四十一章
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バレンタインデー前日の、二月十三日
宇賀屋家の台所に、私と珠紀ちゃんの声が響いた
「……それでね、拓磨ったら、私の分を買うの忘れてたんですよ!
私だって食べたかったのに、たい焼き!」
「彼氏なのにそれは駄目だよねぇ」
カシャカシャとボウルの中のチョコレートをかき混ぜる音が、心なしか強い
まあ、拓磨にとって、女の子と付き合うなんてこと自体が初めてだろうし
所々で気が利かなくても仕方ないのかな、なんて
「さてと、湯煎したチョコレートをカップに入れて……」
ティースプーンでチョコレートを掬って、ハート型のカップに入れていく
たい焼きがなかったって怒りながらも、拓磨のためにチョコレートを作る珠紀ちゃんは楽しそうだ
材料的にも、これが最後の一回
どうか成功してくれと祈りながら、珠紀ちゃんの作業を見守って――
「で、出来たー!!」
珠紀ちゃんの手元には、綺麗にコーティングされたチョコレートが
喜ぶ珠紀ちゃんとハイタッチをして、珠紀ちゃんが冷蔵庫にチョコレートをしまい込む
そうして調理器具を片付けて、私達は居間で寛ぐことにした
「失敗したやつはどうするの?」
「みんなに義理であげます、勿体ないし
……あ、真弘先輩には、あげないほうがいいですか?
優佳先輩が嫌なら、私が責任をもって食べますけど」
「いやぁ、義理でもあげないと、逆にうるさいと思うなぁ
毎年、私からしかもらえなかったのが、今年は珠紀ちゃんからももらえるはずって考えてそうだし
……二年の教室に押し掛けてきたら、渡してあげて」
「優佳先輩、なんて心が広い……」
「真弘と付き合うなら、これくらいのことでいちいち目くじら立てられないよ
こっちが疲れちゃう」
「大変なんですね……真弘先輩の彼女って……」
まあ、あの人と付き合うなら、こっちが振り回されてやるくらいの覚悟でいないと
素直に人の話なんか聞かないし
「まあ単純で扱いやすいところもあるし、結構あれでもちゃんとしてるしね
バカ言いつつもやる時はやるでしょ?」
「そうなんですよ、だから勿体ないなあって……
半分わざとふざけてるのかなって思うんですよね
普段からちゃんとしてれば、女子からだってそれなりに人気出そうなのに」
「それは否定しないなぁ
でも、真弘があんな感じだからこそ、私が独り占め出来てるところもあるじゃない?
あとついでに、そんな真弘と付き合ってるのってすごい、みたいに思ってもらえるし」
「なるほど……
真弘先輩があんな感じなのも、優佳先輩の計算のうちってわけか……」
「ふふっ、どうだろうなぁ
長年の付き合いで、真弘の言動が手に取るように分かるだけなのかも
でも、真弘のことを好きになるのは、私だけがいいな、とは思ってる」
「心配いりません!
真弘先輩には優佳先輩だけですよ!
ミニマムカップルはそのままでいてください!」
「……珠紀ちゃん、それ、私に言うのはいいけど、真弘の前では言わないようにね?」
もちろんです、と笑って珠紀ちゃんが頷く
ミニマムカップルかぁ……と去年の春にやった身体測定を思い出す
なぜか小学生の頃から面白いくらい身長が伸びなくて、身長は百五十センチで止まってしまった
体重もいわゆる美容体重から標準体重を行ったり来たりしていて、太りすぎないようには気を付けているけど
……私の成長って、どう考えても胸に栄養が行っちゃった気がするよね
「珠紀ちゃんは身長、真弘とそんなに変わらないよね」
「百六十センチなので、なんなら真弘先輩よりちょっと上ですもんね」
「ふふ、思い出すなぁ
初対面で二人して小学生に間違われたこと」
「うっ……その節は本当にすみませんでした」
「あはは、いいのいいの、気にしてないから
真弘は背が低いのを、ものすごく気にしてるけどね
毎日しっかり牛乳飲んでるくらいだもん」
「……涙ぐましい努力が、まるで身を結ばないことってあるんですね」
「世の中、そう甘くはないってことよね……」
居間の時計が六時を指す
そろそろ帰ろうかなと席を立つと、ちょうど美鶴が帰ってきた
「美鶴、お帰り」
「ただいま戻りました
櫻葉さん、珠紀様のことをありがとうございました」
「ううん、私も楽しかったから
それに、玉依姫を守るのは守護者の務めだからね」
もう襲われる心配がないにしても、拓磨や真弘が言う通り、ちょっと危なっかしいところがあるからな、珠紀ちゃんは
いたずらっぽく笑ってそう言うと、珠紀ちゃんが「もう!」と口を尖らせた
「はあ……優佳先輩くらいサバサバしてて性格も良いなら、モテたんだろうな、私も」
「珠紀ちゃん、ここに来る前は女子校だったって言ってなかった?」
「そうなんです、だから余計に男子との付き合い方とか分かんなかったんですよ
なのに拓磨も真弘先輩もあんな感じだし!」
「あはは……まあ、言わんとしていることは分かるなぁ
素直じゃないだけなんだけどね、二人とも」
美鶴が微笑ましく私達を見つめながら頷く
……珠紀ちゃんと美鶴の間でどんなやり取りがなされたかは知らないけど、美鶴もかなり珠紀ちゃんに惚れ込んでるもんなぁ
拓磨、もしかしたら恋のライバルは美鶴かもよ、なんて
「それより、櫻葉さん
せっかくですし、このままお夕飯も召し上がっていかれませんか?」
「え、いいの?
私は助かるけど……」
「もちろんです
すぐにご用意しますね」
割烹着に着替えた美鶴が、いそいそと台所に入っていく
私達はテレビでも観て待っていようか、となって、居間のテレビをつけた
テレビはちょうど週間の天気予報の真っ最中だ
「毎日のように雪マークですね……」
「ここは山奥だから、積もると思うなぁ
家の前の雪かきも楽じゃないのに」
「そういう時、一人暮らしで大変じゃないですか?」
「人手が必要な時は、八重と吉野に手伝ってもらってるから、大丈夫
……本当は雑用をやらせるためにつくったんじゃないんだけど、平和になるとあの二柱の使い道も、雑用係にならざるを得なくてね」
八重と吉野は、ロゴスとの戦いの中で度々登場した、私の式神
並の妖なら二人で対処出来るくらい強い力を持つけれど、それもアリアの前では意味を成さなかった
まあ、今となっては不要な存在ではあるけど、一人暮らしだと人手は常に足りない状態だから、家の手伝いをさせている
……八重と吉野に意思がなくて助かった
あったら絶対に文句を言われているところだった
宇賀屋家の台所に、私と珠紀ちゃんの声が響いた
「……それでね、拓磨ったら、私の分を買うの忘れてたんですよ!
私だって食べたかったのに、たい焼き!」
「彼氏なのにそれは駄目だよねぇ」
カシャカシャとボウルの中のチョコレートをかき混ぜる音が、心なしか強い
まあ、拓磨にとって、女の子と付き合うなんてこと自体が初めてだろうし
所々で気が利かなくても仕方ないのかな、なんて
「さてと、湯煎したチョコレートをカップに入れて……」
ティースプーンでチョコレートを掬って、ハート型のカップに入れていく
たい焼きがなかったって怒りながらも、拓磨のためにチョコレートを作る珠紀ちゃんは楽しそうだ
材料的にも、これが最後の一回
どうか成功してくれと祈りながら、珠紀ちゃんの作業を見守って――
「で、出来たー!!」
珠紀ちゃんの手元には、綺麗にコーティングされたチョコレートが
喜ぶ珠紀ちゃんとハイタッチをして、珠紀ちゃんが冷蔵庫にチョコレートをしまい込む
そうして調理器具を片付けて、私達は居間で寛ぐことにした
「失敗したやつはどうするの?」
「みんなに義理であげます、勿体ないし
……あ、真弘先輩には、あげないほうがいいですか?
優佳先輩が嫌なら、私が責任をもって食べますけど」
「いやぁ、義理でもあげないと、逆にうるさいと思うなぁ
毎年、私からしかもらえなかったのが、今年は珠紀ちゃんからももらえるはずって考えてそうだし
……二年の教室に押し掛けてきたら、渡してあげて」
「優佳先輩、なんて心が広い……」
「真弘と付き合うなら、これくらいのことでいちいち目くじら立てられないよ
こっちが疲れちゃう」
「大変なんですね……真弘先輩の彼女って……」
まあ、あの人と付き合うなら、こっちが振り回されてやるくらいの覚悟でいないと
素直に人の話なんか聞かないし
「まあ単純で扱いやすいところもあるし、結構あれでもちゃんとしてるしね
バカ言いつつもやる時はやるでしょ?」
「そうなんですよ、だから勿体ないなあって……
半分わざとふざけてるのかなって思うんですよね
普段からちゃんとしてれば、女子からだってそれなりに人気出そうなのに」
「それは否定しないなぁ
でも、真弘があんな感じだからこそ、私が独り占め出来てるところもあるじゃない?
あとついでに、そんな真弘と付き合ってるのってすごい、みたいに思ってもらえるし」
「なるほど……
真弘先輩があんな感じなのも、優佳先輩の計算のうちってわけか……」
「ふふっ、どうだろうなぁ
長年の付き合いで、真弘の言動が手に取るように分かるだけなのかも
でも、真弘のことを好きになるのは、私だけがいいな、とは思ってる」
「心配いりません!
真弘先輩には優佳先輩だけですよ!
ミニマムカップルはそのままでいてください!」
「……珠紀ちゃん、それ、私に言うのはいいけど、真弘の前では言わないようにね?」
もちろんです、と笑って珠紀ちゃんが頷く
ミニマムカップルかぁ……と去年の春にやった身体測定を思い出す
なぜか小学生の頃から面白いくらい身長が伸びなくて、身長は百五十センチで止まってしまった
体重もいわゆる美容体重から標準体重を行ったり来たりしていて、太りすぎないようには気を付けているけど
……私の成長って、どう考えても胸に栄養が行っちゃった気がするよね
「珠紀ちゃんは身長、真弘とそんなに変わらないよね」
「百六十センチなので、なんなら真弘先輩よりちょっと上ですもんね」
「ふふ、思い出すなぁ
初対面で二人して小学生に間違われたこと」
「うっ……その節は本当にすみませんでした」
「あはは、いいのいいの、気にしてないから
真弘は背が低いのを、ものすごく気にしてるけどね
毎日しっかり牛乳飲んでるくらいだもん」
「……涙ぐましい努力が、まるで身を結ばないことってあるんですね」
「世の中、そう甘くはないってことよね……」
居間の時計が六時を指す
そろそろ帰ろうかなと席を立つと、ちょうど美鶴が帰ってきた
「美鶴、お帰り」
「ただいま戻りました
櫻葉さん、珠紀様のことをありがとうございました」
「ううん、私も楽しかったから
それに、玉依姫を守るのは守護者の務めだからね」
もう襲われる心配がないにしても、拓磨や真弘が言う通り、ちょっと危なっかしいところがあるからな、珠紀ちゃんは
いたずらっぽく笑ってそう言うと、珠紀ちゃんが「もう!」と口を尖らせた
「はあ……優佳先輩くらいサバサバしてて性格も良いなら、モテたんだろうな、私も」
「珠紀ちゃん、ここに来る前は女子校だったって言ってなかった?」
「そうなんです、だから余計に男子との付き合い方とか分かんなかったんですよ
なのに拓磨も真弘先輩もあんな感じだし!」
「あはは……まあ、言わんとしていることは分かるなぁ
素直じゃないだけなんだけどね、二人とも」
美鶴が微笑ましく私達を見つめながら頷く
……珠紀ちゃんと美鶴の間でどんなやり取りがなされたかは知らないけど、美鶴もかなり珠紀ちゃんに惚れ込んでるもんなぁ
拓磨、もしかしたら恋のライバルは美鶴かもよ、なんて
「それより、櫻葉さん
せっかくですし、このままお夕飯も召し上がっていかれませんか?」
「え、いいの?
私は助かるけど……」
「もちろんです
すぐにご用意しますね」
割烹着に着替えた美鶴が、いそいそと台所に入っていく
私達はテレビでも観て待っていようか、となって、居間のテレビをつけた
テレビはちょうど週間の天気予報の真っ最中だ
「毎日のように雪マークですね……」
「ここは山奥だから、積もると思うなぁ
家の前の雪かきも楽じゃないのに」
「そういう時、一人暮らしで大変じゃないですか?」
「人手が必要な時は、八重と吉野に手伝ってもらってるから、大丈夫
……本当は雑用をやらせるためにつくったんじゃないんだけど、平和になるとあの二柱の使い道も、雑用係にならざるを得なくてね」
八重と吉野は、ロゴスとの戦いの中で度々登場した、私の式神
並の妖なら二人で対処出来るくらい強い力を持つけれど、それもアリアの前では意味を成さなかった
まあ、今となっては不要な存在ではあるけど、一人暮らしだと人手は常に足りない状態だから、家の手伝いをさせている
……八重と吉野に意思がなくて助かった
あったら絶対に文句を言われているところだった
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