなのだから
「……あ、昼休み、終わっちゃった」
チャイムが鳴って、みんなで屋上を後にする
また放課後にと手を振って別れ、私達は三年生の教室へ
クラスは週末にある模試に向けて、みんな勉強に励んでいた
みんなからは、どう見えているんだろう
私達のこと、疎ましく思っているのかな
自分達は死ぬ気で勉強してるのに、呑気な奴らだって、思ってるのかな
(受験勉強、したかったよ)
都会の大学に進学して、四年間を思いっきり楽しんで、そうしてまたこの村に帰ってくる
それだけの事が、私には用意されていない
宝具がひとつ持ち去られてしまった今となっては、そんな未来が来ることなど絶望的だ
私に出来るのは、ただ一つ
いずれ来るその時を、ただ待つことだけ――
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