三十六章
夢小説設定
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死ぬのかな、そう思っていた時
不意に、真弘の手のひらが、私の手をギュッと握るのを感じた
その瞬間、白く塗りつぶされた世界に、真弘との思い出が浮かぶ
つらいことも、悲しいこともあった
でも、それ以上に、楽しい事とかくだらないこともあった
真弘に会えて、あなたを心から愛せて、よかった
最後にそう思って、私は満足感を覚えて微笑む
そばには真弘の温かさがある
最後の瞬間まで、真弘が一緒にいてくれる
私は決して、悲しくなかった
最後に何か、温かいものに包まれていくような感覚があって、それで……
……不思議なことに、身体の感覚があった
かなり疲れていて、体のどこもかしこも痛い、そんな感覚
ひとつ呻いて目を開けると、綺麗な朝日が水面に輝いていた
あらゆるものが朝日で赤く染まる中で、真弘は私を見て、穏やかに笑ってくれる
「……刀、鬼斬丸は……?」
「封印された、みたいだな」
真弘の声が、耳を優しく擽る
なんだかまるで現実感がない、私達はどうなったんだろう
「……ここが天国?」
「バカ、生きてるんだよ、俺たちは」
「……どうして、そんなこと」
「……最後に感じなかったか
なんか妙な優しい力みたいなもん」
「え?」
「鬼斬丸はよ、もともとは邪悪な力じゃなかったんだろ?
刀封印して、残ってた何にも染まってない力も一緒に封印されて、俺たちを……」
そこまで言って、真弘は面倒そうにため息をつく
「はぁ……やめた、考えても仕方ねえし
いいじゃねえか
俺たち二人、きちんと生き残ったんだ
文句あんのか」
私は首を横に振る
起き上がる気力はないけど、清々しい気持ちで、私は明けていく空を見つめる
空はすごくきれいな赤色
山の裾の方からは、新しい日が昇ろうとしていた
鬼斬丸は封印された
もう誰も、封印のために犠牲にならなくていい
もう誰も、苦しまなくていい
私たち二人は無事で、傍には、私の優しい大切な人がいる
「……文句なんか、ないよ」
涙が流れる
「……あるわけ、ないじゃない……」
真弘は、泣いている私をからかうことはしなかった
真弘もその瞳から涙を流して、笑っていた
「真弘
私たち……生きてるよ」
「ああ
……ちゃんと、生きてる」
立てるようになるまで、時間はかかりそうだけど
繋いだ手は、いつまでも離れなかった
朝日を身体に受けながら、ぼんやりと考える
「……想像できなかった
鬼斬丸を封印して、私達が生きてる未来」
「そうか、まあそうかもな」
「真弘は違ったの?」
「俺はこうなるだろうなと思ってたよ」
さらりとそう言われ、驚いて真弘を見やる
真弘は大の字になって寝転がったまま、私を見て笑った
「俺とお前に、出来ないことはないんだろ?」
私を奮い立たせるための言葉を、真弘も信じてくれていた
何度も頷いて、微笑むけれど、涙が止まらなくて
「真弘が生きてる……良かった、良かったぁ……」
「そこは二人とも生きてることを喜べよな
ったく……まあでも、お前が生きててくれて、良かったよ」
朝日が眩しく私達を照らす中で、私はただ声を上げて泣いた
生きている、私達はこうして、ここで生きている
それが何よりも嬉しかった
過去の私が何度も夢見て、その度に諦めていた、生きるという当たり前のことが、私と真弘に許された
もう死ななくていい、死のうと思わなくていい
これからはみんなと一緒に、生きていられる
隣に、いつまでも真弘がいてくれる
「真弘、ずっと一緒だからね
絶対に離れないでね」
「分かってるよ
今更、俺がお前を置いてどっか行くわけねぇって、散々言ったろ
死ぬまで一緒だよ、歳とって死ぬまでな」
何度も頷いて、涙と土埃と、色んなものでぐちゃぐちゃになった顔で笑い合う
朝日が顔に当たって眩しい
私達の人生は、ここからようやく、始まるんだ
「先輩達、ボロボロだ」
私達の前に立った珠紀ちゃんは、やっぱりこっちもボロボロ泣きながら笑っていた
そうして私達の前に、珠紀ちゃんの両手が差し出される
「帰ろう、先輩
みんなが待ってるよ」
私と真弘は笑って頷いて、傷だらけの手で珠紀ちゃんの手を握った
起き上がるだけで全身が痛むけど、それさえ私達が生きている証だと思うと、厭う気持ちすら起こらない
お互いに珠紀ちゃんの肩を借りながらどうにか立ち上がって、鬼斬丸が封印された沼から立ち去ろうと、宇賀屋家の方向へ足を向ける
「ここから宇賀屋家か……」
「遠いねぇ……」
真弘と私が力なく言って、珠紀ちゃんが苦笑いを浮かべた、その時
前方から、複数の足音が聞こえてきた
「三人とも、無事かー!?」
最初に現れたのは拓磨だ
ババ様の術が解けて、私達を追いかけて来てくれたらしい
瞬間、珠紀ちゃんが私達から手を離して、拓磨へと駆け寄る
「拓磨ー!!」
「あ、おい待て珠紀――!」
拓磨が制止するより早く、私と真弘が支えを失って倒れ込む
情けないことに、私も真弘も精魂尽きかけたところを、意地で持たせているだけだ
立っていられるはずもない
「お二人とも、ご無事で……!」
「酷い怪我だ
よく生き残ったな、二人とも」
「本当に、二人にはなんと言えばいいか……
ありがとうございます、鴉取君、櫻葉さん
よく、無事でした」
慎司と祐一、大蛇さんが私達を立ち上がらせる
そうして真弘は大蛇さんが、私は祐一が背負って、みんなで宇賀屋家へと戻っていく
「ふふ、鴉取君も大きくなりましたね」
「え!?
真弘先輩、背が伸びたんですか!?」
「慎司……後で覚えてろよ……」
ナチュラルに身長のことでいじってきた慎司へ、真弘が地獄の底のような声を出す
それから真弘は大蛇さんに身体を預けきって、目を閉じた
「祐一、重くない?」
「平気だ
お前も休むといい、あれだけ頑張ったんだ」
祐一の背から、みんなを見渡す
拓磨は珠紀ちゃんを抱き抱えて、優しげな眼差しをしているし、慎司は私と祐一のすぐ近くで、嬉しそうに笑っている
大蛇さんも、いつもより笑顔が明るい
祐一もどこか嬉しそうだ
頑張って良かった、心からそう思う
生きることを諦めなくて良かった
一緒に生きて帰ると言った真弘を、ひとりにすることもなくて良かった
良かった――本当に、良かった
不意に、真弘の手のひらが、私の手をギュッと握るのを感じた
その瞬間、白く塗りつぶされた世界に、真弘との思い出が浮かぶ
つらいことも、悲しいこともあった
でも、それ以上に、楽しい事とかくだらないこともあった
真弘に会えて、あなたを心から愛せて、よかった
最後にそう思って、私は満足感を覚えて微笑む
そばには真弘の温かさがある
最後の瞬間まで、真弘が一緒にいてくれる
私は決して、悲しくなかった
最後に何か、温かいものに包まれていくような感覚があって、それで……
……不思議なことに、身体の感覚があった
かなり疲れていて、体のどこもかしこも痛い、そんな感覚
ひとつ呻いて目を開けると、綺麗な朝日が水面に輝いていた
あらゆるものが朝日で赤く染まる中で、真弘は私を見て、穏やかに笑ってくれる
「……刀、鬼斬丸は……?」
「封印された、みたいだな」
真弘の声が、耳を優しく擽る
なんだかまるで現実感がない、私達はどうなったんだろう
「……ここが天国?」
「バカ、生きてるんだよ、俺たちは」
「……どうして、そんなこと」
「……最後に感じなかったか
なんか妙な優しい力みたいなもん」
「え?」
「鬼斬丸はよ、もともとは邪悪な力じゃなかったんだろ?
刀封印して、残ってた何にも染まってない力も一緒に封印されて、俺たちを……」
そこまで言って、真弘は面倒そうにため息をつく
「はぁ……やめた、考えても仕方ねえし
いいじゃねえか
俺たち二人、きちんと生き残ったんだ
文句あんのか」
私は首を横に振る
起き上がる気力はないけど、清々しい気持ちで、私は明けていく空を見つめる
空はすごくきれいな赤色
山の裾の方からは、新しい日が昇ろうとしていた
鬼斬丸は封印された
もう誰も、封印のために犠牲にならなくていい
もう誰も、苦しまなくていい
私たち二人は無事で、傍には、私の優しい大切な人がいる
「……文句なんか、ないよ」
涙が流れる
「……あるわけ、ないじゃない……」
真弘は、泣いている私をからかうことはしなかった
真弘もその瞳から涙を流して、笑っていた
「真弘
私たち……生きてるよ」
「ああ
……ちゃんと、生きてる」
立てるようになるまで、時間はかかりそうだけど
繋いだ手は、いつまでも離れなかった
朝日を身体に受けながら、ぼんやりと考える
「……想像できなかった
鬼斬丸を封印して、私達が生きてる未来」
「そうか、まあそうかもな」
「真弘は違ったの?」
「俺はこうなるだろうなと思ってたよ」
さらりとそう言われ、驚いて真弘を見やる
真弘は大の字になって寝転がったまま、私を見て笑った
「俺とお前に、出来ないことはないんだろ?」
私を奮い立たせるための言葉を、真弘も信じてくれていた
何度も頷いて、微笑むけれど、涙が止まらなくて
「真弘が生きてる……良かった、良かったぁ……」
「そこは二人とも生きてることを喜べよな
ったく……まあでも、お前が生きててくれて、良かったよ」
朝日が眩しく私達を照らす中で、私はただ声を上げて泣いた
生きている、私達はこうして、ここで生きている
それが何よりも嬉しかった
過去の私が何度も夢見て、その度に諦めていた、生きるという当たり前のことが、私と真弘に許された
もう死ななくていい、死のうと思わなくていい
これからはみんなと一緒に、生きていられる
隣に、いつまでも真弘がいてくれる
「真弘、ずっと一緒だからね
絶対に離れないでね」
「分かってるよ
今更、俺がお前を置いてどっか行くわけねぇって、散々言ったろ
死ぬまで一緒だよ、歳とって死ぬまでな」
何度も頷いて、涙と土埃と、色んなものでぐちゃぐちゃになった顔で笑い合う
朝日が顔に当たって眩しい
私達の人生は、ここからようやく、始まるんだ
「先輩達、ボロボロだ」
私達の前に立った珠紀ちゃんは、やっぱりこっちもボロボロ泣きながら笑っていた
そうして私達の前に、珠紀ちゃんの両手が差し出される
「帰ろう、先輩
みんなが待ってるよ」
私と真弘は笑って頷いて、傷だらけの手で珠紀ちゃんの手を握った
起き上がるだけで全身が痛むけど、それさえ私達が生きている証だと思うと、厭う気持ちすら起こらない
お互いに珠紀ちゃんの肩を借りながらどうにか立ち上がって、鬼斬丸が封印された沼から立ち去ろうと、宇賀屋家の方向へ足を向ける
「ここから宇賀屋家か……」
「遠いねぇ……」
真弘と私が力なく言って、珠紀ちゃんが苦笑いを浮かべた、その時
前方から、複数の足音が聞こえてきた
「三人とも、無事かー!?」
最初に現れたのは拓磨だ
ババ様の術が解けて、私達を追いかけて来てくれたらしい
瞬間、珠紀ちゃんが私達から手を離して、拓磨へと駆け寄る
「拓磨ー!!」
「あ、おい待て珠紀――!」
拓磨が制止するより早く、私と真弘が支えを失って倒れ込む
情けないことに、私も真弘も精魂尽きかけたところを、意地で持たせているだけだ
立っていられるはずもない
「お二人とも、ご無事で……!」
「酷い怪我だ
よく生き残ったな、二人とも」
「本当に、二人にはなんと言えばいいか……
ありがとうございます、鴉取君、櫻葉さん
よく、無事でした」
慎司と祐一、大蛇さんが私達を立ち上がらせる
そうして真弘は大蛇さんが、私は祐一が背負って、みんなで宇賀屋家へと戻っていく
「ふふ、鴉取君も大きくなりましたね」
「え!?
真弘先輩、背が伸びたんですか!?」
「慎司……後で覚えてろよ……」
ナチュラルに身長のことでいじってきた慎司へ、真弘が地獄の底のような声を出す
それから真弘は大蛇さんに身体を預けきって、目を閉じた
「祐一、重くない?」
「平気だ
お前も休むといい、あれだけ頑張ったんだ」
祐一の背から、みんなを見渡す
拓磨は珠紀ちゃんを抱き抱えて、優しげな眼差しをしているし、慎司は私と祐一のすぐ近くで、嬉しそうに笑っている
大蛇さんも、いつもより笑顔が明るい
祐一もどこか嬉しそうだ
頑張って良かった、心からそう思う
生きることを諦めなくて良かった
一緒に生きて帰ると言った真弘を、ひとりにすることもなくて良かった
良かった――本当に、良かった
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