45 今昔
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──その昔、奥州筆頭が唯一愛した女がいた
女も奥州筆頭を愛したが、結ばれることはなく
その女は、悲しみのあまり湖に身を投げたそうだ──
45 今昔
「………」
「夕歌……っ」
追いかけてきたらしい政宗先輩が、息を整えながら私に近付いてきた
「ここになにがあるんだ?」
先輩の問いには答えず、私はさらに歩を進める
「おい、落ちるぞ!」
慌てたように先輩の手が私の腕を掴んだ
すみません、先輩
ちょっと今それどころじゃないんです
そう言うのももどかしくて、先輩の手を振り解く
記憶の中の景色……
そして、今見ている景色
同じものを見ているようで、違うものを見ている感覚があって
私の中で、徐々に一致していく二つの風景
──政宗様
今度は、はっきりと聞こえてきた
これは私の声だ
──覚えておいでですか?
顔を上げた先……湖畔の向こう側に、誰かが立っている
着物を身にまとった、綺麗な女の人
一度瞬きをすると、その人は私の隣にいた
──政宗様……
「政宗先輩……」
ああ、この人は……
この女の人は……
「……覚えていてくださったんですね」
『昔』の、私だ
女の人と声が重なる
政宗先輩
政宗せんぱい
政宗……さま
「政宗様」
『私』と目が合って、見つめ合った、その瞬間
強い風が吹いて
水面が揺れて
──夕歌……なのか……?
男の人の声がした
聞き馴染んだ……けれど、私の知らない声
歩き出した女の人を追うように、背後の政宗先輩の方を振り向く
そこには確かに先輩がいて
けれど、そのすぐそばには、和服の袴を着た……『政宗様』がいて
そして……和服を着た政宗様と
洋服を着た政宗先輩が
──重なり合った
着物を着た女の人がふわりと消える
その途端
私は思い出していた
乱世でのあの一生を
嗚呼、そうだ、私は、わたしは……
ここで政宗様と初めて会った
いろいろなことを話した
貴方の右目を何とも思わない私に
政宗様は、初めて心からの笑顔を見せてくれた
それが嬉しくて、愛おしくて
けれどあなたは奥州の王で
わたしはただの村人で
叶わない恋で
儚く消えていった
政宗様が国へお帰りになる日、最後にかわした言葉……
──私はここにいます
──ここで、いつでも
──あなた様を、お待ち申し上げております……
そう……約束したのに……
けれど、その後政宗様と会うことはなかった
なぜなら
私の住んでいた村は
夜盗に襲われ
村人のすべてが斬り殺されたから
老人、子供、家畜、男
すべて殺された
年頃の娘たちや若い女は
ひたすらに夜盗に犯され続け
逃げようとしたものは、すべて刃の元に死んだ
私は……
わたしは、この身を汚されるくらいなら
死んだほうがましだと、そう思って
……この湖に身を投げた
嗚呼
政宗様
最期に私の脳裏に現れたのは
心から愛した貴方でした──
女も奥州筆頭を愛したが、結ばれることはなく
その女は、悲しみのあまり湖に身を投げたそうだ──
45 今昔
「………」
「夕歌……っ」
追いかけてきたらしい政宗先輩が、息を整えながら私に近付いてきた
「ここになにがあるんだ?」
先輩の問いには答えず、私はさらに歩を進める
「おい、落ちるぞ!」
慌てたように先輩の手が私の腕を掴んだ
すみません、先輩
ちょっと今それどころじゃないんです
そう言うのももどかしくて、先輩の手を振り解く
記憶の中の景色……
そして、今見ている景色
同じものを見ているようで、違うものを見ている感覚があって
私の中で、徐々に一致していく二つの風景
──政宗様
今度は、はっきりと聞こえてきた
これは私の声だ
──覚えておいでですか?
顔を上げた先……湖畔の向こう側に、誰かが立っている
着物を身にまとった、綺麗な女の人
一度瞬きをすると、その人は私の隣にいた
──政宗様……
「政宗先輩……」
ああ、この人は……
この女の人は……
「……覚えていてくださったんですね」
『昔』の、私だ
女の人と声が重なる
政宗先輩
政宗せんぱい
政宗……さま
「政宗様」
『私』と目が合って、見つめ合った、その瞬間
強い風が吹いて
水面が揺れて
──夕歌……なのか……?
男の人の声がした
聞き馴染んだ……けれど、私の知らない声
歩き出した女の人を追うように、背後の政宗先輩の方を振り向く
そこには確かに先輩がいて
けれど、そのすぐそばには、和服の袴を着た……『政宗様』がいて
そして……和服を着た政宗様と
洋服を着た政宗先輩が
──重なり合った
着物を着た女の人がふわりと消える
その途端
私は思い出していた
乱世でのあの一生を
嗚呼、そうだ、私は、わたしは……
ここで政宗様と初めて会った
いろいろなことを話した
貴方の右目を何とも思わない私に
政宗様は、初めて心からの笑顔を見せてくれた
それが嬉しくて、愛おしくて
けれどあなたは奥州の王で
わたしはただの村人で
叶わない恋で
儚く消えていった
政宗様が国へお帰りになる日、最後にかわした言葉……
──私はここにいます
──ここで、いつでも
──あなた様を、お待ち申し上げております……
そう……約束したのに……
けれど、その後政宗様と会うことはなかった
なぜなら
私の住んでいた村は
夜盗に襲われ
村人のすべてが斬り殺されたから
老人、子供、家畜、男
すべて殺された
年頃の娘たちや若い女は
ひたすらに夜盗に犯され続け
逃げようとしたものは、すべて刃の元に死んだ
私は……
わたしは、この身を汚されるくらいなら
死んだほうがましだと、そう思って
……この湖に身を投げた
嗚呼
政宗様
最期に私の脳裏に現れたのは
心から愛した貴方でした──
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