愛されたいのはアンタだけ
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放課後の空き教室は静寂に包まれている。窓から差し込む夕日がオレンジ色の光を落とす中、オレは苗字さんのことをじっと見つめていた。
「それで、大事な話って何でしょうか?」
先輩は瞬きを何度も繰り返す。普段の落ち着いた姿からは想像もできない。オレはポケットから、彼女が書いた小説を取り出した。
「ナズナが光を殺した理由が分かりました。ナズナにとっての神は苦痛や失望の源。それでも心の中で救済を求めていた。そんな中で光への信仰を深めていき、愛憎と失望の矛盾した感情を抱いた。そしてすべての不幸を光に転嫁し、自らの手で光という神を殺める。違いますか?」
「きちんと読み込んでくれたんですね」
「光がナズナを拒絶したのにも理由がある。占い師を信仰する母親が家庭を崩壊させていく姿を見ていた光は、信仰や依存がどれほど破壊的であるか知っていた。ナズナが光に対して抱く信仰的な愛情に、母親の姿を重ねてナズナを拒絶せざるを得なかった。そして最終的にナズナと光は悲劇的な結末を迎えてしまう」
「その通りです。まさか本に興味のない阿部君が、ここまで考察してくれるなんて思いませんでした」
「登場人物の気持ちになって考えろって教えて貰ったんで。そしたら分かったんです。この小説は苗字さん自身の人生を表しているんだって」
先輩はにっこりと笑顔を貼り付けている。一体何を考えているんだろうか。その表情からは読み取れない。
「先輩はナズナのように愛情に飢えている。だから告白されたら受け入れるんじゃないですか?例えそれが興味のない人だとしても」
「そうですね。結局私を愛してくれる人はどこにもいないみたいですけど」
「それはアンタが自分自身のことを愛していないからです。ナズナと光はアンタを表しているのに救われない結末を迎えるのは、自分自身のことをそうしたいと思ってるからじゃないですか?どこかで自分を不幸に貶めたいと思ってるんじゃないんですか?」
オレの言葉に先輩は目を大きく見開く。図星を突かれたような、そんな驚いた表情だ。やがて諦めたようにため息を吐いた。
「……そう、かも、しれません」
「苗字さんの人生がどれほど辛いものか、普通に暮らしてきたオレには分かりません。それでも話を聞いて受け入れることはできます。どんな過去があろうと、全部ひっくるめて愛してるんで」
オレは彼女の手を握った。細い指先は冷たくて、少し震えている。オレを拒絶することはなく、俯いて何かを考え込んで、しばらくして顏を上げた。
「……知ってますか?私が好きになった人の末路」
「ウワサで聞きました」
「素直で可愛い後輩でした。彼は毎日のように図書室へ出向いてくれて、話しかけに来てくれました。そうしているうちにお互い惹かれ合い、交際を始めたんです」
そう言って遠くを見つめながら、寂しそうに話を続ける。
「彼は私にプレゼントを贈るのが好きでした。ネックレスや指輪などのアクセサリーを貰った私はとても嬉しくて。彼のために何かをしたいと思い、私は毎日お弁当を作りました。それはもう喜んで私に惚れ込みました。それからです。彼が明らかに高価な贈り物をするようになったのは」
先輩は苦しそうに顔を歪めて、目には涙が浮かんでいる。それから口を開こうとしてはやめるを繰り返し、とうとう涙が零れ落ちていった。オレが慌ててハンカチを差し出すと、先輩はそれを使って目元を抑えながら再び口を開く。
「おかしいと思いました。もうプレゼントをしないで欲しい。そう伝えても彼はブランド品を渡してくるんです。ここまでくると私も怖くなって、彼を避けるようになりました。それでも彼は私を追いかけるのをやめなくて。だから私は彼と別れることにしました」
「それであのウワサに繋がるんですか……苗字さんは何も悪くないのに、悪女のように言われてますよ。何で否定しないんスか」
「悪女ですよ。おかしいと分かっていたのに、彼を止めることも出来ずに、あんな結果になってしまったんですから」
「それでオレのことも突き放してるんですか?そいつとオレを重ねないでください。オレはオレです。先輩の人生は先輩のもので、オレの人生はオレのものだ。すべてを捧げるようなこと、オレはしないんで」
「私は阿部君と彼を重ねて……」
先輩はハッとしたようにオレの顔を見る。オレとそいつを重ねていたことに気付いていなかったんだろう。人の心を読むのは得意なくせに、自分のことになると鈍感になるらしい。
「最初は一目ぼれで好きになったけど、実は暗くて人に興味がないところとか、数学ができないところとか、そういう欠点を知ってますます好きになりました。だからどれだけ突き放されても諦めません。アンタがオレのことを好きになるまで、いつまでも粘ります」
「……どうしてそこまで」
「愛してるから。例えアンタが毒虫の姿になろうが、オレの気持ちは変わりません。過去の人じゃなくて、オレを見てください」
オレの言葉に先輩は目を丸くする。その瞳にはしっかりとオレの姿が映っていた。
「それで、大事な話って何でしょうか?」
先輩は瞬きを何度も繰り返す。普段の落ち着いた姿からは想像もできない。オレはポケットから、彼女が書いた小説を取り出した。
「ナズナが光を殺した理由が分かりました。ナズナにとっての神は苦痛や失望の源。それでも心の中で救済を求めていた。そんな中で光への信仰を深めていき、愛憎と失望の矛盾した感情を抱いた。そしてすべての不幸を光に転嫁し、自らの手で光という神を殺める。違いますか?」
「きちんと読み込んでくれたんですね」
「光がナズナを拒絶したのにも理由がある。占い師を信仰する母親が家庭を崩壊させていく姿を見ていた光は、信仰や依存がどれほど破壊的であるか知っていた。ナズナが光に対して抱く信仰的な愛情に、母親の姿を重ねてナズナを拒絶せざるを得なかった。そして最終的にナズナと光は悲劇的な結末を迎えてしまう」
「その通りです。まさか本に興味のない阿部君が、ここまで考察してくれるなんて思いませんでした」
「登場人物の気持ちになって考えろって教えて貰ったんで。そしたら分かったんです。この小説は苗字さん自身の人生を表しているんだって」
先輩はにっこりと笑顔を貼り付けている。一体何を考えているんだろうか。その表情からは読み取れない。
「先輩はナズナのように愛情に飢えている。だから告白されたら受け入れるんじゃないですか?例えそれが興味のない人だとしても」
「そうですね。結局私を愛してくれる人はどこにもいないみたいですけど」
「それはアンタが自分自身のことを愛していないからです。ナズナと光はアンタを表しているのに救われない結末を迎えるのは、自分自身のことをそうしたいと思ってるからじゃないですか?どこかで自分を不幸に貶めたいと思ってるんじゃないんですか?」
オレの言葉に先輩は目を大きく見開く。図星を突かれたような、そんな驚いた表情だ。やがて諦めたようにため息を吐いた。
「……そう、かも、しれません」
「苗字さんの人生がどれほど辛いものか、普通に暮らしてきたオレには分かりません。それでも話を聞いて受け入れることはできます。どんな過去があろうと、全部ひっくるめて愛してるんで」
オレは彼女の手を握った。細い指先は冷たくて、少し震えている。オレを拒絶することはなく、俯いて何かを考え込んで、しばらくして顏を上げた。
「……知ってますか?私が好きになった人の末路」
「ウワサで聞きました」
「素直で可愛い後輩でした。彼は毎日のように図書室へ出向いてくれて、話しかけに来てくれました。そうしているうちにお互い惹かれ合い、交際を始めたんです」
そう言って遠くを見つめながら、寂しそうに話を続ける。
「彼は私にプレゼントを贈るのが好きでした。ネックレスや指輪などのアクセサリーを貰った私はとても嬉しくて。彼のために何かをしたいと思い、私は毎日お弁当を作りました。それはもう喜んで私に惚れ込みました。それからです。彼が明らかに高価な贈り物をするようになったのは」
先輩は苦しそうに顔を歪めて、目には涙が浮かんでいる。それから口を開こうとしてはやめるを繰り返し、とうとう涙が零れ落ちていった。オレが慌ててハンカチを差し出すと、先輩はそれを使って目元を抑えながら再び口を開く。
「おかしいと思いました。もうプレゼントをしないで欲しい。そう伝えても彼はブランド品を渡してくるんです。ここまでくると私も怖くなって、彼を避けるようになりました。それでも彼は私を追いかけるのをやめなくて。だから私は彼と別れることにしました」
「それであのウワサに繋がるんですか……苗字さんは何も悪くないのに、悪女のように言われてますよ。何で否定しないんスか」
「悪女ですよ。おかしいと分かっていたのに、彼を止めることも出来ずに、あんな結果になってしまったんですから」
「それでオレのことも突き放してるんですか?そいつとオレを重ねないでください。オレはオレです。先輩の人生は先輩のもので、オレの人生はオレのものだ。すべてを捧げるようなこと、オレはしないんで」
「私は阿部君と彼を重ねて……」
先輩はハッとしたようにオレの顔を見る。オレとそいつを重ねていたことに気付いていなかったんだろう。人の心を読むのは得意なくせに、自分のことになると鈍感になるらしい。
「最初は一目ぼれで好きになったけど、実は暗くて人に興味がないところとか、数学ができないところとか、そういう欠点を知ってますます好きになりました。だからどれだけ突き放されても諦めません。アンタがオレのことを好きになるまで、いつまでも粘ります」
「……どうしてそこまで」
「愛してるから。例えアンタが毒虫の姿になろうが、オレの気持ちは変わりません。過去の人じゃなくて、オレを見てください」
オレの言葉に先輩は目を丸くする。その瞳にはしっかりとオレの姿が映っていた。