三十章
夢小説設定
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異界の森に取り残されたまま、静寂の中で
私たちは家に帰ることもできずに、ただ、あてもなく彷徨った
「……お前、なんで覚醒なんかしたんだよ」
私を責めるような物言いだったけど、ただ単に会話がないのが耐えきれなかっただけだと、私は気付いていた
だから私も、小さく言い返す
「……真弘こそ、なんで覚醒なんかしたの」
「……別に
お前ひとりで行かせられるかって、そう思っただけだ
お前に守られっぱなしで終わるのは、癪なんだよ」
「最後くらい、守られてよ」
「うるせぇ
……お前は俺に守られるくらいで丁度いいんだよ
分かれ、バカ」
ぶっきらぼうにそう言って、真弘が口を閉ざす
それでも私が握ったままの手を離そうとはしない
私もそのまま無言で、ただ真弘の手を握り締めながら、歩き続けた
……寒い
空気はピンと張りつめて、吐く息が白く顔にかかる
「……なあ、お前さ
いい加減、手ぇ離せよ」
私は無言で首を振った
真弘はそう言うけど、私は嫌だった
手を離せば、真弘はどこかに行ってしまいそうだったから
「……真弘は、行ってしまうから
一人で全部背負って、私を置いていくから」
私はそう呟いて、さらに手を強く握る
けれど、真弘は私の手を優しく握り、そっと離した
月明かりの中で、真弘もどこか疲れた、けれど付き物が落ちたような、そんな顔をしていた
「お前を置いて勝手に行っちまおうなんて思わねえからよ
お前は怖がりで、そのくせ強がりで、一人残して死んだら、心配で死にきれない」
真弘はそう呟き、私を見る
その目を見て、私はやっと安心した
真弘は私の傍にいてくれる
そう思うと、急に眠気がやってきた
私はそれでも、真弘を見つめながら
「……その羽、綺麗だよね
そのまま引っ込まなかったらどうしようか」
そう呟いて、真弘が慌てるのを見て、私は少し笑った
消えなくても、良いかもな、なんて
「他人事みたいに笑ってるが、お前だってその、まとわりついてる桜、消えねぇかもしれねーぞ」
「ふふ、そうだね……
でも、真弘ほど不便じゃないから、このままでも……」
瞼が重くなって、次いで全身に重石が付けられたみたいに、手足が動かなくなる
そういえばここ数日、まともに寝てないんだと気付いて
自覚すると急に意識が沈み始め、身体が傾いていく
抗えずに地面へと倒れそうになり、けれど――
私の身体は、温かいものに包まれていた
「……あーあ、なんだよ
随分疲れやがって」
真弘の声が優しく聞こえる
間近で聞こえているような、でもどこか遠いような、不思議な心地だ
「……あったかい」
真弘の腕が、私を引き寄せる
眠くて、すべてがぼんやりしていて
何がなんだか、もう、よく分からないけど
それでも、真弘に包まれている気がする
「ひとつになったみたい……ね、真弘」
そう呟くと、真弘は顔を赤くして、ふいと視線を逸らした
けれど、真弘も優しく笑っていて
「悪かったよ、酷なことさせた
覚醒までしちまって、怖かったよな
確かに諦めるとか、俺には似合わねえよ
一緒に考えるか、どうにかする方法をさ」
真弘がそう呟くから、私も小さく頷いた
明日はもっと大変な一日になるんだろう
お互いを死なせたくない私たちは、お互いを助ける方法を探さなきゃいけない
「ゆっくり寝ろよ
今日のお前は、もう十分頑張った
今はゆっくりと休め
俺が傍で、見守っててやるから」
その声を聞きながら、私は眠りに落ちた
大切な人の腕に抱かれて眠る夜は、初めてで、ちょっとだけ恥ずかしくて
……でもそれ以上に、身体も心も温かさに満ちていた
いい夢なんて、見られなくていい
ただ私は……眠りに誘われる最後に、このまま時が止まってくれればいいのに、なんて
そんなことを願った
私たちは家に帰ることもできずに、ただ、あてもなく彷徨った
「……お前、なんで覚醒なんかしたんだよ」
私を責めるような物言いだったけど、ただ単に会話がないのが耐えきれなかっただけだと、私は気付いていた
だから私も、小さく言い返す
「……真弘こそ、なんで覚醒なんかしたの」
「……別に
お前ひとりで行かせられるかって、そう思っただけだ
お前に守られっぱなしで終わるのは、癪なんだよ」
「最後くらい、守られてよ」
「うるせぇ
……お前は俺に守られるくらいで丁度いいんだよ
分かれ、バカ」
ぶっきらぼうにそう言って、真弘が口を閉ざす
それでも私が握ったままの手を離そうとはしない
私もそのまま無言で、ただ真弘の手を握り締めながら、歩き続けた
……寒い
空気はピンと張りつめて、吐く息が白く顔にかかる
「……なあ、お前さ
いい加減、手ぇ離せよ」
私は無言で首を振った
真弘はそう言うけど、私は嫌だった
手を離せば、真弘はどこかに行ってしまいそうだったから
「……真弘は、行ってしまうから
一人で全部背負って、私を置いていくから」
私はそう呟いて、さらに手を強く握る
けれど、真弘は私の手を優しく握り、そっと離した
月明かりの中で、真弘もどこか疲れた、けれど付き物が落ちたような、そんな顔をしていた
「お前を置いて勝手に行っちまおうなんて思わねえからよ
お前は怖がりで、そのくせ強がりで、一人残して死んだら、心配で死にきれない」
真弘はそう呟き、私を見る
その目を見て、私はやっと安心した
真弘は私の傍にいてくれる
そう思うと、急に眠気がやってきた
私はそれでも、真弘を見つめながら
「……その羽、綺麗だよね
そのまま引っ込まなかったらどうしようか」
そう呟いて、真弘が慌てるのを見て、私は少し笑った
消えなくても、良いかもな、なんて
「他人事みたいに笑ってるが、お前だってその、まとわりついてる桜、消えねぇかもしれねーぞ」
「ふふ、そうだね……
でも、真弘ほど不便じゃないから、このままでも……」
瞼が重くなって、次いで全身に重石が付けられたみたいに、手足が動かなくなる
そういえばここ数日、まともに寝てないんだと気付いて
自覚すると急に意識が沈み始め、身体が傾いていく
抗えずに地面へと倒れそうになり、けれど――
私の身体は、温かいものに包まれていた
「……あーあ、なんだよ
随分疲れやがって」
真弘の声が優しく聞こえる
間近で聞こえているような、でもどこか遠いような、不思議な心地だ
「……あったかい」
真弘の腕が、私を引き寄せる
眠くて、すべてがぼんやりしていて
何がなんだか、もう、よく分からないけど
それでも、真弘に包まれている気がする
「ひとつになったみたい……ね、真弘」
そう呟くと、真弘は顔を赤くして、ふいと視線を逸らした
けれど、真弘も優しく笑っていて
「悪かったよ、酷なことさせた
覚醒までしちまって、怖かったよな
確かに諦めるとか、俺には似合わねえよ
一緒に考えるか、どうにかする方法をさ」
真弘がそう呟くから、私も小さく頷いた
明日はもっと大変な一日になるんだろう
お互いを死なせたくない私たちは、お互いを助ける方法を探さなきゃいけない
「ゆっくり寝ろよ
今日のお前は、もう十分頑張った
今はゆっくりと休め
俺が傍で、見守っててやるから」
その声を聞きながら、私は眠りに落ちた
大切な人の腕に抱かれて眠る夜は、初めてで、ちょっとだけ恥ずかしくて
……でもそれ以上に、身体も心も温かさに満ちていた
いい夢なんて、見られなくていい
ただ私は……眠りに誘われる最後に、このまま時が止まってくれればいいのに、なんて
そんなことを願った
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