二十四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夢を見る
誰かの声が聞こえてくる
それが玉依姫の声だということに気付くのに、少しの時間を要した
「鬼を斬りしは玉依の娘、四つのカミを従えし」
珠紀ちゃんの声は、訥々と話を始める
感情の籠らない、平坦な声だ
まるで手元にある本を読むかのように
「かの封印の地に鬼が現れ、暴れ回った
その地に住む四つのカミ、すなわち八咫烏・空疎尊、妖狐・幻灯火、大蛇・胡土前、そして大山津見の娘・木花開耶姫がそれに逆らいしが、四つのカミは鬼の力に敗れる
四つのカミは当世の玉依姫に言った
『どうかあの鬼を追い返す術を教えてくれ
あの鬼はどんどん力をつけていて、いずれ誰の手にも負えなくなる
いずれあれは……あれは世界を飲み込む化け物となる』
玉依姫は言う
『助けてもいいが、刀を使えば、その封印は危うくなる
お前たちは永劫に、この地で私と共に刀を守る役目を負うことになるがそれでもよいか』
四つのカミたちは玉依姫と契りを交わし、封印によって守られし神の力を与えた
鬼と彼らは七日七晩戦い、妖狐と大蛇が命を落とし、そして鬼は滅した
玉依姫は鬼の復活を妨げるため、封印された力を解放すると、それを刀にし、鬼の首をはねた
こうして、神の力に鬼斬丸の名がついた
良きものによって解放された刀は再度封印がなされた
そこには、大蛇と妖狐の魂が使われた
しかしその封印ははなはだ弱いもので、いずれその効力を失うことは目に見えていた
二人残った八咫烏と木花開耶姫は約束する――
この封印は完全とは言いがたきもの
いずれ封印は解けましょう
その時は――」
不意に、声が途絶えた
微かに聞こえる鳥の声で、目が覚める
一瞬、自分がどこにいるのか分からなかった
あまりにもあの夢が鮮明すぎて
……でも、あれは夢じゃない
あれは玉依の歴史
はるか昔、本当にあった出来事だ
空疎尊と木花開耶姫は、玉依姫に、自らの命を使って封印を完全なものにすることを誓った
来たる千年後、封印が失われ、鬼斬丸が目覚める時、その封印を永久のものとするために
そこまでが私と真弘の知る歴史だ
その時の契約によって、私と真弘は封印に命を捧げることになっている
……けれど、どうしてか、封印は櫻葉の血だけで行えるようになっている
つまり、八咫烏の力は不要のもの
単独覚醒という条件はあるものの、もしそれが出来たら、真弘の犠牲は必要ないということになる
……時間がほしいとは言ったものの、事態はもう切羽詰まっている
私に眠っている力の蓋を開けてみようとしても、あれ以来、まったくその『蓋』に触れられもしない日々が続いていた
それでももう、それしか道は残されていない
(それに……)
村の人達だって、何の罪もない真弘が死ぬより、罪人の私が死んだほうが、いくらか心も休まるはずだ
……私はもう既に覚醒の切っ掛けを掴んでいる
そう断言したババ様の声が浮かんだ
あの会話を真弘と珠紀ちゃんに聞かれたことを思い出して、気持ちが塞いでいく
二人と顔を合わせるのが怖い
それでも、他の守護者のみんなが動けない今、珠紀ちゃんを守れるのは私と真弘だけだ
真弘ひとりにそれを押し付けるわけにはいかない
それに、学校に行かなかったら行かなかったで、二人が心配しそうだ
余計な心配はかけたくない
急に私が死んで、封印は完全なものになりました、なんて聞かされたら、守護者のみんながどう思うかはだいたい予想できる
だからそれでいい、と思った
黙っていなくなるなんて酷いやつだと、そう思ってもらえたほうがいい
そんな酷いやつのことなんか忘れて、みんなそれぞれの人生を生きてほしい
真弘が違う女の人と幸せになるかもしれないと思うと、ちょっとどころではない怒りが沸きそうになるけど
でも私では、真弘の隣にいることは出来ないから、真弘には出来るだけ早く、私のことを忘れてもらいたいな、と思う
どうにも忘れられないなら、言霊で干渉するしかないけど、記憶操作系の言霊は苦手だもんな、なんて
忘れろと命令して、本当に記憶から私が抜け落ちてくれるかなんて、やってみなくちゃ分からない
忘れてほしい、私の事なんて思い出すことさえしなくていい
私だけが、真弘への愛しさを抱えて、桜のように散るだけでいいんだ
誰かの声が聞こえてくる
それが玉依姫の声だということに気付くのに、少しの時間を要した
「鬼を斬りしは玉依の娘、四つのカミを従えし」
珠紀ちゃんの声は、訥々と話を始める
感情の籠らない、平坦な声だ
まるで手元にある本を読むかのように
「かの封印の地に鬼が現れ、暴れ回った
その地に住む四つのカミ、すなわち八咫烏・空疎尊、妖狐・幻灯火、大蛇・胡土前、そして大山津見の娘・木花開耶姫がそれに逆らいしが、四つのカミは鬼の力に敗れる
四つのカミは当世の玉依姫に言った
『どうかあの鬼を追い返す術を教えてくれ
あの鬼はどんどん力をつけていて、いずれ誰の手にも負えなくなる
いずれあれは……あれは世界を飲み込む化け物となる』
玉依姫は言う
『助けてもいいが、刀を使えば、その封印は危うくなる
お前たちは永劫に、この地で私と共に刀を守る役目を負うことになるがそれでもよいか』
四つのカミたちは玉依姫と契りを交わし、封印によって守られし神の力を与えた
鬼と彼らは七日七晩戦い、妖狐と大蛇が命を落とし、そして鬼は滅した
玉依姫は鬼の復活を妨げるため、封印された力を解放すると、それを刀にし、鬼の首をはねた
こうして、神の力に鬼斬丸の名がついた
良きものによって解放された刀は再度封印がなされた
そこには、大蛇と妖狐の魂が使われた
しかしその封印ははなはだ弱いもので、いずれその効力を失うことは目に見えていた
二人残った八咫烏と木花開耶姫は約束する――
この封印は完全とは言いがたきもの
いずれ封印は解けましょう
その時は――」
不意に、声が途絶えた
微かに聞こえる鳥の声で、目が覚める
一瞬、自分がどこにいるのか分からなかった
あまりにもあの夢が鮮明すぎて
……でも、あれは夢じゃない
あれは玉依の歴史
はるか昔、本当にあった出来事だ
空疎尊と木花開耶姫は、玉依姫に、自らの命を使って封印を完全なものにすることを誓った
来たる千年後、封印が失われ、鬼斬丸が目覚める時、その封印を永久のものとするために
そこまでが私と真弘の知る歴史だ
その時の契約によって、私と真弘は封印に命を捧げることになっている
……けれど、どうしてか、封印は櫻葉の血だけで行えるようになっている
つまり、八咫烏の力は不要のもの
単独覚醒という条件はあるものの、もしそれが出来たら、真弘の犠牲は必要ないということになる
……時間がほしいとは言ったものの、事態はもう切羽詰まっている
私に眠っている力の蓋を開けてみようとしても、あれ以来、まったくその『蓋』に触れられもしない日々が続いていた
それでももう、それしか道は残されていない
(それに……)
村の人達だって、何の罪もない真弘が死ぬより、罪人の私が死んだほうが、いくらか心も休まるはずだ
……私はもう既に覚醒の切っ掛けを掴んでいる
そう断言したババ様の声が浮かんだ
あの会話を真弘と珠紀ちゃんに聞かれたことを思い出して、気持ちが塞いでいく
二人と顔を合わせるのが怖い
それでも、他の守護者のみんなが動けない今、珠紀ちゃんを守れるのは私と真弘だけだ
真弘ひとりにそれを押し付けるわけにはいかない
それに、学校に行かなかったら行かなかったで、二人が心配しそうだ
余計な心配はかけたくない
急に私が死んで、封印は完全なものになりました、なんて聞かされたら、守護者のみんながどう思うかはだいたい予想できる
だからそれでいい、と思った
黙っていなくなるなんて酷いやつだと、そう思ってもらえたほうがいい
そんな酷いやつのことなんか忘れて、みんなそれぞれの人生を生きてほしい
真弘が違う女の人と幸せになるかもしれないと思うと、ちょっとどころではない怒りが沸きそうになるけど
でも私では、真弘の隣にいることは出来ないから、真弘には出来るだけ早く、私のことを忘れてもらいたいな、と思う
どうにも忘れられないなら、言霊で干渉するしかないけど、記憶操作系の言霊は苦手だもんな、なんて
忘れろと命令して、本当に記憶から私が抜け落ちてくれるかなんて、やってみなくちゃ分からない
忘れてほしい、私の事なんて思い出すことさえしなくていい
私だけが、真弘への愛しさを抱えて、桜のように散るだけでいいんだ
1/4ページ