お礼画面

番外編3 はじめての会話

パオズ山の朝は少しひんやりとしていて、澄んだ空気が気持ちよかった。
霧がうっすらと残る草原で、悟飯が準備運動をしている。そのそばで、トランクスはちらちらと隣の少女の方を見ていた。

悟飯の妹。
黒髪で、少しむすっとした顔をしていて、こちらを見ようともしない。

「……」
はじめて会った時からずっと、こんな感じだ。
話しかけても返事は「うん」か「べつに」だけ。

目も合わせてくれない。
(……やっぱり…嫌われてるのかな……)
トランクスは地味にへこんでいた。

***

修行を終えてカプセルコーポレーションに戻るとヤムチャがいた。
トランクスはヤムチャの方へ歩いていくと、少しもじもじしながら声をかける。
「ヤムチャさん……ちょっと、相談してもいいですか」
「お、恋の相談か?」
ヤムチャは空を仰ぎながら伸びをしてから、にっと笑った。
「ち、ちがいます!!」

「……あの……悟飯さんの妹の、あの子って……」
「あー、あの子。一緒に修行し始めたんだったな」
トランクスはしょんぼりとうなずいた。

「仲良くなりたいんですけど……全然うまく話せなくて…」
「はは。あの子はな、悟飯を取られたみたいで面白くないんだよ。でも根は素直で優しい子だ。ちょっと時間がかかるだけさ」
「そうなんですか…。でも……なんだか嫌われている気がして……」

ヤムチャは顎に手を当てて、少し考えた。
「……おまえさ、どうやって話しかけてる?」
「えっと……『俺、もう空飛べるようになったんだ』とか……『この技、すごいでしょ』とか……」

ヤムチャは無言でトランクスを見た……そして。
「それだ」
「え?」
ヤムチャは軽くトランクスの額を指でつついた。
「それじゃあさ、俺すごいだろってアピールしているだけじゃん」

トランクスはぽかんとした。
「え……そ、そうですか……? でも悟飯さんは褒めてくれるし、すごいって思ってもらえたら仲良くなれるかと……」
「思春期の少年が間違えがちなやり方だな……安心しろ、誰もが通る道だ。仲良くなりたいならさ……」
ヤムチャはしゃがんで、目線をトランクスと合わせる。
「相手のことを知ろうとしないと…」

「……相手のこと?」
「そう。でも質問攻めにするのはダメだぞ。ただ、相手の様子を見て…好きなことや大切なことを尊重する。そういうの」

トランクスは少し考えてから、そっと言った。
「……おれ、彼女のこと……何も知らないです」
ヤムチャはふっと笑った。
「まあ、焦るなって。ゆっくり知っていけばいいさ」

トランクスは、しばらく黙っていた。
それから、ぎゅっと拳を握ってうなずいた。
「……はい」

***

次の午後。昼飯後の休憩時間。
少女は一人で小川のそばに立って、石を投げていた。

ぽちゃん。ぽちゃん。ぽちゃん。
横に投げた石が川の上で跳ねていた。

そこへ、少し距離をあけてトランクス横に立つ。
「……」
沈黙。

トランクスは、ちょっと緊張しながら言った。
「……何してるの?」
彼女はこちらをちらっと見ると、そっけなく答えた。
「……水切り」
また沈黙。でも、逃げない。トランクスは勇気を振り絞って続けた。
「……これは何回ぐらい跳ねたらすごいの?」
彼女は少し驚いたようにこちらを見る。
「……五回かな」

「じゃあ、俺もやっていいかな」
「……好きにすれば」
トランクスは拾った石を投げる。
ぽちゃん。
一回も跳ねず石はすぐに沈む。

彼女は、また石を投げた。
ぽちゃん。ぽちゃん。ぽちゃん。ぽちゃん。ぽちゃん。
今度は5回跳ねて落ちた。

「……すごい!」
彼女は何も答えなかったが、ちょっと嬉しそうな顔をしていた。

トランクスはもう一回石を投げてみる。
ぽちゃん。
また一回も跳ねずに沈んだ。

「……」
「……下手」
小さく、でもはっきり言われる。
トランクスはちょっと赤くなって、でも笑いかけた。
「……練習するよ」
彼女は…少しためらいながらも静かに話しかけてきた。
「……石を…平らな石を選ばないと…難しいから‥‥」

トランクスは、その言葉を聞いてうれしさに胸の奥が跳ねるような感じがした。
それは、初めて彼女が自分にくれた、ちゃんとした言葉だった。

その日から、少しずつ。
交わす言葉が増えた。距離が近くなっていった。
そしていつの間にか、二人は並んで修行するようになった。

あの日、小川のそばで生まれたのは、
ずっと先まで続く、かけがえのない関係の、最初の一歩だった。

***
たくさん「スキ」を押してくださるそこのあなた、本当にありがとうございます!頂ける「スキ」やメッセージにどんなに励みと元気をいただいていることか!!

ささやかですが、お礼に3つ目の番外編を置きました。今後も本編に入れようとして入れられなかったエピソードを、ちょくちょく出していければなと思っています。楽しんでいただければ幸いです。

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