19 夏の鎮魂歌-3-
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そんな……
嘘、だよな……?
さっきまであんなに笑顔だったじゃねえか……
誰か──これは俺が見ている悪夢なんだと
夢だと言ってくれ
19 夏の鎮魂歌-3-
どうなっているのか分からなかった
小十郎が携帯で誰かと話していた
綱元が必死に俺に何か話していた気がする
「………」
周りの音が聞こえない
視界すら動かせない
足元に血まみれで倒れている、大切な女
何でこんなことになってるんだ?
「……夕歌、夕歌……
っ、おい、夕歌……なぁ、夕歌……!
夕歌……!!」
ふらふらと近づいて夕歌を抱き起こす
何の反応もなかった
力を失った首と手
青白い顔は、額からの流血が止まらない
「……返事をしてくれ、頼む……
夕歌……」
俺はもう何も失えない
これ以上、何もないのに──
『……兄さん……』
耳の奥で、聞こえるはずのない声が響いた
やめてくれ
連れて行かないでくれ──
「政宗様!!」
小十郎の声で一気に周りの音が入ってきた
ハッとして手元を見ると、夕歌の姿がない
どうも救急車に乗せられたようだ
喧騒に一瞬脳が揺れたが、小十郎を見ると心配そうな表情が俺を覗き込んでいた
「大丈夫ですか」
「あ、ああ……悪い」
「我々も病院へ同行いたしますか?」
「いや、俺だけでいい
お前らは誰が差し向けたのか調べ上げろ
手段は問わねえ
警察との連携も視野に入れてやれ」
「「はっ」」
「梵、俺も行く」
「成実……」
「クラスメートなんだ、当たり前だろ」
そう言うが早いか、成実が車に戻った
慌てて俺も乗り込む
「調べ上げろっつったけど、もうわかってるだろ」
「……ああ」
こんなことをする奴なんざ、一人だけだ
鈴ヶ嶺可菜子──!!
* * *
手術中のランプが赤く点灯して数時間
「「政宗様!!」」
「若様っ!!」
「小十郎、綱元……
原田まで……」
おそらく小十郎が連絡したのだろう、二人に加えて原田までが来ていた
「斎藤の状況は……?」
「まだ手術が終わってねぇ」
「そうですか……」
その時、ランプが消えた
「「!!」」
手術室のドアが開き、医者が出てきた
「夕歌は!?」
「無事なんですよね!?」
「落ち着いてください
一命は取り留めましたが、まだ油断できません
集中治療室で様子を見ます
斎藤さんのご家族の方は?」
「あいつ、家族は火事で……」
「そうですか……
ではどなたか……」
「では私が」
原田が俺たちに目配せをして、医師と共にどこかへと歩いていく
「犯人は?」
「政宗様もご想像の通りです
しかし……」
「証拠がない、か」
「………」
どうにかして白状させられないのか?
俺は……
何もできずに終わりたくはねえ
「……夕歌……」
「梵……平気か」
成実の気遣わし気な視線の意味は分かっている
あいつを喪ったときも、今日みたいな事故だった
「……大丈夫だ
囚われてる場合じゃねぇ……」
「ああ……そうだな」
成実の表情も苛立ちが見える
なぜこうなった
夕歌が何をした?
俺は……もう、何も失いたくない──
* * *
『ここで速報です』
アナウンサーの切羽詰まった声が速報を告げる
何気なくそちらに耳を傾けつつ、パソコンのキーボードを叩こうと指を這わせたとき
『午後十二時すぎ、歩道に乗用車が──』
「………」
それはまた……何とも痛ましい事故が起きたものだ
ため息をついてテレビの画面から目を離す
『この事故で、近くに住む高校生の斎藤夕歌さん16歳が病院へ搬送され──』
「……斎藤、夕歌?」
今度こそ完全に手が止まった
食い入るように画面を見つめる
聞いていた名前、漢字までが一致していた
同姓同名……いや、その可能性は低い
「──お嬢様」
ああ、なんということだろう
こんなに近くにおられたなんて
私がお仕えし、お守りすべきだった方
「ようやく……見つけました……
この日をどれほど……」
クローゼットを開け放つ
その中から、専用の『それ』を取り出した
ワイシャツを着て、ネクタイを締める
ベストを着て、そして燕尾のジャケットに袖を通す
ビニール袋で眠っていた白の手袋を嵌める
「──さぁ、お仕事と参りましょうか」
貴女に仕える者として、私はこの命に意味を持つ
ああ、しかしお嬢様、恐れながら、貴女様の御前に参りますのは、もう少々お時間を頂きたく
……貴女様にお仕えする前に、やらねばならぬ仕事がございますゆえ
嘘、だよな……?
さっきまであんなに笑顔だったじゃねえか……
誰か──これは俺が見ている悪夢なんだと
夢だと言ってくれ
19 夏の鎮魂歌-3-
どうなっているのか分からなかった
小十郎が携帯で誰かと話していた
綱元が必死に俺に何か話していた気がする
「………」
周りの音が聞こえない
視界すら動かせない
足元に血まみれで倒れている、大切な女
何でこんなことになってるんだ?
「……夕歌、夕歌……
っ、おい、夕歌……なぁ、夕歌……!
夕歌……!!」
ふらふらと近づいて夕歌を抱き起こす
何の反応もなかった
力を失った首と手
青白い顔は、額からの流血が止まらない
「……返事をしてくれ、頼む……
夕歌……」
俺はもう何も失えない
これ以上、何もないのに──
『……兄さん……』
耳の奥で、聞こえるはずのない声が響いた
やめてくれ
連れて行かないでくれ──
「政宗様!!」
小十郎の声で一気に周りの音が入ってきた
ハッとして手元を見ると、夕歌の姿がない
どうも救急車に乗せられたようだ
喧騒に一瞬脳が揺れたが、小十郎を見ると心配そうな表情が俺を覗き込んでいた
「大丈夫ですか」
「あ、ああ……悪い」
「我々も病院へ同行いたしますか?」
「いや、俺だけでいい
お前らは誰が差し向けたのか調べ上げろ
手段は問わねえ
警察との連携も視野に入れてやれ」
「「はっ」」
「梵、俺も行く」
「成実……」
「クラスメートなんだ、当たり前だろ」
そう言うが早いか、成実が車に戻った
慌てて俺も乗り込む
「調べ上げろっつったけど、もうわかってるだろ」
「……ああ」
こんなことをする奴なんざ、一人だけだ
鈴ヶ嶺可菜子──!!
* * *
手術中のランプが赤く点灯して数時間
「「政宗様!!」」
「若様っ!!」
「小十郎、綱元……
原田まで……」
おそらく小十郎が連絡したのだろう、二人に加えて原田までが来ていた
「斎藤の状況は……?」
「まだ手術が終わってねぇ」
「そうですか……」
その時、ランプが消えた
「「!!」」
手術室のドアが開き、医者が出てきた
「夕歌は!?」
「無事なんですよね!?」
「落ち着いてください
一命は取り留めましたが、まだ油断できません
集中治療室で様子を見ます
斎藤さんのご家族の方は?」
「あいつ、家族は火事で……」
「そうですか……
ではどなたか……」
「では私が」
原田が俺たちに目配せをして、医師と共にどこかへと歩いていく
「犯人は?」
「政宗様もご想像の通りです
しかし……」
「証拠がない、か」
「………」
どうにかして白状させられないのか?
俺は……
何もできずに終わりたくはねえ
「……夕歌……」
「梵……平気か」
成実の気遣わし気な視線の意味は分かっている
あいつを喪ったときも、今日みたいな事故だった
「……大丈夫だ
囚われてる場合じゃねぇ……」
「ああ……そうだな」
成実の表情も苛立ちが見える
なぜこうなった
夕歌が何をした?
俺は……もう、何も失いたくない──
* * *
『ここで速報です』
アナウンサーの切羽詰まった声が速報を告げる
何気なくそちらに耳を傾けつつ、パソコンのキーボードを叩こうと指を這わせたとき
『午後十二時すぎ、歩道に乗用車が──』
「………」
それはまた……何とも痛ましい事故が起きたものだ
ため息をついてテレビの画面から目を離す
『この事故で、近くに住む高校生の斎藤夕歌さん16歳が病院へ搬送され──』
「……斎藤、夕歌?」
今度こそ完全に手が止まった
食い入るように画面を見つめる
聞いていた名前、漢字までが一致していた
同姓同名……いや、その可能性は低い
「──お嬢様」
ああ、なんということだろう
こんなに近くにおられたなんて
私がお仕えし、お守りすべきだった方
「ようやく……見つけました……
この日をどれほど……」
クローゼットを開け放つ
その中から、専用の『それ』を取り出した
ワイシャツを着て、ネクタイを締める
ベストを着て、そして燕尾のジャケットに袖を通す
ビニール袋で眠っていた白の手袋を嵌める
「──さぁ、お仕事と参りましょうか」
貴女に仕える者として、私はこの命に意味を持つ
ああ、しかしお嬢様、恐れながら、貴女様の御前に参りますのは、もう少々お時間を頂きたく
……貴女様にお仕えする前に、やらねばならぬ仕事がございますゆえ
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