一章
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その神社は、山間にある小さな村の中にありました
電波も届かないその村は、季封村
そして村にある神社の名は、玉依毘売神社といいまして、玉依姫という女神様をお祀りしています
玉依姫には七人の守護者がおりました
鬼の子孫のほか、八咫烏の子孫、大蛇の子孫、妖狐の子孫というカミの子孫達がおりまして、他にも人ならざる力を持つヒトの子孫達がおりました
その中にあって、ただひとり、不思議な力を持つ守護者が存在しました
玉依姫と変わらぬ力を持ちながら、玉依姫をお傍にて守り続けた一柱のカミ
そのカミを尊び、守護者達は口を揃えて申しました
『風が薫らば天を仰げ、そこに神桜の花が舞う』
そのカミの名を、木花開耶姫
美しくも儚きそのカミは、今もこの季封の地にて、玉依姫をお守りしております――
今もこの、季封の地にて――
姫をお守り――
――終末を呼ぶ力を封じる核として
この地で起きた災いの何もかもを、その身に背負い、そして桜は、散るのです
『皆さんの将来の夢は、なんですか』
小学生の教室で、担任は黒板の右端にそう書いた
授業参観日である小学校は、教室の後ろに父母が並び、我が子を見守って微笑んでいる
「私は将来、立派な守護者になって、玉依姫様をお守りします」
鈴を転がす稚い声は、平坦な声音で澱みなく答え、席についた
少女に向けられた視線は複雑な色をしているものばかりだった
憎悪、嫌悪、切望、同情――どれをとっても幼い子供に向けられるべき感情ではなく、また少女もそうと理解していた
「玉依姫を守る守護者は、季封村の未来も守ってくれます
立派な守護者になれるよう、頑張ってくださいね」
教師の労いに少女は頷く
「はい、がんばります」
――守り抜いた先の未来に、私だけがいなくても
胸の奥でその言葉を呟く
玉依姫の守護者である少女は、その命をもって全てを守る
終わりある命を持つ者、玉依姫へ文字通り命を捧げる者
木花開耶姫の子孫――それが私
櫻葉優佳の、定められた運命だ
ここは季封村
携帯電話が繋がらない程の山奥にある、小さな村には、世界を滅ぼす力が眠っている
その力の名は『鬼斬丸』
その力の封印を管理してきたのが、我らが主、玉依姫
そして私達は、通常ヒトが持たない超常の力でもって、玉依姫を守る守護者
その中にあって、初めから命の使い道を決められた者達がいる
それが私と、もう一人
血に刻まれた約定のもとに、私と彼は、命を捧げる
鬼斬丸の封印に
この世界の命運を私達に託されて――
――託されたのは、二人
けれど命を捧げるのは、片方のみ
「今日は外に出てはいけないよ」
風薫る季節、大人は子供達へ強く言い聞かせた
なぜ、どうして、お菓子を買いに行きたいの
子供の駄々に大人達は怖い顔をした
「決して外に出てはいけないよ
カミ様に隠されてしまうからね」
――けれど一人、言いつけを破った子供がおりました
その少年には同い年の幼馴染みがいて、二人は兄妹のように育ってきました
親の目を盗んで商店街へ出掛けた少年は、そこで信じがたい光景を目にすることになったのです――
……響き渡る悲鳴、飛び交う怒号、そして飛び散る赤
人が玩具のように倒れ、誰も彼もが真っ赤に染まってしまって、倒れたあとはものも言わない
自分が狂ってしまったのか、はたまたこれは夢なのか
恐怖で足が竦み、全身が震え、頭が真っ白になった彼の視界で、幼馴染みの私が嗤う
「見てはいけません」
視界を大きな手が覆い、彼の耳はそっと塞がれた
その直前に聞こえた声は、この場に似つかわしくないほど弾み、昂り、狂っていた
「みんな、みぃんな、優佳がころしてあげる」
――それが、少年が聞いた少女の最後の声でした
凄惨な光景を見たあまりに気を失っていたのでしょうか
気がついたとき、少女は狂ったように泣き叫んでいました
大好きな、大切な幼馴染みの変わり果てた姿を、少年はただ見つめることしか出来ませんでした――
――大人達の誰かが言った
彼らは神隠しにあったのだ
鬼斬丸の封印が揺らいだために荒ぶったカミが、たくさんの人を連れ去ってしまったのだ
……誰かが、言った
狂おうとも構わない、この子はいずれ封印のために死ぬのだから、と――
電波も届かないその村は、季封村
そして村にある神社の名は、玉依毘売神社といいまして、玉依姫という女神様をお祀りしています
玉依姫には七人の守護者がおりました
鬼の子孫のほか、八咫烏の子孫、大蛇の子孫、妖狐の子孫というカミの子孫達がおりまして、他にも人ならざる力を持つヒトの子孫達がおりました
その中にあって、ただひとり、不思議な力を持つ守護者が存在しました
玉依姫と変わらぬ力を持ちながら、玉依姫をお傍にて守り続けた一柱のカミ
そのカミを尊び、守護者達は口を揃えて申しました
『風が薫らば天を仰げ、そこに神桜の花が舞う』
そのカミの名を、
美しくも儚きそのカミは、今もこの季封の地にて、玉依姫をお守りしております――
今もこの、季封の地にて――
姫をお守り――
――終末を呼ぶ力を封じる核として
この地で起きた災いの何もかもを、その身に背負い、そして桜は、散るのです
『皆さんの将来の夢は、なんですか』
小学生の教室で、担任は黒板の右端にそう書いた
授業参観日である小学校は、教室の後ろに父母が並び、我が子を見守って微笑んでいる
「私は将来、立派な守護者になって、玉依姫様をお守りします」
鈴を転がす稚い声は、平坦な声音で澱みなく答え、席についた
少女に向けられた視線は複雑な色をしているものばかりだった
憎悪、嫌悪、切望、同情――どれをとっても幼い子供に向けられるべき感情ではなく、また少女もそうと理解していた
「玉依姫を守る守護者は、季封村の未来も守ってくれます
立派な守護者になれるよう、頑張ってくださいね」
教師の労いに少女は頷く
「はい、がんばります」
――守り抜いた先の未来に、私だけがいなくても
胸の奥でその言葉を呟く
玉依姫の守護者である少女は、その命をもって全てを守る
終わりある命を持つ者、玉依姫へ文字通り命を捧げる者
木花開耶姫の子孫――それが私
櫻葉優佳の、定められた運命だ
ここは季封村
携帯電話が繋がらない程の山奥にある、小さな村には、世界を滅ぼす力が眠っている
その力の名は『鬼斬丸』
その力の封印を管理してきたのが、我らが主、玉依姫
そして私達は、通常ヒトが持たない超常の力でもって、玉依姫を守る守護者
その中にあって、初めから命の使い道を決められた者達がいる
それが私と、もう一人
血に刻まれた約定のもとに、私と彼は、命を捧げる
鬼斬丸の封印に
この世界の命運を私達に託されて――
――託されたのは、二人
けれど命を捧げるのは、片方のみ
「今日は外に出てはいけないよ」
風薫る季節、大人は子供達へ強く言い聞かせた
なぜ、どうして、お菓子を買いに行きたいの
子供の駄々に大人達は怖い顔をした
「決して外に出てはいけないよ
カミ様に隠されてしまうからね」
――けれど一人、言いつけを破った子供がおりました
その少年には同い年の幼馴染みがいて、二人は兄妹のように育ってきました
親の目を盗んで商店街へ出掛けた少年は、そこで信じがたい光景を目にすることになったのです――
……響き渡る悲鳴、飛び交う怒号、そして飛び散る赤
人が玩具のように倒れ、誰も彼もが真っ赤に染まってしまって、倒れたあとはものも言わない
自分が狂ってしまったのか、はたまたこれは夢なのか
恐怖で足が竦み、全身が震え、頭が真っ白になった彼の視界で、幼馴染みの私が嗤う
「見てはいけません」
視界を大きな手が覆い、彼の耳はそっと塞がれた
その直前に聞こえた声は、この場に似つかわしくないほど弾み、昂り、狂っていた
「みんな、みぃんな、優佳がころしてあげる」
――それが、少年が聞いた少女の最後の声でした
凄惨な光景を見たあまりに気を失っていたのでしょうか
気がついたとき、少女は狂ったように泣き叫んでいました
大好きな、大切な幼馴染みの変わり果てた姿を、少年はただ見つめることしか出来ませんでした――
――大人達の誰かが言った
彼らは神隠しにあったのだ
鬼斬丸の封印が揺らいだために荒ぶったカミが、たくさんの人を連れ去ってしまったのだ
……誰かが、言った
狂おうとも構わない、この子はいずれ封印のために死ぬのだから、と――
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