二十八章
夢小説設定
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どれくらい経ったんだろう
気がつけば私は涙を流していて、探すこともやめてしまって、蔵の床に横たわっていた
辺りは夕方になっていたようで、蔵の入口から夕日が差し込んでいる
半身を起こすと、そこには真弘がいて、私を見ると優しく目を細めた
「……ひでえ顔だな、お前
こんなに散らかしやがって、片付けるの、大変だぞ」
真弘はそう言って、優しく微笑んでいた
「……真弘?」
「学校で貰ったプリント、渡しに来たんだよ
今日、学校休んだろ
俺の次はお前かって、担任にボヤかれてたぞ」
埃だらけじゃねーか、なんて笑って、真弘が私の髪についた汚れを払う
その手はどこまでも優しかった
壊れ物を扱うみたいに、優しくて、温かかった
「家のチャイム押しても全然出てこねえし、開けっ放しだった蔵の中見てみたら、お前は呑気に寝てるしよ
起こすのも可哀想だと思ってな」
真弘の声には、優しくて、人を安心させる響きがあった
きっと、眠っている私の横に、しばらくいてくれたのだろう
「……呑気なんかじゃない
私、必死で……」
また涙が出そうになって、私はそれを無理に抑え込んだ
泣いたって結果は変わらない
「真弘のこと、助けたかったの
真弘が死ぬなんて、嫌だから……」
言葉は勝手に口をついて出てくる
手に当たった書物を取り上げ、膝の上に乗せて握り締めた
「どうにかしたくて、私が覚醒すれば真弘は死なないから、その方法が書いてあるんじゃないかって、そう思って……
でも……」
調べれば調べるほど、真弘が生きられる方法なんかどこにもない
私と真弘、両方が死ぬしか方法がない
真弘は優しく笑って、散らかった書物の一冊一冊を棚に戻していく
「小さい頃によ、お前と一緒に、宇賀屋家の蔵に連れて行かれただろ
覚えてるか?」
優しく問う声に小さく頷く
あの日のことは忘れようとしても忘れられない
あの日から私は、私達は……自分の未来が真っ黒に塗り潰されたままだ
「お前と一緒に、ババ様から封印に関するいろんなことを教えられただろ
最初は好奇心が、次には恐怖を覚えながら、俺はお前の隣で教わってた
あの時、ちょっと震えてたんだぜ?」
「……知ってる
真弘が震えてたの、気付いてた」
「知ってたのかよ」
真弘の声は穏やかで、やっぱり優しい
そんな声を聞いていたくないと、耳を塞ぎたい気持ちが募る
「色んなことを教えられて、だんだん、自分の役割が分かってきてな
ババ様にな、いざとなれば優佳と一緒に封印のために命を捧げろって言われたとき、ババ様は何か隠してる、俺はそう思った
だから、お前が帰った後、ババ様に問い質したんだ
そしたら本当は死ぬのはお前だけでよくて、俺は不要だって言われてな
さすがにあれはキツかったよ
死ぬかもしれないし、死なないかもしれない
でも俺が死ななかったら、それはお前が死ぬってことなんだぜ?」
本を戻す音が、言葉と言葉の合間に挟まる
私はただ俯いたまま、真弘のそれを聞いていたく
「でもババ様は、俺もお前も、両方の命を使うつもりだった
玉依姫がいないと覚醒できない俺だけじゃ、封印を完全なものにするには足りない
けど、玉依姫と同じ力を持つお前は、自分と契約すれば覚醒できるから、お前だけで封印の贄は事足りる
なんてことしてくれたんだって、千年前の木花開耶姫に怒鳴ってやりたかったよ
それから俺は、何とかしてお前と一緒に生きられる方法がないかって考えた
それで辿り着いた答えは、お前の知っての通りだ
お前と一緒に逃げ出しただろ?
そしたら、村中総出で追いかけて、俺らを捕まえたよ
それで、ババ様は捕まった俺らを見て言った
お前たちが逃げ出せば、拓磨も祐一も、慎司も、美鶴も大蛇さんも、みんな死ぬんだって、な
あれは怖かったな
俺たちが逃げ出せば世界が終わっちまうんだぜ?
ハハ、子供ながらに自分の不幸を嘆いたよ」
真弘は夕暮れをその横顔に受けながら、書物を一冊ずつ棚に戻していく
その横顔は、もう何の心残りもないように見えた
足掻くことさえしない、ただ死を待つ人の、諦めたそれだった
気がつけば私は涙を流していて、探すこともやめてしまって、蔵の床に横たわっていた
辺りは夕方になっていたようで、蔵の入口から夕日が差し込んでいる
半身を起こすと、そこには真弘がいて、私を見ると優しく目を細めた
「……ひでえ顔だな、お前
こんなに散らかしやがって、片付けるの、大変だぞ」
真弘はそう言って、優しく微笑んでいた
「……真弘?」
「学校で貰ったプリント、渡しに来たんだよ
今日、学校休んだろ
俺の次はお前かって、担任にボヤかれてたぞ」
埃だらけじゃねーか、なんて笑って、真弘が私の髪についた汚れを払う
その手はどこまでも優しかった
壊れ物を扱うみたいに、優しくて、温かかった
「家のチャイム押しても全然出てこねえし、開けっ放しだった蔵の中見てみたら、お前は呑気に寝てるしよ
起こすのも可哀想だと思ってな」
真弘の声には、優しくて、人を安心させる響きがあった
きっと、眠っている私の横に、しばらくいてくれたのだろう
「……呑気なんかじゃない
私、必死で……」
また涙が出そうになって、私はそれを無理に抑え込んだ
泣いたって結果は変わらない
「真弘のこと、助けたかったの
真弘が死ぬなんて、嫌だから……」
言葉は勝手に口をついて出てくる
手に当たった書物を取り上げ、膝の上に乗せて握り締めた
「どうにかしたくて、私が覚醒すれば真弘は死なないから、その方法が書いてあるんじゃないかって、そう思って……
でも……」
調べれば調べるほど、真弘が生きられる方法なんかどこにもない
私と真弘、両方が死ぬしか方法がない
真弘は優しく笑って、散らかった書物の一冊一冊を棚に戻していく
「小さい頃によ、お前と一緒に、宇賀屋家の蔵に連れて行かれただろ
覚えてるか?」
優しく問う声に小さく頷く
あの日のことは忘れようとしても忘れられない
あの日から私は、私達は……自分の未来が真っ黒に塗り潰されたままだ
「お前と一緒に、ババ様から封印に関するいろんなことを教えられただろ
最初は好奇心が、次には恐怖を覚えながら、俺はお前の隣で教わってた
あの時、ちょっと震えてたんだぜ?」
「……知ってる
真弘が震えてたの、気付いてた」
「知ってたのかよ」
真弘の声は穏やかで、やっぱり優しい
そんな声を聞いていたくないと、耳を塞ぎたい気持ちが募る
「色んなことを教えられて、だんだん、自分の役割が分かってきてな
ババ様にな、いざとなれば優佳と一緒に封印のために命を捧げろって言われたとき、ババ様は何か隠してる、俺はそう思った
だから、お前が帰った後、ババ様に問い質したんだ
そしたら本当は死ぬのはお前だけでよくて、俺は不要だって言われてな
さすがにあれはキツかったよ
死ぬかもしれないし、死なないかもしれない
でも俺が死ななかったら、それはお前が死ぬってことなんだぜ?」
本を戻す音が、言葉と言葉の合間に挟まる
私はただ俯いたまま、真弘のそれを聞いていたく
「でもババ様は、俺もお前も、両方の命を使うつもりだった
玉依姫がいないと覚醒できない俺だけじゃ、封印を完全なものにするには足りない
けど、玉依姫と同じ力を持つお前は、自分と契約すれば覚醒できるから、お前だけで封印の贄は事足りる
なんてことしてくれたんだって、千年前の木花開耶姫に怒鳴ってやりたかったよ
それから俺は、何とかしてお前と一緒に生きられる方法がないかって考えた
それで辿り着いた答えは、お前の知っての通りだ
お前と一緒に逃げ出しただろ?
そしたら、村中総出で追いかけて、俺らを捕まえたよ
それで、ババ様は捕まった俺らを見て言った
お前たちが逃げ出せば、拓磨も祐一も、慎司も、美鶴も大蛇さんも、みんな死ぬんだって、な
あれは怖かったな
俺たちが逃げ出せば世界が終わっちまうんだぜ?
ハハ、子供ながらに自分の不幸を嘆いたよ」
真弘は夕暮れをその横顔に受けながら、書物を一冊ずつ棚に戻していく
その横顔は、もう何の心残りもないように見えた
足掻くことさえしない、ただ死を待つ人の、諦めたそれだった
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