35 拉致
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夢に見た
二年前のあの日
「綱元君!
来ちゃだめっ!!」
踏み出そうとする一歩が動かない
俺は、こんなにも臆病者だったのか?
不意に、発砲音が響く
──あの日
俺の目の前で
愛する彼女が、殺された
背負うべき俺の咎が、生まれた瞬間だった
35 拉致
「……茜っ!!」
叫ぶ自分の声で目が覚めた
「………夢、か」
起き上がって、逸る鼓動を落ち着かせる
嫌な夢を見たと思う
ベッドに仰向けになって、腕で目を覆う
息が整うのを待って、ベッドから起き上がった
机の上の写真を手に取る
穏やかに笑う、彼女がいた
「……茜……
すまない、茜……」
「……っくしゅっ!」
扉の向こうから聞こえたくしゃみで、ハッと我に返った
ドアを開いて顔だけを出す
「……何か用か、成実」
「いや、なかなか起きてこないから、起こしに来たんだけど
起きてたみたいだな」
「お前じゃないからな
寝坊なんてするはずないだろう」
「おい、俺じゃないって一言が余計だと思うんだけど」
ドアを閉めると、扉の向こうの足音が遠ざかっていく
ため息とともに、制服のシャツに袖を通した
「……こんな俺を見て、お前はなんて言うだろうな……」
らしくないと呆れるのだろうか
それとも、無言で殴りにかかるのか
そして、決まって脳裏に浮かぶ、あの後輩
あまり関わると危険な目に遭わせてしまうかもしれない
何度もあいつを遠ざけるような言動を取ってきたはずだった
しかし、あの後輩はそんな俺の心配をよそに、政宗様と順風満帆な生活を送っている
それはそれでいいことだ
感謝すらしている
政宗様に笑顔を取り戻してくれた──政宗様を救ってくれたのは、間違いなく夕歌だ
だからこそ、俺たちを狙う危険なことから守らなければと思う
二年前の悲劇を繰り返さないために
* * *
「──では、行ってらっしゃいませ」
いつもの原田の見送りを受け、政宗様は小十郎様の車でご登校された
「あーあ、あいつだけ車とか羨ましいんだけど……」
「お前こそ実家に帰ればお坊ちゃんだろう」
「いや、そうだけどさ
つか綱元もじゃねえか」
「お前には負ける」
「はいはい
……綱元、受験生のお前には悪いんだけどちょっといいか?」
「何だ」
「畠山家が──」
その名を出されて、肩が跳ねる
「畠山が、どうかしたのか」
「不穏な動きがあるって、偵察から」
「そうか……
分かった、その件は俺から小十郎様に報告する」
「頼んだ」
そうやり取りをして、成実が深呼吸をする
「そんじゃ行こうぜ!
ついでに夕歌も迎えに行くか?」
「……そうだな」
成実は、基本的には公私を混同しない
その「スイッチ」を切り替える作業が深呼吸
……夕歌に、自分たちがやって来たことを知られた時
恐らく成実は──壊れてしまう、気がする
──学院に着いて、職員室へ入る
「……そうか
引き続き見張らせておけ」
「はい」
小十郎様に報告し、俺は頭を下げて職員室を出た
「……騒がしくなってきたな」
何も起きなければいいが……
「──聞いた?
昨日の殺人事件の話……」
「聞いてるわ、ここからそこまで離れてない場所でだったのよね──」
すれ違いざまの会話に後ろめたい気持ちが募る
その時──
「成実、大丈夫!?」
そんな声が聞こえてきた
慌てて廊下の角を曲がると、そこには蹲る成実と、右往左往する夕歌
「成実、どうした!?」
「あ、は……っ、つ、な……」
「……今の会話が原因か」
成実のトラウマに触れてしまったか……
いや、普段ならば落ち着きなく視線を彷徨わせる程度のはずだ
「綱元先輩、成実が急に過呼吸になって──」
「……ここは俺に任せてくれ
夕歌は教室に急ぐといい、特待生が遅刻はまずいだろう」
「……すみません、お願いします」
気遣わしげな視線を残して、夕歌が廊下を急ぐ
……壊れてきている、と直感が訴えた
護衛役の中で1番……人を手に掛けたのが成実なのは、伊達家を守る人間なら誰もが知る話だ
その度に、成実にあった倫理観と罪の意識が彼を苛んだ
元々が限界だったのだろう、その上に先ほどの会話──
人殺しが罪として厳格に裁かれる時代に、俺達は何人の命を奪ってきただろう
「落ち着け、成実……
大丈夫だ、お前は悪くない」
「……っ、……」
真冬であるのに、成実の額には汗が浮かんでいる
悪くない、とは言える
だが──もうやめていいとは、言えない
「よっと……」
呼吸が安定したのに安堵のため息をついて、成実を背中に抱える
「……綱元……」
「しばらく保健室で休んでおけ
保健医には俺から適当に話をつけておく」
「……ん」
保健室に入って、空いたベッドに成実を寝かせる
不在だった保健医に書き置きを残して廊下に出ると、小十郎様が立っていた
「……もう限界かもしれません」
「そうか……」
「成実は、優しすぎる……
おそらく……彼が一番自覚しているとは思いますが……」
成実は、あまりにも無垢な存在に近付きすぎた
夕歌という純真な存在に近づく度に、自分たちの汚れた手が醜く見える
……このままでは、成実の心が壊れるのも時間の問題かもしれない
二年前のあの日
「綱元君!
来ちゃだめっ!!」
踏み出そうとする一歩が動かない
俺は、こんなにも臆病者だったのか?
不意に、発砲音が響く
──あの日
俺の目の前で
愛する彼女が、殺された
背負うべき俺の咎が、生まれた瞬間だった
35 拉致
「……茜っ!!」
叫ぶ自分の声で目が覚めた
「………夢、か」
起き上がって、逸る鼓動を落ち着かせる
嫌な夢を見たと思う
ベッドに仰向けになって、腕で目を覆う
息が整うのを待って、ベッドから起き上がった
机の上の写真を手に取る
穏やかに笑う、彼女がいた
「……茜……
すまない、茜……」
「……っくしゅっ!」
扉の向こうから聞こえたくしゃみで、ハッと我に返った
ドアを開いて顔だけを出す
「……何か用か、成実」
「いや、なかなか起きてこないから、起こしに来たんだけど
起きてたみたいだな」
「お前じゃないからな
寝坊なんてするはずないだろう」
「おい、俺じゃないって一言が余計だと思うんだけど」
ドアを閉めると、扉の向こうの足音が遠ざかっていく
ため息とともに、制服のシャツに袖を通した
「……こんな俺を見て、お前はなんて言うだろうな……」
らしくないと呆れるのだろうか
それとも、無言で殴りにかかるのか
そして、決まって脳裏に浮かぶ、あの後輩
あまり関わると危険な目に遭わせてしまうかもしれない
何度もあいつを遠ざけるような言動を取ってきたはずだった
しかし、あの後輩はそんな俺の心配をよそに、政宗様と順風満帆な生活を送っている
それはそれでいいことだ
感謝すらしている
政宗様に笑顔を取り戻してくれた──政宗様を救ってくれたのは、間違いなく夕歌だ
だからこそ、俺たちを狙う危険なことから守らなければと思う
二年前の悲劇を繰り返さないために
* * *
「──では、行ってらっしゃいませ」
いつもの原田の見送りを受け、政宗様は小十郎様の車でご登校された
「あーあ、あいつだけ車とか羨ましいんだけど……」
「お前こそ実家に帰ればお坊ちゃんだろう」
「いや、そうだけどさ
つか綱元もじゃねえか」
「お前には負ける」
「はいはい
……綱元、受験生のお前には悪いんだけどちょっといいか?」
「何だ」
「畠山家が──」
その名を出されて、肩が跳ねる
「畠山が、どうかしたのか」
「不穏な動きがあるって、偵察から」
「そうか……
分かった、その件は俺から小十郎様に報告する」
「頼んだ」
そうやり取りをして、成実が深呼吸をする
「そんじゃ行こうぜ!
ついでに夕歌も迎えに行くか?」
「……そうだな」
成実は、基本的には公私を混同しない
その「スイッチ」を切り替える作業が深呼吸
……夕歌に、自分たちがやって来たことを知られた時
恐らく成実は──壊れてしまう、気がする
──学院に着いて、職員室へ入る
「……そうか
引き続き見張らせておけ」
「はい」
小十郎様に報告し、俺は頭を下げて職員室を出た
「……騒がしくなってきたな」
何も起きなければいいが……
「──聞いた?
昨日の殺人事件の話……」
「聞いてるわ、ここからそこまで離れてない場所でだったのよね──」
すれ違いざまの会話に後ろめたい気持ちが募る
その時──
「成実、大丈夫!?」
そんな声が聞こえてきた
慌てて廊下の角を曲がると、そこには蹲る成実と、右往左往する夕歌
「成実、どうした!?」
「あ、は……っ、つ、な……」
「……今の会話が原因か」
成実のトラウマに触れてしまったか……
いや、普段ならば落ち着きなく視線を彷徨わせる程度のはずだ
「綱元先輩、成実が急に過呼吸になって──」
「……ここは俺に任せてくれ
夕歌は教室に急ぐといい、特待生が遅刻はまずいだろう」
「……すみません、お願いします」
気遣わしげな視線を残して、夕歌が廊下を急ぐ
……壊れてきている、と直感が訴えた
護衛役の中で1番……人を手に掛けたのが成実なのは、伊達家を守る人間なら誰もが知る話だ
その度に、成実にあった倫理観と罪の意識が彼を苛んだ
元々が限界だったのだろう、その上に先ほどの会話──
人殺しが罪として厳格に裁かれる時代に、俺達は何人の命を奪ってきただろう
「落ち着け、成実……
大丈夫だ、お前は悪くない」
「……っ、……」
真冬であるのに、成実の額には汗が浮かんでいる
悪くない、とは言える
だが──もうやめていいとは、言えない
「よっと……」
呼吸が安定したのに安堵のため息をついて、成実を背中に抱える
「……綱元……」
「しばらく保健室で休んでおけ
保健医には俺から適当に話をつけておく」
「……ん」
保健室に入って、空いたベッドに成実を寝かせる
不在だった保健医に書き置きを残して廊下に出ると、小十郎様が立っていた
「……もう限界かもしれません」
「そうか……」
「成実は、優しすぎる……
おそらく……彼が一番自覚しているとは思いますが……」
成実は、あまりにも無垢な存在に近付きすぎた
夕歌という純真な存在に近づく度に、自分たちの汚れた手が醜く見える
……このままでは、成実の心が壊れるのも時間の問題かもしれない
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