二十章
夢小説設定
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その晩は、問題なくお風呂にも入れた
あの光景が未だに浮かぶけれど、それはそれでお泊まりの良き思い出かな
……それでも芦屋の、守護六家は全員死ぬという言葉が浮かんで消えない
「大丈夫だよね……」
ババ様の言葉通り、贄の儀がちゃんと行われれば、そうはならないはず
いつなのかは分からないけど、でも、私の命の終焉はすぐそこなんだろう
そう思うと、無性に真弘の顔が見たくなった
「……よし」
部屋を出て一階へと降りる
真弘を探して、宇賀屋家の中を歩いて回って、行きついたのは居間だった
電気は暗いまま
月の青白い明かりが僅かに部屋を照らしている
真弘はそこにいて、ただ静かに月を見上げていた
どこか寂しそうで、大人びた表情で
「……真弘、なにしてるの?」
「ん、おう……ま、ちょっとな」
真弘は私を見て、少し笑って、また月を見上げた
どこか翳りのある表情で
そんな顔をする理由が、思い当たることしかないから嫌になる
「月が綺麗だな」
真弘が口にした言葉の意味を考える
死んでもいいよ、と答えることも出来た
……だけど、私は敢えて
「真弘にも月を愛でる風流さがあったのね」
「お、なんだ?
俺はそんなことも理解できねぇ奴だと思ったか」
「ふふ、ううん、思ってない
珍しいなって思ったのは本当だけど
真弘、そういうの面白いと思わないでしょ」
「……あー
まあ、おもしろいかどうかは分からねえけどな
昔からああやって空に光ってるってのは、不思議なもんだなと思ってよ
……月から見たら、俺らの一生なんてのも、瞬きの間くらいの、ちっぽけなもんなんだろうな」
「……そうかもね」
私は独り言のように返事をし、月を見上げた
これからもずっと、ずっと一緒に、この月を見上げる夜が続けばいいのに
叶うことなどないと知っているそれを、戯れに願ってみる
真弘と私は、ずっと一緒に育ってきた
私の罪を知って、それでも真弘は私の傍にいてくれた
真弘と一緒にいると、一番心が安らぐ
守護者でも何でもなくて、ただの鴉取真弘と櫻葉優佳でいられる
今この時だけは、私と真弘は、ただの男と女で
ただ愛し合う二人、だった
鈴虫の声が静寂に溶けて消えていく
まだ一緒にいてもいいだろうか
でも、今は真弘は一人になりたがっている気もして
「……ねえ
もう少し、一緒にいてもいい?」
「俺がお前を拒絶したことなんかねえだろ?
今までさんざん一緒にいたんだ、今さらどこかに行けなんて言わねえよ」
真弘が私の手を握って、優しい強さで隣に引き寄せる
その言葉が嬉しくて、私も真弘に近づいた
そのままそうやって月を見上げていたとき
「……って言うかよ、なんで俺らは居間で、しかも並んで突っ立ってるんだ?」
「え……」
それは、真弘が月を見上げていたからだと思うんだけど
その言葉を飲み込んで、縁側に座る真弘の隣に私も座った
綺麗だなあと思って、夜空に光る月を眺めていると、真弘が私に身体を預けてきた
右肩に真弘の顔が乗せられて、髪が頬を掠めて擽ったい
「お前さ、絵を描くの好きだよな」
「……うん」
「今度、月が綺麗に光ってる絵、描いてくれねえか?」
「月の絵?
……あ」
思い出した
真弘の、昔の夢
「そういえば真弘、昔、宇宙飛行士になりたいって思ってたよね」
「ああ、思ってたな
あの綺麗に光る月はきっと天国みたいな場所だろうってよ」
真弘の視線は月に向いている
天国がどんな場所なのか想像もつかないけど、私達が死んだ時に向かう場所があるなら、天国みたいに苦しみも悲しみもない場所がいい
それが月のように明るくて綺麗な場所なら、私も自分の結末に、少しくらいは前向きになれる気がする
あの光景が未だに浮かぶけれど、それはそれでお泊まりの良き思い出かな
……それでも芦屋の、守護六家は全員死ぬという言葉が浮かんで消えない
「大丈夫だよね……」
ババ様の言葉通り、贄の儀がちゃんと行われれば、そうはならないはず
いつなのかは分からないけど、でも、私の命の終焉はすぐそこなんだろう
そう思うと、無性に真弘の顔が見たくなった
「……よし」
部屋を出て一階へと降りる
真弘を探して、宇賀屋家の中を歩いて回って、行きついたのは居間だった
電気は暗いまま
月の青白い明かりが僅かに部屋を照らしている
真弘はそこにいて、ただ静かに月を見上げていた
どこか寂しそうで、大人びた表情で
「……真弘、なにしてるの?」
「ん、おう……ま、ちょっとな」
真弘は私を見て、少し笑って、また月を見上げた
どこか翳りのある表情で
そんな顔をする理由が、思い当たることしかないから嫌になる
「月が綺麗だな」
真弘が口にした言葉の意味を考える
死んでもいいよ、と答えることも出来た
……だけど、私は敢えて
「真弘にも月を愛でる風流さがあったのね」
「お、なんだ?
俺はそんなことも理解できねぇ奴だと思ったか」
「ふふ、ううん、思ってない
珍しいなって思ったのは本当だけど
真弘、そういうの面白いと思わないでしょ」
「……あー
まあ、おもしろいかどうかは分からねえけどな
昔からああやって空に光ってるってのは、不思議なもんだなと思ってよ
……月から見たら、俺らの一生なんてのも、瞬きの間くらいの、ちっぽけなもんなんだろうな」
「……そうかもね」
私は独り言のように返事をし、月を見上げた
これからもずっと、ずっと一緒に、この月を見上げる夜が続けばいいのに
叶うことなどないと知っているそれを、戯れに願ってみる
真弘と私は、ずっと一緒に育ってきた
私の罪を知って、それでも真弘は私の傍にいてくれた
真弘と一緒にいると、一番心が安らぐ
守護者でも何でもなくて、ただの鴉取真弘と櫻葉優佳でいられる
今この時だけは、私と真弘は、ただの男と女で
ただ愛し合う二人、だった
鈴虫の声が静寂に溶けて消えていく
まだ一緒にいてもいいだろうか
でも、今は真弘は一人になりたがっている気もして
「……ねえ
もう少し、一緒にいてもいい?」
「俺がお前を拒絶したことなんかねえだろ?
今までさんざん一緒にいたんだ、今さらどこかに行けなんて言わねえよ」
真弘が私の手を握って、優しい強さで隣に引き寄せる
その言葉が嬉しくて、私も真弘に近づいた
そのままそうやって月を見上げていたとき
「……って言うかよ、なんで俺らは居間で、しかも並んで突っ立ってるんだ?」
「え……」
それは、真弘が月を見上げていたからだと思うんだけど
その言葉を飲み込んで、縁側に座る真弘の隣に私も座った
綺麗だなあと思って、夜空に光る月を眺めていると、真弘が私に身体を預けてきた
右肩に真弘の顔が乗せられて、髪が頬を掠めて擽ったい
「お前さ、絵を描くの好きだよな」
「……うん」
「今度、月が綺麗に光ってる絵、描いてくれねえか?」
「月の絵?
……あ」
思い出した
真弘の、昔の夢
「そういえば真弘、昔、宇宙飛行士になりたいって思ってたよね」
「ああ、思ってたな
あの綺麗に光る月はきっと天国みたいな場所だろうってよ」
真弘の視線は月に向いている
天国がどんな場所なのか想像もつかないけど、私達が死んだ時に向かう場所があるなら、天国みたいに苦しみも悲しみもない場所がいい
それが月のように明るくて綺麗な場所なら、私も自分の結末に、少しくらいは前向きになれる気がする
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