39 悲痛
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分かってくれなんて言わない
もう俺は、血に染まりすぎて
真っ白な君に近づくことなんて許されない
俺の手が、お前を穢してしまいそうで
けれど
お前が差し伸べてくれたのなら
俺はその手を取ってもいいのだろうか
39 悲痛
気が付けば、伊達家に戻ってきていた
「あ、成実様……!
お帰りなさいッス」
「ああ……留守か
悪い、連絡しねぇまま帰ってきちまって」
「良いんスよ、ちょっと心配はしましたっスけど」
「……悪い」
「あ、そんじゃあ武器の方をお預かりしますッス」
「……ああ、うん」
ふところから拳銃二丁を取り出して、留守に渡した
「お疲れ様でしたッス」
「……おう」
そのまま、階段を上って部屋の前に歩いて行く
リビングには夕歌たちがいるだろう、今あいつらと顔を合わせるわけにはいかない
フラフラとしたまま、ようやく部屋にたどり着いて……
「成実殿」
ドアノブを回そうとした時、穏やかな声が聞こえた
「原田……」
「また殺してきたのですか」
「仕方ねえだろ
それが俺の務めだし」
「もうやめた方がいいのでは」
「あ?
なんでお前に言われなきゃなんねーんだよ」
やめろ
やめてくれ
俺を暴こうとしないでくれ
「このままでは、確実にあなたは壊れる
今のまま、斎藤夕歌と付き合っていれば……
あなたが己のしてきたことに狂う日が、きっとやってきます」
つかの間、二の句が継げなかった
……狂うなんて、そんなもの
「ばー……か
もうすでに狂い始めてるわ……
遅いっつの、警告が」
「え……成実殿?
あ、ちょっ!」
そのままドアノブを回して、部屋に入った
ご丁寧に鍵をかけて、原田の侵入を防ぐ
暗闇の中
思い起こされるのは、夕歌のあの瞳
俺を、怖がってた
分かってる
俺は人殺しだって……
でも、それを隠して、四人で馬鹿みたいに騒いで
それがめちゃくちゃ楽しくて
ずっとこんな調子で生きていけたらって
何度も何度も、自分の役割の重さとつらさを嘆いて
自分の限界に怯えて……
バレたら今の関係が全部終わる
言い知れない不安を抱えて、それでもあいつらとつるんできた
──それが、ここにきて、全部壊れた
俺が、壊したんだ
「……っ、うぅ……」
頬を流れる熱い水滴
バカじゃねえのか
泣き方なんて、ずっと昔に忘れたんだって思ってた
* * *
綱元についていっていた白石が伊達家に顔を出した
「綱元様ですが、脈拍は安定していました」
「そうか」
「明日には意識も戻るでしょう」
「分かった
本邸から呼びつけて悪かったな」
「いえ、本邸勤務とはいえ、俺たちは輝宗様より、坊ちゃんの命を優先するべしと命令されておりますので」
「……そうだったな」
小十郎の表情は曇ったままだ
夕歌も一向に口を開こうとしない
普段は喧しいほどに賑わう別邸が、重苦しく沈んでいる
「……そちらの方は?」
「あ……えっと、私は……」
「今回巻き込んじまった奴だ
念のためにここに避難させてある」
「そうでしたか
……坊ちゃんが世話になっている」
「えっ」
「坊ちゃんの恋人でしょう?
話は本邸にも届いていますので」
「白石……」
「では、俺はこれで
留守、戻るぞ」
「おう!
あ……あと、成実様なんスけど……
『処分』が必要になったら、言ってくださいッス」
「……処分?」
「そんじゃ、失礼します」
留守と白石が別邸を出ていく
俺も、小十郎も話をする気にはなれなくて
「……処分って、どういうことですか……?」
「夕歌……」
「成実は、どうなるんですか……?」
「………」
「──成実殿は、このままにしておけば生き地獄になります」
俺たちの前にコーヒーを置いていくのは、原田
いつもは温和な表情を浮かべることの多いこいつが、今は無表情に近い顔をしていた
「生き地獄って……?」
「……失礼ながら、斎藤夕歌さん
あなたは、成実殿のことをどこまでご存知ですか」
「え?
そ、それは……」
「表の顔しか知らないでしょう
それもそのはずです
それだけ彼は、あなたとの関係を大切にしていましたから」
夕歌がうつむく
成実に限らず、それは綱元も小十郎もそうだ
俺の護衛役とまでは伝えても、やってきたことだけは今まで口にしたことは無かったはずだ
「成実殿が人を殺したのは、今日が初めてではないことくらい、無知なあなたでも分かっているでしょう」
「それは……はい」
「彼が初めて人を殺したのは、14歳の時です」
「え……」
「ちょうど二年前、ですね
鬼庭殿の恋人が、今回のあなたのように事件に巻き込まれ、そして殺された
その後処理を担当していたのが、当時、護衛役長を務めていた小十郎様
そして、その補佐として同行したのが成実殿です」
二年前……か
思えばあの時、綱元が成実のように壊れたんだったか
忘れるはずもねぇ
忘れたくても忘れられない……そんな日の話だ
もう俺は、血に染まりすぎて
真っ白な君に近づくことなんて許されない
俺の手が、お前を穢してしまいそうで
けれど
お前が差し伸べてくれたのなら
俺はその手を取ってもいいのだろうか
39 悲痛
気が付けば、伊達家に戻ってきていた
「あ、成実様……!
お帰りなさいッス」
「ああ……留守か
悪い、連絡しねぇまま帰ってきちまって」
「良いんスよ、ちょっと心配はしましたっスけど」
「……悪い」
「あ、そんじゃあ武器の方をお預かりしますッス」
「……ああ、うん」
ふところから拳銃二丁を取り出して、留守に渡した
「お疲れ様でしたッス」
「……おう」
そのまま、階段を上って部屋の前に歩いて行く
リビングには夕歌たちがいるだろう、今あいつらと顔を合わせるわけにはいかない
フラフラとしたまま、ようやく部屋にたどり着いて……
「成実殿」
ドアノブを回そうとした時、穏やかな声が聞こえた
「原田……」
「また殺してきたのですか」
「仕方ねえだろ
それが俺の務めだし」
「もうやめた方がいいのでは」
「あ?
なんでお前に言われなきゃなんねーんだよ」
やめろ
やめてくれ
俺を暴こうとしないでくれ
「このままでは、確実にあなたは壊れる
今のまま、斎藤夕歌と付き合っていれば……
あなたが己のしてきたことに狂う日が、きっとやってきます」
つかの間、二の句が継げなかった
……狂うなんて、そんなもの
「ばー……か
もうすでに狂い始めてるわ……
遅いっつの、警告が」
「え……成実殿?
あ、ちょっ!」
そのままドアノブを回して、部屋に入った
ご丁寧に鍵をかけて、原田の侵入を防ぐ
暗闇の中
思い起こされるのは、夕歌のあの瞳
俺を、怖がってた
分かってる
俺は人殺しだって……
でも、それを隠して、四人で馬鹿みたいに騒いで
それがめちゃくちゃ楽しくて
ずっとこんな調子で生きていけたらって
何度も何度も、自分の役割の重さとつらさを嘆いて
自分の限界に怯えて……
バレたら今の関係が全部終わる
言い知れない不安を抱えて、それでもあいつらとつるんできた
──それが、ここにきて、全部壊れた
俺が、壊したんだ
「……っ、うぅ……」
頬を流れる熱い水滴
バカじゃねえのか
泣き方なんて、ずっと昔に忘れたんだって思ってた
* * *
綱元についていっていた白石が伊達家に顔を出した
「綱元様ですが、脈拍は安定していました」
「そうか」
「明日には意識も戻るでしょう」
「分かった
本邸から呼びつけて悪かったな」
「いえ、本邸勤務とはいえ、俺たちは輝宗様より、坊ちゃんの命を優先するべしと命令されておりますので」
「……そうだったな」
小十郎の表情は曇ったままだ
夕歌も一向に口を開こうとしない
普段は喧しいほどに賑わう別邸が、重苦しく沈んでいる
「……そちらの方は?」
「あ……えっと、私は……」
「今回巻き込んじまった奴だ
念のためにここに避難させてある」
「そうでしたか
……坊ちゃんが世話になっている」
「えっ」
「坊ちゃんの恋人でしょう?
話は本邸にも届いていますので」
「白石……」
「では、俺はこれで
留守、戻るぞ」
「おう!
あ……あと、成実様なんスけど……
『処分』が必要になったら、言ってくださいッス」
「……処分?」
「そんじゃ、失礼します」
留守と白石が別邸を出ていく
俺も、小十郎も話をする気にはなれなくて
「……処分って、どういうことですか……?」
「夕歌……」
「成実は、どうなるんですか……?」
「………」
「──成実殿は、このままにしておけば生き地獄になります」
俺たちの前にコーヒーを置いていくのは、原田
いつもは温和な表情を浮かべることの多いこいつが、今は無表情に近い顔をしていた
「生き地獄って……?」
「……失礼ながら、斎藤夕歌さん
あなたは、成実殿のことをどこまでご存知ですか」
「え?
そ、それは……」
「表の顔しか知らないでしょう
それもそのはずです
それだけ彼は、あなたとの関係を大切にしていましたから」
夕歌がうつむく
成実に限らず、それは綱元も小十郎もそうだ
俺の護衛役とまでは伝えても、やってきたことだけは今まで口にしたことは無かったはずだ
「成実殿が人を殺したのは、今日が初めてではないことくらい、無知なあなたでも分かっているでしょう」
「それは……はい」
「彼が初めて人を殺したのは、14歳の時です」
「え……」
「ちょうど二年前、ですね
鬼庭殿の恋人が、今回のあなたのように事件に巻き込まれ、そして殺された
その後処理を担当していたのが、当時、護衛役長を務めていた小十郎様
そして、その補佐として同行したのが成実殿です」
二年前……か
思えばあの時、綱元が成実のように壊れたんだったか
忘れるはずもねぇ
忘れたくても忘れられない……そんな日の話だ
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