二十三章
夢小説設定
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夕暮れの中、私は真弘と一緒に宇賀屋家に向かっていた
なにせ真弘は自分の目が覚めたことを誰にも教えていないのだ
ババ様にくらいは知らせようと私が言って、真弘もそれに頷いてくれた
ここ二、三日は一人だった道に、真弘と私の影が揺れている
大きさがあまり変わらない二つの影
私達の間で、繋いだ手が影同士をひとつにしている
「なんだか、久しぶりな気がする
こうやって二人だけで帰るって」
「そうだなー
いつもあいつらと一緒だったしな」
村の道を二人で歩く
珠紀ちゃんが村に来てから、まだそんなに日数も経っていないのに、なんだかあの頃が遠い昔のように感じる
みんなで鍋を囲んで、騒がしくも楽しい歓迎会が、嘘みたいだ
「最近、村を歩いていると落ち着かない気分になる
……なんでだろう」
カミたちが人をさらったりはしていないと思う
それでも行方不明者が多くなっている
……神隠しが、起きていた
やっぱり、封印が全部解けたから……
もうこれ以上の猶予はない
(結局、単独覚醒はできなかった
このままじゃ、真弘まで私と一緒に死んでしまう……)
私が恐れていた事態に、私達は自ら陥ろうとしている
どうしたらいいだろう
どうしたら、私は覚醒できるのだろう
……ふと、真弘はどう思っているんだろうと、気になった
「……ねえ、真弘
本当に、二人で死ぬしか方法はないのかな……」
内心で怯えながら小さな声で尋ねると、真弘は私を見て、寂しそうに微笑んだ
それから視線を俯かせて、影の先を見やる
「まあ、仕方ねえだろ
世界の終わりが、この封印にかかってるって話なんだ
世界が終わるってことは、全部終わりだからな」
「そうだけど、でも……」
「まあ心配すんな
いざとなったら、俺とお前でさらっと世界を救ってやろうぜ」
寂しさを隠した笑顔でそう言われて
私は、本当の気持ちを言えないまま頷くしかなかった
* * *
宇賀谷家につくと、真弘ではなく、私だけがババ様に呼ばれた
多分、封印のことと、贄の儀のことだろう
「それで、お話というのは……」
ババ様の部屋に入って、私からそう切り出した
私は覚醒しないままだし、鬼斬丸は目覚めようとしている
私と真弘の血が必要な事態だというのは、とっくに分かっていた
「封印のことよ」
自然と、握る拳に力が入っていく
「……そろそろ、あなたの役割が必要になるかもしれないわ
宝具の封印は消滅し、私たちでは歯の立たない敵が、すぐ近くで鬼斬丸を狙っている
ここまでの危機的状況は史上初めてでしょう
玉依姫が覚醒しない以上、契約通り、あなたの命を、封印に捧げてもらいます」
分かっていた
いつかは、そうなるって
真弘は一緒に死ぬんだと思っているけど、でも本当は違う
私一人、ただ何も言わず死んでいくだけ
「……それが、契約ですから
そんなことより、典薬寮と組むなんて話は聞いていません
あの芦屋という人、何か企んでいます
やめた方がいい」
「時にはそのような相手とも手を組まねばならないの、分かって
決心は、もうすぐつくのね」
「……あと、もう少しだけ、時間をください」
苦し紛れにそう呟く
決心がつかないわけじゃない
ただ――これで皆と別れるなんて、嫌だ
みんなに別れの挨拶もできないまま死ぬのは、嫌だった
「そうね、そうしましょう
あなたの命を使うのは、ギリギリの最後にしようと思っていたから
あなたの来世が、幸せであるように祈るわ」
私は何も答えられなかった
来世になんて興味はない
だって死んで生まれ変わったとしても、そこに真弘はいない
私の大切な人達は、誰もいないんだ
「申し訳ありません、ババ様
単独覚醒には至らず……」
「いいえ、あなたはその切っ掛けを既に掴んでいるわ」
ドクン、と心臓が嫌な音を立てた
やっぱりあの時に感じた、蓋がされている力だ
あの蓋を開けたら、私は覚醒できる
「そのタイミングは任せるけれど、あなたは既に覚醒することができるの
それは知っておいてちょうだい」
「……では、私が覚醒すれば、真弘は……?」
それが一番知りたかったことだった
私が覚醒して贄になれば、私ひとりで終わらせられる
真弘はこれからも、変わらずに生きていける
「……そうね
もしそうなれば、真弘の命までは必要ないでしょうね」
陰のある物言いだけれど、ババ様は真弘の命までは必要ないと言った
……なら、それでいい
私ひとりで……すべてを、終わらせよう
なにせ真弘は自分の目が覚めたことを誰にも教えていないのだ
ババ様にくらいは知らせようと私が言って、真弘もそれに頷いてくれた
ここ二、三日は一人だった道に、真弘と私の影が揺れている
大きさがあまり変わらない二つの影
私達の間で、繋いだ手が影同士をひとつにしている
「なんだか、久しぶりな気がする
こうやって二人だけで帰るって」
「そうだなー
いつもあいつらと一緒だったしな」
村の道を二人で歩く
珠紀ちゃんが村に来てから、まだそんなに日数も経っていないのに、なんだかあの頃が遠い昔のように感じる
みんなで鍋を囲んで、騒がしくも楽しい歓迎会が、嘘みたいだ
「最近、村を歩いていると落ち着かない気分になる
……なんでだろう」
カミたちが人をさらったりはしていないと思う
それでも行方不明者が多くなっている
……神隠しが、起きていた
やっぱり、封印が全部解けたから……
もうこれ以上の猶予はない
(結局、単独覚醒はできなかった
このままじゃ、真弘まで私と一緒に死んでしまう……)
私が恐れていた事態に、私達は自ら陥ろうとしている
どうしたらいいだろう
どうしたら、私は覚醒できるのだろう
……ふと、真弘はどう思っているんだろうと、気になった
「……ねえ、真弘
本当に、二人で死ぬしか方法はないのかな……」
内心で怯えながら小さな声で尋ねると、真弘は私を見て、寂しそうに微笑んだ
それから視線を俯かせて、影の先を見やる
「まあ、仕方ねえだろ
世界の終わりが、この封印にかかってるって話なんだ
世界が終わるってことは、全部終わりだからな」
「そうだけど、でも……」
「まあ心配すんな
いざとなったら、俺とお前でさらっと世界を救ってやろうぜ」
寂しさを隠した笑顔でそう言われて
私は、本当の気持ちを言えないまま頷くしかなかった
* * *
宇賀谷家につくと、真弘ではなく、私だけがババ様に呼ばれた
多分、封印のことと、贄の儀のことだろう
「それで、お話というのは……」
ババ様の部屋に入って、私からそう切り出した
私は覚醒しないままだし、鬼斬丸は目覚めようとしている
私と真弘の血が必要な事態だというのは、とっくに分かっていた
「封印のことよ」
自然と、握る拳に力が入っていく
「……そろそろ、あなたの役割が必要になるかもしれないわ
宝具の封印は消滅し、私たちでは歯の立たない敵が、すぐ近くで鬼斬丸を狙っている
ここまでの危機的状況は史上初めてでしょう
玉依姫が覚醒しない以上、契約通り、あなたの命を、封印に捧げてもらいます」
分かっていた
いつかは、そうなるって
真弘は一緒に死ぬんだと思っているけど、でも本当は違う
私一人、ただ何も言わず死んでいくだけ
「……それが、契約ですから
そんなことより、典薬寮と組むなんて話は聞いていません
あの芦屋という人、何か企んでいます
やめた方がいい」
「時にはそのような相手とも手を組まねばならないの、分かって
決心は、もうすぐつくのね」
「……あと、もう少しだけ、時間をください」
苦し紛れにそう呟く
決心がつかないわけじゃない
ただ――これで皆と別れるなんて、嫌だ
みんなに別れの挨拶もできないまま死ぬのは、嫌だった
「そうね、そうしましょう
あなたの命を使うのは、ギリギリの最後にしようと思っていたから
あなたの来世が、幸せであるように祈るわ」
私は何も答えられなかった
来世になんて興味はない
だって死んで生まれ変わったとしても、そこに真弘はいない
私の大切な人達は、誰もいないんだ
「申し訳ありません、ババ様
単独覚醒には至らず……」
「いいえ、あなたはその切っ掛けを既に掴んでいるわ」
ドクン、と心臓が嫌な音を立てた
やっぱりあの時に感じた、蓋がされている力だ
あの蓋を開けたら、私は覚醒できる
「そのタイミングは任せるけれど、あなたは既に覚醒することができるの
それは知っておいてちょうだい」
「……では、私が覚醒すれば、真弘は……?」
それが一番知りたかったことだった
私が覚醒して贄になれば、私ひとりで終わらせられる
真弘はこれからも、変わらずに生きていける
「……そうね
もしそうなれば、真弘の命までは必要ないでしょうね」
陰のある物言いだけれど、ババ様は真弘の命までは必要ないと言った
……なら、それでいい
私ひとりで……すべてを、終わらせよう
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