愛されたいのはアンタだけ
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長机と木製の本棚が整然と並ぶ図書室で、オレは机に広げられたテキストを見ていた。問題文には四角形DGHFの面積は△ADCの面積の何倍か求めなさいと書かれている。平面図形の問題だ。
「まず四角形ABEDは平行四辺形なんスよ。それで小さな図形の比を使うと……」
「DFとEFの長さが求められる。あってますか?」
隣に座る苗字さんが小さく首を傾げる。可愛らしい仕草に頬を緩ませていると、彼女は不思議そうに目を丸くした。
「えっと、違いました?」
「あってます。自分でできるところまでやってみてください」
先輩はオレの言葉に眉を下げて、テキストに文字を書き込んでいく。自信が無いんだろう。数字を書いてはオレの方を見てくる姿が微笑ましい。
「四角形DGHFの7/3と△ABCの15を比べると……7/45でしょうか?」
「正解。アンタ本当に数学苦手なんスか?」
先輩はこの間まで何が分からないのか分からない状態だったのに、飲み込みが早いのか教えたらすぐに問題を解いてしまう。本当に苦手なのか疑わしいくらいだ。
「苦手ですよ。家ではまともに勉強できる環境にないので……こうして図書室で復習するようになってから、やっと中学レベルの問題が解けるようになってきました」
「そういうことだったんですか。オレはてっきり苗字さんがアホなのかと」
「そんな風に思ってたんですか」
唇を尖らせてぷりぷりと怒る先輩が、愛おしくて仕方がない。過去の話をしてくれたあの日から、こうして色々な表情を見せるようになってきている。それがたまらなく嬉しい。
「そういえば今度の試合、応援に来てくれるんですよね」
「露骨に話を変えないでください」
唇を尖らせたままの先輩は、難しい顔をしながらテキストにペンを走らせている。時折唸っては悩み、そして閃いたように答えを書く。表情が豊かになったことで、何を考えているのかよく分かるようになってきた。
「苗字さん、変わりましたよね。前は大人っぽくて綺麗だったけど、今は年相応っていうか子供みたいで」
テキストに書き込んでいたペンがピタリと止まった。勢いよく顔を上げた先輩は、ぽかんと口を半開きにしてこちらを見る。それから少し考えるそぶりをし、目細めていたずらっぽく笑った。
「嫌いになりました?」
前言撤回。この人の狡いところは何も変わっていない。オレの気持ちを知っているのに、こうやって試してくるんだから。オレはため息を吐いて首を横に振る。すると先輩は嬉しそうに微笑んで、またテキストに視線を落とした。
「好きですよ。アンタの狡いところも、子供っぽいところも、全部ひっくるめてオレは愛してます」
「そうですか。ところで図書室ではお静かに、ってルールがあるの知ってます?」
先輩はオレに見向きもせず、テキストにペンを走らせている。だけどその耳は真っ赤に染まっていて、それが照れ隠しだということはすぐに分かった。
「苗字さん。今日はオレも教えて欲しいことがあるんですけど、良いですか?」
先輩は少し驚いた様子でオレを見る。それから嬉しそうに微笑んで頷いた。
「文系ですか?それならいくらでも答えますよ」
「それじゃあ教えてください。苗字さんはオレのこと、男としてどう思ってますか?」
先輩の表情が固まった。沈黙。そしてみるみるうちに顔が真っ赤に染まっていき、テキストを持って顔を隠してしまった。
「アンタが言ってくれないと、いつまでたっても分からないままです。オレ、鈍感なんで」
先輩の腕を掴んで、顏を覆うテキストを下ろさせる。先輩は恥ずかしそうに視線を彷徨わせて、やがて諦めたのかこちらを向いた。
「馬鹿正直で、諦めが悪くて、最近は可愛げがなくて。でもそんなところが愛おしいです。阿部君を幸せにできるかは分かりません。それでも阿部君と居ることで私は幸せになれます。だから……これからは恋人として一緒に過ごしてくれませんか……っ!」
告白の声が大きく響き渡り、図書室の静けさを破った。周囲の生徒たちの視線が集まっていく中、オレの心臓は鼓動を速めて燃えるように熱くなる。思わず先輩の腕を引き寄せて、背中に手を回し強く抱きしめる。
「はい!これからもよろしくお願いします!」
小声でのささやきや笑い声があちこちから聞こえ、周囲のざわつきがどんどん広がっていく。それまで貸出カウンターで作業していた司書が、こちらにきてオレたちに向かって静かにしろと怒ってきた。二人で司書に怒られながらも、オレはこれから先輩と歩む人生が楽しみで仕方なかった。
「まず四角形ABEDは平行四辺形なんスよ。それで小さな図形の比を使うと……」
「DFとEFの長さが求められる。あってますか?」
隣に座る苗字さんが小さく首を傾げる。可愛らしい仕草に頬を緩ませていると、彼女は不思議そうに目を丸くした。
「えっと、違いました?」
「あってます。自分でできるところまでやってみてください」
先輩はオレの言葉に眉を下げて、テキストに文字を書き込んでいく。自信が無いんだろう。数字を書いてはオレの方を見てくる姿が微笑ましい。
「四角形DGHFの7/3と△ABCの15を比べると……7/45でしょうか?」
「正解。アンタ本当に数学苦手なんスか?」
先輩はこの間まで何が分からないのか分からない状態だったのに、飲み込みが早いのか教えたらすぐに問題を解いてしまう。本当に苦手なのか疑わしいくらいだ。
「苦手ですよ。家ではまともに勉強できる環境にないので……こうして図書室で復習するようになってから、やっと中学レベルの問題が解けるようになってきました」
「そういうことだったんですか。オレはてっきり苗字さんがアホなのかと」
「そんな風に思ってたんですか」
唇を尖らせてぷりぷりと怒る先輩が、愛おしくて仕方がない。過去の話をしてくれたあの日から、こうして色々な表情を見せるようになってきている。それがたまらなく嬉しい。
「そういえば今度の試合、応援に来てくれるんですよね」
「露骨に話を変えないでください」
唇を尖らせたままの先輩は、難しい顔をしながらテキストにペンを走らせている。時折唸っては悩み、そして閃いたように答えを書く。表情が豊かになったことで、何を考えているのかよく分かるようになってきた。
「苗字さん、変わりましたよね。前は大人っぽくて綺麗だったけど、今は年相応っていうか子供みたいで」
テキストに書き込んでいたペンがピタリと止まった。勢いよく顔を上げた先輩は、ぽかんと口を半開きにしてこちらを見る。それから少し考えるそぶりをし、目細めていたずらっぽく笑った。
「嫌いになりました?」
前言撤回。この人の狡いところは何も変わっていない。オレの気持ちを知っているのに、こうやって試してくるんだから。オレはため息を吐いて首を横に振る。すると先輩は嬉しそうに微笑んで、またテキストに視線を落とした。
「好きですよ。アンタの狡いところも、子供っぽいところも、全部ひっくるめてオレは愛してます」
「そうですか。ところで図書室ではお静かに、ってルールがあるの知ってます?」
先輩はオレに見向きもせず、テキストにペンを走らせている。だけどその耳は真っ赤に染まっていて、それが照れ隠しだということはすぐに分かった。
「苗字さん。今日はオレも教えて欲しいことがあるんですけど、良いですか?」
先輩は少し驚いた様子でオレを見る。それから嬉しそうに微笑んで頷いた。
「文系ですか?それならいくらでも答えますよ」
「それじゃあ教えてください。苗字さんはオレのこと、男としてどう思ってますか?」
先輩の表情が固まった。沈黙。そしてみるみるうちに顔が真っ赤に染まっていき、テキストを持って顔を隠してしまった。
「アンタが言ってくれないと、いつまでたっても分からないままです。オレ、鈍感なんで」
先輩の腕を掴んで、顏を覆うテキストを下ろさせる。先輩は恥ずかしそうに視線を彷徨わせて、やがて諦めたのかこちらを向いた。
「馬鹿正直で、諦めが悪くて、最近は可愛げがなくて。でもそんなところが愛おしいです。阿部君を幸せにできるかは分かりません。それでも阿部君と居ることで私は幸せになれます。だから……これからは恋人として一緒に過ごしてくれませんか……っ!」
告白の声が大きく響き渡り、図書室の静けさを破った。周囲の生徒たちの視線が集まっていく中、オレの心臓は鼓動を速めて燃えるように熱くなる。思わず先輩の腕を引き寄せて、背中に手を回し強く抱きしめる。
「はい!これからもよろしくお願いします!」
小声でのささやきや笑い声があちこちから聞こえ、周囲のざわつきがどんどん広がっていく。それまで貸出カウンターで作業していた司書が、こちらにきてオレたちに向かって静かにしろと怒ってきた。二人で司書に怒られながらも、オレはこれから先輩と歩む人生が楽しみで仕方なかった。