愛されたいのはアンタだけ
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放課後の部活を終えたオレは、駐輪場に向かいながら先輩の小説について考えていた。登場人物の気持ちになって読んでみると、結末を知っているのでより暗い気持ちになる。ナズナと光に感情移入すると、家族を恨んで仕方が無い。もしもあれがオレの家族だったら。
「最悪だ」
ナズナは光を神だと信じるようになった。それが何故あの結末になるのか。俺には分からない。分からないと言えば光もだ。光もナズナとの時間を大切にしていた。それがどうして告白されたら、冷たくなってしまったんだろう。
「阿部?大丈夫?」
浜田が心配そうに顏を覗き込んでくる。どうやら今日はアルバイトが無いらしく、野球部の練習に付き合ってくれた。そういえばこいつ、苗字さんを野球の応援に誘ったんだっけ。もしかしたら先輩のことについて、詳しく知っているかもしれない。
「苗字さんってどんな人か知ってる?」
「え?もしかして苗字さんのことが気になるのか?」
すぐそっちの話にする。が、図星なので言い返せない。黙っていると、浜田の顏が暗くなった。何かまずいことでもあるんだろうか。
「あの人はやめておいた方がいいぜ。悪い人ではないけど、恋愛で良い話は聞かないから」
「は?なんで」
「本人に聞いたことがあるんだけど、告白されたら誰が相手でも付き合うんだって。それですぐ男側から振られるらしい。全然興味無いのが伝わってんだろうなって思うよ。だから、阿部も告白しない方が良いぜ。自分のこと好きでも何でもないって分かった上で付き合うのって、シンドイだろ?」
告白したら付き合える。つまりオレが告白しても。だけど先輩には好意があるわけじゃない。それなのに何で付き合うんだろうか。何か知れるかと思って聞いたのに、余計に謎が深まってしまった。
「それならオレのこと好きになってもらって、あっちから告白させてやるよ」
オレの言葉に浜田は驚いたように目を見開く。それから深いため息を吐いて、真剣な顏でこちらを見つめてきた。
「それもやめといた方がいいよ。前に似たようなこと言って、大失敗した奴いるからさ」
「大失敗ってなに?」
「ウワサだからなんとも言えないけど……彼女から告白されて付き合った人がいたけど、つぎ込まされて親の金にも手出して、終いには万引きで自主退学だって。信じられないと思うけど、手のひらで転がすのが上手いらしいんだ。ちょっと分かるだろ?」
確かに先輩は人の好意を読むのが上手い。オレの気持ちにも感付いているように見える。だけどあの人が悪意を持って人を騙すとは思えない。だって今まで親切にしてくれたし……いや、こう思っている時点でオレは手のひらの上に居るのか?いやそんなはずは……。
「分かんねえ。けど、オレは苗字さんが好きだ。それは変わんねえ」
そう告げると、浜田は顏を真っ赤にした。かと思えば顔を青くして、信じられないものを見るような目で、オレの後ろの方を指さしてくる。
「なに?」
振り向くとそこには、苗字さんが立っていた。
「今の話、どこから聞いてました?」
「阿部君が私のことを好きだと言ったところからですね」
「告白とは違うんですけど、オレ、本気なんで」
言い訳をしても無駄だろう。オレは覚悟して彼女の方へ体を向けた。苗字さんは目を丸くして驚いている。しかしすぐにいつもの微笑みを向けてきた。
「先輩冥利に尽きますね。私も阿部君のことは後輩として好きなので、とても嬉しいです」
あくまでも先輩と後輩の関係を強調する先輩に眉を顰める。オレの気持ちなんてまるで分っていないような、それでいて全てを見透かされているような。この人のことがまるで分らない。それでも理解したい。
「誰に何を言われても諦めませんよ。勿論アンタに何を言われても」
「……そうですか」
先輩は顔を歪めた。伏せた目には涙が浮かび、唇をぎゅっと結んで、酷く悲しい顔をしている。どうしてそんな顔をするんだろう。どうして。
「ここまでくると、中毒ですね」
そう呟いて顔を上げた先輩はどこか遠い目をしている。オレのことを見ているはずなのに、全く別のものを見ているようで、喉元に嫌なものがこみ上げた。どんなに救いようのない物語を見るよりも、恐ろしいものを見たような気分の悪さ。両手で口を抑えて吐き気を堪えるオレのことなんて、まるで眼中にないように背を向ける先輩に手を伸ばす。振り向いて欲しい。見て欲しい。オレを。
「さようなら」
優しい声で別れを告げる先輩が、振り向くことは無かった。
「最悪だ」
ナズナは光を神だと信じるようになった。それが何故あの結末になるのか。俺には分からない。分からないと言えば光もだ。光もナズナとの時間を大切にしていた。それがどうして告白されたら、冷たくなってしまったんだろう。
「阿部?大丈夫?」
浜田が心配そうに顏を覗き込んでくる。どうやら今日はアルバイトが無いらしく、野球部の練習に付き合ってくれた。そういえばこいつ、苗字さんを野球の応援に誘ったんだっけ。もしかしたら先輩のことについて、詳しく知っているかもしれない。
「苗字さんってどんな人か知ってる?」
「え?もしかして苗字さんのことが気になるのか?」
すぐそっちの話にする。が、図星なので言い返せない。黙っていると、浜田の顏が暗くなった。何かまずいことでもあるんだろうか。
「あの人はやめておいた方がいいぜ。悪い人ではないけど、恋愛で良い話は聞かないから」
「は?なんで」
「本人に聞いたことがあるんだけど、告白されたら誰が相手でも付き合うんだって。それですぐ男側から振られるらしい。全然興味無いのが伝わってんだろうなって思うよ。だから、阿部も告白しない方が良いぜ。自分のこと好きでも何でもないって分かった上で付き合うのって、シンドイだろ?」
告白したら付き合える。つまりオレが告白しても。だけど先輩には好意があるわけじゃない。それなのに何で付き合うんだろうか。何か知れるかと思って聞いたのに、余計に謎が深まってしまった。
「それならオレのこと好きになってもらって、あっちから告白させてやるよ」
オレの言葉に浜田は驚いたように目を見開く。それから深いため息を吐いて、真剣な顏でこちらを見つめてきた。
「それもやめといた方がいいよ。前に似たようなこと言って、大失敗した奴いるからさ」
「大失敗ってなに?」
「ウワサだからなんとも言えないけど……彼女から告白されて付き合った人がいたけど、つぎ込まされて親の金にも手出して、終いには万引きで自主退学だって。信じられないと思うけど、手のひらで転がすのが上手いらしいんだ。ちょっと分かるだろ?」
確かに先輩は人の好意を読むのが上手い。オレの気持ちにも感付いているように見える。だけどあの人が悪意を持って人を騙すとは思えない。だって今まで親切にしてくれたし……いや、こう思っている時点でオレは手のひらの上に居るのか?いやそんなはずは……。
「分かんねえ。けど、オレは苗字さんが好きだ。それは変わんねえ」
そう告げると、浜田は顏を真っ赤にした。かと思えば顔を青くして、信じられないものを見るような目で、オレの後ろの方を指さしてくる。
「なに?」
振り向くとそこには、苗字さんが立っていた。
「今の話、どこから聞いてました?」
「阿部君が私のことを好きだと言ったところからですね」
「告白とは違うんですけど、オレ、本気なんで」
言い訳をしても無駄だろう。オレは覚悟して彼女の方へ体を向けた。苗字さんは目を丸くして驚いている。しかしすぐにいつもの微笑みを向けてきた。
「先輩冥利に尽きますね。私も阿部君のことは後輩として好きなので、とても嬉しいです」
あくまでも先輩と後輩の関係を強調する先輩に眉を顰める。オレの気持ちなんてまるで分っていないような、それでいて全てを見透かされているような。この人のことがまるで分らない。それでも理解したい。
「誰に何を言われても諦めませんよ。勿論アンタに何を言われても」
「……そうですか」
先輩は顔を歪めた。伏せた目には涙が浮かび、唇をぎゅっと結んで、酷く悲しい顔をしている。どうしてそんな顔をするんだろう。どうして。
「ここまでくると、中毒ですね」
そう呟いて顔を上げた先輩はどこか遠い目をしている。オレのことを見ているはずなのに、全く別のものを見ているようで、喉元に嫌なものがこみ上げた。どんなに救いようのない物語を見るよりも、恐ろしいものを見たような気分の悪さ。両手で口を抑えて吐き気を堪えるオレのことなんて、まるで眼中にないように背を向ける先輩に手を伸ばす。振り向いて欲しい。見て欲しい。オレを。
「さようなら」
優しい声で別れを告げる先輩が、振り向くことは無かった。