20 夏の鎮魂歌-4-
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悪くない
あの人は何も悪くないの
悪いのは私なの
だから
あの人を責めないで
私の、せいだから……――
20 夏の鎮魂歌-4-
「──やっぱりね」
盗聴器から流れ出る言葉を聞いて盛大に顔をしかめた
「目的は財産か
そんなに金が欲しいか?」
「珍しいな
お前が金のことを悪く言うなんて」
「失礼だな!?」
かすがの失礼発言をちゃんと突っ込んだ
「盗聴とは相変わらず趣味が悪いな」
「お手柄だって言ってくれよー
どのみちお前だって仕掛けるつもりだっただろ?」
「……お前に先を越された」
「そりゃ残念
聞くか?」
かすがが頷いた
俺様が渡したイヤホンを着けた数秒後……
かすがが暗器を握りしめた
「夕歌は……
いつからこんな苦しみを……」
「中二の二月から、かな」
「私に相談の一つも無しで……
たった一人で……」
「……ああ」
「鈴ヶ嶺可菜子……
殺す……」
「やめとけ
今、鬼庭の旦那たちが鈴ヶ嶺可菜子の事情聴取を行ってる
俺様たちが下手に動くと、旦那たちの作戦が意味をなさないだろ」
「そうだが……
……!」
「誰か来た……」
「逃げるぞ」
「分かってるって」
開け放していた窓から外に出て、人にバレないように屋根を飛び移って行く
「お前はこれからどうする、かすが?」
「帰る
鬼庭綱元なら鈴ヶ嶺可菜子の機微を逃すようなヘマはしない」
「へえ、評価してるんだ?」
「あくまで春日山家内での評価だ
私個人の評価としては甘い男だと認識している」
「甘い?」
「やり方が甘い
泳がせて捕らえられたらいいものの、そのまま逃げ切られてしまえばただの愚行だ」
「なるほどねえ……
ま、今までアイツが逃がしたことはないけどね」
「ふん……
だから伊達三傑などと呼ばれているんだろうが」
そこもきっちり評価してんじゃん……
なんだかんだで悪く思ってないのがバレバレだ
「体術に交渉術、心理誘導……
腹黒いアイツにぴったりのスキルだな」
「ふーん……
なんだかんだで好評価じゃん」
「使えない男なら名など残るはずがない」
「そりゃそうだ
じゃあ、俺様も戻りますかね
気を付けろよ、かすが」
「お前に心配されるほど落ちぶれてなどいない」
かすがと別れ、俺様は武田の家を目指した
そのあと、俺様の手の中にある動かぬ証拠ってやつを病院に持っていく予定だ
「さてさて、こいつを綱元のところに持ってってやりますか」
その前に旦那を連れて行かなきゃな……
* * *
うつらうつらと微睡んでいた時、病室のドアが開いた
「竜の旦那」
「政宗殿」
入ってきたのは真田幸村と猿
「お前らか……」
「悪かったね、俺様付きで」
「いや、今はお前がいてくれて助かった」
「え……竜の旦那、熱でもあるわけ?
気持ち悪いんだけど」
「失礼な奴だな」
「そうだぞ佐助
政宗殿が本気で感謝しておられるのだ」
「冗談だって二人とも」
「なら良い
政宗殿、夕歌殿は?」
「……まだ意識が戻らねえ」
柄にもなく手が震えている
このまま目が覚めなかったら──そう考えると、正気ではいられなくなりそうだ
「一般病室だけど、個室なんだ?」
「たまたまな」
真田がベッドに近づく
「実は、夕方のニュースで事故があったのは知っていたのでござる
ひどい事故であったらしく……
まさかそれが夕歌殿であったとは」
「お前らは事故処理がされた後しか見てねえだろうが、俺はこいつが撥ねられる瞬間を見ちまったんだよ」
「「………!!」」
二人が息を呑む声が聞こえた
視線を真田に当てる
「俺は今日のこの出来事は死ぬまで忘れねえ
けどな、覚えとけ
こんなむごい事件でも事故でもな……
世間は明日になりゃ忘れるんだ
こんな事故なんざ、ほぼ日常的に起こってんだからな」
「そんなことは……!
……いや、貴殿の申す通りでござるな……」
いくら忘れないと誓っても
世間はたった一日でなかったも同然の如く忘れる
覚えられることといえば、何十人も死んだような
そんなもんくらいだ
当たり前すぎて、命が失われることへの感覚が麻痺してる
身内だけに残る傷
世間から消え去る事実
不条理な世の中
「お前らは忘れてくれるなよ」
「当たり前でござる」
「言われなくても」
二人の瞳は嘘をついている目じゃなかった
「そうか
それじゃあしばらくこいつを頼む」
「政宗殿、何処へ行かれるのでござるか?」
「鈴ヶ嶺可菜子に会いに行く」
「鈴ヶ嶺殿に?」
「やめときな
今、旦那が行っても何も変わらない
ここは大人しく綱元に任せるのが一番だよ」
「その通りでござるよ、政宗殿
怒るお気持ちはわかりまするが……」
分かってはいる、分かってはいても……
許せないことは俺にもある
拳を握りしめた時
「怒りを覚えたときこそ、冷静になられよ、政宗様」
「小十郎……」
病室に小十郎が入ってきた
「鈴ヶ嶺は?」
「綱元が直接話を付けている」
「そっか
そうそう、ちょっと右目の旦那に渡すものがあったのよ
ほいこれ」
猿が渡したのは何かの機械だった
「何だこいつは?」
「盗聴器
元から鈴ヶ嶺には目を付けてたんだよね、俺様
そしたら物騒な会話がばっちり記録されてましたってわけ」
「盗聴器だと……」
「そいつをあのキツネ女の前で流してやりな
そして化けの皮を剥いできなよ」
「……すまねえ」
「気にしないでよ
夕歌ちゃんのためだから」
猿から受け取った小十郎が、確認の意味を込めて俺を見る
「行けよ小十郎」
「はっ……!」
盗聴器を握りしめて、小十郎が病室を出て行った
「政宗殿は行かぬのでござるか?」
「行く必要ねえよ
……全部このイヤホンから聞こえてるからな」
「はあ……?
まさか、あっちの部屋に盗聴器仕掛けてるわけ?」
「綱元が考えたんだが?」
「うん、だろうと思った……
鬼庭の旦那、絶対に生き生きしてるでしょ」
「声音がいつもより気持ち高めだからな」
「いい性格してる……」
猿が呆れたように笑う
……俺としては猿飛もいい性格をしてやがるとは思っているが
──その時、小十郎が例のものを流した
あの人は何も悪くないの
悪いのは私なの
だから
あの人を責めないで
私の、せいだから……――
20 夏の鎮魂歌-4-
「──やっぱりね」
盗聴器から流れ出る言葉を聞いて盛大に顔をしかめた
「目的は財産か
そんなに金が欲しいか?」
「珍しいな
お前が金のことを悪く言うなんて」
「失礼だな!?」
かすがの失礼発言をちゃんと突っ込んだ
「盗聴とは相変わらず趣味が悪いな」
「お手柄だって言ってくれよー
どのみちお前だって仕掛けるつもりだっただろ?」
「……お前に先を越された」
「そりゃ残念
聞くか?」
かすがが頷いた
俺様が渡したイヤホンを着けた数秒後……
かすがが暗器を握りしめた
「夕歌は……
いつからこんな苦しみを……」
「中二の二月から、かな」
「私に相談の一つも無しで……
たった一人で……」
「……ああ」
「鈴ヶ嶺可菜子……
殺す……」
「やめとけ
今、鬼庭の旦那たちが鈴ヶ嶺可菜子の事情聴取を行ってる
俺様たちが下手に動くと、旦那たちの作戦が意味をなさないだろ」
「そうだが……
……!」
「誰か来た……」
「逃げるぞ」
「分かってるって」
開け放していた窓から外に出て、人にバレないように屋根を飛び移って行く
「お前はこれからどうする、かすが?」
「帰る
鬼庭綱元なら鈴ヶ嶺可菜子の機微を逃すようなヘマはしない」
「へえ、評価してるんだ?」
「あくまで春日山家内での評価だ
私個人の評価としては甘い男だと認識している」
「甘い?」
「やり方が甘い
泳がせて捕らえられたらいいものの、そのまま逃げ切られてしまえばただの愚行だ」
「なるほどねえ……
ま、今までアイツが逃がしたことはないけどね」
「ふん……
だから伊達三傑などと呼ばれているんだろうが」
そこもきっちり評価してんじゃん……
なんだかんだで悪く思ってないのがバレバレだ
「体術に交渉術、心理誘導……
腹黒いアイツにぴったりのスキルだな」
「ふーん……
なんだかんだで好評価じゃん」
「使えない男なら名など残るはずがない」
「そりゃそうだ
じゃあ、俺様も戻りますかね
気を付けろよ、かすが」
「お前に心配されるほど落ちぶれてなどいない」
かすがと別れ、俺様は武田の家を目指した
そのあと、俺様の手の中にある動かぬ証拠ってやつを病院に持っていく予定だ
「さてさて、こいつを綱元のところに持ってってやりますか」
その前に旦那を連れて行かなきゃな……
* * *
うつらうつらと微睡んでいた時、病室のドアが開いた
「竜の旦那」
「政宗殿」
入ってきたのは真田幸村と猿
「お前らか……」
「悪かったね、俺様付きで」
「いや、今はお前がいてくれて助かった」
「え……竜の旦那、熱でもあるわけ?
気持ち悪いんだけど」
「失礼な奴だな」
「そうだぞ佐助
政宗殿が本気で感謝しておられるのだ」
「冗談だって二人とも」
「なら良い
政宗殿、夕歌殿は?」
「……まだ意識が戻らねえ」
柄にもなく手が震えている
このまま目が覚めなかったら──そう考えると、正気ではいられなくなりそうだ
「一般病室だけど、個室なんだ?」
「たまたまな」
真田がベッドに近づく
「実は、夕方のニュースで事故があったのは知っていたのでござる
ひどい事故であったらしく……
まさかそれが夕歌殿であったとは」
「お前らは事故処理がされた後しか見てねえだろうが、俺はこいつが撥ねられる瞬間を見ちまったんだよ」
「「………!!」」
二人が息を呑む声が聞こえた
視線を真田に当てる
「俺は今日のこの出来事は死ぬまで忘れねえ
けどな、覚えとけ
こんなむごい事件でも事故でもな……
世間は明日になりゃ忘れるんだ
こんな事故なんざ、ほぼ日常的に起こってんだからな」
「そんなことは……!
……いや、貴殿の申す通りでござるな……」
いくら忘れないと誓っても
世間はたった一日でなかったも同然の如く忘れる
覚えられることといえば、何十人も死んだような
そんなもんくらいだ
当たり前すぎて、命が失われることへの感覚が麻痺してる
身内だけに残る傷
世間から消え去る事実
不条理な世の中
「お前らは忘れてくれるなよ」
「当たり前でござる」
「言われなくても」
二人の瞳は嘘をついている目じゃなかった
「そうか
それじゃあしばらくこいつを頼む」
「政宗殿、何処へ行かれるのでござるか?」
「鈴ヶ嶺可菜子に会いに行く」
「鈴ヶ嶺殿に?」
「やめときな
今、旦那が行っても何も変わらない
ここは大人しく綱元に任せるのが一番だよ」
「その通りでござるよ、政宗殿
怒るお気持ちはわかりまするが……」
分かってはいる、分かってはいても……
許せないことは俺にもある
拳を握りしめた時
「怒りを覚えたときこそ、冷静になられよ、政宗様」
「小十郎……」
病室に小十郎が入ってきた
「鈴ヶ嶺は?」
「綱元が直接話を付けている」
「そっか
そうそう、ちょっと右目の旦那に渡すものがあったのよ
ほいこれ」
猿が渡したのは何かの機械だった
「何だこいつは?」
「盗聴器
元から鈴ヶ嶺には目を付けてたんだよね、俺様
そしたら物騒な会話がばっちり記録されてましたってわけ」
「盗聴器だと……」
「そいつをあのキツネ女の前で流してやりな
そして化けの皮を剥いできなよ」
「……すまねえ」
「気にしないでよ
夕歌ちゃんのためだから」
猿から受け取った小十郎が、確認の意味を込めて俺を見る
「行けよ小十郎」
「はっ……!」
盗聴器を握りしめて、小十郎が病室を出て行った
「政宗殿は行かぬのでござるか?」
「行く必要ねえよ
……全部このイヤホンから聞こえてるからな」
「はあ……?
まさか、あっちの部屋に盗聴器仕掛けてるわけ?」
「綱元が考えたんだが?」
「うん、だろうと思った……
鬼庭の旦那、絶対に生き生きしてるでしょ」
「声音がいつもより気持ち高めだからな」
「いい性格してる……」
猿が呆れたように笑う
……俺としては猿飛もいい性格をしてやがるとは思っているが
──その時、小十郎が例のものを流した
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