18 夏の鎮魂歌-2-
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いつ死ぬか分からない
追い詰められて頼れるのは、あなただけ
どうかお願い
この手を、離さないで……
18 夏の鎮魂歌-2-
綱元先輩に連れられて、心配そうな面持ちで入ってきた政宗先輩
「具合はいいのか?」
「はい
お騒がせしてすみませんでした
もう平気です」
普段なら笑顔の一つでも浮かべられるのに
これから話そうと思うことを考えると、どうしても笑えなかった
「それで、話というのは?」
切り出してくれた綱元先輩に感謝しつつ、口を開く
「実は……ずっと隠していたことがあるんです
放火されて、今も犯人が捕まっていないって言いましたよね」
「ああ、お前からそう聞いてる」
「……本当は犯人の目星なんてついてるんです」
「……何?」
「じゃあなんで捕まえねえんだよ?」
「その人がやったなんて証拠がないの」
物的証拠がなければ、警察も検挙できない
証拠不十分で不起訴になってしまうだけだ
「でも、誰の指図なのかってことくらい私でも分かります」
「……その人物は誰だ」
怒りを滲ませた政宗先輩の声が問う
「鈴ヶ嶺可菜子
……私の従姉妹です」
「「……!!」」
全員の瞳が大きく見開かれた
けれど、次の瞬間には全員が納得の色を示していた
「あの人がお前を狙う理由は何だ?」
「父と母が残してくれた、莫大な遺産です
その額は到底私が一生を使っても使い切れない程
遺産の相続の権利は一人娘の私にあるのですが、私が死んだ場合は可菜子さんが相続人として指名されているんです」
「その金目当てにお前の命を狙ってるってわけか」
政宗先輩の言葉にそっと頷いた
「……たらい回しにされた挙句、最後にたどり着いたのが可菜子さんが嫁いだ家……鈴ヶ嶺家でした
あの人はどこからか遺産の情報を手にし、ことあるごとに私を殺そうとしてきました
それが丁度去年の今頃で……
だから、鈴ヶ嶺から少しでも遠いところの学校……
婆裟羅学院を受験したんです
受かった後はすぐに可菜子さんの夫の人から出ていくよう言われて、マンションまで用意されていて……
それで、今に至ります」
蝉の声がせわしなく聞こえている
軒先の風鈴も、今は音も立てない
「鈴ヶ嶺は、まさか……
あの、鈴ヶ嶺家か?」
「片倉先生の言っている家かは分かりませんけど……
私が言っている鈴ヶ嶺は、大手IT企業です」
「小十郎、まさか……
鈴ヶ嶺財閥か?」
片倉先生が神妙な面持ちで頷いた
先生や先輩が知ってるってことは、やっぱり可菜子さんの家の会社は有名なんだろうな
「と、すると、夕歌の母親が経営していた会社は、医療関係の斎藤グループか?」
「おそらく、そうなるかと
夕歌、お前の父親は明誠大学の教授だろう」
「はい、そうですけど……
どうして知ってるんですか?」
「お前のおふくろさんが経営していた会社とうちは、何かと取引が多かったからな
何かの拍子にそういう話を聞いたことがあったんだ」
「斎藤、藤野はどうしてるんだ?
なぜオメェを引き取ろうとしなかった?」
「……え?」
いよいよ訳が分からなくなってきた
私の知らない新情報がどんどん出てきたんだけど……
「いや、いやいや……まさか
だってお母さんは、ただの地元の中小企業だって」
「そりゃお前、自分の娘にお前は金持ちの娘だなんて教えたくなかったんだろ
絶対つけあがるからな」
「あくまで一般人として生きていこうとしていたんだろうな
オメェの親父さんもまた然り」
「そりゃあその二人はとんでもねえ額の遺産残すだろうなあ……
世界でも有数の金持ち夫婦だし」
「でも暮らしはそれこそ庶民暮らし極めてたけど……」
「あれだろ
贅沢する暮らしが合わねえんだろうな」
「そんなもんですかね……」
あれ、話がずれてきてる気がする
軌道を戻さなきゃ
「それで、ここからが本題なんですけど……」
「なんて長い前置き」
この際、成実のツッコミは無視した
成実が沈んだけど、政宗先輩から「こんな時に茶化すからだろ」と冷静にド正論で返されていた
「私、可菜子さんに両親の残してくれた財産を取られるくらいなら、どぶに捨てたほうがましです
でも、そんなことはしたくない
だから皆さんにお願いがあるんです
もし私が死んだとき、全財産を伊達財閥が相続してくれませんか」
「……は?」
政宗先輩がその隻眼を見開く
私は、政宗先輩の驚きに満ちた瞳を見つめ続けた
追い詰められて頼れるのは、あなただけ
どうかお願い
この手を、離さないで……
18 夏の鎮魂歌-2-
綱元先輩に連れられて、心配そうな面持ちで入ってきた政宗先輩
「具合はいいのか?」
「はい
お騒がせしてすみませんでした
もう平気です」
普段なら笑顔の一つでも浮かべられるのに
これから話そうと思うことを考えると、どうしても笑えなかった
「それで、話というのは?」
切り出してくれた綱元先輩に感謝しつつ、口を開く
「実は……ずっと隠していたことがあるんです
放火されて、今も犯人が捕まっていないって言いましたよね」
「ああ、お前からそう聞いてる」
「……本当は犯人の目星なんてついてるんです」
「……何?」
「じゃあなんで捕まえねえんだよ?」
「その人がやったなんて証拠がないの」
物的証拠がなければ、警察も検挙できない
証拠不十分で不起訴になってしまうだけだ
「でも、誰の指図なのかってことくらい私でも分かります」
「……その人物は誰だ」
怒りを滲ませた政宗先輩の声が問う
「鈴ヶ嶺可菜子
……私の従姉妹です」
「「……!!」」
全員の瞳が大きく見開かれた
けれど、次の瞬間には全員が納得の色を示していた
「あの人がお前を狙う理由は何だ?」
「父と母が残してくれた、莫大な遺産です
その額は到底私が一生を使っても使い切れない程
遺産の相続の権利は一人娘の私にあるのですが、私が死んだ場合は可菜子さんが相続人として指名されているんです」
「その金目当てにお前の命を狙ってるってわけか」
政宗先輩の言葉にそっと頷いた
「……たらい回しにされた挙句、最後にたどり着いたのが可菜子さんが嫁いだ家……鈴ヶ嶺家でした
あの人はどこからか遺産の情報を手にし、ことあるごとに私を殺そうとしてきました
それが丁度去年の今頃で……
だから、鈴ヶ嶺から少しでも遠いところの学校……
婆裟羅学院を受験したんです
受かった後はすぐに可菜子さんの夫の人から出ていくよう言われて、マンションまで用意されていて……
それで、今に至ります」
蝉の声がせわしなく聞こえている
軒先の風鈴も、今は音も立てない
「鈴ヶ嶺は、まさか……
あの、鈴ヶ嶺家か?」
「片倉先生の言っている家かは分かりませんけど……
私が言っている鈴ヶ嶺は、大手IT企業です」
「小十郎、まさか……
鈴ヶ嶺財閥か?」
片倉先生が神妙な面持ちで頷いた
先生や先輩が知ってるってことは、やっぱり可菜子さんの家の会社は有名なんだろうな
「と、すると、夕歌の母親が経営していた会社は、医療関係の斎藤グループか?」
「おそらく、そうなるかと
夕歌、お前の父親は明誠大学の教授だろう」
「はい、そうですけど……
どうして知ってるんですか?」
「お前のおふくろさんが経営していた会社とうちは、何かと取引が多かったからな
何かの拍子にそういう話を聞いたことがあったんだ」
「斎藤、藤野はどうしてるんだ?
なぜオメェを引き取ろうとしなかった?」
「……え?」
いよいよ訳が分からなくなってきた
私の知らない新情報がどんどん出てきたんだけど……
「いや、いやいや……まさか
だってお母さんは、ただの地元の中小企業だって」
「そりゃお前、自分の娘にお前は金持ちの娘だなんて教えたくなかったんだろ
絶対つけあがるからな」
「あくまで一般人として生きていこうとしていたんだろうな
オメェの親父さんもまた然り」
「そりゃあその二人はとんでもねえ額の遺産残すだろうなあ……
世界でも有数の金持ち夫婦だし」
「でも暮らしはそれこそ庶民暮らし極めてたけど……」
「あれだろ
贅沢する暮らしが合わねえんだろうな」
「そんなもんですかね……」
あれ、話がずれてきてる気がする
軌道を戻さなきゃ
「それで、ここからが本題なんですけど……」
「なんて長い前置き」
この際、成実のツッコミは無視した
成実が沈んだけど、政宗先輩から「こんな時に茶化すからだろ」と冷静にド正論で返されていた
「私、可菜子さんに両親の残してくれた財産を取られるくらいなら、どぶに捨てたほうがましです
でも、そんなことはしたくない
だから皆さんにお願いがあるんです
もし私が死んだとき、全財産を伊達財閥が相続してくれませんか」
「……は?」
政宗先輩がその隻眼を見開く
私は、政宗先輩の驚きに満ちた瞳を見つめ続けた
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