さよならバッテリー
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阿部君と昼休憩にキャッチボールをするようになってから一カ月の時が経った。最初は短い距離からキャッチボールをして、成功したら阿部君が褒めてくれる。これを繰り返していくうちに制球力を少しずつ取り戻し、今では十八メートル程の距離を安定して投げられるようになった。これも全ては彼のおかげだ。感謝してもしきれない。
「阿部君キャッチボール行こう!」
昼ご飯を食べ終わった私は一年七組に足を踏み入れて、いつものように阿部君をキャッチボールへと誘う。彼はグローブを持って立ち上がると明るい笑顔を私に向けた。
「最近コントロール戻ってきてるし、今日はマウンドに立って投げてみようぜ」
「ここまで投げられるようになったのも阿部君のおかげだね。本当にいつもありがとう」
「どーも」
感謝の気持ちを伝えると、彼は照れくさそうに頭を掻いた。その仕草がなんだか可愛いくて、微笑ましく思いながら、教室を出てグラウンドに向かう。
「あのさ。どうして阿部君はここまで私に付き合ってくれるの?」
「イップスが治ったらシートバッティングの打撃投手が増えるだろ?オレら的に助かるってのもあるけど、お前も投げる方が楽しいんじゃねえかなって」
「阿部君って優しいよね。そういう所が好きだよ。変な意味じゃなくてね」
「……おう」
「シニアで阿部君のチームと試合した時は、まさかこんな風になるなんて思ってもみなかったよ。同じ高校に通って部活仲間になることも考えていなかったのに、イップス克服のために毎日キャッチボールの相手になってくれるなんて……」
本当に阿部君って優しいよね。そう言いかけたところで同じ展開になると気が付いて言葉を飲み込んだ。
「オレも苗字はてっきり女子野球かソフトするんだと思ってたから、グラウンドでマネージャー志望のお前に出会った時は驚いたわ。なんでマネージャーになったの?」
「イップスになって野球から離れようとしたんだけど、どうしても嫌いになれなくって。だから野球部のマネージャーになって皆を応援することにしたんだ」
「でもオレら見てたら、野球やりたくなるよな?」
「そうだね。監督がどう思うかは分からないけど、イップスが治ったら練習試合に参加したいって思ってるよ」
「じゃあ絶対治さねえとな」
そんな話をしている内にグラウンドへと到着した。雲一つない空はどこまでも青く広がり、眩しい太陽がマウンドを照らしている。
「防具つけるから遠慮なく投げろよ」
「うん。分かったよ」
二人で倉庫へ向かい重たい扉を開けると、コンクリート特有の冷たい空気が頬を撫でた。阿部君が防具を取り出すの中、私はボールとミットを取り出す。
「防具つけるの手伝って」
「うん」
レガースを阿部君の足に当ててバックルをパチンと止めてから立ち上がり、背中のベルトの捻じれを確認して脇の下辺りでベルトをカチッとはめる。
「よし、オッケー」
「ありがと」
キャッチャースボックスへと入っていく阿部君を眺めながら、赤土の盛られたマウンドに足を踏み入れてロジンバッグを握る。滑り止め剤の粉末が指先に付着して白んでいく感触に懐かしさを覚えた。
「いくよー」
「おう!」
阿部君がミットを構える。落ち着け。息を吸ってゆっくりと吐く。大丈夫。私はただ彼にボールを投げるだけだ。足を一歩引いて腕を上げて振りかぶり、腕をムチのようにしならせてバックスピンをかけて投げる。パンッ!と乾いた音を立ててミットに収まった球を見て、私は力強くガッツポーズをした。
「よっし!」
「ナイスボール!」
声を上げる阿部君が球を投げ返して、私のミットに収まると同時に衝撃が掌に伝わる。再びボールをフォーシームで握り込み、キャッチャーミットに向かって投げると、今度もしっかりとボールが収まった。阿部君は立ち上がって嬉しそうに声を上げてボールを投げる。
「スゲー調子良いな!球が走ってる!」
ちゃんとボールを投げられて嬉しさのあまり涙が浮かんでくるが、まだ打者を入れていないので完全にイップスを克服したとは言えない。腕でゴシゴシと目を擦って涙を拭った後に、再びボールを握った私は阿部君に向かって投げた。
「阿部君キャッチボール行こう!」
昼ご飯を食べ終わった私は一年七組に足を踏み入れて、いつものように阿部君をキャッチボールへと誘う。彼はグローブを持って立ち上がると明るい笑顔を私に向けた。
「最近コントロール戻ってきてるし、今日はマウンドに立って投げてみようぜ」
「ここまで投げられるようになったのも阿部君のおかげだね。本当にいつもありがとう」
「どーも」
感謝の気持ちを伝えると、彼は照れくさそうに頭を掻いた。その仕草がなんだか可愛いくて、微笑ましく思いながら、教室を出てグラウンドに向かう。
「あのさ。どうして阿部君はここまで私に付き合ってくれるの?」
「イップスが治ったらシートバッティングの打撃投手が増えるだろ?オレら的に助かるってのもあるけど、お前も投げる方が楽しいんじゃねえかなって」
「阿部君って優しいよね。そういう所が好きだよ。変な意味じゃなくてね」
「……おう」
「シニアで阿部君のチームと試合した時は、まさかこんな風になるなんて思ってもみなかったよ。同じ高校に通って部活仲間になることも考えていなかったのに、イップス克服のために毎日キャッチボールの相手になってくれるなんて……」
本当に阿部君って優しいよね。そう言いかけたところで同じ展開になると気が付いて言葉を飲み込んだ。
「オレも苗字はてっきり女子野球かソフトするんだと思ってたから、グラウンドでマネージャー志望のお前に出会った時は驚いたわ。なんでマネージャーになったの?」
「イップスになって野球から離れようとしたんだけど、どうしても嫌いになれなくって。だから野球部のマネージャーになって皆を応援することにしたんだ」
「でもオレら見てたら、野球やりたくなるよな?」
「そうだね。監督がどう思うかは分からないけど、イップスが治ったら練習試合に参加したいって思ってるよ」
「じゃあ絶対治さねえとな」
そんな話をしている内にグラウンドへと到着した。雲一つない空はどこまでも青く広がり、眩しい太陽がマウンドを照らしている。
「防具つけるから遠慮なく投げろよ」
「うん。分かったよ」
二人で倉庫へ向かい重たい扉を開けると、コンクリート特有の冷たい空気が頬を撫でた。阿部君が防具を取り出すの中、私はボールとミットを取り出す。
「防具つけるの手伝って」
「うん」
レガースを阿部君の足に当ててバックルをパチンと止めてから立ち上がり、背中のベルトの捻じれを確認して脇の下辺りでベルトをカチッとはめる。
「よし、オッケー」
「ありがと」
キャッチャースボックスへと入っていく阿部君を眺めながら、赤土の盛られたマウンドに足を踏み入れてロジンバッグを握る。滑り止め剤の粉末が指先に付着して白んでいく感触に懐かしさを覚えた。
「いくよー」
「おう!」
阿部君がミットを構える。落ち着け。息を吸ってゆっくりと吐く。大丈夫。私はただ彼にボールを投げるだけだ。足を一歩引いて腕を上げて振りかぶり、腕をムチのようにしならせてバックスピンをかけて投げる。パンッ!と乾いた音を立ててミットに収まった球を見て、私は力強くガッツポーズをした。
「よっし!」
「ナイスボール!」
声を上げる阿部君が球を投げ返して、私のミットに収まると同時に衝撃が掌に伝わる。再びボールをフォーシームで握り込み、キャッチャーミットに向かって投げると、今度もしっかりとボールが収まった。阿部君は立ち上がって嬉しそうに声を上げてボールを投げる。
「スゲー調子良いな!球が走ってる!」
ちゃんとボールを投げられて嬉しさのあまり涙が浮かんでくるが、まだ打者を入れていないので完全にイップスを克服したとは言えない。腕でゴシゴシと目を擦って涙を拭った後に、再びボールを握った私は阿部君に向かって投げた。