沫系
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練習が終わったあとのテニスコートはいつもと違ってすごく静かだった。お昼にあったブン太と赤也くんのことを思い出して、自然と少し早足になってしまう。お昼のことを思い出すたびに頭に浮かぶのはブン太の怒った顔だったから。こんな状態で話を聞いてくれるのかと不安になりながらも、コートを通り過ぎて部室へと向かった。庭球部と書かれた部室の前に来ると、部屋の中からみんなの話し声が聞こえた。どうしよう、緊張する。呼び出す時点で緊張してたら、言いたいことも言えないよね…。
「何しとう」
「あ、に、仁王」
「ブン太に用か?…なんてな」
「それが、実はそうなんだよね」
突然後ろから現れた仁王にびっくりしながらもそう答えると、仁王は少し驚いたような顔をした。彼も昼間あったことを知っているようだったから、もちろん私がブン太に避けられてるのも知ってると思う。そんな状況で用がある、なんて言ったらそりゃ驚かれるよね。だけど、仁王にも今まで迷惑掛けてたわけだから、ちゃんと伝えておこうと思った。
「…今日ブン太に言いたいこと言うよ」
仁王はさらに目を見開かせて私の言葉を聞き入れた。それじゃあ詐欺師の名が泣いちゃうよ、って言いたかったけれど、こんなに驚いてくれてることが嬉しかった。だって、心配してくれてたってことなんだよね?
「頑張りんしゃい」
「…ありがとう」
仁王が私の頭を優しく撫でたから、引いたはずの涙がまた戻ってきそうになった。だめだめ、今からちゃんとブン太に伝えるんだから、こんな時に泣いてちゃだめだ。仁王は呼んで来ちゃる、と言って部室の中に入っていった。ありがたいけど、まだ心の準備が出来ていない。いや、強気強気!小さく拳を握っていると、再び部室のドアが開いた。ばっと顔をあげると、ブン太が気まずそうな顔をして後ろ手で部室のドアを閉めた。
「…何か用?」
「あ、う、うん」
思ってたよりもずっとブン太の声が低くて、思わず怯 んでしまった。さっきまでの勢いはどこにいってしまったのかと自分でも思うほどに、足が震えている。さすがに部室の前では話せないから少し離れたところまで二人で歩いていった。もちろん、その間に会話なんて一つもない。早足で先に歩くブン太の後ろについていくことだけでいっぱいいっぱいだった。
「あのね、ブン太」
「何だよぃ」
「お昼はごめんね、ちゃんと謝っておきたくて…」
「…もういいって。話ってそれだけ?俺もう帰っから」
それだけ言うとブン太はまた歩きだそうと私に背中を向けた。やっぱりまだ怒ってるんだ。どうしようと思いながらも、無意識にブン太の腕を引っ張っていた。今日こそこの気持ちに区切りを付けるんだ。
「ま、待って」
「んだよ、離し…」
「ブン太、す、好き…」
「は…?」
自分の気持ちを口にすると、思わず涙が滲んだ。私の手を振り払おうとしていたブン太の動きがぴたりと止まった。ブン太が私の方に振り向いたのと同時に、思わず俯いてしまった。彼の反応を見るのが怖かったから。自身の足と、私の方に向いているブン太の足が目に入る。それだけでこんなに嬉しいなんて、私どうかしてるのかな。
「本当は、別れたくなかったよ…でも私、どうしたからいいか分からなくて、逃げ、ちゃって」
「………」
「何回も忘れようって思ったけど、やっぱりそれも、で、きなくて、……っ」
声を震わせながらも口にした言葉は、次の瞬間には彼の温もりによって掻き消されてしまった。抱きしめられているのはすぐに分かったけど、それが夢なのかと疑ってしまうほどに混乱してしまう。その瞬間、涙の量が一気に増えて鳴咽が止まらなくなってしまった。
「…お前、馬鹿?」
「ブン太っ…」
「別れてすげえ後悔してたのに、ちょっと日経ったらすぐ赤也と仲良くなってるし」
「…あれ、はっ」
「もう諦めようって思っても他の女子には何とも思わねえし」
「…っ…」
知らなかった。ブン太が私のことをそんな風に考えてくれていたなんて、全く思いもしなかった。後悔してたのも、好きだって思っているのも、ずっと私だけだと思ってた。またこうやって抱きしめてもらえるなんて、夢にも思わなかった。恐る恐る彼の背中に手を回してみると、ブン太はわたしの後頭部を掌で包んで、さっきよりもきつく抱きしめた。ブン太、震えてる。お願いだから、泣かないで。ブン太には笑っていて欲しい。
「俺だって本当は…」
「え?」
「…何でもねえ」
「だって今何か…」
「…うるさい」
反射的に顔を上げると、すぐに私の唇とブン太のそれが重なった。自然と目を閉じる前に視界に入ったブン太の表情は、少しだけ涙が滲んでて、でも笑っていた。こんなに彼を愛おしいと思ったのは初めてかもしれない。私は、離れてからやっと気付くような大馬鹿な奴なんだ。
「…俺だって別れたくなんかなかった」
「え…?」
「だってずりぃじゃんか、俺だけそう思ってんのって」
違うよ。私だって同じ気持ちだった。そっか、私たちの間に壁なんて最初からなかったんだね。
「俺、いっつも後のこと考えねえで行動すんだよ」
「あ…」
目の前のことに夢中で、先を読むことが苦手。そんなこと、私も分かってたはずなのに。どうして気付けなかったんだろう。ブン太のこと分かってたつもりで、結局はわたしも自分のことしか考えてなかったんだ。
「俺がはなに未練タラタラだったから、あの時も一緒にいた奴らが勝手に電話かけたんだよ」
「あ、そ、そうだったの…?」
夢みたいな展開に、さっきから間抜けな返事しか出来なかった。私だって言いたいことはたくさんあるのに、何故か言葉が出てこない。ブン太に嬉しいことばかり言われて、余裕がなくなっていた。そんなことを考えていると、ブン太は私からそっと離れてポケットの中に手を入れた。
「これ」
「それ、指輪…?」
「そう。…別れた後もずっと持ち歩いてたんだよ」
悲しそうにそう言ったブン太に、おさまっていたはずの涙がぶわっと溢れた。本当はずっと気になっていたこと。もう捨てちゃったんじゃないかとか、心の片隅で気になっていた。涙でぐちゃぐちゃな顔を見られたくなくてブン太に抱きつくと、すぐにまたさっきのように私を包み込んでくれた。
「もう絶対離さねえから」
「…っ、うん」
「お前が嫌だっつっても、絶対離さねえ」
「や、約束、だからね」
ブン太は私の頬に手を添えると、もう一度優しいキスをしてくれた。もう絶対に離れたりなんかしない。遅くなったけど、やっと気付けたから。わたしにとって一番大事なもの。
.
.
.
「はな姉ちゃん、遊園地行きたーい」
「あ、俺も俺も!」
「お、お前ら!せっかくこれから久しぶりのデートだってのに…!」
私に甘い瞳で詰め寄る弟くん二人を見て悔しそうな顔をするブン太。駄目だって言いたいんだろうけど、弟くんが大好きなブン太にはなかなか難しいことなんだろう。
「良いじゃない、ブン太」
「でもさ…」
「デートなんかこれからもたくさん出来るんだから」
そう言うと、ブン太は顔を少し赤くして、弟くんたちは私たちを囃 し立てた。これからは言いたいことは素直に伝えよう。後悔するのはもう嫌だから。そんなこんなで家から出て遊園地に向かうべく駅へと歩き始めた。私の左手とブン太の右手は弟くんと手を繋いで、もう片方はお互いの手を繋いだ。こんなことがまた出来るなんて考えてもいなかったから、少しくすぐったくも感じる。他愛のない話をしながら歩いていると、前方から歩いてきた人物に思わず足が止まった。
「赤也くん」
「よっす」
「あ、どーも」
少しどきっとしたけれど、赤也くんは手を繋ぐわたしたちを見てにやにやしながら口を開いた。
「丸井先輩、はな先輩のこと泣かしたら次は絶対奪いますからね」
「んなことしねえよ」
「ま、気長に待ってます」
「赤也」
「何スか?」
「ありがとな」
ブン太がそう言うと、赤也くんと二人で笑っていた。私が戸惑っていたのは、この二人がまだ喧嘩してるんじゃないかと思っていたから。だけど心配する必要はなかったらしい。
「先輩、幸せにしてもらってくださいよ」
「ありがとう、赤也くん」
「じゃあ、また」
赤也くんは手を振ってその場を去っていってしまった。赤也くんが笑ってああ言ってくれたことに対して、思わず泣きそうになった。大丈夫、何も変わってない。私は本当に幸せ者だと感じながら、握ったままのブン太の手をぎゅっと握った。
「どうかしたか?」
「ブン太」
「うん?」
「これからもよろしくね」
私がそう言うと、ブン太は照れ臭そうに笑いながらも肯定の意味を含めて私にキスをした。これから先も、私たちは絶対に大丈夫。左手の薬指に嵌 めている指輪は、きっとこれからも輝いたまんまだよ。
探しつづけた薬指
私たちを結んでいた沫い糸は、切れてなんかなかったんだ
-END-
「何しとう」
「あ、に、仁王」
「ブン太に用か?…なんてな」
「それが、実はそうなんだよね」
突然後ろから現れた仁王にびっくりしながらもそう答えると、仁王は少し驚いたような顔をした。彼も昼間あったことを知っているようだったから、もちろん私がブン太に避けられてるのも知ってると思う。そんな状況で用がある、なんて言ったらそりゃ驚かれるよね。だけど、仁王にも今まで迷惑掛けてたわけだから、ちゃんと伝えておこうと思った。
「…今日ブン太に言いたいこと言うよ」
仁王はさらに目を見開かせて私の言葉を聞き入れた。それじゃあ詐欺師の名が泣いちゃうよ、って言いたかったけれど、こんなに驚いてくれてることが嬉しかった。だって、心配してくれてたってことなんだよね?
「頑張りんしゃい」
「…ありがとう」
仁王が私の頭を優しく撫でたから、引いたはずの涙がまた戻ってきそうになった。だめだめ、今からちゃんとブン太に伝えるんだから、こんな時に泣いてちゃだめだ。仁王は呼んで来ちゃる、と言って部室の中に入っていった。ありがたいけど、まだ心の準備が出来ていない。いや、強気強気!小さく拳を握っていると、再び部室のドアが開いた。ばっと顔をあげると、ブン太が気まずそうな顔をして後ろ手で部室のドアを閉めた。
「…何か用?」
「あ、う、うん」
思ってたよりもずっとブン太の声が低くて、思わず
「あのね、ブン太」
「何だよぃ」
「お昼はごめんね、ちゃんと謝っておきたくて…」
「…もういいって。話ってそれだけ?俺もう帰っから」
それだけ言うとブン太はまた歩きだそうと私に背中を向けた。やっぱりまだ怒ってるんだ。どうしようと思いながらも、無意識にブン太の腕を引っ張っていた。今日こそこの気持ちに区切りを付けるんだ。
「ま、待って」
「んだよ、離し…」
「ブン太、す、好き…」
「は…?」
自分の気持ちを口にすると、思わず涙が滲んだ。私の手を振り払おうとしていたブン太の動きがぴたりと止まった。ブン太が私の方に振り向いたのと同時に、思わず俯いてしまった。彼の反応を見るのが怖かったから。自身の足と、私の方に向いているブン太の足が目に入る。それだけでこんなに嬉しいなんて、私どうかしてるのかな。
「本当は、別れたくなかったよ…でも私、どうしたからいいか分からなくて、逃げ、ちゃって」
「………」
「何回も忘れようって思ったけど、やっぱりそれも、で、きなくて、……っ」
声を震わせながらも口にした言葉は、次の瞬間には彼の温もりによって掻き消されてしまった。抱きしめられているのはすぐに分かったけど、それが夢なのかと疑ってしまうほどに混乱してしまう。その瞬間、涙の量が一気に増えて鳴咽が止まらなくなってしまった。
「…お前、馬鹿?」
「ブン太っ…」
「別れてすげえ後悔してたのに、ちょっと日経ったらすぐ赤也と仲良くなってるし」
「…あれ、はっ」
「もう諦めようって思っても他の女子には何とも思わねえし」
「…っ…」
知らなかった。ブン太が私のことをそんな風に考えてくれていたなんて、全く思いもしなかった。後悔してたのも、好きだって思っているのも、ずっと私だけだと思ってた。またこうやって抱きしめてもらえるなんて、夢にも思わなかった。恐る恐る彼の背中に手を回してみると、ブン太はわたしの後頭部を掌で包んで、さっきよりもきつく抱きしめた。ブン太、震えてる。お願いだから、泣かないで。ブン太には笑っていて欲しい。
「俺だって本当は…」
「え?」
「…何でもねえ」
「だって今何か…」
「…うるさい」
反射的に顔を上げると、すぐに私の唇とブン太のそれが重なった。自然と目を閉じる前に視界に入ったブン太の表情は、少しだけ涙が滲んでて、でも笑っていた。こんなに彼を愛おしいと思ったのは初めてかもしれない。私は、離れてからやっと気付くような大馬鹿な奴なんだ。
「…俺だって別れたくなんかなかった」
「え…?」
「だってずりぃじゃんか、俺だけそう思ってんのって」
違うよ。私だって同じ気持ちだった。そっか、私たちの間に壁なんて最初からなかったんだね。
「俺、いっつも後のこと考えねえで行動すんだよ」
「あ…」
目の前のことに夢中で、先を読むことが苦手。そんなこと、私も分かってたはずなのに。どうして気付けなかったんだろう。ブン太のこと分かってたつもりで、結局はわたしも自分のことしか考えてなかったんだ。
「俺がはなに未練タラタラだったから、あの時も一緒にいた奴らが勝手に電話かけたんだよ」
「あ、そ、そうだったの…?」
夢みたいな展開に、さっきから間抜けな返事しか出来なかった。私だって言いたいことはたくさんあるのに、何故か言葉が出てこない。ブン太に嬉しいことばかり言われて、余裕がなくなっていた。そんなことを考えていると、ブン太は私からそっと離れてポケットの中に手を入れた。
「これ」
「それ、指輪…?」
「そう。…別れた後もずっと持ち歩いてたんだよ」
悲しそうにそう言ったブン太に、おさまっていたはずの涙がぶわっと溢れた。本当はずっと気になっていたこと。もう捨てちゃったんじゃないかとか、心の片隅で気になっていた。涙でぐちゃぐちゃな顔を見られたくなくてブン太に抱きつくと、すぐにまたさっきのように私を包み込んでくれた。
「もう絶対離さねえから」
「…っ、うん」
「お前が嫌だっつっても、絶対離さねえ」
「や、約束、だからね」
ブン太は私の頬に手を添えると、もう一度優しいキスをしてくれた。もう絶対に離れたりなんかしない。遅くなったけど、やっと気付けたから。わたしにとって一番大事なもの。
.
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「はな姉ちゃん、遊園地行きたーい」
「あ、俺も俺も!」
「お、お前ら!せっかくこれから久しぶりのデートだってのに…!」
私に甘い瞳で詰め寄る弟くん二人を見て悔しそうな顔をするブン太。駄目だって言いたいんだろうけど、弟くんが大好きなブン太にはなかなか難しいことなんだろう。
「良いじゃない、ブン太」
「でもさ…」
「デートなんかこれからもたくさん出来るんだから」
そう言うと、ブン太は顔を少し赤くして、弟くんたちは私たちを
「赤也くん」
「よっす」
「あ、どーも」
少しどきっとしたけれど、赤也くんは手を繋ぐわたしたちを見てにやにやしながら口を開いた。
「丸井先輩、はな先輩のこと泣かしたら次は絶対奪いますからね」
「んなことしねえよ」
「ま、気長に待ってます」
「赤也」
「何スか?」
「ありがとな」
ブン太がそう言うと、赤也くんと二人で笑っていた。私が戸惑っていたのは、この二人がまだ喧嘩してるんじゃないかと思っていたから。だけど心配する必要はなかったらしい。
「先輩、幸せにしてもらってくださいよ」
「ありがとう、赤也くん」
「じゃあ、また」
赤也くんは手を振ってその場を去っていってしまった。赤也くんが笑ってああ言ってくれたことに対して、思わず泣きそうになった。大丈夫、何も変わってない。私は本当に幸せ者だと感じながら、握ったままのブン太の手をぎゅっと握った。
「どうかしたか?」
「ブン太」
「うん?」
「これからもよろしくね」
私がそう言うと、ブン太は照れ臭そうに笑いながらも肯定の意味を含めて私にキスをした。これから先も、私たちは絶対に大丈夫。左手の薬指に
探しつづけた薬指
私たちを結んでいた沫い糸は、切れてなんかなかったんだ
-END-
