愛されたいのはアンタだけ
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先輩の書いた小説、ナズナの恋を読み終えた。物語の主人公は二人。ナズナという少女と、光という少年だ。最悪の家庭環境に嫌気がさしたナズナは、家出をして真夜中の公園で光に出会う。光の家庭環境もまた複雑で、母親が占い師を名乗る友人に金をつぎ込んでいた。お互い家庭に問題を抱える中、二人は夜の逢瀬を重ねていく。
「苗字さんの小説、読みました」
図書室で勉強している先輩の隣に座り、話しかける。彼女はそれまで動かしていた手を止めて、ゆっくりと顔を上げた。その表情はどこか楽しそうで、こちらを見る目の奥には好奇が宿っている。
「どうでしたか?」
「酷いです。救いようがない」
先輩に本を返しながら、その内容を思い出す。ナズナは光に恋をした。そんな彼女は『あなたに私のすべてを捧げる』という花言葉を持つ薺 の花を用いて、告白をするも振られてしまう。それでも彼女の思いは募るばかりで、その恋は次第に信仰へと形を変えていく。最終的に光のことを神だと思い込むようになったナズナは……。
「どうして光を殺したんですか」
ナズナは光のことを愛していたのに、自らの手で殺める。それだけじゃない。光もナズナに惹かれていたのに、告白されたら冷たくなった。救いようがない上に、疑問だらけの小説だ。
「その理由は阿部君が見つけてください」
分からない。この人のことが知りたくて借りた小説なのに、オレは何一つ理解することができなかった。分かったことといえば、先輩が鬱々とした物語が好きだということくらいか。
「ヒントをください」
「そうですね……登場人物の気持ちになって、よく考えてみると良いですよ。どうしても気になるなら、もう一度読んでみますか?」
「はい」
オレは先輩から本を受け取った。が、今すぐ読み返す気にはなれない。昼間から精神的に疲れてしまった。ぐったりと机に項垂れて、視線だけを彼女の方へ向ける。
「……うーん」
先輩は眉根を寄せて首を傾げて、難しそうな顔をしている。どんな問題を解いてるのだろうか。机に広げられたテキストを覗き見ると、そこには中学生レベルの数学の問題が載っていた。
「えっ」
思わず大きな声を上げると、周りから視線が突き刺さる。慌てて口を塞ぐがもう遅い。隣の苗字さんもオレを見て、不思議そうにしている。
「どうかしました?」
「えっと、それ、数学ですよね?中学の」
「ええ。息抜きに中学生向けの問題集をやってるんです」
嘘だ。そう断言できる。さっきの先輩の表情は真剣だった。何でも完璧にこなす人だと思っていたが、誰にでも欠点があるらしい。意外に思いながら見つめていると、先輩はテキストを閉じてしまった。
「……数学、教えましょうか?」
幸い数学には自信がある。中学レベルなら、まず問題ない。オレの言葉に先輩はピクリと反応する。が、返事は返ってこない。きっとプライドがあるんだろう。しばらくして、観念したようにテキストを開き直した。
「お願いします。阿部君も文系科目で分からない所があれば、いつでも教えますよ」
「良いんスか?」
「ええ。文系科目限定ですよ」
にっこりと笑って釘を刺してくる先輩に、思わず笑いがこみ上げてくる。ミステリアスで掴みどころのない人だと思っていたが、こうして話すと普通の女子高生だ。可愛い。意外な一面を知れて、ますます彼女に惹かれていく。
「苗字さんは根っからの文系なんですね」
「そうですね。阿部君は?」
「オレは理系です。で、どこが分からないんですか?」
「平面図形の面積比を求める問題です」
先輩が指さす図形の問題文には、△ADCと△BDEの面積比を求めなさいと書かれている。
「このままではどうにもできないんで、まず補助線を引きましょう」
「補助線……?」
まるで意味が分からないと言った様子に嫌な予感がした。この手ごたえの無さ。三橋や田島に勉強を教える時と同じだ。こうなると基礎の基礎から説明しなければいけない。
「もしかしてアンタ、何が分からないのか分からないタイプ?」
「……恥ずかしながら」
わざわざ中学のテキストを持参して、昼休憩中に勉強するくらい真剣なのに、何が分からないのか分からないなんて。本当に恥ずかしそうに、それでいて困ったように俯く先輩を、責める気にはなれなかった。
「苗字さんの小説、読みました」
図書室で勉強している先輩の隣に座り、話しかける。彼女はそれまで動かしていた手を止めて、ゆっくりと顔を上げた。その表情はどこか楽しそうで、こちらを見る目の奥には好奇が宿っている。
「どうでしたか?」
「酷いです。救いようがない」
先輩に本を返しながら、その内容を思い出す。ナズナは光に恋をした。そんな彼女は『あなたに私のすべてを捧げる』という花言葉を持つ
「どうして光を殺したんですか」
ナズナは光のことを愛していたのに、自らの手で殺める。それだけじゃない。光もナズナに惹かれていたのに、告白されたら冷たくなった。救いようがない上に、疑問だらけの小説だ。
「その理由は阿部君が見つけてください」
分からない。この人のことが知りたくて借りた小説なのに、オレは何一つ理解することができなかった。分かったことといえば、先輩が鬱々とした物語が好きだということくらいか。
「ヒントをください」
「そうですね……登場人物の気持ちになって、よく考えてみると良いですよ。どうしても気になるなら、もう一度読んでみますか?」
「はい」
オレは先輩から本を受け取った。が、今すぐ読み返す気にはなれない。昼間から精神的に疲れてしまった。ぐったりと机に項垂れて、視線だけを彼女の方へ向ける。
「……うーん」
先輩は眉根を寄せて首を傾げて、難しそうな顔をしている。どんな問題を解いてるのだろうか。机に広げられたテキストを覗き見ると、そこには中学生レベルの数学の問題が載っていた。
「えっ」
思わず大きな声を上げると、周りから視線が突き刺さる。慌てて口を塞ぐがもう遅い。隣の苗字さんもオレを見て、不思議そうにしている。
「どうかしました?」
「えっと、それ、数学ですよね?中学の」
「ええ。息抜きに中学生向けの問題集をやってるんです」
嘘だ。そう断言できる。さっきの先輩の表情は真剣だった。何でも完璧にこなす人だと思っていたが、誰にでも欠点があるらしい。意外に思いながら見つめていると、先輩はテキストを閉じてしまった。
「……数学、教えましょうか?」
幸い数学には自信がある。中学レベルなら、まず問題ない。オレの言葉に先輩はピクリと反応する。が、返事は返ってこない。きっとプライドがあるんだろう。しばらくして、観念したようにテキストを開き直した。
「お願いします。阿部君も文系科目で分からない所があれば、いつでも教えますよ」
「良いんスか?」
「ええ。文系科目限定ですよ」
にっこりと笑って釘を刺してくる先輩に、思わず笑いがこみ上げてくる。ミステリアスで掴みどころのない人だと思っていたが、こうして話すと普通の女子高生だ。可愛い。意外な一面を知れて、ますます彼女に惹かれていく。
「苗字さんは根っからの文系なんですね」
「そうですね。阿部君は?」
「オレは理系です。で、どこが分からないんですか?」
「平面図形の面積比を求める問題です」
先輩が指さす図形の問題文には、△ADCと△BDEの面積比を求めなさいと書かれている。
「このままではどうにもできないんで、まず補助線を引きましょう」
「補助線……?」
まるで意味が分からないと言った様子に嫌な予感がした。この手ごたえの無さ。三橋や田島に勉強を教える時と同じだ。こうなると基礎の基礎から説明しなければいけない。
「もしかしてアンタ、何が分からないのか分からないタイプ?」
「……恥ずかしながら」
わざわざ中学のテキストを持参して、昼休憩中に勉強するくらい真剣なのに、何が分からないのか分からないなんて。本当に恥ずかしそうに、それでいて困ったように俯く先輩を、責める気にはなれなかった。