さよならバッテリー
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あの日から徐々にインコースに投げられるようなってきた。球速も徐々に上げていき、制球力も安定している。そんな私は久しぶりの休日をボーイズの試合観戦に捧げていた。試合が終わりグラウンドを出たところで、後ろから肩を叩かれて振り返る。
「苗字」
「えっ、阿部君!」
そこには私服姿の阿部君が立っていた。まさか休日に出会うなんて驚きだ。
「ボーイズの試合観にきたのか?」
「うん。中学時代の後輩が試合に出るっていうから活躍を見に来たの。阿部君は?」
「オレは弟が出るから家族で応援しに来た」
「へえ。阿部君ってお兄ちゃんなんだね」
阿部君は一人っ子だと思っていたから弟が居るというのは少し意外だった。でも言われてみると面倒見が良い方かもしれない。私の練習にも根気強く付き合ってくれるし。そこでふと考える。彼にはいつもお世話になっているのに、何も恩を返せていないではないかと。
「阿部君ってお昼これから?」
「まだだけど。なんで?」
「いつも練習に付き合ってくれるお礼に、お昼ご飯奢りたいなって思ったの」
私の言葉を聞いた阿部君は少し考えた後、ズボンのポケットからスマホを取り出した。恐らく親に連絡を入れているのだろう。
「そんじゃ昼メシ食いに行くか」
「うん!どこに行こうか?私はどこでもいいよ」
「すぐそこのレストラン行こうぜ」
そう言って阿部君は歩き出した。私は慌てて彼の後を追いかける。
「阿部君はシニア出身なのに弟はボーイズなんだね」
「親が小さいうちから兄弟同じチームは良くないって言ってな」
「なるほど」
すぐにチェーン店のイタリアンレストランに辿り着いた。店員さんの案内に従って窓際の席で向かい合うように座る。
「何でも好きなだけ食べてね」
「おう」
それぞれメニュー表を眺めながら、スマホオーダー用のコードを読み込む。阿部君はドリアとハンバーグステーキを、私はカルボナーラとラムのグリルを頼んだ。
「なあ、苗字の後輩って男だよな?」
「うん。その子も投手なんだ」
「でも元チームメイトじゃないんだろ?それなのに試合の観戦するなんて随分仲が良いんだな」
引っかかることでもあるのか、阿部君は確かめるように詮索してくる。
「なんかボーイズでも私の噂が流れてたみたい。女の投手が居るって。それで毎日学校で声かけてくるようになって、いつの間にか仲良くなってたの」
「ふーん。そいつってどんなヤツ?」
「超プライド高くて負けず嫌いで自分勝手!私にも張り合ってきて生意気だけど面白い子だよ」
私の言葉を聞いた阿部君は、うげえと苦虫を噛み潰したような表情をする。どうやら彼の苦手なタイプのようだ。
「投手って感じのヤツだな」
「あはは。そうだね」
そんな話をしているうちに注文した食事がやってきた。店員さんが全て並べ終わったところで手を合わせる。
「うまそう!いただきます!」
二人で合掌して、食事を頬張る。野球のことや部活での出来事を話していると、阿部くんが言いにくそうに口を開いた。
「なあ、苗字。もう昼休憩の練習は終わりにしねえか」
「え」
思わぬ一言に、言葉が詰まる。
「今の苗字はイップスを克服してると思う。打撃投手として十分活躍できるよ。今までよく頑張ったな」
その言葉で今までの思い出が蘇る。阿部君が毎日練習に付き合って褒めてくれたこと。上手くいかないときに励ましてくれたこと。私の球を受けて喜んでくれたこと。
「今まで本当にありがとう。阿部君のおかげでイップスとさよならできた。どれだけ感謝しても足りないぐらいお世話になったよ」
「今生の別れみたいな言い方すんなって」
「あはは、そうだね」
イップスを克服した。あれだけ望んでいた夢が叶って嬉しいはずなのに、寂しくて悲しくて泣きたい気持ちになってくる。阿部君との時間が無くなってしまうんだと思うと、胸がチクチク痛むのはどうしてだろう。いつも彼が側に居てくれて、私を奮い立たせてくれた。そんな阿部君の事が私は……。
「好きだ」
阿部君の声が響く。
「苦しいのに腐らず頑張る苗字の姿を見て、いつのまにか好きになってた。付き合って欲しい」
好き。阿部君が私の事を。ようやく言葉の意味を理解する。それと同時に全身の熱が顔に集まった。
「私で良いの?」
「苗字じゃないとダメだ」
胸はバクバクとうるさい程に鳴り、阿部君がキラキラと輝いて見える。恋だ。私はいつの間にか阿部君に恋をしていたんだ。
「よろしくお願いします!」
大きな声で返事をすると阿部君が笑う。これからも共に歩んでいく未来を信じて、私は阿部君に幸せいっぱいの笑顔を向けた。
「苗字」
「えっ、阿部君!」
そこには私服姿の阿部君が立っていた。まさか休日に出会うなんて驚きだ。
「ボーイズの試合観にきたのか?」
「うん。中学時代の後輩が試合に出るっていうから活躍を見に来たの。阿部君は?」
「オレは弟が出るから家族で応援しに来た」
「へえ。阿部君ってお兄ちゃんなんだね」
阿部君は一人っ子だと思っていたから弟が居るというのは少し意外だった。でも言われてみると面倒見が良い方かもしれない。私の練習にも根気強く付き合ってくれるし。そこでふと考える。彼にはいつもお世話になっているのに、何も恩を返せていないではないかと。
「阿部君ってお昼これから?」
「まだだけど。なんで?」
「いつも練習に付き合ってくれるお礼に、お昼ご飯奢りたいなって思ったの」
私の言葉を聞いた阿部君は少し考えた後、ズボンのポケットからスマホを取り出した。恐らく親に連絡を入れているのだろう。
「そんじゃ昼メシ食いに行くか」
「うん!どこに行こうか?私はどこでもいいよ」
「すぐそこのレストラン行こうぜ」
そう言って阿部君は歩き出した。私は慌てて彼の後を追いかける。
「阿部君はシニア出身なのに弟はボーイズなんだね」
「親が小さいうちから兄弟同じチームは良くないって言ってな」
「なるほど」
すぐにチェーン店のイタリアンレストランに辿り着いた。店員さんの案内に従って窓際の席で向かい合うように座る。
「何でも好きなだけ食べてね」
「おう」
それぞれメニュー表を眺めながら、スマホオーダー用のコードを読み込む。阿部君はドリアとハンバーグステーキを、私はカルボナーラとラムのグリルを頼んだ。
「なあ、苗字の後輩って男だよな?」
「うん。その子も投手なんだ」
「でも元チームメイトじゃないんだろ?それなのに試合の観戦するなんて随分仲が良いんだな」
引っかかることでもあるのか、阿部君は確かめるように詮索してくる。
「なんかボーイズでも私の噂が流れてたみたい。女の投手が居るって。それで毎日学校で声かけてくるようになって、いつの間にか仲良くなってたの」
「ふーん。そいつってどんなヤツ?」
「超プライド高くて負けず嫌いで自分勝手!私にも張り合ってきて生意気だけど面白い子だよ」
私の言葉を聞いた阿部君は、うげえと苦虫を噛み潰したような表情をする。どうやら彼の苦手なタイプのようだ。
「投手って感じのヤツだな」
「あはは。そうだね」
そんな話をしているうちに注文した食事がやってきた。店員さんが全て並べ終わったところで手を合わせる。
「うまそう!いただきます!」
二人で合掌して、食事を頬張る。野球のことや部活での出来事を話していると、阿部くんが言いにくそうに口を開いた。
「なあ、苗字。もう昼休憩の練習は終わりにしねえか」
「え」
思わぬ一言に、言葉が詰まる。
「今の苗字はイップスを克服してると思う。打撃投手として十分活躍できるよ。今までよく頑張ったな」
その言葉で今までの思い出が蘇る。阿部君が毎日練習に付き合って褒めてくれたこと。上手くいかないときに励ましてくれたこと。私の球を受けて喜んでくれたこと。
「今まで本当にありがとう。阿部君のおかげでイップスとさよならできた。どれだけ感謝しても足りないぐらいお世話になったよ」
「今生の別れみたいな言い方すんなって」
「あはは、そうだね」
イップスを克服した。あれだけ望んでいた夢が叶って嬉しいはずなのに、寂しくて悲しくて泣きたい気持ちになってくる。阿部君との時間が無くなってしまうんだと思うと、胸がチクチク痛むのはどうしてだろう。いつも彼が側に居てくれて、私を奮い立たせてくれた。そんな阿部君の事が私は……。
「好きだ」
阿部君の声が響く。
「苦しいのに腐らず頑張る苗字の姿を見て、いつのまにか好きになってた。付き合って欲しい」
好き。阿部君が私の事を。ようやく言葉の意味を理解する。それと同時に全身の熱が顔に集まった。
「私で良いの?」
「苗字じゃないとダメだ」
胸はバクバクとうるさい程に鳴り、阿部君がキラキラと輝いて見える。恋だ。私はいつの間にか阿部君に恋をしていたんだ。
「よろしくお願いします!」
大きな声で返事をすると阿部君が笑う。これからも共に歩んでいく未来を信じて、私は阿部君に幸せいっぱいの笑顔を向けた。