38 正体
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来るなと言われた
二年前と同じように
けれど、助けに来てしまう俺は愚かなのだろうか
愚かでも構わない
もう、あの日の俺とは違う
38 正体
冷気が熱を冷ましくれる
伊達家から港まで休まずに走り抜けてきたためか、冬なのに汗が出てきた
倉庫の壁に手をついて、息を整える
走った後は体が重い
うまく戦えるだろうか
いつものように胸元に手を当てて──舌打ちが漏れた
「……しまった……」
気が動転しすぎて丸腰だった
「……仕方がないな」
取りに戻る余裕はない
腹を括って、明かりが漏れる倉庫の扉をこじ開けた
飛び込んできたまぶしさに一瞬目がくらむ
目が慣れてくると、敵方の人数が把握できた
ざっと見たところ十人程度
敵に囲まれたその中央には夕歌
「夕歌!」
俺の声に気付いて、夕歌が顔を上げる
見た目ほど大げさな怪我ではないらしい
安堵の息が漏れる
とはいえ、通話越しに呻いていたほどだ、おそらく胴のあたりはやられていると見ていいだろう
「……二年前は、深月茜が世話になったな」
一歩、また一歩と男どもに近づく
「二年前とはえらく違った顔つきだな」
「当然だ、あの時と同じにされてもらっては困る」
「……いや、貴様は何も変わっちゃいない」
言うが早いか、大勢の足音が聞こえてくる
そして、倉庫の入り口から敵勢がなだれ込んできた
「何……!?」
さらに運の悪いことに、全員が銃を所持しているらしい
「……まったく、運が悪いな」
小吉だから仕方ないか
さて、どうしようか──
二年前とは打って変わって、俺は冷静だった
辺りを見渡したまま動こうとしない俺に、背後を囲む奴らが迫ってくる
まずは、武器の確保が優先か……
背後を振り返ると、先に中で俺を待ち構えていた十人程度を合わせても、二十人には満たないだろう
……つまり、その程度の数で俺を始末できると思われているわけだ
甘いな、舐められたものだ
素早く体の向きを変え、背後に迫っていた男の鳩尾に蹴りを入れる
男の身体が曲がったところで、首の裏に打撃を入れる
その間、わずか一秒ほど
男が手放した銃を掴んで、首魁の男に向けた
……同時に、十数の銃も俺に向けられたが、俺にうまく当たらなければ目の前の首魁に当たるために、撃つに撃てないらしい
「俺を撃てば、こいつを撃つぞ」
「その前に、今回の騒動の理由を聞かせてもらおうか」
「二年前と理由は同じだ
畠山の恨みを晴らす!」
「もともと畠山家が自滅したのは伊達のせいじゃない
勘違いも甚だしい
畠山義継の経営手腕が振るわなかっただけに過ぎないだろう」
「黙れクソガキがっ!!」
男の銃口が俺に向けられる
ため息をついて、その銃口を見つめた
「撃ったらどうだ?
俺を殺せば満足するのだろう?」
男の指が引き金を引いた──その一瞬前
見切った俺が姿を消して、銃弾は部下に命中
狼狽えた男の背後を取ることなど、容易いことだ
足元に一発、それで竦んだ男を蹴り倒して、手の中にあった銃を分捕る
そのまま拾った銃を空いた手に持ち、首魁の男の後頭部に片方の銃をつけた
「……チェックメイトだ」
さて……このまま殺してしまってもいいが、それでは誰からの指示なのかが分からない
尋問のためにも、こいつは生かしておくべきだろう
「……お前には色々と聞かせてもらいたい話がある
すべてここで話してもらうぞ」
「なんだと……ひっ」
銃口を押し付けると、男の喉から情けない声が聞こえた
「誰の差し金だ?」
「口を割るわけねぇだろ!」
「畠山本人か?」
「誰が貴様なんぞに……」
「正直に喋った方が身のためだぞ
畠山の元へは、うちから何人か向かわせたんでな」
「……!」
「まぁ、それが本当に畠山本人からの指示だったのなら、救いようもないが……」
……男の様子が変わった
今までの威勢はどこへいったのか、静かに全身を震わせている
これは……図星か
こうも簡単にはったりに乗ってくれると、いっそ心配でもあるが
「鬼庭綱元……
……死ねぇぇぇ!!!」
「っ!?」
かろうじて回し蹴りは回避できた
その拍子に片方の手から拳銃が落ちる
「しまっ……!」
いや、それはどうでもいい
胸元に入れられた手は、まさかもう一丁……
膝をついたまま銃を向けようとして、銃口の先が俺に向いていないことに気付いた
「っ、やめろ!!」
「え……うそ」
茫然とした表情の夕歌が男を見上げる
男の口角が歪んだように釣り上がった
庇うようでは、おそらく流れ弾で夕歌も無事では済まない
とすれば──申し訳ないが、体当たりでもって銃弾の軌道から離れてもらうしかなさそうだ
「きゃあ!?」
体当たりをして、夕歌の身体が大きく横に逸れた──瞬間
「ぐっ……!」
何かが、俺の身体を通り抜けた──
二年前と同じように
けれど、助けに来てしまう俺は愚かなのだろうか
愚かでも構わない
もう、あの日の俺とは違う
38 正体
冷気が熱を冷ましくれる
伊達家から港まで休まずに走り抜けてきたためか、冬なのに汗が出てきた
倉庫の壁に手をついて、息を整える
走った後は体が重い
うまく戦えるだろうか
いつものように胸元に手を当てて──舌打ちが漏れた
「……しまった……」
気が動転しすぎて丸腰だった
「……仕方がないな」
取りに戻る余裕はない
腹を括って、明かりが漏れる倉庫の扉をこじ開けた
飛び込んできたまぶしさに一瞬目がくらむ
目が慣れてくると、敵方の人数が把握できた
ざっと見たところ十人程度
敵に囲まれたその中央には夕歌
「夕歌!」
俺の声に気付いて、夕歌が顔を上げる
見た目ほど大げさな怪我ではないらしい
安堵の息が漏れる
とはいえ、通話越しに呻いていたほどだ、おそらく胴のあたりはやられていると見ていいだろう
「……二年前は、深月茜が世話になったな」
一歩、また一歩と男どもに近づく
「二年前とはえらく違った顔つきだな」
「当然だ、あの時と同じにされてもらっては困る」
「……いや、貴様は何も変わっちゃいない」
言うが早いか、大勢の足音が聞こえてくる
そして、倉庫の入り口から敵勢がなだれ込んできた
「何……!?」
さらに運の悪いことに、全員が銃を所持しているらしい
「……まったく、運が悪いな」
小吉だから仕方ないか
さて、どうしようか──
二年前とは打って変わって、俺は冷静だった
辺りを見渡したまま動こうとしない俺に、背後を囲む奴らが迫ってくる
まずは、武器の確保が優先か……
背後を振り返ると、先に中で俺を待ち構えていた十人程度を合わせても、二十人には満たないだろう
……つまり、その程度の数で俺を始末できると思われているわけだ
甘いな、舐められたものだ
素早く体の向きを変え、背後に迫っていた男の鳩尾に蹴りを入れる
男の身体が曲がったところで、首の裏に打撃を入れる
その間、わずか一秒ほど
男が手放した銃を掴んで、首魁の男に向けた
……同時に、十数の銃も俺に向けられたが、俺にうまく当たらなければ目の前の首魁に当たるために、撃つに撃てないらしい
「俺を撃てば、こいつを撃つぞ」
「その前に、今回の騒動の理由を聞かせてもらおうか」
「二年前と理由は同じだ
畠山の恨みを晴らす!」
「もともと畠山家が自滅したのは伊達のせいじゃない
勘違いも甚だしい
畠山義継の経営手腕が振るわなかっただけに過ぎないだろう」
「黙れクソガキがっ!!」
男の銃口が俺に向けられる
ため息をついて、その銃口を見つめた
「撃ったらどうだ?
俺を殺せば満足するのだろう?」
男の指が引き金を引いた──その一瞬前
見切った俺が姿を消して、銃弾は部下に命中
狼狽えた男の背後を取ることなど、容易いことだ
足元に一発、それで竦んだ男を蹴り倒して、手の中にあった銃を分捕る
そのまま拾った銃を空いた手に持ち、首魁の男の後頭部に片方の銃をつけた
「……チェックメイトだ」
さて……このまま殺してしまってもいいが、それでは誰からの指示なのかが分からない
尋問のためにも、こいつは生かしておくべきだろう
「……お前には色々と聞かせてもらいたい話がある
すべてここで話してもらうぞ」
「なんだと……ひっ」
銃口を押し付けると、男の喉から情けない声が聞こえた
「誰の差し金だ?」
「口を割るわけねぇだろ!」
「畠山本人か?」
「誰が貴様なんぞに……」
「正直に喋った方が身のためだぞ
畠山の元へは、うちから何人か向かわせたんでな」
「……!」
「まぁ、それが本当に畠山本人からの指示だったのなら、救いようもないが……」
……男の様子が変わった
今までの威勢はどこへいったのか、静かに全身を震わせている
これは……図星か
こうも簡単にはったりに乗ってくれると、いっそ心配でもあるが
「鬼庭綱元……
……死ねぇぇぇ!!!」
「っ!?」
かろうじて回し蹴りは回避できた
その拍子に片方の手から拳銃が落ちる
「しまっ……!」
いや、それはどうでもいい
胸元に入れられた手は、まさかもう一丁……
膝をついたまま銃を向けようとして、銃口の先が俺に向いていないことに気付いた
「っ、やめろ!!」
「え……うそ」
茫然とした表情の夕歌が男を見上げる
男の口角が歪んだように釣り上がった
庇うようでは、おそらく流れ弾で夕歌も無事では済まない
とすれば──申し訳ないが、体当たりでもって銃弾の軌道から離れてもらうしかなさそうだ
「きゃあ!?」
体当たりをして、夕歌の身体が大きく横に逸れた──瞬間
「ぐっ……!」
何かが、俺の身体を通り抜けた──
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