37 過去
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思い出す
あの日の、茜の声
来るな、と言った
俺がもしそうしていたら、お前は……
今でも、生きていてくれただろうか──?
37 過去
二年前──冬
当時高校一年だった俺は、中学生だった政宗様の護衛としての訓練を受ける傍ら、茜との時間を過ごしていた
──深月茜は、一般家庭の生まれだった
それなりに友達がいて、同じクラスだった俺と親しくなった
お互い自然に惹かれて……恋をした
剣道と訓練で忙しく流れていく毎日の中で、茜と過ごす時間だけがゆっくりと流れていく
守りたい──そう思った
俺に向けられるこの優しい笑顔を守りたい
──けれどそれは叶わなかった
その日も丁度、学院から帰る時だった
いつも通り、駅での別れ際
何故か、茜と離れてはいけないと思った
離れてしまえば、もう二度と会えなくなる
そんな気がして……
「大げさだよ」
茜はそう言い、「また明日ね」と手を振って
……その明日など、永遠に来なかった
茜を、伊達家を取り巻く不穏な動きに巻き込んだと気付いたのは、日も落ちた頃
同じように茜から電話がきて
──同じように、見知らぬ男の声が聞こえた
「茜っ、茜!!」
半狂乱になりながら、通話越しの茜の名を叫び続けた
後先など考えていなかったと思う
俺は、未熟だった
今ならそんな愚かなことはしないだろう
言われた通り、港にある倉庫に一人で行って
手足を拘束された茜を見て、頭に血が上って……
銃を相手の部下に向けて撃とうとして──
「綱元君!!
来ちゃだめっ!!」
茜の静止の声など聞こえもしなかった
それこそが、俺の最大のミスだった
無機質な金属音が響いて
茜の頭部には銃口が押しつけられて
引き金を引く手が、徐々に引き金を引いて行って
「茜──っ!!!」
手を伸ばして、その手は
虚空を掴んで終わった
銃声が響いて
茜の断末魔の叫び声がして
目の前を、紅が飛び散った
「あ、かね……?」
思考の働かない頭で、目の前の惨状が受け入れられなかった
「綱元、君……
逃げ……」
そう言ったきり、茜の瞳は開くこともなく
声を聞くこともなかった
ただ、自分の腕の中にいる愛しい存在が、冷たくなっていくだけだった
そのあとのことは、よく覚えていない
気がつけば皆死んでいた
後から来た政宗様や小十郎様、成実に何かを言われたような気がする
ただ、その時から俺は
「あああぁぁぁあああぁああ!!!」
生きるということをやめた
生きたいと、生きていたいと思わなくなった
* * *
「──とはいえ、俺が行くのはまずいしな
梵の言う通り、綱元が目ぇ覚ましてからだ」
本邸の詰所から留守がやって来て、俺に銃を2丁寄越してきた
銃弾が全弾装填されているのを確かめて、安全装置を戻す
──俺が初めて人を殺したのも二年前だった
当時、綱元が付き合っていた女が殺されて、その後処理をしていた所で敵の仲間に囲まれた
そこに居たのは、こじゅ兄と俺
躊躇うこともなく応戦するこじゅ兄を横目に、当時まだ中学2年だった俺は、足が竦んで
──成実、撃て!!
分かっていた、撃たなきゃ俺が撃たれる
──う、うわぁぁぁあ!!!
死にたくないから、殺すしかなかった
演習弾しか撃ったことのない俺が、初めて実弾を撃って
敵が血を噴き出して倒れて
それきり動かなくなって
──あ、お……俺、いま……こ、殺したの……?
人を殺したらどうなる?
もちろん裁かれる、梵の元には戻れない
「………」
「すまねぇ、成実」
「何がだよ」
「お前を壊したのは──」
「こじゅ兄のせいじゃねぇよ
言ったろ、それが俺の仕事なんだってさ」
こんな「仕事」がずっと続いた
いつ、世間から「人殺し」と指をさされるかと怯えていた
もう殺したくない、と泣いたことだってある
そりゃそうだ、14歳がやることじゃない
けれど、そんな俺自身の心とは裏腹に、訓練を重ねれば重ねるほど俺は強くなる
強くなっていけばいくほど、敵も俺を排除しにかかる
一時期は毎週のように襲われては返り討ちにしたもんだった
心の悲鳴はすべて無視をした
──それが梵のためになると信じていたから、俺は引き金を引き続けた
戦闘を重ねるうちに、上手い具合に理性を沈める技も身につけた
……俺は、ただの道具だった
梵に害を成す輩を排除して、梵を守るだけの道具
……でも
そんな仕事が終わる度に、理性が戻る度に
気が狂うくらい頭の中が訳が分からなくなって
感情が制御出来なくて、苦しくて
──それでも俺は、そのためにこの命に意味を持つ人間だから
使い物にならなくなる日まで、血を吐こうが何しようが、目の前の敵を排除するしかないんだ──
あの日の、茜の声
来るな、と言った
俺がもしそうしていたら、お前は……
今でも、生きていてくれただろうか──?
37 過去
二年前──冬
当時高校一年だった俺は、中学生だった政宗様の護衛としての訓練を受ける傍ら、茜との時間を過ごしていた
──深月茜は、一般家庭の生まれだった
それなりに友達がいて、同じクラスだった俺と親しくなった
お互い自然に惹かれて……恋をした
剣道と訓練で忙しく流れていく毎日の中で、茜と過ごす時間だけがゆっくりと流れていく
守りたい──そう思った
俺に向けられるこの優しい笑顔を守りたい
──けれどそれは叶わなかった
その日も丁度、学院から帰る時だった
いつも通り、駅での別れ際
何故か、茜と離れてはいけないと思った
離れてしまえば、もう二度と会えなくなる
そんな気がして……
「大げさだよ」
茜はそう言い、「また明日ね」と手を振って
……その明日など、永遠に来なかった
茜を、伊達家を取り巻く不穏な動きに巻き込んだと気付いたのは、日も落ちた頃
同じように茜から電話がきて
──同じように、見知らぬ男の声が聞こえた
「茜っ、茜!!」
半狂乱になりながら、通話越しの茜の名を叫び続けた
後先など考えていなかったと思う
俺は、未熟だった
今ならそんな愚かなことはしないだろう
言われた通り、港にある倉庫に一人で行って
手足を拘束された茜を見て、頭に血が上って……
銃を相手の部下に向けて撃とうとして──
「綱元君!!
来ちゃだめっ!!」
茜の静止の声など聞こえもしなかった
それこそが、俺の最大のミスだった
無機質な金属音が響いて
茜の頭部には銃口が押しつけられて
引き金を引く手が、徐々に引き金を引いて行って
「茜──っ!!!」
手を伸ばして、その手は
虚空を掴んで終わった
銃声が響いて
茜の断末魔の叫び声がして
目の前を、紅が飛び散った
「あ、かね……?」
思考の働かない頭で、目の前の惨状が受け入れられなかった
「綱元、君……
逃げ……」
そう言ったきり、茜の瞳は開くこともなく
声を聞くこともなかった
ただ、自分の腕の中にいる愛しい存在が、冷たくなっていくだけだった
そのあとのことは、よく覚えていない
気がつけば皆死んでいた
後から来た政宗様や小十郎様、成実に何かを言われたような気がする
ただ、その時から俺は
「あああぁぁぁあああぁああ!!!」
生きるということをやめた
生きたいと、生きていたいと思わなくなった
* * *
「──とはいえ、俺が行くのはまずいしな
梵の言う通り、綱元が目ぇ覚ましてからだ」
本邸の詰所から留守がやって来て、俺に銃を2丁寄越してきた
銃弾が全弾装填されているのを確かめて、安全装置を戻す
──俺が初めて人を殺したのも二年前だった
当時、綱元が付き合っていた女が殺されて、その後処理をしていた所で敵の仲間に囲まれた
そこに居たのは、こじゅ兄と俺
躊躇うこともなく応戦するこじゅ兄を横目に、当時まだ中学2年だった俺は、足が竦んで
──成実、撃て!!
分かっていた、撃たなきゃ俺が撃たれる
──う、うわぁぁぁあ!!!
死にたくないから、殺すしかなかった
演習弾しか撃ったことのない俺が、初めて実弾を撃って
敵が血を噴き出して倒れて
それきり動かなくなって
──あ、お……俺、いま……こ、殺したの……?
人を殺したらどうなる?
もちろん裁かれる、梵の元には戻れない
「………」
「すまねぇ、成実」
「何がだよ」
「お前を壊したのは──」
「こじゅ兄のせいじゃねぇよ
言ったろ、それが俺の仕事なんだってさ」
こんな「仕事」がずっと続いた
いつ、世間から「人殺し」と指をさされるかと怯えていた
もう殺したくない、と泣いたことだってある
そりゃそうだ、14歳がやることじゃない
けれど、そんな俺自身の心とは裏腹に、訓練を重ねれば重ねるほど俺は強くなる
強くなっていけばいくほど、敵も俺を排除しにかかる
一時期は毎週のように襲われては返り討ちにしたもんだった
心の悲鳴はすべて無視をした
──それが梵のためになると信じていたから、俺は引き金を引き続けた
戦闘を重ねるうちに、上手い具合に理性を沈める技も身につけた
……俺は、ただの道具だった
梵に害を成す輩を排除して、梵を守るだけの道具
……でも
そんな仕事が終わる度に、理性が戻る度に
気が狂うくらい頭の中が訳が分からなくなって
感情が制御出来なくて、苦しくて
──それでも俺は、そのためにこの命に意味を持つ人間だから
使い物にならなくなる日まで、血を吐こうが何しようが、目の前の敵を排除するしかないんだ──
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