三十八章
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いつもはまばらに軽トラなんかが走る商店街は、今日ばかりは両脇に出店が立ち並び、歩行者専用だ
すっかりお祭り仕様になった商店街を歩きながら、ちらりと隣の珠紀ちゃんを見やると、それはもう目がキラキラしていた
さて、こうなれば、我らが姫様のエスコートを買って出てこそ、守護者というもの
「珠紀ちゃん、どこか気になったお店とかって……ない……?」
私の声が変に途切れる
代わりに、それはそれは聞き慣れた声が、喧騒を掻き分けて聞こえてきた
「祭りだねー、いいねー
俺さ、クールそうに見えて、意外と賑やかなのが好きなんだよな
イメージのギャップがこう、俺の格好よさを際立たせてるんだよ
分かるか拓磨?」
「いや……意外も何も……」
拓磨の答えに私は心の中で同情した
真弘はもう、見たまんまだもの
ギャップも何もない
今だって二人して、ガラが悪そうに見えるというか
行き交う人がみんな道を空けているし、視線も逸らしているし……
「気が付いてないんだろうなぁ……」
隣で珠紀ちゃんが無言のままに頷く
正直、今だけは恋人とか知り合いとか、思われたくないかも……
うら若き花の乙女が、一気に姐さんだ
「……声を掛けるべきなんでしょうか」
「う、うーん……」
正直に言えば、あんまり声を掛けたくない
もう黙って様子を見ておいたほうがいい気もして、私はそっと首を横に振った
ですよね、と珠紀ちゃんが呟く
そりゃあ友達が出来ないわけだ、二人とも
中身はいい人なのにね……
男の子にしては背が小さくて、反比例するみたいに態度は大きいけど、優しいし、格好いいところもあるし
ああ駄目だ、うっかり真弘のことを考えてしまった
見つからないうちに退散しようと珠紀ちゃんを見やるけど、珠紀ちゃんはまだどうするか決めかねているようだ
……確かに、無視して、それがバレたら、後々面倒そうだな、とは思う
それに……せっかくここで、拓磨と会えたんだし、ね
「拓磨、真弘先輩……こんばんは」
「二人とも、お疲れ様」
珠紀ちゃんに続いて声をかけると、真弘が先に気付いて、目を丸くした
「……お!
あれ、お前ら……」
「へえ、今日は着物か
これは、意外と……」
「お祭りだったから、着物にしてみたんだけど
……変かな?」
珠紀ちゃんが不安そうに拓磨へ尋ねる
ここで馬子にも衣装とか言ったら怒るわよ、と思っていると、拓磨は口元に笑みを浮かべて
「そうだな、似合ってると言えなくもない」
「……まあ、ちょっと驚いた」
「……えへへ、嬉しいです
ね、真弘先輩、優佳先輩にも言うことあるでしょ?」
「ちょ、ちょっと珠紀ちゃん……っ!」
珠紀ちゃんが私の両肩に手を置いて、真弘へとそう言う
こ、これで馬子にも衣装とか言われたら、さすがに立ち直れない……
「まあそりゃあ、俺の姫様は世界で一番美人だからな
綺麗になるに決まってるんだよ」
「あ、う……ありがとう」
ちょっと頬が赤くなって、手の甲を当てる
まさかここまでストレートに言われるとは思わなかった
でもでも、今日の主役はやっぱり珠紀ちゃんだと思う
拓磨はちょっと笑って、珠紀ちゃんの着物姿をじっと見て
「こういうときにぴったりの言葉があったな」
「……なになに?」
「ええと、確か……」
「あ、分かったぜ!
あれだな、あれあれ!」
真弘が合わせるように相槌を打つ
こういう時の二人はろくなことを言わない
これまでの付き合いが導き出した結論だ
そして案の定、二人は言ってはいけないことを言った
「「馬子にも衣装!」」
「それは褒め言葉じゃないでしょうが!」
まったくもう、二人して素直じゃないんだから
……真弘ってば、私に対してはあんなに素直に褒めてくれるのに、なんで珠紀ちゃんに関してはこうなんだろうな
「……で、何してたの、二人とも?」
二人の発言をスルーして、珠紀ちゃんがそう尋ねる
付き合うだけ馬鹿らしいと判断したらしい
「見回りだよ
割と大きな祭りだしな
ま、俺らなら止められないケンカはないだろうし」
「へー、お祭りの日だっていうのに、大変なんだね」
「うっせーな
村の祭りを影で支える正義のヒーローなんだよ!
なー拓磨!」
「……ヒーローって恥ずかしいんで、俺は含めない方向でお願いします」
「んだよ、ノリわりー」
「まあどっちにしたって、適材適所なんだよ」
「ふーん」
珠紀ちゃんが素直に頷いたとき、こちらへ向かってくる足音が聞こえてきた
やってきたのは慎司だ、神主の格好をしている
「あー!
真弘先輩、こんなところにいたんですか!
あっちでケンカが!」
「な、なんだと!」
「あ!
さっそく役に立って——」
「シケたケンカじゃねーだろーな!
俺も混ぜろコノヤロー!」
……真弘、やっぱりバカだ……
なんで仲裁役の真弘が率先して飛び込むのよ……
「真弘先輩!?
真弘先輩が混ざってどうするんですか!
ちょっと聞いてます!?」
そう言いながら慎司も後を追いかけていった
……役に立っては、なさそうだ
「……適材適所なのかな、あのヒーロー」
「……まあ、ヒーローにも色々だろ
あの人が出てくと、だいたいケンカじゃなくなるから」
「それはまあ、確かに言えてるのよね……」
「被害が拡大してるだけ、だよね……ぷっ」
珠紀ちゃんが笑いを堪えると、拓磨も苦笑しつつ相槌を打った
そうして私を見やる
「そういうわけなんで、優佳先輩
真弘先輩のこと、後は頼みます」
「え、ええー!?
私に荒事を押し付けようって言うの!?」
「違いますよ
あの真弘先輩を止められるのなんて、優佳先輩しかいないじゃないすか
これも適材適所ってやつっすよ」
「絶対違う!!」
そう叫んだとき、向こうから怒号に混じって真弘の楽しそうな、それでいてガラの悪い声が聞こえてきて……
……あれは、慎司に任せるには、荷が重すぎるなぁ
「うう、せっかく着物まで着て、お洒落したのに……」
「残念ながら、愚痴を言う相手が違いますね
文句はあの人に言ってください」
それはそうだから、拓磨に強く言い返せない
……まあ、正直、私がいても邪魔だなーとは、思っていたので……
仕方ない、腹を括るか……
大きなため息をついて、私は喧騒の絶えないその場所へと向かうことにした
慎司では今頃、どうしたらいいやら分からず、あたふたしているだろうから
すっかりお祭り仕様になった商店街を歩きながら、ちらりと隣の珠紀ちゃんを見やると、それはもう目がキラキラしていた
さて、こうなれば、我らが姫様のエスコートを買って出てこそ、守護者というもの
「珠紀ちゃん、どこか気になったお店とかって……ない……?」
私の声が変に途切れる
代わりに、それはそれは聞き慣れた声が、喧騒を掻き分けて聞こえてきた
「祭りだねー、いいねー
俺さ、クールそうに見えて、意外と賑やかなのが好きなんだよな
イメージのギャップがこう、俺の格好よさを際立たせてるんだよ
分かるか拓磨?」
「いや……意外も何も……」
拓磨の答えに私は心の中で同情した
真弘はもう、見たまんまだもの
ギャップも何もない
今だって二人して、ガラが悪そうに見えるというか
行き交う人がみんな道を空けているし、視線も逸らしているし……
「気が付いてないんだろうなぁ……」
隣で珠紀ちゃんが無言のままに頷く
正直、今だけは恋人とか知り合いとか、思われたくないかも……
うら若き花の乙女が、一気に姐さんだ
「……声を掛けるべきなんでしょうか」
「う、うーん……」
正直に言えば、あんまり声を掛けたくない
もう黙って様子を見ておいたほうがいい気もして、私はそっと首を横に振った
ですよね、と珠紀ちゃんが呟く
そりゃあ友達が出来ないわけだ、二人とも
中身はいい人なのにね……
男の子にしては背が小さくて、反比例するみたいに態度は大きいけど、優しいし、格好いいところもあるし
ああ駄目だ、うっかり真弘のことを考えてしまった
見つからないうちに退散しようと珠紀ちゃんを見やるけど、珠紀ちゃんはまだどうするか決めかねているようだ
……確かに、無視して、それがバレたら、後々面倒そうだな、とは思う
それに……せっかくここで、拓磨と会えたんだし、ね
「拓磨、真弘先輩……こんばんは」
「二人とも、お疲れ様」
珠紀ちゃんに続いて声をかけると、真弘が先に気付いて、目を丸くした
「……お!
あれ、お前ら……」
「へえ、今日は着物か
これは、意外と……」
「お祭りだったから、着物にしてみたんだけど
……変かな?」
珠紀ちゃんが不安そうに拓磨へ尋ねる
ここで馬子にも衣装とか言ったら怒るわよ、と思っていると、拓磨は口元に笑みを浮かべて
「そうだな、似合ってると言えなくもない」
「……まあ、ちょっと驚いた」
「……えへへ、嬉しいです
ね、真弘先輩、優佳先輩にも言うことあるでしょ?」
「ちょ、ちょっと珠紀ちゃん……っ!」
珠紀ちゃんが私の両肩に手を置いて、真弘へとそう言う
こ、これで馬子にも衣装とか言われたら、さすがに立ち直れない……
「まあそりゃあ、俺の姫様は世界で一番美人だからな
綺麗になるに決まってるんだよ」
「あ、う……ありがとう」
ちょっと頬が赤くなって、手の甲を当てる
まさかここまでストレートに言われるとは思わなかった
でもでも、今日の主役はやっぱり珠紀ちゃんだと思う
拓磨はちょっと笑って、珠紀ちゃんの着物姿をじっと見て
「こういうときにぴったりの言葉があったな」
「……なになに?」
「ええと、確か……」
「あ、分かったぜ!
あれだな、あれあれ!」
真弘が合わせるように相槌を打つ
こういう時の二人はろくなことを言わない
これまでの付き合いが導き出した結論だ
そして案の定、二人は言ってはいけないことを言った
「「馬子にも衣装!」」
「それは褒め言葉じゃないでしょうが!」
まったくもう、二人して素直じゃないんだから
……真弘ってば、私に対してはあんなに素直に褒めてくれるのに、なんで珠紀ちゃんに関してはこうなんだろうな
「……で、何してたの、二人とも?」
二人の発言をスルーして、珠紀ちゃんがそう尋ねる
付き合うだけ馬鹿らしいと判断したらしい
「見回りだよ
割と大きな祭りだしな
ま、俺らなら止められないケンカはないだろうし」
「へー、お祭りの日だっていうのに、大変なんだね」
「うっせーな
村の祭りを影で支える正義のヒーローなんだよ!
なー拓磨!」
「……ヒーローって恥ずかしいんで、俺は含めない方向でお願いします」
「んだよ、ノリわりー」
「まあどっちにしたって、適材適所なんだよ」
「ふーん」
珠紀ちゃんが素直に頷いたとき、こちらへ向かってくる足音が聞こえてきた
やってきたのは慎司だ、神主の格好をしている
「あー!
真弘先輩、こんなところにいたんですか!
あっちでケンカが!」
「な、なんだと!」
「あ!
さっそく役に立って——」
「シケたケンカじゃねーだろーな!
俺も混ぜろコノヤロー!」
……真弘、やっぱりバカだ……
なんで仲裁役の真弘が率先して飛び込むのよ……
「真弘先輩!?
真弘先輩が混ざってどうするんですか!
ちょっと聞いてます!?」
そう言いながら慎司も後を追いかけていった
……役に立っては、なさそうだ
「……適材適所なのかな、あのヒーロー」
「……まあ、ヒーローにも色々だろ
あの人が出てくと、だいたいケンカじゃなくなるから」
「それはまあ、確かに言えてるのよね……」
「被害が拡大してるだけ、だよね……ぷっ」
珠紀ちゃんが笑いを堪えると、拓磨も苦笑しつつ相槌を打った
そうして私を見やる
「そういうわけなんで、優佳先輩
真弘先輩のこと、後は頼みます」
「え、ええー!?
私に荒事を押し付けようって言うの!?」
「違いますよ
あの真弘先輩を止められるのなんて、優佳先輩しかいないじゃないすか
これも適材適所ってやつっすよ」
「絶対違う!!」
そう叫んだとき、向こうから怒号に混じって真弘の楽しそうな、それでいてガラの悪い声が聞こえてきて……
……あれは、慎司に任せるには、荷が重すぎるなぁ
「うう、せっかく着物まで着て、お洒落したのに……」
「残念ながら、愚痴を言う相手が違いますね
文句はあの人に言ってください」
それはそうだから、拓磨に強く言い返せない
……まあ、正直、私がいても邪魔だなーとは、思っていたので……
仕方ない、腹を括るか……
大きなため息をついて、私は喧騒の絶えないその場所へと向かうことにした
慎司では今頃、どうしたらいいやら分からず、あたふたしているだろうから
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