愛されたいのはアンタだけ
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黒いセーラー服を纏う美しい人を見て、胸が締め付けられるような切なさを覚えた。図書室には長机が整然と並び、木製の本棚には書籍が陳列されている。紙をめくるわずかな音が響く中、オレは長机に本を置いて椅子に腰かけながら貸出カウンターを眺めていた。
本当に綺麗だ。
手慣れた様子で貸出返却の応対をしている彼女から目が離せない。その落ち着いた仕事ぶりからして先輩だろうか。そういえばクラスメイトの男子が、図書室で美人の先輩に会えるという話をしていた気がする。
「あ」
視線が合う。すると彼女は緩やかに口角を上げて微笑んだ。その瞬間、胸が燃え上がるように熱くなる。苦しい。心臓を抑えるように掌で胸元を押さえて俯く。恋だ。そう理解した。
好きだ。
心臓が激しく鼓動し、恋の炎に身を焦がす。たった今出会ったばかりなのに、どうしようもなく彼女が好きだ。彼女の事をもっと知りたい。オレは本を持って貸出カウンターへ歩み寄る。
「貸出お願いします」
何とか振り絞ったその声は、僅かに震えて掠れてしまった。少なからずの恥ずかしさを覚えながら、平静を装ってカウンターに本と貸出カードを重ねて置く。彼女はこちらに体を向けて、ゆっくりと立ち上がった。
「貸出ですね」
その人は貸出カードの名前と学年に目を通し、パソコンのモニターへ視線を移した。キーボードを入力する手は華奢で、触れたら壊れてしまいそうだ。
「阿部隆也君……一年生は現国の授業で感想文を書かないといけないから大変でしょう」
「そうですね」
「ふふっ。素直な子」
その口ぶりからして、やはり先輩なんだろう。頷くとくすくす笑われてしまった。子供扱いされた気がするが、今はいい。それよりも。
「先輩の名前聞いても良いですか」
「苗字です」
「苗字さんおすすめの本があれば教えてください。それ借りるんで」
「おすすめ……」
先輩は考えるように視線を落として沈黙した。耳にかかった黒髪が、はらりと滑り落ちていく様に見とれながら返答を待つ。しばらくして思いついたのか、顔を上げてカウンターから出てきた。
「少し待ってくださいね」
そう言い残した先輩は、本棚を転々と移動していく。どこにどの本があるのかを把握しているらしい。歩いては迷いなく本を手に取っている。よっぽど本が好きなんだろう。しばらくしてから数冊の本を胸に抱えて戻ってきた。
「太宰治の人間失格、夏目漱石のこころ、芥川龍之介の地獄変。すべてが名作でおすすめですよ」
どれも聞いたことがあるが、読んだことは無い。この人が名作と言うんだから読んでみよう。なにより、少しでも接点が欲しい。
「それ全部借ります」
カウンターの向こうに戻った彼女は、驚いたように目を丸くした。それからすぐに柔らかい微笑みを取り戻す。
「阿部君は本が好きなんですね」
「はい」
オレが好きなのは先輩だけど。イキナリ告白されても困るだろうから、本当のことは黙っておくことにした。
「本が好きなら私物の小説も貸しましょうか?」
「良いんスか?」
「本好きの仲間ということで特別に」
これは思わぬ収穫だ。心の中でガッツポーズを決めていると、先輩はポケットから小説を取り出した。それには変身と書かれている。
「フランツ・カフカって知ってます?」
「聞いたことはあります」
「本は麻薬です。そんな名言を残した小説家なんですよ。阿部君も中毒にならないように気を付けてくださいね」
この人はオレが本好きだと思い込んでいるらしい。人を疑わない純粋さが素敵な反面、心配になる。本好きの皮を被った狼に騙されそうで。
「昼休憩は基本的に図書室に居るので、読み終わったら返しに来てください。図書室の本は貸出期間が二週間です。続けて借りたい場合はカウンターにいる図書委員や司書に伝えてくださいね」
自分のことを棚に置いて心配していると、貸出手続きを終えた先輩が、本の上に貸出カードを重ねて渡してきた。
「わかりました」
「頑張って読み終えてくださいね」
「はい」
彼女に軽く会釈してから、本を抱えながら図書室を出る。さて、これからどうやって苗字さんを落とそうか。昼休憩は図書室に行って本を読むとして、放課後は部活があるから難しい。とりあえず見かけたら積極的に話しかけて、オレのことを覚えて貰おう。
「そのためにもまずは読書だな」
初めての恋に胸を躍らせて、教室へと続く廊下を歩き始める。抱えた本の重さとは裏腹に、オレの心は軽やかだった。
本当に綺麗だ。
手慣れた様子で貸出返却の応対をしている彼女から目が離せない。その落ち着いた仕事ぶりからして先輩だろうか。そういえばクラスメイトの男子が、図書室で美人の先輩に会えるという話をしていた気がする。
「あ」
視線が合う。すると彼女は緩やかに口角を上げて微笑んだ。その瞬間、胸が燃え上がるように熱くなる。苦しい。心臓を抑えるように掌で胸元を押さえて俯く。恋だ。そう理解した。
好きだ。
心臓が激しく鼓動し、恋の炎に身を焦がす。たった今出会ったばかりなのに、どうしようもなく彼女が好きだ。彼女の事をもっと知りたい。オレは本を持って貸出カウンターへ歩み寄る。
「貸出お願いします」
何とか振り絞ったその声は、僅かに震えて掠れてしまった。少なからずの恥ずかしさを覚えながら、平静を装ってカウンターに本と貸出カードを重ねて置く。彼女はこちらに体を向けて、ゆっくりと立ち上がった。
「貸出ですね」
その人は貸出カードの名前と学年に目を通し、パソコンのモニターへ視線を移した。キーボードを入力する手は華奢で、触れたら壊れてしまいそうだ。
「阿部隆也君……一年生は現国の授業で感想文を書かないといけないから大変でしょう」
「そうですね」
「ふふっ。素直な子」
その口ぶりからして、やはり先輩なんだろう。頷くとくすくす笑われてしまった。子供扱いされた気がするが、今はいい。それよりも。
「先輩の名前聞いても良いですか」
「苗字です」
「苗字さんおすすめの本があれば教えてください。それ借りるんで」
「おすすめ……」
先輩は考えるように視線を落として沈黙した。耳にかかった黒髪が、はらりと滑り落ちていく様に見とれながら返答を待つ。しばらくして思いついたのか、顔を上げてカウンターから出てきた。
「少し待ってくださいね」
そう言い残した先輩は、本棚を転々と移動していく。どこにどの本があるのかを把握しているらしい。歩いては迷いなく本を手に取っている。よっぽど本が好きなんだろう。しばらくしてから数冊の本を胸に抱えて戻ってきた。
「太宰治の人間失格、夏目漱石のこころ、芥川龍之介の地獄変。すべてが名作でおすすめですよ」
どれも聞いたことがあるが、読んだことは無い。この人が名作と言うんだから読んでみよう。なにより、少しでも接点が欲しい。
「それ全部借ります」
カウンターの向こうに戻った彼女は、驚いたように目を丸くした。それからすぐに柔らかい微笑みを取り戻す。
「阿部君は本が好きなんですね」
「はい」
オレが好きなのは先輩だけど。イキナリ告白されても困るだろうから、本当のことは黙っておくことにした。
「本が好きなら私物の小説も貸しましょうか?」
「良いんスか?」
「本好きの仲間ということで特別に」
これは思わぬ収穫だ。心の中でガッツポーズを決めていると、先輩はポケットから小説を取り出した。それには変身と書かれている。
「フランツ・カフカって知ってます?」
「聞いたことはあります」
「本は麻薬です。そんな名言を残した小説家なんですよ。阿部君も中毒にならないように気を付けてくださいね」
この人はオレが本好きだと思い込んでいるらしい。人を疑わない純粋さが素敵な反面、心配になる。本好きの皮を被った狼に騙されそうで。
「昼休憩は基本的に図書室に居るので、読み終わったら返しに来てください。図書室の本は貸出期間が二週間です。続けて借りたい場合はカウンターにいる図書委員や司書に伝えてくださいね」
自分のことを棚に置いて心配していると、貸出手続きを終えた先輩が、本の上に貸出カードを重ねて渡してきた。
「わかりました」
「頑張って読み終えてくださいね」
「はい」
彼女に軽く会釈してから、本を抱えながら図書室を出る。さて、これからどうやって苗字さんを落とそうか。昼休憩は図書室に行って本を読むとして、放課後は部活があるから難しい。とりあえず見かけたら積極的に話しかけて、オレのことを覚えて貰おう。
「そのためにもまずは読書だな」
初めての恋に胸を躍らせて、教室へと続く廊下を歩き始める。抱えた本の重さとは裏腹に、オレの心は軽やかだった。
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