欲を食らわば墓まで
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「人間の本質には敵わないよね」
名前はいつだって唐突だ。今日の部活はミーティングだけの日で、久しぶりに彼女と恋人らしいことをしようと、名前の住むアパートへ来ていた。彼女はオレを出迎えるなり哲学的な話を始めたのだが、こいつが唐突なのは今に始まったことではないので驚きはしない。が、いらっしゃいくらいの挨拶はして欲しい。
「去年の今頃、人間の本質は欲だって言ってたよな?なんで敵わないって思うんだ?」
靴を脱いで、狭すぎるワンルームへと足を踏み入れる。オレの部屋と同じくらいの広さの部屋に、冷蔵庫と布団や折り畳みの机だけが置いてあり殺風景だ。こんな中で生活する名前は、とてもじゃないが欲深い人間には見えない。それなのになぜ、人間の本質には敵わないというのだろうか。
「隆也が野球で忙しいことは理解しているのに、どうしても早く会いたいって思ってしまうんだよ。それに君が他の女子と話しているところを見るだけで、気分が落ち着かず何故かモヤモヤするんだ」
「それが恋だろ。オレだって早く会いたいし、お前が他の男と居るだけで嫉妬するぞ」
「へえ、隆也も嫉妬するんだね?」
名前はにやにやと笑顔を向けてくる。これ以上喋らせるとからかってくるのは目に見えているので、その口をオレの口で塞いで黙らせることにした。
「……とりあえず座ろうか」
顏を赤くしてしおらしくなる姿を見ると、もっといじめたくなってしまう。そんな気持ちを何とか抑えて、オレ達は薄っぺらい布団の上に座った。
「とにかく私は欲深い人間になってしまったよ」
「そうは見えないけどな」
「隠しているだけだよ。隆也のことになるとどうしようもなく貪欲になるんだ。愛されたいと思うし、愛したいとも思う。色んなことを知りたいと思うし、もっと知って欲しいとも思うの」
付き合ってから一年程が経ったが、名前はオレへの気持ちが冷めるどころか、熱を増しているように見える。
「もう結構色んなこと知ってるだろ」
「例えば?」
「お前の背中のキレーさを一番知ってるのはオレだ」
そう言うと、名前は再び顏を赤くした。いつまで経っても初々しい所が可愛いと思う。
「……ソウデスネ」
「まあ、オレもお前のこと知りたいけどな。普段どんな事考えてんだろうって、いまだに思うよ」
「そうだねえ。最近は隆也と同じ墓に入りたいって思ってるよ」
名前は何食わぬ顔で爆弾発言をした。同じ墓に入りたいって、どれだけ先のこと考えてんだ。
「飛躍しすぎじゃねえか?もっと現実的にさ、卒業したら籍入れたいとかじゃねえの?」
そう言うと名前は視線を宙に這わせて何かを考え込んだ。それから暫くして何か思いついたのか、こちらに視線を戻した。
「隆也の家族に会わせて欲しいな」
「急にリアルだな。まあオレの親も名前に会いたいって言ってたから、今度予定が合う時にオレの家で一緒にご飯でも食べようぜ。そんで、何十年もしたら同じ墓に入るか」
そう言ってオレが笑うと、名前も笑って頷いた。いつか一緒に居るのが当たり前になって、この部屋に二人きりでいるのも物足りなくなって。そうやって、ずっと一緒に生きていければ良い。名前と居るだけで欲深くなる自分を見て、オレも人間の本質には敵わないと思った。
名前はいつだって唐突だ。今日の部活はミーティングだけの日で、久しぶりに彼女と恋人らしいことをしようと、名前の住むアパートへ来ていた。彼女はオレを出迎えるなり哲学的な話を始めたのだが、こいつが唐突なのは今に始まったことではないので驚きはしない。が、いらっしゃいくらいの挨拶はして欲しい。
「去年の今頃、人間の本質は欲だって言ってたよな?なんで敵わないって思うんだ?」
靴を脱いで、狭すぎるワンルームへと足を踏み入れる。オレの部屋と同じくらいの広さの部屋に、冷蔵庫と布団や折り畳みの机だけが置いてあり殺風景だ。こんな中で生活する名前は、とてもじゃないが欲深い人間には見えない。それなのになぜ、人間の本質には敵わないというのだろうか。
「隆也が野球で忙しいことは理解しているのに、どうしても早く会いたいって思ってしまうんだよ。それに君が他の女子と話しているところを見るだけで、気分が落ち着かず何故かモヤモヤするんだ」
「それが恋だろ。オレだって早く会いたいし、お前が他の男と居るだけで嫉妬するぞ」
「へえ、隆也も嫉妬するんだね?」
名前はにやにやと笑顔を向けてくる。これ以上喋らせるとからかってくるのは目に見えているので、その口をオレの口で塞いで黙らせることにした。
「……とりあえず座ろうか」
顏を赤くしてしおらしくなる姿を見ると、もっといじめたくなってしまう。そんな気持ちを何とか抑えて、オレ達は薄っぺらい布団の上に座った。
「とにかく私は欲深い人間になってしまったよ」
「そうは見えないけどな」
「隠しているだけだよ。隆也のことになるとどうしようもなく貪欲になるんだ。愛されたいと思うし、愛したいとも思う。色んなことを知りたいと思うし、もっと知って欲しいとも思うの」
付き合ってから一年程が経ったが、名前はオレへの気持ちが冷めるどころか、熱を増しているように見える。
「もう結構色んなこと知ってるだろ」
「例えば?」
「お前の背中のキレーさを一番知ってるのはオレだ」
そう言うと、名前は再び顏を赤くした。いつまで経っても初々しい所が可愛いと思う。
「……ソウデスネ」
「まあ、オレもお前のこと知りたいけどな。普段どんな事考えてんだろうって、いまだに思うよ」
「そうだねえ。最近は隆也と同じ墓に入りたいって思ってるよ」
名前は何食わぬ顔で爆弾発言をした。同じ墓に入りたいって、どれだけ先のこと考えてんだ。
「飛躍しすぎじゃねえか?もっと現実的にさ、卒業したら籍入れたいとかじゃねえの?」
そう言うと名前は視線を宙に這わせて何かを考え込んだ。それから暫くして何か思いついたのか、こちらに視線を戻した。
「隆也の家族に会わせて欲しいな」
「急にリアルだな。まあオレの親も名前に会いたいって言ってたから、今度予定が合う時にオレの家で一緒にご飯でも食べようぜ。そんで、何十年もしたら同じ墓に入るか」
そう言ってオレが笑うと、名前も笑って頷いた。いつか一緒に居るのが当たり前になって、この部屋に二人きりでいるのも物足りなくなって。そうやって、ずっと一緒に生きていければ良い。名前と居るだけで欲深くなる自分を見て、オレも人間の本質には敵わないと思った。
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